代表幹事あいさつ
マルチステークホルダーと共に「生活者共創社会」の姿を描く
経済同友会 代表幹事
櫻田 謙悟
SOMPOホールディングス
グループCEO
取締役 代表執行役会長
30年に及ぶ長い停滞を経て、日本は世界において相対的に貧しく、弱い国へと転落しつつあります。日本の課題と処方箋は、既に出尽くしています。今必要なのは、日本がこれから目指す社会の姿、完成予想図を社会全体で共有し、今度こそ、結果にこだわってその実現に取り組むことです。
日本には、「武士道」や「論語と算盤」のように、ステークホルダー主義の実践に適した価値観があります。分断と対立が進む世界において、これは他の国にはない、日本独自の強みと言えるでしょう。
この強みが活きるような新しい経済社会の姿として、私は「生活者共創社会」という構想を描いています。「生活者」とは、消費者、働き手、家庭や地域の担い手として、多面的な役割を持つ個人を意味します。企業や学校など、個人が構成するあらゆる組織も「生活者」に含められるでしょう。この多様な生活者が、主体的な参画と選択によって共に創り上げる社会を「生活者共創社会」と名付けました。
「生活者共創社会」は、新しい資本主義を求める動きに呼応した一つの選択肢です。従来との違いは、成長、分配、価値評価に関わるメカニズムの新しさにあると考えます。
「新しい成長」は、社会課題の解決とイノベーションによる成長です。そのために最も重要なことは、人々が未来に希望を持ちイノベーションとそれに伴う変化を歓迎すること、イノベーションの担い手として意欲を持つことです。そのため、戦略や投資に加えて、国民運動によって社会に機運を作り上げることが必要なのです。
分配のあり方も「新しい成長」を前提に見直さなくてはなりません。企業の役割は、すべてのステークホルダーへの分配、中でも人材への投資です。政府の役割は、分配の目的と税・社会保障など制度の見直しです。成功者が生まれることを社会全体の利益と見なす発想や、失敗からの再挑戦への後押しが特に重要です。それと同時に、セイフティネットによって社会に安心を根付かせることも不可欠です。また、寄付などを通じて、個人や企業が直接分配を担う流れを広げることも、「新しい分配」の重要な要素だと思います。
企業は、成長と分配の両面で重要な役割を担いますが、その判断や行動に大きな影響力を持つのが企業価値に対する評価です。投資家が短期的な収益だけを見ている中で、企業が10年、20年先を見据えた投資を行うのは簡単ではありません。企業が生み出す未実現の価値を現在の市場での評価に反映させるため、官民それぞれが役割を担い、市場のあり方を進化させていく必要があります。
今、日本は、緩やかな転落に甘んじるか、世界をリードする国を目指すのか、選択の時を迎えています。経済同友会は、成長・分配・企業価値に関わる新しい仕組みや「生活者共創社会」というビジョンを掲げ、すべての生活者に、新しい経済社会の共創を呼びかけていきます。