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スペシャルレポート第1回
<インタビュー>小林喜光代表幹事
「世界に貢献する 持続可能な国づくりを目指そう」

経済同友会は2016年、創立70周年を迎えました。終戦の翌年、1946年4月に新進気鋭の企業家83人が結集して経済同友会を設立、日本経済の発展と企業経営の改革に大きな役割を果たしてきました。小林喜光代表幹事は「世界は今、大きな変革期を迎えている」と強調します。

グローバル化、デジタル化、そしてソーシャル化――。世界的な変革のうねりが進行するなか、日本も経済・産業・社会のあり方を大きく変えていかなければなりません。これから日本はどう変わり、どのような対処法が必要なのか。2045年を目標とした今後30年間で、「Japan2.0」と呼ぶ目指すべき社会像を提唱する小林さんに聞きました。

グローバル化への対応は、異文化体験を通した教育が大事

2045年には少子・高齢化により、日本の人口は大幅に減少すると予想されています。どのような対策が必要となりますか。

国家百年の計

小林 確かに推計では2045年には1億200万人と1億人割れ寸前にまで減少します。人口減少は経済にはマイナスです。技術的な対処法としては、介護ロボットとか、人工知能(AI)をうまく活用して、どこまで生産性を上げられるかがポイントになるでしょう。人材面では、女性や高齢者が活躍する場をつくるのは当然ですが、高度専門技術を持つ外国人材の定住や永住を促進する必要があります。そうしないと日本はグローバル社会では生き残れないでしょう。

今後、グローバル化は一段と進みます。有能な外国人材に日本へ来てもらうための方策はありますか。

小林喜光代表幹事

小林 まずは報酬でしょう。賃金体系や雇用の形態を見直して、高度技術を持つ外国人材を取り込むのは当然の試みです。シンガポールなどではうまく機能しています。しかし、外国人に来てもらうだけではダメです。日本人もどんどん海外へ出て学ばないといけません。私は学生時代にイスラエルのヘブライ大学に留学しましたが、ユダヤ人は海外と行き来しながら、革新的な技術を次々と生み出しています。大事なのは異文化体験を通して学ぶことですが、今の日本の若者は「日本の方が外国より居心地がいい」と、積極的に海外へ出て行きません。今も欧米やアジアの有能な人材は貪欲に海外を体験して学んでいます。

日本はグローバルリーダーとなる人材の育成が遅れているとの指摘があります。

小林 全くその通りです。欧米ではディベート(討論)が大事ですが、日本の教育機関では、記憶力を鍛えることが重視されてきました。しかし、スマートフォン(スマホ)でいつでもどこでも情報を収集できる時代に記憶力なんて意味がありません。ディベートと判断力がリーダーの要件となりますが、日本の教育はついていけていません。

それに日本人はモノに固執しすぎています。今後は、交流サイト(SNS)などのバーチャルな空間と、リアルなモノとの融合がキーとなります。部品や素材などのモノをソーシャルの世界とどう結びつけるか、うまいビジネスのストーリーをつくっていけるのかが商機を分ける時代になります。日本の自動車業界は内燃機関などものづくりでは世界的な競争力を持っていますが、自動運転とか、ライドシェア(相乗り)の時代になるとガラッと競争環境が変わります。医薬品の世界でも、ただ薬をつくるだけではなく、予防医学のためのビッグデータなど、IT(情報技術)を駆使すれば新たなビジネスモデルが誕生します。インターネット分野のプラットフォームは米国勢に抑えられ、「総取り」されたかのような状況ですが、日本企業にはネットとモノを融合した新たなビジネスを生む素地があります。

「情報技術」「医療技術」「環境技術」にヒト・モノ・カネを投入

毎年のように日本人がノーベル賞を受賞するようになりました。ただ、世界的なイノベーションを生み出せている日本企業は多くはありません。

小林喜光代表幹事

小林 ノーベル賞といっても、実際は20~30年も前の研究成果です。実は(今年のノーベル生理学・医学賞受賞者の)大隅良典先生は私が在籍していた東京大学教養学部基礎科学科の2年先輩です。今は博士課程に進む学生も少なくなっていると聞きます。30年後に今のようにノーベル賞を受けられるでしょうか。一方で、グローバルに通じる起業家もあまり育っていません。日本には「ユニコーン」と呼ばれる企業価値が10億ドル(約1000億円)超の未上場企業がせいぜい1社か2社しかないといわれています。米国にはライドシェア大手のウーバーテクノロジーズなど、巨大なユニコーン企業が何社もあるし、中国にもたくさん存在します。

日本の企業には優れた個々の部材をつくる会社は少なくありません。しかし、個々の技術を取り込み、それを売れる商品としてまとめる、組み上げる力に乏しいのです。(米アップル創業者の)スティーブ・ジョブズのような人があまり存在しないのです。「コンセプト・クリエーター」とか「イノベーション・エンジニアリング・スペシャリスト」といわれるような、事業全体をうまくまとめ、構築する力のあるリーダーが必要です。

日本の企業はこのような人材を育ててきませんでした。大学などの教育機関や企業が協力して、若く有能な人材を育成する場を提供していく、そんなお手伝いは経済同友会でもできるかもしれません。地方にもベンチャー企業を経営する若手の人材は育っています。彼らと大企業や教育機関の「融合の場」をつくれば、日本経済の新たな活力源となるかもしれません。ただ資源は限られています。イノベーション立国として成功するために、ヒト・モノ・カネを3つの先端技術分野に投入すべきです。第1は、快適な暮らしを追求するための「情報技術」、第2は、健康・長寿を追求するための「医療技術」、そして第3は、二酸化炭素(CO2)の排出を抑え、持続可能な地球を追求するための「環境技術」です。

「競争」と「助け合い」の最適化を図る

リーダーの人材育成も急務ですが、格差社会により満足に教育を受けられない子どもも増加傾向にあります。

小林喜光代表幹事

小林 日本でも貧困・格差の問題は深刻になっています。義務教育の段階でも、小・中学生の7人に1人以上が就学援助を受けています。これは奨学金制度以前の問題であり、まずは子どもの教育機会格差を解消しなくてはいけません。その上で、高校・大学での教育機会を提供するための奨学金制度を拡充する必要があります。

ただ既存の政治に対する国民の怒りや反発を背景に、ドナルド・トランプ氏を次期大統領に選んだ米国や、英国の欧州連合(EU)離脱問題に揺れる欧州と比べると、日本の格差問題はまだそれほど大きくはありません。新入社員と社長の報酬格差は多くの場合10~20倍程度です。しかし欧米では、自由競争に勝ち残ったわずか数%の人に富が集中し、民主主義の国がグローバル化するなかで民族主義が台頭するという矛盾した現象が起きています。一方、日本は「和をもって貴しとなす」という国です。助け合いの文化もあります。そんなに格差は広がらないが、しかし、ある程度の格差がなければ、競争も起きません。そこをどう最適化していくかが大きな課題です。

今後30年の日本経済を考えたとき、エネルギー政策は非常に重要な課題です。

小林 エネルギー政策を考えるとき、原子力をどう扱うかが、最も難しい問題です。ただ単純に今すぐに原子力をやめるというのは現実的な選択肢とは思えません。今はまだ石油価格が安いですが、今後は上昇していくでしょう。石炭をたくさん使うと、CO2の排出量は増え、地球環境問題に影響を及ぼします。太陽光など再生可能エネルギーでは供給が不安定だし、カバーしきれません。日本の電気代は韓国のおよそ2倍、米国よりもはるかに高いのです。どんな成長戦略をうたっても、こんなにエネルギーコストの高い国に製造業は投資しないでしょう。もっと現実を直視した議論が必要になると思います。

国内総生産(GDP)世界3位の日本も裏返せば、借金大国です。政府は消費増税を見送りました。財政再建はこの数十年来の課題ですが、30年後はますます深刻化します。

小林 政府は2020年度の基礎的財政収支(プライマリー・バランス=PB)の黒字化を目標に掲げており、これは国際公約です。しかし、内閣府の経済再生ケースの試算結果では20年度のPBは5.5兆円の赤字のままです。こうした状況を踏まえると、聖域を設けずに「出づるを制す」改革を断行することが不可避です。財政健全化を達成するためには、国際社会と市場関係者の信認を維持し続けなければならず、その意味でも20年度のPB黒字化は必達事項です。さらに財政の規律付けを法律で定めることで、健全化への意志を内外に表明するとともに着実に推進していく以外に得策はありません。

経済同友会では「Japan 2.0」と呼ぶ新たなビジョンを提唱しています。

小林 Japan 2.0という呼び方については色々と議論しました。日本は戦後、米欧追随型のやり方で経済成長してきました。しかし、あらゆるものがインターネットとつながる「IoT」やAIが勃興するなか、日本企業も明らかにステージを変えないといけません。海外の経営者からも、日本はまだ「追いつけ追い越せ」から脱却できていないとみられています。追随型ではなく、新たな価値を自ら生み出していかないとダメです。歴史的な転換期ということでJapan 2.0と呼ぶことにしました。その1つがモノとネットを融合した、ビジネスモデルの創造なわけです。

国家百年の計で考えるJapan 2.0を実現していくためには、国家の価値を解析・評価するための明確な3つの基軸を設定し、常にその最大化に努めなければならないのです。3つの軸とは「経済の豊かさの実現」「イノベーションによる未来の開拓」「社会の持続可能性の確保」です。今後30年はイデオロギーを超えて最適化社会を追究していく必要があります。日本の場合は、それほどの格差はないが、一定程度の競争を促し、「サステナブル(持続可能)な社会」をつくり上げること。単純にGDPの成長を追うのではなく、世界のなかで存在感のある国づくりを目指すことが大事になります。経済同友会では、若い人たちも交えながら、そういう議論の場をつくっていきたいと考えています。


小林喜光代表幹事

小林喜光(こばやし・よしみつ)

経済同友会 代表幹事(役職はインタビュー当時)

プロフィル

1946年山梨県生まれ。71年東京大学大学院理学系研究科相関理化学専攻修了。72年ヘブライ大学、73年ピサ大学留学。74年三菱化成工業(現・三菱化学)入社、2007年三菱ケミカルホールディングス取締役社長、三菱化学取締役社長、09年地球快適化インスティテュート取締役社長、12年三菱化学取締役会長、15年三菱ケミカルホールディングス取締役会長、地球快適化インスティテュート取締役会長に就任、現在に至る。理学博士。
2008年10月経済同友会入会、2010年度幹事、2011~2014年度副代表幹事、2015年度より代表幹事。2010年度雇用・労働市場委員会委員長、2011~2012年度経営改革委員会委員長、2013~2014年度より改革推進プラットフォーム委員長代理、2015年度より改革推進プラットフォーム委員長。2013年4月には、経営改革委員会委員長として「第17回企業白書~持続可能な経営の実現~」を取りまとめた。

  • この企画は、日経電子版特設サイト(広告特集)記事の再掲です。

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