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「国家価値」の最大化に向けて
【2018年度通常総会・代表幹事所見】

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公益社団法人 経済同友会
代表幹事 小林 喜光

代表幹事所見

プレゼンテーション資料

参考資料「長期財政試算の概要」

はじめに

皆様、本日はご多用のところ、ご出席を賜り誠にありがとうございます。2018年度通常総会における代表幹事所見を述べさせていただきます。

経済同友会は、一昨年、『Japan 2.0 最適化社会に向けて』をまとめるとともに、『経済同友会 2.0 - 自ら考え、自分の言葉で発信できる「異彩」集団 -』において、本会自身の新たな姿を示しました。昨年度は、これらを踏まえ、社会変革への志と強いリーダーシップを持った経営者を惹きつけ、本会を「同じ志を持つ異彩な個の集合体」として磨き上げていくための組織改革に着手し、『「経済同友会 2.0」実現への組織運営改革』を発表したところです。

2018年度は、「Japan 2.0」の深化と具体化を図るべく、2045年の「最適化社会」の姿をわかりやすく描写するとともに、そうした社会の実現に向けて国家や企業が今から取り組むべきことを議論・検討し、これから半年程度で『Japan2.0 経営者宣言』をまとめていきたいと考えています。

I.バーチャルとリアル - それぞれの世界における課題 -

1.デジタル専制主義への対応

AI等の急速な進展・普及によって「データイズム(Dataism)」すなわちデータの所有が力の源泉になり、データを所有する一部のエリートがAIとともに社会を支配する「デジタル専制主義(Digital Dictatorship)」の時代があと20~30年余りで到来すると予言する人もいます。これはあくまで一つの見方ですが、情報を独占する者とそうでない者との経済的格差が拡大傾向にあるのは事実です。

こうした中、中国は個人情報や重要データの越境移転を規制するサイバーセキュリティ法を昨年6月に施行し、EUは個人情報保護を強化する一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)を来月施行します。

日本では、個人情報保護に関し、GDPRに基づく十分性認定を受けるためのガイドラインの策定に向けた手続きは進んでいますが、情報の格差に起因する経済的格差の拡大にどう対応していくのか、協調、正義、倫理といった社会規範をベースとした民主主義社会をどのように守っていくのかについて、未だに本格的な議論が始まっていません。

G20では、経済のデジタル化を踏まえた税制のあり方に関する議論が活発に行われています。来年議長国を務める日本がこうした議論をリードするためにも、政府には、データイズムが民主主義や税制、競争政策、知的財産権等に与える影響と対応について、その光と影を早急に検討していただきたいと思います。同時にわれわれ経営者は、こうした最先端の事象や議論に関する感度を高め、企業変革や新事業創造をリードしていかなければなりません。

2.自国優先主義との対峙

次に、足元の世界情勢を見ますと、先進国を中心に、自国優先主義・保護主義的な動きが続いています。EU諸国では反移民を掲げる政党が勢いを増しているほか、米国による中国の知的財産侵害に対する制裁関税や鉄鋼・アルミニウムへの輸入関税賦課を契機に、米国および中国を中心とした貿易制限競争が始まり、今のところ好調を維持している世界の経済成長が停滞することも懸念されています。

バリューチェーンのグローバル化が進展する中、多角的な貿易・投資の自由化は、企業の稼ぐ力を支えるインフラとしてますます重要になっています。自由貿易から利益を得てきた日本は、TPP11および日EU EPAの早期発効とRCEP交渉の早期妥結に向け引き続き努力するとともに、G20をはじめとするマルチの協議の場や、日米首脳会談で合意された貿易・投資に関する新たな協議の枠組みを活用し、ファクトを基に保護主義の負の効果を伝えることで、関係国に理性的な対応を求めていく必要があります。

また、わが国を取り巻く安全保障環境も予断を許しません。本日の板門店での南北首脳会談では、かなり前向きな対話が期待され、5~6月に予定されている米朝首脳会談など、北朝鮮情勢については明るさもみられますが、シリア情勢と米露関係、米国によるエルサレムの首都認定が中東地域にもたらす影響など、日本は依然として大きな地政学リスクにさらされており、注視を続けなければなりません。

II.Japan 2.0 - 「国家価値」の最大化に向けた3つのガバナンス改革 -

デジタル専制主義により民主主義が脅かされ、主要国の自国優先主義的な行動により国際秩序が揺らぐ中、日本は思考停止に陥ることなく、解を導き出さなくてはなりません。AIの進展・普及が、日本を一握りのエリートとセーフティネットで生活する大多数の国民からなる格差社会にすることのないよう、国家価値を支える新たな中間層を育むために、政府や企業は今何をしなければならないのでしょうか。2021年から始まる「Japan 2.0」まで残り3年、皆様とともに最適解を見出していきたいと考えます。

そのためのアプローチが、2016年度の代表幹事所見で述べた「経済の豊かさの実現」、「イノベーションによる未来の開拓」、「社会の持続可能性の確保」という3つの軸で国家価値を考え、「Japan 2.0 最適化社会」を描く取り組みです。

グローバル化、デジタル化、ソーシャル化のうねりの中、日本の強みを活かして国家価値を最大化するためには、これまで以上に「ガバナンス」が重要になります。国家間競争が激化する中、国会における議論は停滞し、データイズムへの対応といった未来に向けた課題のみならず、財政健全化のように20年以上前から顕在化している課題についても解を見出せずにいる現状を見るにつけ、日本という国家のガバナンスに対し強い危機感を覚えます。

以下では、XYZの3軸と、それぞれを主として担う企業、大学、国家のガバナンスを中心に、私の問題意識を述べてまいります。

1.経済的豊かさの実現(X軸) - コーポレートガバナンスの強化 -

国家価値を最大化するためには、第一に「経済的な豊かさ」、GDPの持続的な成長を実現することが必要であり、企業の果たすべき役割は大きいと考えます。プラットフォーマー等がデータの提供と引き換えに、さまざまなサービスを無料で提供するようになり、付加価値と効用の測定方法には大きな課題が残されていますが、企業は社会のニーズの変化を敏感に捉え、例示的に表現すれば、重さのある経済と重さのない経済の総和の最大化に務めなくてはなりません。

コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コードの導入等により、企業のガバナンスは大きく変わってまいりました。東証一部上場企業では、2名以上の独立社外取締役選任企業が88%に達し、ROEの平均値も2017年度実績で10%を超えるとみられています。われわれ経営者は引き続き、社会と産業構造の変化に迅速に対応し、資本効率を維持・向上させることが必要です。

同時に、データ改ざん等の企業不祥事が相次いでいるという現実も直視しなくてはなりません。リスクマネジメントの強化やコンプライアンスは、果敢なリスクテイクと並ぶ経営上の最重要課題です。トップマネジメントが覚悟を持って、現場の不正や法令違反といった悪い情報こそ早く上がってくるような内部統制の仕組みを構築しなければならないと考えます。

2.イノベーションによる未来の開拓(Y軸) ― 大学のガバナンス強化 -

国家価値の二つ目の軸が、「イノベーションによる未来の開拓」です。デジタルエコノミーが経済成長をけん引する構図が続いていますが、その中心は、WEB上のバーチャルなデータが価値を生む段階から、医療・介護、農業、安全・安心などリアルなデータを蓄積・解析してイノベーションを起こし、高付加価値化・効率化によって社会的課題を解決する段階に移行しつつあります。リアルとバーチャルの融合を要するこの段階は、日本企業が勝ち得るチャンスであり、知の融合をもたらす場としての大学改革が急務です。こうしたイノベーション・エコシステムを中心として、その核となる大学のあり方を研究するため、昨年のパリ、ロンドンに続き、10月には、シリコンバレーを中心とした米国西海岸に代表幹事ミッションを派遣する予定です。

政府は、2013年の成長戦略の中で「今後10年間で世界大学ランキングトップ100に10校以上を入れる」という成果目標を掲げました。しかし、折り返し地点を迎えた現在、トップ100入りしている大学は2校のままであり、101位~150位にランクしていた3校は、すべて201位以下へと順位を下げています。

グローバルな大学間競争が激化する中、AIや自動走行、材料開発、光・量子技術といった領域で産学官連携を進め、研究大学がイノベーション力や人材育成力、資金調達力を強化するためには、統合的・有機的な戦略とガバナンス改革が必要です。国立大学協会等において検討が始められている「大学ガバナンスコード」が、意欲ある大学の取り組みを後押しすることを期待するとともに、経営者のコーポレートガバナンスやマネジメントに関する経験や知見を積極的に提供していきたいと思います。

また、18歳人口が減少する中、リカレント教育を含め、どの地域にどのような分野・規模の高等教育機関が求められているのか、政府は高等教育のグランドデザインを描くべきであると考えます。2020年度から低所得世帯を対象に導入されるいわゆる「高等教育の無償化」は、意欲ある学生の教育機会を保障するための制度であり、経営と教育の質の両面で持続性に疑義のある大学を温存し、高等教育全般の質を下げることがあってはなりません。

同時に、さらに若い世代、AIや量子コンピューティング技術が普及する21世紀半ばに求められる人材を育成するための、統計学等を含む初等・中等教育のあり方についても検討を急ぐ必要があります。

3.社会の持続可能性の確保(Z軸) - 国家のガバナンス強化 -

国家価値の三つ目の軸が「社会の持続可能性」で、SDGsの考え方とも軌を一にするものです。Z軸における最大の課題が財政と社会保障であることは論を俟ちません。

本会では、1990年代後半より財政健全化に向けた検討を行い、長期財政試算を踏まえた税・社会保障改革のあり方等を繰り返し提言してまいりました。

政府は2001年以来、「プライマリーバランスの黒字化」という財政健全化目標を掲げていますが、前提とする成長率が高すぎること等により、目標年次の先送りが続いています。本来、財政健全化の基本は「出ずるを制する」であり、社会保障制度の抜本改革が不可欠です。しかし、社会保障改革による歳出抑制規模は、現在検討されている施策の効果が完全に発現した場合でも、2023年度時点で概ね5兆円程度です。2018年度のプライマリーバランスが16兆円程度の赤字であることを考慮すれば、医療・介護の高付加価値化と効率化を進めるためのデータヘルス等を強力に推進するとともに、歳入改革、特に消費税率の引き上げは不可避です。

今般、2021年からの「Japan 2.0」スタートを見据えて準備すべきことを整理するにあたり、1月に内閣府が公表した『中長期の経済財政に関する試算』を基に、2045年度までの長期財政試算を行いました。仮にベースラインケース並みの成長が続いた場合、2021年度以降、毎年1%ずつ消費税率を引き上げると、14%に達する2024年度にプライマリーバランスが黒字化し、その後、2045年度まで再び赤字に転じないようにするためには、少なくとも17%まで引き上げなくてはなりません。また、生産性の伸びが0.3%程度にとどまるケースでは、22%までの引き上げを要することがわかりました。

6月の骨太の方針において、新たな財政健全化目標とそれらの達成に向けた工程表が示される見通しです。政府には、ポスト10%の消費税率引き上げについて早期に検討を開始するとともに、団塊の世代が後期高齢者になり始める2022年度までに、データヘルスの推進を含む社会保障制度改革に明確な道筋をつけることを求めたいと思います。

その際、自己負担、保険料、税からなる負担構造の抜本的見直しも必要です。政府が不都合な真実から目を背け、社会の持続性を大きく左右する財政健全化の取り組みをこれ以上先送りすることのないよう、諸外国に倣い、財政の状況を客観的にチェックし政府を監視する第三者機関を設置すべきであると考えます。そして本会も政府の取り組みを注視し意見を表明することで、チェック機能の一翼を担ってまいります。

また、社会保障費が増大し、政治が負担の再配分を求められる中にあっては、政治・行政に対する国民からの信頼がこれまで以上に大切になります。「Japan 2.0」の具体化を図る過程では、90年代の政治・行政改革の効果と弊害を再検証し、政府のガバナンスをチェックする第三者機関の設置を含めた国と地方の行政のあり方についても検討していきたいと思います。

政府が掲げた成長戦略の成果目標にも大きな遅れがみられていますが、マイナンバーの現状に象徴されるデジタル化の遅れ、デジタルリテラシーの低さは日本の弱みです。国家価値を最大化するためには、政府の競争力強化が不可欠であり、フィンテックを中心に活用が進んでいるブロックチェーンを応用し、国・地方を通じた行政機関における組織・人事のあり方の見直し、および行政手続きの効率化を推進することが必要です。

政府は畢竟国民の選択能力の総和の結果であります。政府の課題は国民一人ひとりの課題でもあります。民主主義がデジタル専制主義やフェイクニュース等の脅威にさらされる中、社会を支える市民を育てる主権者教育にも力を入れなくてはなりません。

本会も、改革を先導し行動する政策集団として、「みんなで描くみんなの未来プロジェクト」を通じ、財政健全化や民主主義、デジタルリテラシーに関する理解の醸成に取り組んで行きたいと思います。

おわりに

昭和21年の本会の設立趣意書には、「国民は古き衣を脱ぎ捨て、現在の経済的、道徳的、思想的頽廃、混乱の暴風を乗切って全く新たなる天地を開拓しなければならない」と謳われています。それから72年を経て、グローバル化、デジタル化、ソーシャル化の進展による社会の大きな変革期を迎えている今こそ、経済人として常に先見性と良心に基づいた正論を世に問い、パブリック・マインドを強く意識した経営者集団として行動することが必要です。

デジタル社会という新たな時代への対応という意味において、われわれはゼロから再出発することになります。「Japan2.0」の集大成に向け、今日的な危機を前に、今一度先人たちの志に思いを馳せ、わが国の再興に向けて「今こそ同志相引いて互に鞭ち脳漿をしぼって我が国経済の再建に総力を傾注」していこうではありませんか。

本会は「政治的立場は無色」であり、政治・政府に対してタイムリーかつ積極的に政策論を打ち出すとともに、「テラス」等の場を活用し、経営者間の議論に閉じこもることなく、幅広く議論を喚起していきたいと考えます。

会員の皆様には、本会の活動への積極的なご参画とご支援をお願いいたしまして、私の挨拶とさせていただきます。

ご清聴、ありがとうございました。

以上


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