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第5回オープン・フォーラム「挑戦に満ちた日本への転換」
~スタートアップを起点に考える~

日本が経済成長と社会課題の解決、人々の豊かさを追求していくためには、イノベーションの創出が欠かせません。そのために、社会全体として「挑戦の総量」をどのように高めていくかが、未来選択会議の中心的な活動テーマです。
6月18日に開催した第5回オープン・フォーラムでは、新しい価値創出に取り組む挑戦者の象徴、スタートアップが活躍する日本を実現するための課題、社会構造に根差した問題点について議論を行いました。
スタートアップ経営者、大企業経営者、若者団体代表、若手官僚、学識者、ベンチャー投資家、政治家など18人の多彩な顔触れが議論に参加し、学生や本会会員および所属企業社員など約250人が視聴しました。(所属・役職は開催時)

開催日 2022年6月18日(対面・オンライン併用)
議論参加者 18人(参加者一覧
視聴者 約250人
プログラム

開会挨拶
石村 和彦 経済同友会 副代表幹事/未来選択会議 世話人

導入
玉塚 元一 経済同友会 副代表幹事/未来選択会議 世話人

対話・議論
トピック1
スタートアップ振興に向けた政府の施策・戦略を成果に結びつけるためには
トピック2
社会に根差した挑戦の阻害要因を解消するためには

閉会挨拶
新芝 宏之 未来選択会議 世話人

スタートアップ振興に関わる日本の現状は

  • 世界的に、成長の牽引役としてスタートアップの重要性が認識される中、日本においても、ユニコーンの活躍、大学発スタートアップの増加、若い世代の意識の変化など、スタートアップ振興の機運が高まる。ただし、世界のスタートアップ市場全体で、日本の存在感は決して大きなものではなく、グローバルに事業を展開するユニコーン、メガベンチャーを輩出する米国等に比べ見劣りする状況。
  • こうした中、政府が「5年10倍増」という目標や、スタートアップ育成5か年計画策定を決定した。この機を逃さず、今度こそ目指す成果の創出につなげるために不可欠な施策、優先順位について、それぞれの立場から意見交換を行った。
  • スタートアップ振興の目標をめぐっては、「数を増やす・裾野を広げる」という観点に加えて、「大きく育てる」という観点の重要性が指摘され、双方について指摘・提案が行われた。

スタートアップを「大きく育てる、スケールする」観点から必要なこと

  • 世界的なスタートアップの潮流はグローバル化。日本発のスタートアップも、グローバルに闘える経営チーム、ビジネスモデルが必要。
  • スタートアップに関わる人材の獲得競争は世界規模で熾烈なものに。官民一体で、戦略的に人材獲得を急ぐこと。生活環境や優遇税制など、優れた人材を招き入れるための環境整備も不可欠。
  • 海外からの投資を呼び込むためにも、日本独自のガラパゴスルール、規制・制度は全面的に撤廃。競争条件を揃え、イコールフッティングの確保を。
  • 世界的なスタートアップ都市に出島(拠点)を設け、海外スタートアップや投資家とのつながりを生み、人材を育てる。
  • 起業家に加えて、スタートアップに関わる政策立案・制度設計者、投資家、ビジネスサービスの専門家等など、「周辺」人材の育成・レベルアップを。

「スタートアップの数を増やす、裾野を広げる」観点から必要なこと

  • 挑戦しやすく、起業が当たり前な環境を社会のあちこちに創出。スタートアップからの「のれん分け」、大企業の社内ベンチャー、スタートアップ等での実践型インターンシップなど、起業家を生む環境・仕掛けを皆でつくりだす。
  • 初等・中等教育は課題発見・解決型へ。起業家が学びに関わり、経験・ノウハウを伝えることで動機付けを。裾野の広い人材の金融リテラシーを高めることも重要。
  • 大企業にできることは、スタートアップとの人材の交流・循環、スタートアップのM&Aとその経営者の登用、スタートアップ企業からの調達促進、ビジネスノウハウの相互共有など。若手社員から役員まで、多様な人材がスタートアップと関わる仕掛けをつくり、積極的に活用すること。
  • 地域における成長と課題解決のため、それぞれの地域単位で、地元の起業家、地方自治体、大学、金融機関、投資家などによる有機的なエコシステムを創出。相互に密な情報共有と人材交流を実践。

1.開会挨拶

■ AGC 石村 和彦氏

  • 未来選択会議は、年齢・性別・所属などの垣根を超えて、マルチステークホルダーが自由闊達な議論を行い、日本の将来を決定づける重要課題について論点・選択肢を示すため、2020年9月に発足した。
  • これまでに、若者の政治参画の拡大、分散型社会への転換、気候変動・エネルギー政策の選択肢などの課題を取り上げ、次世代の利益につながる議論を、データとファクトに基づいて進めてきた。
  • 今年に入ってからは、社会の一線で活躍する各界の若手リーダーとともに、日本が目指すべき社会の姿を展望し、人々の豊かさと成長を追求するため、挑戦者、特に若者・次世代の活躍を後押しする日本を目指して、議論を進めている。
  • 2月15日に開催した第4回オープン・フォーラムでは、高校生からシニアまで、35名のステークホルダーが集い、「日本の将来ビジョン」について議論をし、次のような認識を参加者と共有した。
  • 一点目は、これからの日本に経済成長が必要であることは明らかだが、成長自体を目的化してはならず、人々の豊かさと社会の持続可能性も同時に増大させることが必要であることだ。そして、経済成長の目的・ゴールを描き、国民全体で共有することが重要になることである。
  • 二点目は、成長を生み出すには、社会課題解決を含むイノベーションが必須となるため、その担い手となる挑戦者を増やし、挑戦に対する共感や応援を広げ、社会の「挑戦の総量」を高めることが重要課題だということである。
  • この成果を受けて、今回のオープン・フォーラムでは、挑戦の象徴とも言えるスタートアップに関わる課題を起点として、挑戦に満ちた日本を実現していくためのヒントを探っていく。
  • 現在、官民をあげて、スタートアップを盛り上げる機運が高まっている。これを一過性のブームにすることなく、今度こそ具体的な成果につなげていく必要がある。そのために、何から着手し、誰がどう行動していけばよいだろうか。また、イノベーションは、生み出す側とともに、それを受け入れる側の変化も必要となる。そのため、スタートアップに固有の事情・課題に限らず、社会全体の課題を広くとらえていくことが必要となる。
  • 本日は、当事者であるスタートアップ経営者、関連セクターを代表する多彩なメンバーとともに議論をし、その結果を世の中に発信していくとともに、次回以降の会議のテーマ、論点の設定につなげていく。

2.意見交換

(1)導入

■ ロッテホールディングス 玉塚 元一氏

  • 第4回オープン・フォーラムでは、「日本の将来ビジョン」について議論をし、その中で、社会全体の「挑戦の総量」を高めることが重要との声が大きかった。これを受けて、本日は、スタートアップに関わる課題を起点に、挑戦に満ちた日本を実現していくためのヒントを探っていきたい。
  • 導入としていくつかファクトをご紹介したい。米国におけるGAFAMを見れば明らかなように、世界的にスタートアップが成長のドライバーとなっている。
  • 日本でも、スタートアップの資金調達額が増加し、1兆円市場に迫るなど盛り上がってきた。「スタートアップが育ちやすい都市ランキング」で東京が9位に入り、その魅力がクローズアップされている。このように、日本にはスタートアップの集積地になりうるポテンシャルがある。
  • その一方、世界のスタートアップ資金調達額70兆円に占める日本の割合は1%に過ぎない。スタートアップの絶対数の不足とメガスタートアップの少なさが課題である。評価額10億ドル以上のユニコーン企業を見ても、数・評価額ともに、日本と世界との差は開くばかりである。特に、この10~15年ぐらいを見ると、デジタル領域で圧倒的な差がついてしまっている。
  • こうした中、政府は、スタートアップの数を5年10倍増することを目標に、5カ年計画の策定等を盛り込んだ「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」と「経済財政運営と改革の基本方針 2022」(「骨太の方針」)」を6月7日に閣議決定した。
  • この中には、IPOプロセスの見直しやストックオプション等の環境整備、個人保証や不動産担保に依存しない形の融資への見直しといった資金調達に関わる施策、チャレンジする人材の育成や副業・兼業の促進、研究開発・販路開拓の支援に関わる施策がラインアップされている。
  • 経済同友会も、今年4月に、「創業期を越えたスタートアップの飛躍的成長に向けて」という提言を出した。その中では、スタートアップの実情に応じた多様で柔軟な働き方の実現や有償ストックオプションの会計処理の見直しを通じた人的資本の拡充、M&Aの阻害要因となる「のれん」の規則的償却の見直しや未公開企業への出資金に関する会計・税務処理の見直し等を通じた円滑な資金調達、規制改革推進体制の見直し、再設計といった市場環境の整備について対応を求めている。
  • こうしたファクトを前提に、議論に入っていきたい。まず一つ目の論点として、政府の施策・戦略をどう成果に結びつけるかについて議論をしていきたい。

(2)トピック1 スタートアップ振興に向けた政府の施策・戦略を成果に結びつけるためには

■ 東京大学大学院 各務 茂夫氏

  • 起業家教育や大学内のエコシステム構築に、20年程取り組んできた。2005年にアントレプレナー道場を作り、これまでに約5,000名の学生が参加、うち百数十名が起業家になった。今では500~700名が参加するプログラムに育ってきた。東京大学では、座学や体験的なものを含めて56のアントレプレナーシップ・プログラムが動いている。
  • 2005年以降、東京大学関連のベンチャー企業は500社に達しようとしている。学生発ベンチャーと、大学の研究シーズを特許化、ライセンスアウトした大学発ベンチャーの二種類が主だ。米国に比べれば周回遅れの面もあるが、学生の周りに起業家仲間が存在する状況ができてきた。スタートアップが職業選択のファーストチョイスという例も出始めており、大分様相が変わってきた。
  • 学生の中には、大企業に就職して、何十年も自分の人生を託すことが最も高リスクであり、最先端に常に身を置き、自分で行動を変えていくことが最も低リスクだと考える人もいる。生意気かもしれないが、私は頼もしいと思う。卒業後、すぐにスタートアップを選択する例、大企業やコンサルティング会社に一旦入社し、数年後に起業する例もあり、随分変わってきた。

■ Sozo Ventures 中村 幸一郎氏

  • 米国のVCの視点から見た課題について意見を述べる。
  • 2000年以降、米国、欧州、イスラエル、日本以外のアジアで起きたスタートアップ業界の大きな変化は「国際化」である。さまざまな地域で生まれたスタートアップが、他の地域から資金を調達し、多様性あるグローバル・チームを組成し、グローバルなプラットフォームに育っていく流れである。日本がこの流れに乗れておらず、ぞれが、資金調達額やメガベンチャー数で出遅れている一因である。
  • 投資家視点で見ると、海外VCが日本のスタートアップに投資しづらい理由がいくつかある。一点目は、日本独自の法制度である。個人保証、ストックオプション以外にも、二人組合、上場目標設定など、日本固有の制度や契約条件は挙げればきりがない。海外の投資家にとっては不平等であり、スタートアップの成長を阻害する要因が組み込まれている。
  • 二点目は、日本のVCやCVCの多くが、スタートアップの長期的な経営状況/ファンディング・ニーズを見る能力を欠いていることである。その結果、日本のVCとCVC投資は、1回限り・少額のクラウドファンディング的な投資が多い傾向があり、そのため、海外からは、既存の投資家が継続投資をしない先、既存投資家が見切った先と見られてしまう。スタートアップにとっても、都度、新規の投資家を募ることが負担になり本業にも集中できない。
  • 三点目に、スタートアップの経営陣が、グローバルな経験を持つ人材で構成されてないことが多い。経営陣の経歴でポテンシャルを判断するVC視点で見ると、グローバル市場を目指す上では、大変見劣りしてしまう。
  • これらを踏まえて、最優先で行うべきことは、日本固有の制度や契約条項の見直し。第二に、長期的な投資ができるプロ人材を育てること。人材育成・教育は非常に重要である。起業家だけではなく、VCや政府における制度設計者、弁護士・会計士などのプロフェッショナル・ファーム、LP投資家や政府金融機関、その企業等も、スタートアップの経営、ファイナンスの基礎知識を理解しなくてはならない。
  • 必要な取り組みの本質は教育である。適切な仕組みと経験を持つVCをしっかりとサポートすることによって、うまくいかないビジネスモデルには金や人を回さず、拡大生産をしないことが重要だ。そもそも、うまく行っているスタートアップやVCは、投資家とチームを組み、じっくり時間をかけて育ててきているので、資金調達に困っていない場合がほとんどで資金を求めるのは成功していないVCやスタートアップになる。
  • 良い投資先、良いVCを評価することは非常に難しい。そのノウハウや良い投資先へのアクセスを持つ人材をめぐり、国際的に苛烈な獲得競争が行われている。適切な判断をせずに金をばら撒き、うまくいかないモデルを拡大生産することは失敗モデルの人材を市場に出していくことになり長期間に悪影響を残す。絶対に避けなくてはならない。

■ ビビッドガーデン 秋元 里奈氏

  • いろいろな偶然が重なって、6年前に起業した。前職のDeNAでは、周囲に起業家が多く、気がついたら「起業は特別ではない」というマインドが醸成されていた。
  • 当初は、「農家のためになる事業をしたい」というフワッとした動機で創業したが、東京都の支援を受ける中で、グローバルな起業家との接点が増え、その目線の高さや目指す規模の大きさに刺激を受け、会社をもっと大きくしたいと思うようになり、視座が培われた。
  • 挑戦が歓迎され、起業家を多く輩出する社風で育ち、未知の領域への恐怖感がなかったため、起業家になった。こうした環境を、社会のあちこちにどう作っていくかが重要だと思う。方法によっては大学や企業の中でもできると思う。挑戦する文化の醸成は、非常に大きい要素だと考えている。
  • その一方で、セーフティネットも重要だ。同じ時期に起業した方々の中には、残念ながら退場した人もいて、そこからもう1回挑戦する方はまだ少ない。失敗したら完全に一発退場になるようでは挑戦の総量は高まらない。個人保証の問題を含め、失敗しても社会的に死なないこと、失敗した人だとレッテルを貼られることなく、むしろ挑戦した素晴らしい人だと歓迎される風土を作っていくことが重要である。

■ スローガン 伊藤 豊氏

  • 約16年前に起業した当時は、スタートアップに就職・転職しようとする人はあまりいなかったが、この5~6年で大分変わってきたように感じる。
  • 資金調達も重要だが、やはり人材あっての資金ではないか。起業家人材の質・量が増えなければ、金余り、投資先がなくて困る状態になる。人材と言うと、特殊な才能や技術、専門性を持った人の育成・起用に目が向きがちだが、実際に成功している起業家は、必ずしも技術系ではない。裾野の広い人材の育成・起業支援する必要がある。
  • 例えば日本では数少ない時価総額1兆円超のスタートアップである、エムスリー、楽天、ZOZO、サイバーエージェント、メルカリ等の創業者は、特別な技術やアカデミックなバックグラウンドを持った方ではない。
  • 米国を見ても、ザッカーバーグ(Meta)やビル・ゲイツ(Microsoft)はハーバード大中退で、特殊な技術とか学位は持たない。ジェフ・ベゾス(Amazon)は、プリンストン大卒のエリートだが、学者としては挫折をし、小さいヘッジファンドに入社した後に起業している。GAFAMの創業者に共通する点は、学歴が高くて知的能力が高いが研究者ではないこと、伝統的な大企業に就職していないことである。マーク・ベニオフ(Salesforce)も、当時スタートアップだったオラクルに就職し、そこからオラクルを超える会社を作ろうと起業した。
  • サイバーエージェントの藤田晋氏は、新卒時に当時80人規模であったインテリジェンスに、メルカリの山田進太郎氏も、当時50人規模の楽天でそれぞれ働き、その後、起業している。こうして見ると、メガスタートアップを作れる創業者を生み出すのは、学生起業かスタートアップ的な環境での就職経験ではないか。
  • 日本では、伝統的な大企業志望が未だに強く、これが起業家人材の質・量が増えない根本的な要因になっているのではないか。政府が起業家教育を構想しているが、実践に近いもの、例えば、スタートアップでの長期インターンを後押しする政策が望ましい。スタートアップで長期インターンする学生が、毎年数千人単位で増えれば、起業家数の底上げに直接的に効いてくると思う。

■ SmartHR 倉橋 隆文氏

  • SmartHRは、去年海外投資家を中心に資金調達をし、ユニコーンになった。
  • 当社が去年150億円程の資金を調達した際は、過半数が海外だった。ただ、今年に入って市場の雰囲気が大きく変わっている。海外の投資家に尋ねると、「もう日本など見ていられない」というのが本音である。政府戦略にあるような、資金調達をしやすくするような政策転換は非常に重要だと感じる。
  • 人材については、政府戦略や本日の会議のような場で、スタートアップが着目されていること自体がとても良いことだと思う。やはり、「スタートアップが大事」というマインドシェアが重要だ。国民のマインドがスタートアップに寄ってくることが、学生の目をスタートアップに向ける風土を生む。大企業の立場からすると嫌かもしれないが、優秀な社員が起業したり、私のように、創業間もないスタートアップに入社して一緒に経営したりする道が選択肢として増えれば、一層盛り上がってくると思う。
  • 当社の社外取締役の松﨑正年氏は、コニカミノルタの取締役会議長を務めた方である。70歳を超えているが、年齢のダイバーシティを進め、スタートアップを応援したいという志で当社の取締役に就任し、30代の私達と喧々諤々の議論を行っている。このように、スタートアップを応援し、そのために時間を割くという発想が世代を超えて生まれてくると、日本のスタートアップが大変盛り上がってくると思う。
  • 政府戦略にIPOプロセスの見直しが挙げられている。報道では、IPO直後の初値が2倍になったことが「景気のいい話」として伝えられるが、景気が良いのは公募価格で買えた投資家である。当のスタートアップからすれば、身を削って10%、20%の所属権を売り出し、初値であれば100億円調達できたはずが公募価格で半分に抑えられ、投資資金になるはずだった50億円は幸運な投資家の手元に行ってしまう。投資資金が少ない状態でGAFAを目指せと言われてもきつい話であり、中長期的には株価にも悪影響が及ぶ。このように、世論がスタートアップ目線に立っていないところがあるため、そこが今後少しずつ変わってほしい。

■ マクアケ 坊垣 佳奈氏

  • 9年前に、サイバーエージェントの社内ベンチャーで、マクアケという会社を立ち上げた。大学卒業後、サイバーエージェントに入社し、入社2年目・3年目の先輩と私を含む新卒2人で、訳も分からない中でサイバー・バズを立ち上げ、さまざまな経験をした。その後、Cygamesの子会社立ち上げやmixiとの合弁会社などでの役員経験もさせてもらった。20代のうちに、ある程度守られた、リスクのない環境で経営に近い経験をしたことが活きて、マクアケの創業に繋がった。事業を伸ばしていくフェーズでは、20代の経験があって今があると感じている。スタートアップを増やす、挑戦の総量を増やすという観点では、社内ベンチャーの促進が一つの手段である。
  • 学生起業に関しては、九州大学起業部のサポートを行っている。Sansan取締役社長CEOの寺田親弘氏が手掛けている徳島の「神山まるごと高専」のように、起業家が直接教育に関わることで、若いうちから起業が当たり前の選択肢だと感じられることが重要だ。学生起業の場合、アセットも経験もないので、うまく成長ストーリーを描けないこともある。その意味では、一度社会に出て、起業に近い経験を積める環境に飛び込むことも必要になる。その点、サイバーエージェントの場合は、社内ベンチャーを育てる仕組みが整っており、常に数十社の子会社があって撤退基準も決められている。複数のリアルな経験が起業の成功をもたらす。
  • 人材確保という観点では、女性の起業が進めば、挑戦する人の数は単純に倍増する。そもそも日本企業ではDE&I(Diversity,Equity and Inclusion)が進んでいないので、チャレンジできる女性が育っていない。男性の育児休暇取得、男女の賃金格差公開など、良い流れができつつあるが、もっと危機意識を持って、チャレンジできる女性を多く育てる必要があると思う。
  • また、既存企業の跡継ぎベンチャーについて、もっと議論があっても良いと思う。日本では、ゼロイチよりもイチヒャクが得意な文化的背景があるし、世界的に見ても100年、200年続く長寿企業が圧倒的に多い。日本企業の良さは、職人気質もあいまった技術と歴史ではないか。そのアセットを活かしながら、新しいことを興す仕組みが作れないか、もっと議論してもよいと思う。

■ 衆議院議員 今枝 宗一郎氏

  • 私自身、学生時代にベンチャーを興し、卒業後は医師として新しいプロジェクトに携わり、28歳で国会議員になった。そうした中で、この国が成長していくために必要だと考え、3年前にスタートアップ推進議連を作り、事務局長として携わってきた。
  • 当初は、全国的それぞれの地域にスタートアップ・エコシステムの拠点を作ることを考えてきたが、成長戦略の一丁目一番地にスタートアップを置かなければと考え、議論を重ねて、4月に11項目の提言を取りまとめた。
  • 大学生の約半分近くはスタートアップへの就職に関心を持っているが、実際の就職はまだかなり少ない。経営者のもとで長い期間学んだ経験を持つ人達は、起業家になる可能性が高い。こうした学びは、座学ではなく実践型インターンシップの形で進め、継続することも重要だ。
  • 大企業で働く一流のマネジメント人材、研究人材がスタートアップに入るには、ストックオプション制度の確立が必要だ。日本のストックオプション信託は使いづらく、硬直的な仕組み。日本版QSBSやストックオプションプール制度などを運用しながら、長期安定の大企業と秤にかけても挑戦しがいがある環境を作ることが重要である。
  • セカンダリ・マーケットも重要で、IPOしないと現金化ができない、上場まで待たなくてはならないというと人材の硬直化が進んでしまう。個人保証に関しては、骨太の方針等で、創業融資促進措置を作る方向性を打ち出している。
  • スタートアップのビジネスプランをグローバルに展開する発想、海外VCからの投資を増やしていくということが必要だ。1990年代イスラエルのヨズマ・プログラムではないが、海外VCへのLP出資等をしながら、海外市場に直接繋がる取り組みを進めたい。もちろん、ガラパゴス的な日本の制度を改めなくては、実際の投資には行きつかないため、資金の呼び込みと改革に同時に取り組んでいかなくてはならない。

■ ブイキューブ 間下 直晃氏

  • 「スタートアップを5年で10倍増」という方針が本当に正しいのかどうかを考える必要がある。小さいスタートアップが増えるだけではあまり意味がない。昔はモノの時代で、企業がグローバル化する中で日本は世界第2位の経済力を獲得した。モノからサービスの時代に変わる中、スタートアップのグローバル化ができてない状況を考えれば、日本のスタートアップの資金調達額が世界総額の1%というのは当然である。そもそも、グローバル化が前提になければ、米国等の投資額の水準に追いつくことはないだろう。
  • そもそも、日本にはグローバルに動ける人材がほとんどいない。1、2年で結果がでることではないが、根幹となる教育から見直していかなければならない。海外留学を徹底的に増やさないと、グローバル市場に挑戦しようにも全く歯が立たない。自社も米国で挑戦しているが、少ない戦力で戦わざるを得ない状況である。
  • こうした問題意識から、一つひとつの企業を大きくする観点から提言をした。マザーズ市場は売上10億円未満でも上場可能という、世界的に特殊なマーケットになっている。これは、IPO以外にExitの選択肢がほとんどないからである。
  • スタートアップを大きく育てる観点では、特に、上場後のハードルを潰していく必要がある。そのキーワードはイコールフッティングだ。のれん償却の問題をはじめ、日米でなぜ会計の違いを作る必要があるのか。働き方も同様。24時間働くとは言わないが、しっかりがんばりたい人がいて、その対価としてストックオプションを提供するようなことも、今の制度ではなかなかできない。スタートアップ限定で、労働基準法の適用除外を認めるようにしないと、グローバルで戦うスタートアップにはとても追いつけかない。
  • VCの資金を増やしたところで、そもそもマーケットがなくてはパフォーマンスが落ちるだけである。株式市場自体を盛り上げるしかない。スタートアップにとっての「出口」が株式市場しかない日本において、株式市場、特に特にグロース市場が萎んでいる状態では、いくらVCに資金を提供しても投資にはつながらない。金融所得課税の引き上げは論外。例えば、スタートアップに関する金融所得課税を無税化するなど、抜本的な政策を講じることが投資の活性化に繋がるのではないか。

■ 松屋 秋田 正紀氏

  • 経済同友会の委員会でアート産業の活性化に取り組んでおり、スタートアップの世界と状況が似ているように感じた。世界には、5.4兆円のアートに関わるマーケットがあるが、日本のシェアは1%に満たない。それを何とか拡大するには、アーティストががんばるだけでは駄目であって、批評家、キュレーター、アカデミアの人々など周辺の人たちを育て、充実させることで全体の基盤を整備する必要があるとわかってきた。
  • 先日、ある経営者の方が、成功者を称えることは重要だが、それ以上に、失敗を許すことが重要だと指摘されていたのが印象的だった。

■ 衆議院議員 今枝 宗一郎氏

  • グローバル人材をもっと増やしていかなくてはならない。例えば、初等中等教育から、グローバルな視点でものを考えること、英語教育、アントレプレナーシップ教育を取り入れ、人材の裾野を広げていくことが重要だ。
  • 短期的にできるのは、シリコンバレー、ロンドン、ニューヨーク等に、日本の出島としてスタートアップ支援拠点を作ることだ。日本の起業家向けの各種支援プログラムを含め、世界各地のスタートアップ・エコシステム、ネットワークに入りこんで勉強してもらう。環境が変われば視座が変わる。そのような機会を多く持つことが、小粒上場の問題を解決する最大の要因になる。
  • 合わせて、スタートアップにとっての出口の多様化を図る。日本のGDP規模に照らせば、本来190社くらいのユニコーンが生まれていてもおかしくはない。

■ 東京大学大学院 各務 茂夫氏

  • 小泉文明 メルカリ取締役President(会長)はミクシィに、田中良和 グリー取締役社長は楽天に在籍していた。これは一種ののれん分けと呼ぶのが相応しいと思う。米国で、ジェネンティックが次々にバイオベンチャーを築いているように、日本でも、ディープテックの世界でいかにのれん分けを増やせるかが課題である。
  • マイクロソフトも、同社発の企業がおそらく3000社ぐらいあって、それがマイクロソフト全体のエコシステムを作っている。日本でもこうした例がもっとあってもよい。人材の流動化も含め、大企業発ののれん分けがどのぐらい広がっていくのかが求められている。
  • 日本で、健全なプライベート・エクイティ市場を作る上で、適格投資家の基準を緩める必要がある。日本は個人・法人ともに有価証券10億円を義務付けているが、米国では、住居を除く資産だけで1億円あれば適格投資家になれる。ここをもっと緩めないと、セカンダリ・マーケット、プライベート・エクイティ市場が生まれない。
  • 東京大学では、学生がシリコンバレーで実際にピッチを行うプログラムを盛り込んでいる。ピッチまではできるものの質疑応答になった途端に委縮してしまう学生が多い。グローバルコミュニケーションをアントレプレナーシップの世界に持ち込むことが大きな課題だと思うので、今後の教育の中心に据えていきたい。

■ 日本アイ・ビー・エム 山口 明夫氏

  • 経済産業省新規事業創造推進室の資料によると、レイター・ステージへの投資額は、日本では全体の16%しかない。米国は大体60%、欧州は36%である。日本ではほとんどの投資が、シード・ステージかアーリー・ステージに向かっている。レイター・ステージに金を回さない理由は、スタートアップにグローバル人材がいないことや、グローバルなビジネスケースになっていないからではないか。日本の市場の魅力のなさと、グローバルで働くベンチャー側の能力という二つの課題がある。やはり、既存企業とスタートアップの間に、金に加えて人の交流、流動化を起こし、ノウハウ(の移転)を進めることが最も重要と感じた。

■ AGC 石村 和彦氏

  • 起業が普通という雰囲気が重要だ。産業技術総合研究所には多くのシーズがあるが、起業家はなかなか生まれない。ここまで、若者に焦点を当てた議論が多いが、産業技術総合研究所から生まれる初の上場企業の社長は70代の元研究者である。見るからにやる気が違い、ギラギラしている。年齢だけが問題ではない。そのような人をもっと育てていかなければならない。

■ 岡三証券グループ 新芝 宏之氏

  • 35年前に米国に留学した当時、ビジネススクールで一番人気があったのはアントレプレナーで、それに対して何故だろうという感覚を持ったのだが、隔世の感がある。日本の社会は、クリティカルマスと言われる一定の水準を超えると大きく変わるのではないかと期待感を持っている。

(3)トピック2 社会に根差した挑戦の阻害要因を解消するためには

■ りそなホールディングス 東 和浩氏

  • 銀行には、業務範囲規制があり、やってよいことと悪いことが明確になっている。それでも規制緩和によって、商社、農業子会社を作ったり活躍する若手が出てきたりするなど、雰囲気が変わってきた。
  • 自社のVCは、シード、アーリー・ステージへの投資はあまり活発ではない。技術評価に非常な難しさがある。一方、国の政策も含めてエンジンをかけるため、キャッシュ・リッチな大企業は少し力を発揮しなければいけない。インセンティブを利かすため、税制面での要件緩和を進めて欲しい。
  • 大企業においては、定期的な人事異動で人がどんどん変わってしまうことは避けなくてはならない。特にCVCは、シナジーの発揮という点に目標が定まっている。POCを実施して、良い技術なので一緒にやっていこうと決まったが、その後は資金が出ないという形になりかねない。そのハードルをどうやって下げていくかが問題だ。
  • それぞれの地域で、スタートアップ支援が活発になりつつあると感じる。県や市、地方大学が作ったコンソーシアムが数多く誕生したが、コンソーシアム間の情報連携はできていない。資金面を含めて、一体的な情報共有ができるようになればと思う。根本的な問題はやはり金融教育。金のマネジメントについては、高校・大学からしっかり勉強してほしい。

■ 経済産業省 北村 健太氏

  • ストックオプション一つとっても、スタートアップ企業がその設計方法を知らないといった例が結構ある。そもそもの金融リテラシーの低さが問題としてある。経済産業省では、スタートアップ側の目線で、どのような時にどのような施策が使えるかをわかりやすく示すツールを作ろうとしている。
  • 大企業ではなくスタートアップに就職する、スタートアップを立ち上げることが是とされる雰囲気をどのように作っていくのか、空気の醸成が重要である。

■ 国税庁 丹羽 啓介氏

  • 日本の景気が停滞してからずっと、規制改革は俎上に上がり続けてきた。様々な改革が試みられたが、その効果は不明確だとの指摘もある。こうした中、人々の中に、改革疲れのような雰囲気、規制改革だけでは問題を解決できないという考えが広まっているようにも思う。
  • 挑戦の総量が増えない、挑戦の担い手が少ないことの根本には、そもそも、人口が増えていないことが根本的な問題としてあるように思う。日本の規模自体が変わらない中で規制改革だけを進めても、起業人材は増えず、今勝っている既存のプレーヤーが得をするだけにならないか。課題解決のためには、何と組み合わせて規制改革を行っていくべきかを考えたい。

■ ONE JAPAN 濱松 誠氏

  • 大企業がすべきことが三つある。
  • 一つは、徹底的な人材の流動化。転職だけではなく、企業・政府が旗を振って副業・兼業を推進すること、スタートアップと大企業間の出向、退職者の出戻りの歓迎、社員による起業促進などを、トップのコミットメントのもとで徹底的に促進する必要がある。
  • 二つ目は、社内ベンチャー制度である。トップがサポート、コミットすることが大事である。大企業から起業していく姿を当たり前にし、憧れにしていくことが大事なのではないか。
  • 三つ目は、例えば女性管理職比率をオープンにしていくのと同様に、企業の人材流動化指数、社内ベンチャー制度から出てきた起業数などを人的資本に関するKPIに据え、業績評価指数に含めていくことである。徹底的に見える化をすることで、人材の流動化を促進することが、経済同友会や大企業に求められることではないか。

■ 日本若者協議会 室橋 祐貴氏

  • 学生起業が増え、だいぶ変わってきたと思う一方で、普通の学生は未だに大企業志向、安定志向が強いように感じる。日本若者協議会にも、大学入試や就職を意識して活動している人が多い。その意味で、ソニーのように、起業家を積極的に採用する枠を作ることも、大企業が短期的にできることではないか。
  • 起業家教育、金融教育など、行うべき教育が広がる一方で、現場でそれを教えられるのかといった具体的な議論が足りていない。教員の待遇や人材不足、長時間労働が深刻化している。それに対する教員の人材増、50年前にできた給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法:休日勤務手当や時間外勤務手当などを支給しない代わりに給料月額の4%を調整額として支払う仕組み)改正に関する議論は行われていない。詰め込む話ばかりで、教員側の対応をどうするか、どう実現していくのかという議論が全く足りていない。

■ University College London 中原 瑠南氏

  • 今年3月まで高校生で、スタートアップスタジオでの長期インターンを経験した。その中で感じたのは、「起業は手段の一つ」ということである。課題を見つけたからこそ、その解決のために起業する、というのが本質だと気づいた。起業が目的化してしまうと、課題設定が確立されてないからニーズの有無がわからなくなり、成功確率が低くなると思う。そうなると、結局起業は高リスクだという印象を若者世代が抱くといった悪循環に陥るのではないか。だからこそ、課題を知る機会を設けることが必要だと思う。国際化についていえば実際に使える英語を教えること、課外活動など、机上から飛び出したものがものすごく重要だと感じる。
  • 課題を見つけて起業したいとなった時に、大人が本気でサポートしてくれることが重要だ。例えば、ビジネス・コンテストがあっても、本当に起業まで行く人がどれだけいるのか。大人から本気でサポートを受けているビジネス・コンテストの優勝者は、皆創業している。後輩から、課題と解決のためのアイディアはあるが、その先どうしたらいいのかわからないとよく相談される。若者の間にあきらめ感もあるだろうが、ビジネス・コンテストに興味がある高校生はたくさんいると思う。スタートアップや起業、挑戦に対するポテンシャルがある中で、それをどう本気でサポートするかが重要である。
  • 女性が女性だからわかる課題を発見し、起業を通じて解決することは、本質的に人々の豊かさに繋がるのではないかと思う。だからこそ第4回のオープン・フォーラムで共有された、「人々の豊かさと社会の持続可能性も同時に増大させること」にスタートアップが結びつくのではないか。

■ 長野県信用農業協同組合連合会 福井 健一郎氏

  • JAバンク長野県信連に勤務している。東京に比べ、地方は課題先進地域であるが、高度な教育を受けた人材、起業・スタートアップに関するノウハウがないという問題がある。こうした中、基本的な金融リテラシーやノウハウを蓄積しているのが地域金融機関である。私自身、学生時代に起業したが、どのような会社であっても登記後に必ず行くのは、専門知識を持った金融機関。起業家への入口として、地域金融機関の役割を広めていく必要がある。
  • 金融、地域、ビジネスに関する地域金融機関の知見を、投資のプロであるVCにつなぎ、高度な投資判断を行っていただきながら資金供給を行い、VCと伴走で支援をしていくような流れを作ることが効果的ではないかと考えている。

■ 早稲田大学 木幡 涼真氏

  • 経済産業省のデータによると、VCの投資先企業の45%程は、仲間が5人以下、あるいは、まだ売上が経っていない企業だそうだ。挑戦をする側としては、一体何を見られているのか、少なくとも売上や仲間の数ではないようだが、投資家が投資したい、応援したいと思える特性が何なのかを知りたい。

■ 東京大学大学院 各務 茂夫氏

  • ベンチャーのコンテストでは、チームビルディングの具合、一人ひとりの役割をどのように良く規定しているかが見られる部分ではないか。本当に解決したい課題が、どのような個人的経験から見出されたのか、問題解決に向けた確固たる思いがどのぐらい強いかが重要だと思う。そうした思いが強いほど、関連分野でどのようなスタートアップがあり、何がその事業を成り立たせているかを調べ上げている。さらに、将来のお客様にもインタビューを行い、これならできるという手ごたえ、ある種のキラーアプリケーションが明確にある場合は、投資する可能性が高い。

■ Sozo Ventures 中村 幸一郎氏

  • グローバルなマーケットからどうやってタレントを獲得するかをぜひ議論したい。これは非常に重要な戦略だ。グローバルなタレントプールから、VCや日本のスタートアップ振興に人をどうやって取ってくるかは大事な戦いである。
  • 私は30代後半にシカゴ大学MBAを卒業し、三菱商事に戻った。他の留学経験者を見ても、ある程度のキャリアを積んだ人にとって、日本企業は処遇面で良い環境とは必ずしも言えない。皮肉なことにしっかり自分でグローバルなチャンスを狙えるキャリア形成をしてきた人にとって、日本企業から転職するリスクはない。
  • そのような人達や、シンガポール、英国、米国で活躍するようなタレントが魅力を感じるようなキャリアを日本のベンチャーが用意すること、そのような企業をサポートしていくことが必要だ。具体的には、グローバルなタレント獲得競争に、日本のベンチャーが参加できるだけの環境、仕組みを整備することが求められる。例えば、英国のように、世界トップ20の大学卒の人に無条件にビザを発行する等、思い切った制度を作り、タレントを獲得しないとグローバル競争には勝てない。

■ ロッテホールディングス 玉塚 元一

  • 円安の加速も相俟って、CXOクラスやデジタル人材の賃金が高騰しており、スタートアップにとってはハードルが高いように感じる。東京をスタートアップ・エコシステム都市にするために、トップ人材を呼び込むための環境整備など、さまざまな課題がある中で、どこからチャレンジをしていけばよいだろうか。

■ Sozo Ventures 中村 幸一郎氏

  • ストックオプション、キャピタルゲイン課税など税制が非常に重要だ。一定期間、特定地域・特定分野における成功者、成長企業を対象とした減税措置や、雇用サポート措置を講じないと、プロ人材が来たいと思うような環境にはならない。とはいえ、地下鉄が発達し、ほとんどの主要企業にアクセスできる都市環境や食文化など、東京には魅力もあり、日本に好意的な人たちがいることも事実である。そうしたトップタレントを呼び込むために、成長企業を贔屓する減税など、思い切った策を実行する必要がある。

■ 衆議院議員 今枝 宗一郎氏

  • 海外各国にはスタートアップ・ビザの仕組みがあるので、これを日本でもできないか提言している。海外人材にとって、来日時の心配事は子弟の教育や言葉の壁である。言葉の壁については、翻訳ソフトなどさまざまな技術開発を含めて対応していく。子弟の教育に関しては、グローバル・スタートアップ・エコシステム拠点都市に、インターナショナルスクール等を整備していくことが不可欠である。
  • 大学をはじめ、先生達が忙しすぎるという問題、先生の働き方改革については、一生懸命対応している。大学においては、運営費交付金をしっかり確保して、腰を据えてアントレプレナー教育に取り組んでいただく必要がある。もっと重要なことは、オンラインを活用して、日本全国あるいは世界の優れた起業家と学生を繋ぐことである。小中高時代に起業家の背中を見て学ぶことがあれば、起業家という道が将来の選択肢に入ってくる。
  • 大企業にお願いしたいことは、ディープテックを始めとする新産業への投資である。量子、AI、グリーン、バイオ、宇宙、海洋、デジタルについては、(海外との競争の中で)厳しい面もあるが、Web3であればまだ逆転可能な部分もある。政府はコミットする姿勢を打ち出しているため、是非一緒にやっていきたい。スタートアップからの調達に関しては、受託ではなくサービス調達にしていただく、大企業が持つマーケティング力や販路面での協力をしていただくなど、スタートアップ・フレンドリーに考えていただきたい。さらに、選択的週休3日制と副業・兼業を組み合わせることで、大企業人材によるスタートアップへの参画が進むのではないか。
  • 地域金融機関は、預貸率50%超が普通になるなど危機的な状況である。出資・投資はしたいが目利き力がないのが問題。地域の大学や自治体、地域金融機関と、スタートアップの目利きできる人材が組んで地域ファンドを作ることも提言している。

■ マクアケ 坊垣 佳奈氏

  • 今の若い世代は、本質志向が強くて素晴らしいと思う。起業は目的ではなくて手段であり、世の中のどのような課題を解決していきたいか、そこを目指して起業し、意思を持って経営を続けていくことが、強いメンバーを集め、強い組織を作ることに繋がってくる。
  • 北海道教育委員会によるオープンプログラムで、メンターを務めている。商業高校を中心にエリアごとに指定校を作り、各エリアの課題を学生が分析し、社会実装を見据えたフィールドワークを行う。例えば、余市ではワインツーリズム、競走馬を育てているエリアでは競走馬の育成、レースといった企画を行い、そこに起業家や地元のアドバイザーがメンターとなり、学生にアドバイスを行っている。地域の課題を肌で感じ、発見し、社会との繋がりや意識を涵養することに結びついている、大変面白いプログラムだ。若者は大学進学に伴って都市に出てしまうが、中高生であれば地域にとどまっているので、その段階で地域社会と接点を作ることができると良い。

■ SmartHR 倉橋 隆文氏

  • 環境整備、文化や雰囲気の醸成に関する議論をありがたいと思う一方、自戒の念を込めて言うと、手っ取り早いのは、大成功事例を作ることではないかと感じた。
  • 私自身も身近な経験が一番の原動力になった。年収を半分以下に減らしてでも、スタートアップに転職したきっかけの一つが、楽天の初期創業者の方々のかっこよさであった。例えば、良いものを私たちに食べさせ、領収書を切らずに支払いをする姿を見て、単純にかっこいいと感じた。そして、これはサラリーマンではできない、自分が経営側に回らなければ駄目だとも思った。また、SmartHRがまだ小さかった時、メルカリが大規模なIPOを実行したことで、私達も社内で大いに盛り上がった。今日の議論をありがたいと思いつつ、自戒の念に苛まれたので、がんばっていこうという決意表明である。スタートアップに飛び込んでみよう、スタートアップのサービスを使ってみようといったさまざまな形で、スタートアップを応援する機運が高まれば、私達もより一層がんばりやすくなる。

■ ブイキューブ 間下 直晃氏

  • 大企業がどう変わればスタートアップが伸びるかという観点で申し上げる。ポイントは、大企業による買収と人材登用である。そのため、どんどん買収を進めてほしいということと、買収したスタートアップの経営者を役員に登用し、年齢的なダイバーシティを広げることを提案したい。このことは、大企業におけるイノベーションの加速にも繋がると思う。スタートアップの経営者を、単なる一部長、事業部長に据えれば数年で辞めてしまいもったいない。
  • 2点目は、大企業によるスタートアップからのサービス、製品の調達である。スタートアップの調達は、大企業の社内的には挑戦になるだろう。この挑戦を評価するスタンスを、企業として確立すべきである。調達に関しては、1円でも安く、よりリスクの少ない方に…となりがちだが、その時点でスタートアップは対象外になり、新しい価値あるものの調達につながらない。
  • 3つ目は、大企業による優越的地位の乱用の問題の解決である。公正取引委員会も問題視している通り、スタートアップからの盗取など、経営者が気づいていないことが実際の現場では起きている。これを潰していく動きが非常に重要である。経済同友会が企画・実施しているラウンドテーブルのように、大企業とスタートアップの経営者同士の接点を作ることで対応していく必要がある。

■ スローガン 伊藤 豊氏

  • 大企業はスタートアップ経験者の中途採用を増やしてほしい。まずは大企業に就職したい学生が多いのはその通り。学生は、大企業に就職した後にスタートアップに行くことはできるが、その逆はないと思い込んでいる。大企業が、スタートアップ出身者を新規事業やオープンイノベーション担当として採用し、役員にも登用することで、人材のダイバーシティを深化させてほしい。最初にどこに就職しても大丈夫という雰囲気をつくり、自分が面白いと思ったところにそれぞれの人が飛び込めるようにすることで、フラットな人材の流動性が出てくる。「スタートアップ経験者採用キャンペーン」を打つなど、何かできるとよい。

■ 東京大学大学院 各務 茂夫氏

  • ユーグレナ取締役社長の出雲充氏は、学生時代にバングラデシュに行き、現地の問題の本質を見極めた上で、ミドリムシで世界を救うことに決めたと話している。学生は世の中の課題に興味を持っているが、やはり、現場に行って肌感覚で痛みを知る経験を持つことが重要である。東京大学では、学生が入学後コンフォートゾーンに入る前に引き込み、社会課題に近づくよう指導している。是非いろいろなことを見て欲しい。
  • 私は、前橋ではJINS取締役CEOの田中仁氏、あるいは熊本では味千ラーメン(重光産業)取締役社長の重光克昭氏とプロジェクトを行っている。それぞれの地域は起業家がいるので、そうした人たちを巻き込む形でプロジェクトを組むことが有効である。
  • コーポレート・ガバナンス改革の一環で、ROE、ROIC(投下資本利益率)など収益性を高める動きが加速している。上場会社にとっては、自前で全てやることの合理性がなくなってくるので、M&Aマーケットが広がることになるのではないか。上場企業にガバナンスのプレッシャーがかかることで、機関投資家を含めて改革へのインセンティブが高まり、企業がスタートアップに着眼するようになるのではないかと思う。
  • 米国のVCの原資の7~8割は年金と、大学のエンダウンメント(寄付金等による基金)である。日本の大学の基金規模はたかが知れている。GPIFの年金積立金は200兆円のうち52%がエクイティで構成されているが、もっとプライベート・エクイティに踏み込んでもよい。例えば、200兆円のうち、せめて1%、2兆円程度、公的な金を介して、よりプライベート・エクイティに金を回すことも検討されていい。

■ 松屋 秋田 正紀氏

  • 経済同友会の経営者の間では、従来、人材の育成や教育はコストと捉えられていたが、これからは投資だ。リカレント教育が重要になり、副業・兼業を認めることが結果的に社員の転職に結びつくかもしれないが、それは仕方がない、という議論になってきている。
  • 起業したい社員に3年間の猶予を与え、仮にうまくいかなくても、その経験を社内で活かすために復職を許容する例もある。大企業も変わりつつある。

■ 衆議院議員 今枝 宗一郎氏

  • 日本では、レイター・ステージへの投資が7%しかないが、米国では65%である。GPIFは1%でもオルタナティブ投資の発想でやればいいのではないかと提言している。さらに、骨太の方針においても、個人資産を含め、機関投資家がしっかりと資金を供給していくべきと記載しており、その方向で進めていきたい。

■ ロッテホールディングス 玉塚 元一氏

  • 本日、印象に残ったことはいくつかあるが、やはり目線を高めてグローバルなエコシステムで活躍できるようなプロ人材を日本にどう呼び込むかが一点。また、経営者の団体である経済同友会として、大企業とベンチャーの交流、出口としての買収、そして、買収を通じた人材の流動化・リテンションを通じて企業のカルチャーを変えることの重要性等が指摘された。
  • 課題解決の手段としての起業を、本気で応援する大人がいてほしいという重要なメッセージがあった。本日いただいた意見を整理し、何とかアクションに繋げていきたい。

■ 日本アイ・ビー・エム 山口 明夫氏

  • 今日の議論のポイントは、大きく3点にまとめられると思う。
  • 一つ目は、大企業も政府もスタートアップも、社会の全員がスタートアップ育成の当事者ということである。スタートアップ育成に取り組まなければ日本の将来はない。そう考えれば、それぞれが責任を持ち、当事者として何にどうやって取り組んでいくかが重要である。
  • スタートアップ自身にとっては、グローバル市場を目指すことが重要であり、そのために必要な人材をどう取り込み、育成するかがポイントである。日本固有の制度、不平等な条件を解消しない限り、なかなか資金も回ってこないという指摘もあった。さらには、ベンチャー自身の能力アップ、金融教育等の充実なども十分ではない。大企業に関しては、人材の流動化、具体的には、出向、兼業・副業、出戻りなどを本当に実現できる形にしていきたい。このように、全員が当事者として、それぞれが今日議論されたことを実行に移すのが一番重要である。
  • 二つ目に、たとえ失敗しても、挑戦をした人に後ろ指を指すような風土・雰囲気を徹底的に払拭することが重要である。
  • 三つ目は、大企業・スタートアップという二つのグループ、二つの経済圏があるように感じられる中で、人材、ビジネスのやり方も含め、両者がもっと融合していくことで大きな波を起こせるのではないかと感じた。
  • 全員が当事者であること、失敗を許容する風土が重要であること、そして、スタートアップと大企業の真の意味での交流、マージ、人材流動化にしっかりと取り組んでいかなければならないということ、を本日のまとめとしたい。

■ 岡三証券グループ 新芝 宏之氏

  • 私は「未来選択会議」という名称を非常に気に入っている。今の日本は、大きく変わらなければならない時であり、そのためには一つひとつ小さなことでも選択をしていかなければならない
  • 今日この場に集まり、少しではあるが、どう変えていけば良いか、前向きな議論ができたように思う。このことが5年後、30年後の日本にとって、バタフライ効果のように良い効果をもたらすのではないかと想像を巡らせていた。特に、ウクライナ問題やインフレ、金利上昇など、今の時代は今日と明日で物事が全く違ってしまう。全く未経験の時代が到来した今だからこそ、どう変わっていくべきかを真剣に考える必要がある。
  • 本日、グローバル化の足りなさ、ガラパゴスな日本のままでは駄目だということを改めて感じた。その観点から、大企業とスタートアップの融合をはじめ、さまざまな化学反応を起こすべきだと思う。今日も、私のようなシニア経営者と若者、そして若者の中でも特に起業家の方々、ここに化学反応が起こると思う。
  • また、世界中からタレントを集めてくることに関して、日本のスタートアップに足りないのは、集めてきた人をコーチする人、経営に結びつける人である。この点は、証券ビジネスを通じて痛感していることでもある。あらゆるものの掛け算、融合、化学反応が起こっていくと、日本はさらに良くなると思う。

(文責:経済同友会事務局)

※詳細は広報誌『経済同友』よりご覧いただけます

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