第4回オープン・フォーラム「日本の将来ビジョン」
~成長の先に、どのような豊かさ・社会の姿を描くか~
第4回オープン・フォーラムのテーマは「日本の将来ビジョン~成長の先に、どのような豊かさ・社会の姿を描くか~」。
日本が成長によって目指すもの、成長の牽引役となるイノベーションの原動力となる挑戦者、特に次世代の背中を押すために何が必要か―といった論点を中心に起業家、若手官僚、若者団体の代表者、学識者など35人の多彩な顔触れが会議に参加し、学生や本会会員など約300人が視聴しました。(所属・役職は開催時)
開催日 | 2022年2月15日(対面・オンライン併用) |
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参加者 | 35人 |
視聴者 | 約300人 |
プログラム |
開会挨拶 導入説明 日本の将来ビジョンに関する対話・議論 総括 閉会挨拶 |
導入説明
■ 玉塚 元一 未来選択会議 世話人
第4回オープン・フォーラムに向けて、経済同友会の主要メンバーと、30~40代の若手実務者7名で、プレ・フォーラムを開催し、日本の将来像に対する期待、現状に対する課題認識を話し合った。その結果、「社会課題の解決をリードする日本、世界から頼られる国、その要件として豊かな国」といった方向性が共有された。また、その実現に向けた課題としては、①成長モデルの転換の遅れ、②失敗を許さない文化・風土、③同質的・画一的な価値観が挙げられた。
この考え方を出発点に、日本の将来ビジョンについて議論を進めたい。
日本の将来ビジョンに関する対話・議論
TOPIC 1 これからの日本にとって成長は?
■ 慶應義塾大学 総合政策学部 教授 中室 牧子氏
経済成長は非常に重要。所得倍増を掲げた池田勇人首相の時代は経済成長率が7%程度あり、これなら10年で所得は倍。しかし成長率0.5%では、倍増には140~150年かかる。持続的な社会を考えると緩やかでもプラス成長の維持が必要。
■ 加藤学園 暁秀高等学校 3年 中原 瑠南氏
日本として、シナジーを生むような国のブランドを固め、そこに国民が向かっていくことが必要。自分たち中高生には、自分たちが動いても社会は変わらないという学習性の無力感がある。若者の動きに対して、大人からの柔軟なアクションや回答が欲しい。
■ 経済同友会 第2期 ノミネートメンバー/アソビュー代表取締役 CEO 山野 智久氏
「みんな幸せになろう」など、全国民に共通する目的を置くと、全部解けていくと思う。
■ 新浪 剛史 経済同友会 副代表幹事
成長は何のためか。そのビジョンをしっかり組み立てることが重要だ。例えば成長の目的を「健康でいるため」と定めれば、健康寿命を伸ばすためにさまざまな消費と産業が生まれる。民間投資も起こる。
■ ONE JAPAN 共同発起人・共同代表 濱松 誠氏
メトリクスを変えることにより人々の目指すものは良い意味で変わる。GDPに変わる新指標として、例えばGDW(Gross Domestic Well-being)を導入できないか。国内の総充実・総幸福を指標として採用し世界に発信。日本の強みも発揮できるのでは。
■ 渋澤 健 経済同友会 幹事
モノを求める時代から価値を求める時代になり、健康や幸福へと向かっている。こうした価値の測り方のイノベーションが今後の課題。企業が環境や社会に与えるインパクトを会計に反映させようという動きも。新しい資本主義には新しい価値の測り方が必要。
■ 日本放送協会 解説委員室 解説主幹/経済同友会 アドバイザリー・グループメンバー 今井 純子氏
少子化対策、働き方の見直しについては、若い世代の意見を汲み取りできることは全て実行すべき。小中学校にはいまだ内申点主義がはびこり、先生に反論できない。自分で物事を決め、決めたことに責任を持って行動する経験を増やしていく必要がある。
■ 経済産業省 経済産業政策局 産業創造課 課長補佐 北村 健太氏
成長の中身をどう定義するかによって、これからどのような議論をすべきかも変わる。日本は高齢化し、人々は年齢を重ねても働き続けなければならない。それと同時に、社会においては、高齢者を支えること、それに付随した課題への対応も必要になってくる。
■ 国税庁 調査査察部 査察課 課長補佐 丹羽 啓介氏
今後は各国が低成長同士で接戦する。この状況下では、レジリエンスとボトムアップが成長の鍵だ。ここに日本の勝ち筋がある。
■ 経済同友会 第2期ノミネートメンバー/スローガン 取締役社長 伊藤 豊氏
新しい時代に合った新しい産業を育て、それによってアップトレンドを生み出していくことが必要だ。そのためには、アントレプレナーシップが重要。
■ 新浪 剛史 経済同友会 副代表幹事
「新しい資本主義」が提起されたのは、これまでの成長で幸せが得られなかったことの裏返し。何のための成長か、何のために挑戦するかが明確になれば、人々がアニマルスピリッツを発揮し、イノベーションに取り組む意味も出てくる。危機感の共有も重要。
TOPIC 2 イノベーションを起こすためには?
■ 慶應義塾大学 総合政策学部 教授 中室 牧子氏
失敗を許容するシステムがイノベーションには重要。ハーバード大学で行われたレモネード販売の実験では、最初の10カ月は固定給でその後成果報酬に移行する型を設けると、これが最も高い売上を記録。ここから言えることは、トライ&エラーや失敗を許容するシステムが、イノベーションを起こす上で重要ということ。
■ 慶應義塾大学 経済学部 教授/経済同友会 アドバイザリー・グループメンバー 小林 慶一郎氏
新しいことを始めるのは、伝統的な発想や方法から外れること、調和を乱すことでもある。それでも阻害や排除されないような、心理的安全性の担保が必要。
■ トヨタ自動車 主任/アルファドライブ/UNIDGE COO 土井 雄介氏
検証を前提とした意思決定の仕組みを企業に根付かせる必要があるのではないか。失敗を許容する文化、成長に結び付く新しい価値の創造につながる。
■ パナソニック コーポレート戦略技術部門 主務・P/長野県塩尻市役所 特任 CIO 濱本 隆太氏
イノベーションを起こしていくためには三つの課題がある。一つはリスクを取る人材の不足。二つ目はリスクマネーの不足。三つ目に既存の事業者を保護するような規制が多いこと。
■ 間下 直晃 経済同友会 副代表幹事
昭和からの脱却がポイントだ。さまざまな規制がイノベーションとマッチしていない。特に日本の場合は事前規制主義なので、問題が起きる前に挑戦を阻んでしまう。こうした状況ではイノベーションは生まれない。
■ 髙島 宏平 経済同友会 副代表幹事
大企業、ベンチャー、アカデミズム、若者世代など、それぞれのカルチャーが独立していて、混ざり合えていない。国内のダイバーシティを深化させることがイノベーションにつながる。
■ 経済同友会 第2期ノミネートメンバー/スローガン 取締役社長 伊藤 豊氏
ボトルネックになるのは、シニア男性が強過ぎるマネジメントモデル。年齢のダイバーシティも考えたい。スタートアップなど未熟な産業・企業に若いうちに飛び込み、20 ~30代で経営経験を積む人材も増やしていくべき。
■ 慶應義塾大学 経済学部 教授/経済同友会 アドバイザリー・グループメンバー 小林 慶一郎氏
イノベーションを進めていくためにも、セーフティネットを誰がどう準備するかは重要な課題。労働市場では努力が報われる意味での流動性を高めること。そして、個人がコントロールできないような社会の不確実性を減らすこと。後者は社会保障制度の整備と連動する課題。
■ ONE JAPAN 共同発起人・共同代表 濱松 誠氏
挑戦の総量を増やしていくことと平等性の確保、そのための社会保障制度改革は重要。一つの方策として、ベーシックインカムの導入を真剣に考える時。人材流動化に関して、新たに20年程度の中期有期雇用制の導入を提案したい。
■ 間下 直晃 経済同友会 副代表幹事
成長、イノベーションを促すのに格差は付きものである。格差を否定するのではなく、支える仕組みを作る。ベーシックインカムも視野に、セーフティネットのあり方を検討する必要がある。
TOPIC 3 次世代、チャレンジャーの背中を押すには?
■ 早稲田大学 政治経済学部 1年 芹ケ野 瑠奈氏
学習性の無力感を感じるときがある。例えば気候変動は待ったなしの問題なのに、大人たちからは危機感が感じられない。結果的に若者世代にとっての壁になっている。
■ PoliPoli 代表取締役 伊藤 和真氏
日本の若者には、希望も欲望もお金もない。スタートアップへ投資して稼いでいくこと、日本が危機的状況にあると理解しイノベーションを起こすこと、政治・行政が国民の声を聞いて一緒に政策をつくっていくことが必要。
■ NTTドコモ イノベーション統括部/ONE JAPAN 共同発起人・共同代表 山本 将裕氏
まずはわれわれ自身が格好良い大人になって、仕事を楽しんでいる姿を見せていかなくてはならない。先入観から挑戦をためらう人も、挑戦しても大丈夫だと気付けば変わる。
■ 髙島 宏平 経済同友会 副代表幹事
私が21歳で起業した時、社会を変革したいと思う一方、小さな会社の無力さも感じた。権力を持てば世の中を変えられると思っていたが、そんな権力など実は存在しなかったのかもしれない。自分たちが闘っている相手は歴史や価値観といった、もう少し重たいものではないかと思い始めている。若い皆さんは、大人を通じて社会を変えることにあまり期待しない方がよい。社会を変えるのは大人でも難しい。自分が主役となり、大人を使い倒し、大人と一緒に社会を変えてもらいたい。
■ 加藤学園 暁秀高等学校 3年 中原 瑠南氏
自分が幸福で満足していないと、挑戦は生まれない。不満があると現状維持ですら大変という感覚になるし、分断が深まるだけではないか。中高生は偏差値至上主義で机上の学習ばかりが重視される。これでは危機感は生まれづらい。インターンシップや課外活動によって、早いうちから社会を見る教育が必要だ。
■ 日本経済新聞 論説フェロー/経済同友会 アドバイザリー・グループメンバー 芹川 洋一氏
既に議論は尽くされ、日本の将来についての合意形成はできてきている。問題は、なぜできないのかだ。歴史に学べば、明治維新と敗戦という二つのエポックに起こったのは世代交代である。世代交代によってしか世の中は前に進めない。そのための入口、突破口について議論を詰める必要がある。
総括
■ 櫻田 謙悟 経済同友会 代表幹事
本日の議論でだいぶ方向性は見えてきた。あとはどう行動していくかに尽きる。グリーン、デジタル、経済安全保障などが成長戦略として挙げられているが、「何のための成長か」について、腹落ちするほどの議論はなされていない。個人的な提案を三つ挙げたい。政府、学校、企業、個人といった日本で活動する主体、すべてのステークホルダーが、それぞれ一つでもイノベーションを宣言することを運動にできないか。シニア層が早期引退し30代、40代の人たちにさまざまな役割を任せていくこと。その過程で必ずダイバーシティが生まれる。若者の政治参画に向けては、投票義務化とインターネット投票を提案したい。この3点については今後、アクションにつなげていきたい。
(所属・役職は開催時)