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小林喜光経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

日時 2017年5月30日(火) 13:30~
出席者 小林 喜光 代表幹事
横尾 敬介 副代表幹事・専務理事

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記者の質問に答える形で、(1)2020年のPB黒字化目標、(2)財政再建・社会保障改革、(3)消費支出の停滞、(4)日経平均株価、(5)有効求人倍率の高水準、(6)ヤマトホールディングスの値上げ、(7)就活選考解禁、(8)加計学園問題、(9)G7首脳宣言、(10)米国の航空機内へのノートパソコン等持込み禁止措置などについて発言があった。

Q: 来月に政府の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」が取りまとめられる。財政再建が進まない中で、子どもへの教育等、さらに歳出が増える項目も入るだろうとの報道もある。一方で、2020年のプライマリーバランス(PB)黒字化に向けて、その前提となる成長率等に無理なところもあり、本当に実現可能かどうか、方針を修正するべきかという話も出てきている。政府の方針として、どこまで踏み込こんで明示すべきとお考えか。

小林: これ(2020年のPB黒字化)は長い間、議論してきた問題だ。安倍政権の成立以来、あるいは民主党政権の時代、税と社会保障の一体改革の頃から、一種の国際公約として、2020年にPBを黒字化するという目標を(掲げてきた)。(基準改定し研究開発費などを算入した)GDPなど物差しを変えた部分もあるが、一定程度、踏襲してきた。そういった中で、GDP当たりの債務(残高比率)の方がクライテリアとして適当であるという議論もあるとは思うが、今の計算からすれば実質成長率2%以上、名目3.5%以上の前提で計算しても、2018年に(PBは対GDP比で)マイナス1%という目標、つまりマイナス5~6兆円だ。2020年に(PBを)ゼロ(にもっていく)という絵は描けていない。それも、消費増税を2019年10月に実施してもそのくらいの赤字になる。現状、実質成長率は(2017年1-3月期が)年率換算で2.2%増、2016年度は1.3%増であり、名目はまだ今の0%台だ。そういう中では、(試算の)数値さえクリアできない。そうは言っても、目標値としてこのまま置いておく(べきだと考える)。2018年に(前提条件を)見直すことになっているので、簡単に2017年度で変えてしまうのは時期尚早ではないか。将来的に2020年あたりに黒字化というのは、普通に考えれば相当難しいターゲットだが、これは前々から承知していたことで、ここで降ろす必然性は全くない。今後、憲法改正と絡むかは別として、安倍首相がおっしゃっている方向で第9条(の議論も出ているが)、北朝鮮の状況次第では防衛費もかさむだろうし、高等教育の無償化のようなことを実施するならば、コストアップの要因が多い。したがって「出ずるを制する」ことを本気で考える時期に来ているのではと思う。成長戦力をより加速し、社会保障を中心に「出ずるを制する」ことを本気でやっていかないと、絵に描いた餅になるのは明らかである。

Q: 財政再建や社会保障改革などは、政権が安定している時でないとなかなか難しい側面もあると思うが、みている限り(改革への取り組みが)弱いような印象を受ける。政府の取り組みについてどのように考えているか伺いたい。

小林: 昨年11月21日に『Japan 2.0 最適化社会に向けて』として全体を総括した話をしている。そのなかで、明確に我々が謳っているのは、シニア民主主義、シニア世代だけが良い思いをして、若い世代に債務を残していくことを社会として許してはいけないということだ。この基本的なテーゼがあるとすれば、GDPの2倍以上の債務を背負っているなかで、PBは最低でもゼロにしなければならない。GDP当たりの債務(残高比率)が発散しない(程度のペースで)少しずつ債務が減っていくというのでは、ゼロにもっていくには100年以上かかるような絵姿である。PBをゼロにしたところで、(債務の解消まで)30~40年かかるようなレベルであるということを認識すれば(早急に対応する必要がある)。保険、税、国債の3つの組み合わせで、出ずるものに対してどう対応するかを考えると、基本的には全体からくまなく取って、それぞれのセーフティネットも含め、分配を効率よくし上手く行き渡るようにするとなると、税、とりわけ消費税のようなものがフェアだろう。これは当然のことで、経済同友会では消費税率を17%にしてもぎりぎりPBゼロを保てると2015年1月に発表している(経済同友会 財政・税制改革委員会『財政再建は待ったなし~次世代にツケを残すな~』2015年1月21日)。この考え方は基本的に一切変わっていない。2018年、2019年に向けても、こういう主張をしていくというスタンスでいる。

こども保険等いろいろな提案もある。保険料、税金(など方法は様々だが)、とりわけ消費税、もちろん相続税や所得税、法人税など全体を見ながらどうバランスを取るか。基本の心は、次の世代に禍根を残さないようにしていくこと、公正であること、公平であることである。これらに加えて、弱い者に対する配慮、分配をしっかり行なって、格差がいかに社会を不安定化するかということに配慮しつつ取り組む。その最適化だと思っている。

Q: 消費が上がらない原因は、将来不安から貯蓄に回っているからではないか、または、欲しいものが世の中に出回っていないからではないかという指摘がある。消費が上がらない理由をどのように考えるか。

小林: この解析はなかなか難しいが、大衆消費財は、(もはや)小さな家の中に入るところがないくらいある。5~10年すると買い替え需要があるが、それも定常状態になってきている。また、家電や自動車のプライスは下がってきている。先週、家具・インテリア用品の量販店に行ったが、デパートでプラスチック製のランチョンマットを買うと3,000円~5,000円するが、量販店だと300円位で売っていて、(機能面では)ほとんど変わらない。あるいは100円ショップでも、十分満足な商品がいっぱいある。これでは消費の全体的な数値は上がらないということを実感せざるをえない。

これからは、そのような尺度だけで見るのはだめだと思う。もっと言えば、可処分所得をソフトウェアやゲームなど楽しいことに(使い)、モノからコトへの消費に変えて、コトの消費をしっかり把握しないといけない。これまでも言ってきたが、単純にGDP、モノの消費だけで議論する時代は完全に終わったという方向に行くべきだ。ただ、そうは言っても、借金はGDPで返すしかないので、今後も一定程度GDPを増やしながら、されど物差しを変えていかないと、間違った尺度となるのではないか。(経済同友会 経済統計のあり方に関する研究会『豊かさの増進に向けた経済統計改革と企業行動~新たな指標群「GNIプラス」の提案~』2016年9月28日)

一方では、求人倍率が上がり、人(手)はものすごく足りない。もう少し総合的に評価するべきで、ひとつのパラメーターでこの時代の経済を記述することは、恐らく無理だと思う。5~10個の(指標の)ダッシュボードと捉え、全体系はどうなっているのか(を考えるべきである)。社会は付加価値をよりソフトウェア化して、モノからコトへと進む。コトによる人間の満足度や効用はプライスでは評価できない。

簡単に言うと、ポケットに入るスマートフォンが5、6万円から買える。かつての100万円するコンピューターよりも性能が高く、効用は大きい。もっとAIが進むと、人間が同じ効用を得るのに、とんでもない安いお金で満足できる。この(ことを解析した)経済学がないので、変な方向に来ているのではないか。せっかくAIがあり、ビッグデータがある中で、そもそもモノだけではなくコトも(指標に)入れ、あるいは人々のウェルビーイングというか生活の満足度のようなものを入れる。最後は幸せ(の尺度)かもしれない。もっと言えば、人は何のために生きるかということに、必ずAIが進む時代がくると思う。そのような認識も要るのではないか。

Q: 日経平均株価が2万円を超すのではないかと言われ続けていたが、あと一歩のところで超えない。この要因にについてどうお考えか。

小林: (日本の上場企業の多くは)かなり努力して結果も出しているが、なかなか世の中は甘くなく、最近勢いがなくなっている。講釈をつければ、世界経済の先行き不安、北朝鮮問題、中東問題など色々あるだろう。しかし、1万9,000円半ばを行ったり来たりするというのは、かえってバブリーにならず、証券会社からは怒られるかもしれないが、ちょうどいいところではないか。急激に上がったら急激に下がることになる。ゆっくりと実力に相応しながら上下して、トータルで上がっていくぐらいのことで考えていかないといけない。一喜一憂するような状況ではなく、少なくとも悪い方向にはいかない(と考えるべきではないか)。

先ほどの色々な要素があるにせよ、2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでは、政治的問題や北朝鮮問題、中東問題などが火を噴かない限り、ヨーロッパも着実に成長していることもあり、日本の場合は大きな下落がなく、安定的に推移するだろうと思う。

Q: 厚生労働省が30日に発表した4月の有効求人倍率は、バブル期を超えて43年ぶりの高水準となり、人手不足を露骨に象徴する結果となった。政府に求められること、経済界が今後やるべきことについて、どのように考えているか。

小林: 有効求人倍率が1.48倍(と発表された)。これは(雇用環境改善の)方向としては非常にいい。まさに人手不足を数値で表現している(ということだろう)。(その一方で、)消費はいまだにマイナスであり、(十分に)喚起されていない。あるいは、非正規(雇用の割合)が38%くらいまで増えている(のも事実である)。これら2つを掛け合わせて考えないと、人手不足(の問題は解析できない)。給料は若干上がったとはいえ、結果として消費を喚起する方向に向かっていない。このあたりを経営サイドも含めて、しっかり解析する必要がある。モノが飽和して、人々に(将来)不安があるからモノを買わないと今まで一般的に言われてきたが、その延長線上以外に何か違ったファクターがあるということを考えないと、この現象は解きづらい。有効求人倍率が1.48倍にもかかわらず、消費はマイナスで、非正規が増えている。実質賃金はあまり上がっておらず、(直近では)むしろ下がっている。この構図は、決して単純に喜べる状況ではない。解析も必要だし、経営サイドも深刻に考えるべきだと思っている。

Q: ヤマトホールディングスが27年ぶりに配送料の基本運賃の値上げを発表した。消費自体は落ちているが、今後もネットで取り扱われる商品は増加していく状況で、ドライバー不足の懸念もある。27年間も値上げできなかったものがようやく動き出したことについて、マクロの観点から所見を伺いたい。

小林: 日本のマーケットは、(一般的に)サプライヤーが過剰である。サービスに対する対価、付加価値について、今までの感覚では、サービスやソフトウェアに対してお金を払う文化が(日本の)消費者には無かった(といえる)。今後は、非常にきめ細かいサービスやおもてなしの付加価値を認めるマーケットにしようという流れと、過当競争で相対的にプレーヤーが多すぎること(の是正)については、なかなかの難題だが、(今回の値上げは)この2つを具体的に解決しようという流れの象徴といえるのではないか。値上げをしたら需要が下がってしまうのか。値上げをしても、付加価値がしっかりと残され、なおかつ消費者にとっても利便性は変わらないかどうか。これは1年(程度は様子を)みていかないと最終判断は難しい。

Q: 6月1日に就職活動の選考が解禁となる。今年度も売り手市場で、学生にとってはよい環境だと言われているが、企業側としてどういった実感を持っているか。

小林: 製造業と非製造業、サービス業、ソフトウェア(業など、業界)によって、皆(状況が)違う。なかなか一概に言えないが、利益増収ではなく、トータルの売上げが伸びていないにせよ、非常にスリムに、構造改革を個々に行うことによって、あるいは為替が比較的安定して推移してきたことによって、過去最高の収益を上げている企業が相対的に多い。国内の設備投資も、ようやく本格的に増えている。雇用に対しても積極的になっていると一般的には言える。

(1ドル)100円を切ってしまう等の為替の変動(リスクもあるが)、シェールオイルがあるのでエネルギーコストが急に上がるとは思えず、(WTIは)50~55ドルくらいでステイ(するだろう)。ヨーロッパもブレグジットがあるにせよ政治が安定しているし、米国も一定程度トランプ政権が始動すれば、まだまだ東京オリンピック・パラリンピックくらいまでは(よい方向だろう)。(しかし)PBが黒字になるほどの、名目4.0%近く、実質2.5%(の成長率)まで到達することは難しい。なんとなくぬるま湯のような温度で当面はいくのではないか。日本企業が弱いとか、ROEが低いなどのデータ的事実もあるが、そうはいってもこういう状況の中で日本企業が個々にしぶとく頑張っていることは間違いない。

なんでも日本は遅れているとか、プラットフォーマーがいないとか、AIだ、ロボティクスだ、データセントリックな社会に早くしなければならないというのはもちろんであるが、そうはいっても古典的なコストダウンやきめ細かい具体的な構造改革を、経営者は自信をもってやっていけるというエビデンスであるかもしれない。突飛なことをやるのももちろん必要だが、着実にやっていくというのは今この4~5年をみると、政治・経済を含め、(日本は)相対的に他国と比べて安定して、なおかつしっかり稼ぐ力もつきつつある。日本人はもっと自信を持ったらいいという気がする。

Q: 加計学園の問題について、前川喜平 前文部科学事務次官の記録文書の存在に対し、本日の国会審議でも安倍首相は便宜を図ったことはないとおっしゃっている。行政が歪められたという指摘もあり、分かりにくい部分も多々ある中で、この一連の流れをどのようにご覧になっているか。

小林: まだ国会で議論しているところなので、最終的にどのような結末になるか分からない。官邸、内閣府主導で今回の岩盤(規制)を壊すということで、とりわけ文部科学省にしても従来の縦割行政ではなかなかできないことについて、特区や諮問会議をつくり議論し、今までできなかったことを多々推し進めてきた中の出来事のため、一種の(便宜を図ったとの)関係性があると誤解される部分がある。それであれば、誤解がないように説明すればよいのだが、なんとなくそこがきれいに説明されていないところに国民の欲求不満もある(のだろう)。その意味では、国民が納得する形で事実を明らかにし、今までいろいろな特区や会議体をつくり、メディアによるとまだ(成果が)小さいと書かれる場合もあるが、それなりに戦い、壊すものは壊していくことを認めるべきである。

Q: 先日のG7サミットで、首脳宣言の中に「保護主義と闘う」という表現が最終的に入った。トランプ米大統領は過去の宣言について反対していた経緯もあるわけだが、一転して受け入れたことについてどのようにご覧になるか。最近、保護主義貿易への動きがある中で、それも含めてお伺いしたい。

小林: トランプ米大統領の心の内はよく分からないが、米国第一主義(の考え方)で、NATO(北大西洋条約機構)も含み、どう見ても米国の負担が多すぎるという主張は一貫している。やはり冷静に考えると、(2017年3月の)G20では、ムニューシン米財務長官が(昨年の共同声明にあった「あらゆる形態の保護主義に対抗する」という文言に)反対して入れなかったが、G7では基本的には、また違った考え方もあり、二国間であろうが、多国間であろうが、多国間貿易は重要だということで妥協せざるを得なかった(のではないか)。あとは(米国以外の)G6の首脳がそれなりによい議論をしたと思う。それよりも、今週中に決めるというCOP21のパリ協定に対して(トランプ米大統領は)あいかわらず(決断を)保留している(のが懸念される)。地球、人類にとって環境問題は間違いなく(重要で)、次世代まで、いかに永続的な、持続可能な社会をつくるかという点で、政治家であろうが企業経営者であろうが、一番の責務だと思う。持続可能(性)の象徴的なこととして、財政の健全化と、いわゆる化石燃料を燃やし続ける文化を止めなければ、とんでもない地球になってしまう。これは(持続可能性の)2大テーマだと考えている。そのテーマに対し、まだ石炭をどんどん燃やすのはやはり納得できない。大統領の(予算)教書では環境関連の予算を約30%減らすことやサイエンスへの投資を10~20%減らすなど(が示された)。あの点(パリ協定の離脱)については安倍首相を含め、いろいろ説得されているのだろうが、やはり昔に戻るようなエネルギー政策だけはやめていただきたいと思う。

Q: 米国の国土安全保障省は、携帯電話より大きいパソコンの機内持ち込みを、米国発着の全ての国際線で制限する可能性があると発表した。日本の生産性のマイナスになるのではと懸念する声もあるが、代表幹事の見解を伺いたい。

小林: 今の文脈の中で、そのような方向に行かざるを得ない。要するに、トン(t)の経済から、だんだん薬のマイクログラム(µg)や、サービスのようにウェイトがゼロの時代が来ている。かつては大きいコンピューターだったが、それがワープロになり、PCになり、タブレットになり、今やポケットに入るスマートフォンになっている。私の執務室にはいいパソコンが置いてあるが、(仕事は)全てスマートフォンでできるのでほとんどPCを使ったことがない。そのような時代になったということだ。

Q: 日本の企業人が飛行機移動中に機内で仕事ができなくなる。

小林: (スマートフォンは規制されないので)それはスマートフォンでやればいいのでは。資料などの作成は、これ(スマートフォン)の後で(PCへ)トランスファーすればよいと思う。要するに、大きなものから小さなものへ、重いものから軽いものへ、モノからコトへ、この流れをつかまえるのが、今後の経済人の一番のポイントだ。重いものなどは、中国やインドに完敗している。

以上

(文責: 経済同友会 事務局)


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