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スペシャルレポート第5回
<対談>小谷真生子氏・新浪剛史幹事
「可能性は無限 若い人たち やってみなはれ」

経済同友会は「みんなで描くみんなの未来プロジェクト」の一環として、会員である経営者が情報発信するシリーズを連載しています。最終回となる第5回は、新浪剛史幹事(サントリーホールディングス取締役社長)と、報道アンカーの小谷真生子氏の対談をお届けします。

新浪氏は三菱商事から43歳でローソンに転じ、現在はサントリーHD社長として経営のグローバル化を推進。20年にわたり、ベンチャーから大企業まで社長を務めるかたわら、経済財政諮問会議の民間議員であるなど論客として知られます。小谷氏は日本航空を退職後、NHK総合「モーニングワイド」やテレビ東京系「ワールドビジネスサテライト(WBS)」、BSジャパン「日経プラス10」などに出演、豊富な知識と鋭い視点を持ち味に活躍されています。グローバル時代の企業経営や日本社会のあり方について、丁々発止の議論が展開されました。

決断求められる日本の経営者

小谷 今回はグローバル化やダイバーシティー(多様性)の流れを受け、日本の企業や社会はどうあるべきかがテーマです。日本人一人ひとりの働き方も変化を求められていますが、新浪さんの経歴をみると、その動きを先取りしてきたように見えます。

新浪氏フォト

新浪 貿易の時代を見据えて三菱商事に入り、新規事業の立ち上げや不振部門の立て直しなど多くの経験をさせてもらいました。その後、退職してローソンに移り、さらにサントリーへと、常に新たな挑戦の連続でした。まさに「やってみなはれ」の人生だなと思いますね。

小谷 サントリーの創業者、鳥井信治郎氏の言葉ですね。三菱商事といえば就職ランキングで常に上位を占め、いわばエリート中のエリートですが、ローソンの経営を任されたとき、出向でなく、転籍して退路を断った決断力はすごいと思いました。

新浪 じっくり自分の将来を考えていたら悩んだかもしれませんが、そんな余裕は全くありませんでした。とにかく、この会社を立て直すにはどうすればいいか。そのためには往復切符ではなく、片道切符で行かないとダメだと思ったのです。若いから何でもやってみよう、という気持ちもありました。

小谷 最近は日本でも、経営手腕を買われ、社長としてヘッドハントされる「プロ経営者」が増えてきました。新浪さんはその先駆的な存在と言えますね。

新浪 自分としてはヘッドハントされたというより、人と人とのつながりで決まったという気持ちです。ローソンに移ったときは、三菱商事でローソンの担当部長でしたし、当時の佐々木幹夫社長、小島順彦副社長との人間関係が大きかった。サントリーに移ったのは、佐治信忠サントリーHD会長との個人的な関係が決め手になりました。プロの経営者と言うのはおこがましいです。

小谷氏フォト

小谷 三菱商事時代に米ハーバード大で経営学修士(MBA)を取得されています。そこで学んだことは、社長を務めるうえでどんな風に生かされていますか。

新浪 会社を経営するために必要な要諦は学んだと思っています。財務、会計、労務、マーケティングといった経営機能に加え、大局観で世の中の流れをつかむ術を徹底して教え込まれました。ただ、実際に会社を経営して思うのは、学校で習うことは竹を削って刀に見せかけた「竹光」なんですね。「真剣」ではない。緊張感が違います。

小谷 以前、経営で大事なのは論理でなく主観だとおっしゃっていましたよね。でも論理も必要なのではありませんか。

新浪 最後の決断は自分の感性を信じるしかありません。重要なことはあらかじめ決まっており、それを選び取っていかに論理的に説明するか。正しいか、正しくないかは後世の人が判断すること。現時点で正しいと思うことを、悩みながら苦しみながら決断するのが経営です。公私の別なく四六時中考え、決して安心することはありません。その意味では、経営はアートと言ってもいい。

小谷 成功している経営者は皆さん、そういう考え方でしょうか。

新浪 基本的にはそうだと思います。直感力と言いますか。経験の中で磨かれていくものです。

小谷 欧米と比較した場合、日本はそういう経営の感性を磨く土壌が発達していると言えるでしょうか。

新浪 土壌はありますが、決断しない経営者もいますね。下の人が決めてくれるとか、任期を無難に過ごせばいいとか。しかし、今の日本企業にはそんな余裕はないはずです。経営者がギリギリの決断をしなければ生き残れない時代になってきました。

新浪氏フォト

動き読めない米政権 日本の出番増える

小谷氏フォト

小谷 新浪さんは経営者として日本と海外を行き来するだけでなく、世界経済フォーラムが開催するダボス会議などにも参加され、グローバル時代の変化の波を肌で感じ取っておられると思います。最近、日本企業や日本そのものの世界におけるプレゼンスが低下しているのではないかと危惧しているのですが、どうお考えですか。

新浪 中国の台頭により、相対的に日本のプレゼンスが下がっている印象です。最近、「ジオエコノミクス(geo-economics、地経学)」という言葉が注目されています。従来は地理的条件から政治的・軍事的な国家の力関係を考察する、いわゆる「ジオポリティクス(geo-politics、地政学)」が重視されてきました。しかし、ここへ来て経済の影響力が増してきており、地政学的な意図を持って経済力を行使する動きが出ています。

小谷 具体的にはどういう動きですか。

新浪 例えば、米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)を導入する韓国の方針に対し、中国は猛烈に反発しています。このため、中国では韓国製品の不買運動が起き、ロッテグループや現代自動車といった韓国企業は大きな影響を受けている。日本にとっても人ごとではありません。

小谷 米国との関係はどうでしょう。トランプ政権の動きは読みにくいですが。

新浪 中国のジオエコノミクスに対抗するには、米国とタッグを組むことが不可欠です。環太平洋経済連携協定(TPP)は米国を含め、国内総生産(GDP)で世界の4割を占める巨大経済圏をつくることで中国に対抗する狙いがありました。もう一度、米国を引き戻し、さらに将来は中国をも取り込んでいくべきです。中国の経済パワーは看過できない規模であり、国際秩序に組み込むことが中長期的に世界経済の安定につながると思います。

小谷 日本は世界やアジアでリーダーシップを発揮できていないように見えます。

新浪 TPPは日本のリーダーシップが発揮される好例になるはずでした。日本が各国と交渉したからこそ、米国の無理難題を抑え、ベトナムなどの国営企業の問題にも解決策を導き出すことができた。日本の官僚制度の優秀さが示されたわけです。トランプ政権が自国第一主義に傾くなかで、日本はコーディネート役として力を発揮する場面が増えてくると思っています。

小谷 国内に目を向けると、「働き方改革」の議論が盛んです。新浪さんは政府の経済財政諮問会議の民間議員も務めていらっしゃいますが、日本の雇用システムはどうあるべきだとお考えですか。

新浪氏フォト

新浪 終身雇用や年功序列といった従来の仕組みは徐々に崩れ、雇用の流動化が着実に進んでいます。流動化が進むということは、いい人材を採るために賃金を上げる必要が出てくる。同時に、賃金に見合った働きをしてもらう、つまり生産性を引き上げることを考えなければなりません。ただ、経営者の立場からすると、賃金と生産性は、ニワトリが先か、卵が先か、悩ましい問題です。

小谷 どちらを優先すべきでしょう。

新浪 今は賃金を上げることを優先すべきだと思います。それによってデフレからの脱却を確実なものにする。大企業の経営者は「ノブレス・オブリージュ」として率先して賃上げに動くべきではないでしょうか。ただし、ベースアップである必要はなく、賞与を含む年収全体で考えればよいと思います。

小谷 副業についてはどうお考えですか。政府も奨励する方向に転じました。

新浪 実現に向けて自分の業務と競合しないなど越えなければいけないハードルはありますが、労働人口の減少に歯止めが掛からない中、日本全体の生産性を維持・向上させるには、将来的に必要となってくるのではないかと思います。

異なる分野の人たちと社外で接する時間を持つことによって、本業でもクリエーティブな発想が生まれます。個人もそうですが、社会全体においても余裕というか、自動車でいうハンドルの「遊び」を持つことが大事だと思うんですね。

いつもギリギリの状態でいると、大きな荒波が来たときに乗り切れません。そういう「遊び」をつくることもダイバーシティー経営の一環であり、働き方改革にも通じると思います。

小谷 日本は高齢化が急ピッチで進んでいます。シニア層が生き生きと働ける環境づくりも待ったなしです。

新浪 定年後も数十年の人生が待っているわけで、社員のセカンドキャリアをどう支援していくか、企業は早いうちから選択肢を用意すべきでしょう。50歳からでは遅すぎます。早くから第2の人生を考え始めれば、個人もスキルを磨いたり、交友を広げたりして、日々の生活や仕事への意欲が増す効果も期待できます。

小谷氏フォト

何かをやることよりやらないリスクが大きい

小谷 日本が競争力を維持し、さらに高めていくには、人材育成が最も重要な課題と言えます。経営者として、どんなことを心がけていらっしゃいますか。

新浪 経営とは最終的には人づくりだと思います。人を育て、人をして、新たな価値をつくらしめる。この「人をして」というところが大事です。経営者の中には、自ら独創性を発揮して新たな製品やサービスを生み出す人がいます。私もローソン時代、おにぎりの新商品などをヒットさせました。それはそれで快感なのですが、今はやはり、ヒット商品をつくる人をどう育てるか、また、それを是とする組織をどうつくるか、それができてこそ、プロの経営者だと思っています。

小谷 実戦のなかで人を育てるのも大事ですが、留学などで知見を深める必要もありますよね。ただ最近、企業がこうした人材投資に後ろ向きになっているのではないかと懸念しています。

新浪 大事なポイントですね。ご指摘の通り、日本企業が人材育成にかける費用の比率はバブル崩壊以降、右肩下がりの傾向が続いています。経費を減らすとき、人件費にはなかなか手を付けられませんから、調整しやすい教育費に安易に手を付けてしまうのです。企業の使命は何かといえば、自らの事業を通じて社会に貢献することであり、そのために実現していく人を育てることです。MBA取得や留学にこだわらず、各企業が自社に合った制度をいま一度考える時ではないでしょうか。

小谷氏フォト

小谷 企業がグローバル展開を進めるうえで、ダイバーシティーへの対応も必要ですね。

新浪 異なるもの同士がぶつかり合って新しい価値を生み出していく。これがダイバーシティーの本質だと思います。海外の人たちの考え方を吸収するとともに、海外の人たちに我々の考え方を取り入れてもらう。そのために、私たちの会社ではグループ全体の人材育成プログラムとして2015年に「サントリー大学」を開校しました。買収した海外の企業にも、「やってみなはれ」や「利益三分主義」といった創業の精神を伝え、価値観を共有してもらうためです。

小谷 ゼネラル・エレクトリック(GE)にも同様の制度がありますね。海外拠点の人たちにはどのように受け入れられていますか。

新浪 「やってみなはれ」はすぐわかるようですね。そのまま「Yatte Minahare」という(笑)。起業家精神、ベンチャースピリットとほぼ同義ですから。ただ、我々は日本企業として長期的な視点で取り組むことを強調しています。やってみなはれ、やるならやり抜け、と。また、酒類・飲料事業に欠かせない原料である水を守り、水を育む環境を次世代に引き継いでいく「水と生きる」という企業理念。これは、短期利益を志向する米国人にはなかなか理解されづらいのですが、地道に伝え続けています。

小谷 少し視野を広げて、国全体の人づくりに関してはどうお考えですか。最近、大企業を辞めてベンチャーを立ち上げたり、大学時代から起業したりする若い方々が増えてきて、日本が生まれ変わりつつあるなと実感しています。

新浪氏フォト

新浪 私もすごいなと思っています。米国とはまだ差がありますが、日本の10年前に比べれば急速に増えていますよね。もう一つ、私が注目しているのは理科系に進む人が増えていることです。資源のない日本は、やはり技術立国を目指すべきです。望ましいのは、理科系の人がMBAを取って経営や経済の仕組みを勉強し、天才的な技術者を支えていくようなチームではないでしょうか。アップル創業者のスティーブ・ジョブズも、一人では経営できなかったわけですから。

小谷 新浪さん自身は経済学部出身ですよね。少し文系に厳しいように思いますが。

新浪 私はあまり勉強しなかったので偉そうなことは言えませんが、大学で学ぶ経済学は本当に役に立つのかなという思いはあります。高校を卒業したばかりで、大学でマクロ経済を勉強してもピンと来ないと思うんですよ。むしろ、大学4年間はリベラルアーツとして、文学や歴史といった教養を身に付ける。そして一度社会に出て、必要なら大学院でMBA、メディカルスクールや法科大学院に進むなどする。それが難しければ、せめて大学入学の時は学部の縛りを全くなくして2年間は教養を学び、3年生から専攻する学部を決めてはどうでしょう。入試の段階で自分の可能性を絞ってしまうのはもったいない。

小谷 では最後に、これからの日本を支えていく若い世代にメッセージをお願いします。

新浪 何かをやるよりも、やらないリスクの方が大きい時代です。活躍の場は世界であり、可能性は無限に広がっています。とにかく「やってみなはれ」ですね。その意欲をエンカレッジするのが私たちの世代の役目だと思います。

小谷 米国で最も影響力のある司会者の一人であるオプラ・ウィンフリーは次のように言っています。「Understand the next right move」。大きな夢を追い求めるなら、次に何をすべきかを理解しなさい、という意味です。夢を夢で終わらせないよう、着実にステップを踏んで大きく飛躍してほしいですね。


新浪剛史氏フォト

新浪剛史(にいなみ・たけし)

経済同友会 幹事(役職はインタビュー当時)

プロフィル

1959年神奈川県生まれ。1981年三菱商事入社。1991年ハーバード大学経営大学院修了(MBA取得)。95年ソデックスコーポレーション(現LEOC)代表取締役。2002年5月ローソン取締役社長。2014年10月からサントリーホールディングス取締役社長。2014年9月から経済財政諮問会議の民間議員を務める。
2005年経済同友会入会、2006~09年度および16年度から幹事、2010~15年度副代表幹事。2009~10年度米州委員会委員長、2011~14年度農業改革委員会委員長を務め、2013年9月には「日本農業の再生に向けた8つの提言」を取りまとめた。現在は、東京オリンピック・パラリンピック2020委員会委員長。

小谷真生子氏フォト

小谷真生子(こたに・まおこ)

報道アンカー(役職はインタビュー当時)

プロフィル

大阪府生まれ。1986年日本航空入社。90年に退社後、NHK総合「モーニングワイド」「おはよう日本」、NHK-BS「ワールド・リポート」などのメインキャスターを務める。94年10月にテレビ朝日「ニュースステーション」に参加。98年4月からテレビ東京系「ワールドビジネスサテライト(WBS)」メインキャスター。2014年4月からBSジャパン「日経プラス10」メインキャスター。
2013年~世界経済フォーラム(World Economic Forum)IMC(International Media Council)のメンバー。2015年経済協力開発機構(OECD)年次総会にモデレーターとして登壇。

  • この企画は、日経電子版特設サイト(広告特集)記事の再掲です。

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