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第13回企業白書

第13回企業白書(提言部) 資本効率重視経営 – 日本企業再活性化のための提案 –

(1998年4月21日)

目次

はじめに

経済同友会・企業経営委員会は、1997年年頭に経済同友会が出した『市場主義宣言 —— 21世紀へのアクション・プログラム』を活動の原点として、委員会をスタートした。

そして『市場主義宣言』の掲げる課題 —— グローバル化とメガコンペティションが進む中、民間主導の市場主義経済を実現すべく、公正な競争と企業経営の透明度を高めることの必要性 —— を長期的な企業経営改革の前提とし、日本企業、ひいては日本経済の21世紀における再活性化をいかに成し遂げるか、ということを念頭に、2年間の検討を行った。

この検討を通じて得た結論、それは日本経済に活力を取り戻すためには『市場主義宣言』の精神を更に前進させることが必要であり、日本企業とその経営者は、経営を取り巻く現下の問題と企業の将来にわたってのあるべき姿を混同することなく、長期的な視野に立って市場主義に基づいた企業の構造改革を推し進めていかなければならない、というものであった。

市場主義は世界共通のルール

昨年夏にタイに端を発したアジア諸国の通貨危機は、インドネシア、更には先進国(OECD)入りを果たしていた韓国をも巻き込み、相次いでIMFの緊急支援を受けざるを得ない状況となった。

我国でも金融ビッグ・バンの本格化を前に幾つかの大手企業が破綻し、不倒神話さえあった都市銀行や四大証券会社の中にも経営が成り立たない企業が、市場から退場を余儀なくされた。

グローバル市場の信頼を失った企業は、一国政府がいかにこれを支えようとしても最早支え切れないことが明らかとなり、官主導の護送船団方式は終焉を迎えた。そして韓国やタイ、インドネシアのような同族支配によるアジア的経済体質を持った国々もIMFや世界銀行の強力な援助と監視・指導の下、加速度的に市場主義経済へと変貌を遂げようとしている。日本以上に労使一体型の経営を行っていると思われていたドイツ企業も、今では市場主義経済の積極的移入に努めている。日本だけが出遅れる訳にはいかない。日本経済と企業は日本的経営と持て囃された過去の成功体験に捕われず、市場主義経済へ思い切って舵を取る必要があると思われる。今こそ自分達に十分ではなかったものを取り入れる絶好のチャンスであると認識すべきである。

市場主義経済とは何か、そしてグローバル市場で生き残るためにはどうすればよいか。それは各企業が「資本効率重視経営」を行うことであろう。いかにしてそれを実現するかは各企業が、自社の歴史、風土、業態、規模等を勘案しつつ決定すべき問題であるが、そのベースは資本効率を重視することによって利益をあげ、利益をあげることによって企業の価値と人々の企業への投資インセンティブを高め、有利な資金調達で積極的に事業を展開して成長していく、というものであろう。最早市場と直結したサイクルを維持し、強化出来る企業しか生き残れない。歴史が今、それを証明し始めている。

今回のアジア経済の混乱とIMF・世銀や日米両国政府のそれへの対応からもわかるように、日本は決してアジアのリーダーと言えるような役割は果たしていなかった。しかし日本経済の規模をGDPで測れば、NIESやアセアン諸国の合計の約3倍にも達している。このような日本経済の規模・影響力から考えて、日本はアジア諸国の兄貴分として、この地域の成長や発展に積極的な役割を果たしていかなければならない。

その役割の中心にあるのが、民主導経済の主体である我々企業と企業経営者である。我々が今、この機会を捉えて日本経済や市場をもっとオープンなものとしつつ、アジアの成長と発展に力を尽くすことで、アジア諸国からの日本への信頼を確固たるものにすることが出来る。

市場主義経済への転換の必然性は企業内部の変化、即ち、株主構成の変化によるものも大きい。バブルの崩壊以降、一部企業はより効率の高い投資を求めて「持ち合い」を解消し始めた。一方、毎年のように外国人株主の持ち株比率は上昇しており、1997年3月期には10%に迫る勢いとなった。彼等の日本企業株式の売買数も増加の一途を辿っており、同期には4年前の約70%増に達した。

今後、外国人持ち株比率はどう変化して行くのであろうか。一時期に比べた株式の割安感からその比率は増大して行くのか、それとも日本企業の不透明感に嫌気がさして日本の株式市場から去って行ってしまうのか。いずれにせよそれが大きな影響力を持ち始めている。外国人株主の多くは投資会社・年金基金を中心とする機関投資家であり、彼等があげる運用益を生活の糧とする個人年金生活者等のお金を預かっている。だから機関投資家は企業が利益を、資本効率を、重視するよう強く迫って来る。そして日本の機関投資家も遅かれ早かれ、同じスタンスをとるであろう。

このような状況の下、企業経営委員会は2年間の委員会活動の総締めくくりとして、市場主義推進のため以下の提案を行いたい。ここでの提案は、すべて企業とその経営者が自らの課題として主体的に解決すべきものばかりである。企業経営はどうあるべきか、経営者はいかに率先垂範すべきか、を考えて活動してきた当委員会の作る『企業白書』として、政治や行政への要請事項、例えば経済同友会がかねて要望してきた企業関係法制の改正や法人税や会計原則の国際標準化、等、経営環境の整備は敢えて取り上げていない。

市場主義推進のための提案

1. 資本効率を重視した経営

「日本的経営」として賞された過去の成功体験と決別し、真の市場主義経済の荒波の真っ只中に漕ぎ出して行かなければならない今ほど、経営者に強いリーダーシップが求められる時代はない。まさに平成の維新である。企業経営者は厳しい自己規律と透明感のある大胆かつスピーディーな意思決定によってこの要請に応え、より厳しく、より自由に、より積極的に企業の構造改革・経営の効率化に取り組んでいく。そして日本経済と企業が世界市場での競争に打ち勝つため、魅力ある商品やサービスの創造と提供を行っていくよう努めなければならない。

資本効率を重視する経営を志向する以上、株価の動向にもっと注意を払い、責任を持つよう努める必要がある。株価は必ずしも配当の多寡によって決まるものではない。将来の成長のために配当せず、内部留保に回して再投資、という戦略により株価が上昇することもある。米国DECは研究開発費を増加させるために無配当宣言をしたところ、株価が上昇したという。1987年にディズニー社がユーロ・ディズニーランド建設計画を発表した際、建設のために20億ドルをつぎ込むが2000年までは何のリターンも生まれない、と説明したが、やはり株価は上がった。これが市場主義経済の妙味でもある。

市場での資金調達手段が多様化し、ボーダーレス化しつつある今、企業内部での財務部門の役割は根底から変化し、益々重要なものとなる。これからの財務部門は市場にいる不特定多数の投資家に対して積極的に「対話」を呼びかけ、市場の投資インセンティブを高めていかなければならない。そしてそれ故に、財務部門の人材確保にもっと力を注がなければならない。CFOその他、新しい経営指標を縦横に駆使して経営トップの戦略立案に役立てるような、プロフェッショナルの確保・育成が急務である。

企業はリストラやリエンジニアリングを通じて経営資源を高収益部門に特化・集中し、持続的成長を遂げる。リストラを従業員重視に反するものとして躊躇したり、ある事業をそれが低収益であるにもかかわらず企業にとって伝統的なものという理由で止められず、いたずらに長く続けていくと、株主に対する背信行為となるばかりでなく、結果として企業が破綻するかもしれない。そうなれば企業経営者の社会に対する責任は更に大きなものとなる。日本企業の経営者は米国企業のように事業の拡大や縮小に対し、経営資源の最適適応をもっと柔軟に考える責任がある。企業の再活性化のために事業部門の閉鎖や人員削減が不可避であるような場合、従業員にとってはそのような明確な企業方針の下に準備された早期退職等のベネフィットを自ら選択する道も得られる方が幸せではないか。カリフォルニアの航空機産業やIBMのリストラによってシリコン・バレーへ技術者が大挙して集まったことが、今日のシリコン・バレーの基礎を築いた一因であると言われていることを思い起こそう。

「資本効率重視経営」にとって自社の姿を正しく認識し、かつ株主をはじめとする投資家に正しくアピールしていくことは極めて大切である。そのためには投資決定、利益計画、業績評価及び報酬制度等のすべての面で、株主に解り易い、一貫した経営指標を使った合理的な経営管理システムの構築が必要となる。売上高や経常利益等の実額ばかりでは、市場ばかりか経営者自身や従業員さえもが自社の置かれた状況を錯覚する恐れがある。経営指標の選択にあたってもROE(株主資本利益率)、ROA(総資産利益率)、DCF(割引キャッシュフロー)、EVA(Economic Value Added:経済的付加価値)等様々な選択肢の中からいくつかを組み合わせて使っていくことが大切である。例えば適当な株主資本比率は企業の業態、歴史、規模等によって異なるから、ROEを他社とダイレクトに比較することは難しい場合も多い。

2. コーポレート・ガバナンスの確立

日本では経営トップの判断・執行の実情をモニタリングし、必要に応じて修正を求める仕組みが十分でない。だから経営トップが意思決定にあまりにも慎重となって時間がかかってしまったり、逆に独断専行となるケースもある。先ずは経営トップが十分なリーダーシップを発揮出来るような組織や企業風土を作り、その上に立って社外取締役の起用、監査役会制度の強化・見直し、経営諮問委員会の設置等をはじめ、各社に適合したガバナンスを確立し、経営の透明度を高めることが必要である。全米取締役協会のブルー・リボン委員会が1996年秋に出した報告書『Director Professionalism』で提唱しているように、色々な項目からなる採点表を使って取締役が自己あるいは同僚のパフォーマンスを評定するというシステムの導入も、経営の透明度向上という面からは検討に値しよう。

企業のトップの独走をチェック出来ないような外部役員を並べた取締役会等、見かけだけのコーポレート・ガバナンスの仕組みは決して評価されない。しかし難しいのは、ビジネスウィーク誌が毎年発表するコーポレート・ガバナンスに優れた企業と、フォーチュン誌で"賞賛"されたりフィナンシャル・タイムズで"尊敬"される企業とは必ずしも一致しないことである。例えばフォーチュン誌(1998年3月2日号)が選ぶ全米で"最も賞賛される企業"の上位8番目にランクされているディズニー社はコーポレート・ガバナンスに関しては全米最低の企業となっており(ビジネスウィーク誌1997年12月8日号)、多くの専門家やジャーナリストがガバナンスの面から同社を批判しているのは、CEOの独走や後継者選任問題等に対する危惧からである。ここでBusiness ProsperityとAccountabilityのバランスと指摘した後述のハンペル卿の言葉を想起したい。

取締役会や監査役会、経営形態の在り方についての最適な解は企業の規模、業態、歴史によって様々である。又、同一の企業といえども時によって最適解は異なるだろうし、色々試行錯誤を繰り返すかもしれない。法による規制は最小限にとどめ、企業の自由な自主的規制を中心に運用される方が望ましい。その方が規制緩和の流れに沿ったものとなる。すべては実効性を持ち、環境の変化に即応出来るものであることが重要なのである。そして企業や経営者には市場が結果責任を問う。何かをやらなかったこと、あるいはやってしまったことに対する事後のペナルティー強化の方が、市場主義経済には適している。

いかに優秀な経営者であろうとも、他者、とりわけ企業外部の人のアドバイスは有益であり、又、思いがけない間違いを正すのに他者のチェックはきわめて重要なことである。本来、取締役と監査役が経営者を監視・監督する役割を担っているが、我国ではこの制度は殆ど形骸化している。企業経営者はこの点を十分認識し、対策を講ずる責任がある。経営者のご都合主義は許されない。

3. 十分かつ正確なディスクロージャーとそのための場作り

株主には企業経営者と常に双方向の建設的な「対話」を絶やさず、かつ経営者が株主に対してそうであるように、経営者や企業に対して、例えばそれなりの数の株式を相当期間保有し続けるというような、責任ある態度をとる人々であることが期待されている。このような健全な株主・投資家の育成と彼等を対象に株式の流動化を促進するためにもディスクロージャーとディスクロージャーのための場作りを積極的に行わなければならない。株主総会はディスクロージャーの場として今後とも適切なものであり続けるだろうか。当企業経営委員会が昨秋、欧米を視察した際、幾つかの企業から、株主総会が出席株主の構成からも既に情報収集や伝達の場として十分機能しなくなっているとの指摘を受けた。もし株主総会の形骸化が今後とも進行していくのであれば、ディスクロージャーのための場として日常的なIR活動の強化等、株主総会以外のもっと適切な機会を作っていかなければならない。そして業績等、過去の企業活動の結果だけでなく、理念、ミッション、戦略等、企業の将来像を明らかに出来るような十分かつ正確な情報を、株主をはじめとする投資家やアナリストにタイムリーに提供していく必要がある。その過程で、取締役会と株主総会の関係・役割分担についての議論、株主総会における決議事項を真に重要なものだけに限定すべきだといった議論、も出て来よう。

健全な株主育成を行うためには、株式市場をはじめ資本市場を整備することが不可欠であり、その整備の一環として、日本企業の実情をより正確に把握し得る日本のアナリストや格付け機関が育っていくことが強く望まれる。いかにすれば企業がそれを「もたれ合い」とならないような形で支援していくことが出来るかについては、早急に検討しなければならない課題である。投資家に多様な情報・判断材料を提供することは経営者の責務であり、格付け情報は形を変えたディスクロージャーである。

4. 労働市場の形成・インセンティブ制度の導入による人事・雇用面での企業改革

市場主義経済の下、徹底した経営指標による効率的企業経営を目指せば、最後は企業の雇用責任をどう考えるか、という議論に突き当たる。日本の企業経営者は長期的な視野で企業改革に取り組んでいけば、人事・雇用面での問題を避けて通れないことを深く認識しておかなければならない。このような認識の上に立って、本来、人事・雇用面の問題は資本の効率とはあまり関係のないことであるという考え方もあることを承知の上で、本問題を取り上げる。

これから本格化するボーダーレス化したメガコンペティションに勝ち残るためには、有能な人材を引き付け、成長させ、引き止めておくための手段を真剣に考えなくてはいけない。何故なら個人の価値観は多様化し、特に若い世代を中心に労働や就職に対する意識が変化しつつあり、新しい形の労働市場が今後急速に形成され、雇用が流動化していくからである。そのような状況の中で、これまでの給与・賞与・退職金やその他福利厚生制度、あるいは画一的な昇給・昇格や定年制度は既に機能しなくなっており、更に言えば、これらのことは雇用の流動化を阻害する要因ともなっている。「人を大切にする」という意味が根底から変化しつつあるのである。このような変化を率直に認め、新しい人事・雇用システムの構築にもっと積極的に取り組まなければならない。例えば、能力や職務に応じてリタイヤの時期が決まるというような弾力的な雇用形態、あるいは今はまだ難しいことかもしれないが、雇用期間を明確に区切ること等が挙げられる。雇用期間の明確化が可能となれば、従業員の緊張感は高まり、より一層活性化し、企業ダイナミズムの向上は間違いない。こういった観点から最近の中央労働基準審議会等の動きを積極的に支持したい。

市場の再設計を考える委員会が昨年実施したアンケートによれば、2002年に約8割の経営者は"収益を犠牲にしてまで雇用を維持すべきではない"という考え方に立つ、あるいはそれに近い考え方に立つであろうことを予測している。人件費は固定費でない、という考え方がようやく市民権を得て来ていると思われる。高齢・少子化が進展する中で、過剰感のある中高年従業員の能力をどう生かすか、女性の進出をどう支援していくかについても真剣に取り組まないといけない。横並びの人事管理ではなく能力のある人々をそれなりに処遇すべく、社内ベンチャー制度等も活用しながらチャレンジングな人材登用を思い切って進めていこう。

個人の能力や業績と直接結びついた合理的かつ効率的成果配分システムであるストック・オプションを始めとするインセンティブ制度を導入・拡充したり、年金をポータブル化することも喫緊の課題である。当委員会が欧米視察の際に訪問した企業の殆どはストック・オプションや擬似ストック・オプションを既に導入しており、労使双方の評判もよいようである。ストック・オプションの導入によって経営者や従業員は資本効率を更に上げようとし、より革新的な技術や商品・サービス等を求めて懸命の努力をするようになる。欧米企業では、競合する他社の株価の動向と自社のそれとを比較し、その優劣の度合いでもってあらかじめ決められていたインセンティブの最大限度額のうち、何割貰えるかが決まるという方法も採用されている。こうすれば、競争原理が大きく働き、経営者はストック・オプションの権利を得るために安易なビジネス上の目標設定を行いかねない、という批判を受けることは少なくなるに違いない。

5. 「よき企業市民」たること

環境問題に積極的に取り組んだり、顧客に十分な配慮をしたり、良好な労使関係の維持・確立に努めたりすることは、企業が「よき企業市民」として社会に認知されるための不可欠の要件である。このようなことは、しばしば資本効率を低下させると言われることがあるが、それはあまりに物事の一面だけしか考えない議論である。「よき企業市民」たりえなくして「資本効率重視経営」は正当化出来ない。企業経営者は常に、ステークホールダーズ(利害関係者)への配慮と資本効率とのバランスに心掛けることが大切である。

企業経営委員会で欧州を視察した際面談した英国のコーポレート・ガバナンス委員会委員長ハンペル卿はこれを、Business ProsperityとAccountabilityのバランスと表現した。フォーチュン誌が多くのビジネスマンやアナリストの意見を基にして選ぶ米国の「Most Admired Companies(もっとも賞賛される企業)」やフィナンシャル・タイムズ等が同じようにして選ぶ欧州の「Most Respected Companies(もっとも尊敬される企業)」の評価基準の中には、企業業績や株主へのリターンの良し悪しと共に社会や従業員への配慮も含まれている。市場主義の先進国であるこれら欧米諸国では、最早このようなバランス感覚なくして企業経営は成り立たない。米国で最大の年金基金である全米教職員退職年金基金(TIAA-CREF)は、"長期的な株主価値を築き上げることは取締役が社会的責任と地域の公益の問題に十分な注意を払うことと両立する"と、その『企業統治に関する方針表明』で述べている。「よき企業市民」であるための企業の取り組みは資本効率の追求に重きを置く筈の株主、機関投資家からも当然のこととして容認されているのである。このような傾向は今後益々強まっていくであろう。そしてその根底には機関投資家の資金が実は企業の従業員や退職者、あるいは顧客等のものであるという事実が存在することを、深く認識しておく必要がある。

「よき企業市民」であろうとするのであれば、当然のこととして、その企業の経営者は個人としての高い倫理観を持たなければならない。加えて、企業の内部監査や外部監査の在り方等、不祥事の発生を防止するための企業活動全般に関わる監査システムと、これを活かす企業風土を育てる必要がある。日本企業では、不祥事が起こった際にそれが何故起こったのかをきちんと検証し、以後の再発防止に役立てるようなシステムの構築が特に十分でなかった。経営トップが"世間をお騒がせして申し訳ない"と頭を下げ、形式上経営の第一線を退いた風を装えば、それですべてが曖昧なうちに幕引きとなってしまった。だから繰り返し接待や受贈をめぐる汚職事件が大きな社会問題となる。企業自らが不祥事に関わった経営陣や従業員を厳正に処罰しないといけない。"会社のためにやったのだから"と庇うような企業風土は断固革新すべきである。

企業倫理の確立のためにやるべきことは沢山あるだろうが、先ずは出来る所から確実に実行して行くのがよい。例えば接待や贈答について何らかの限度枠を設けることを検討するのはどうだろうか。社会通念と照らして節度ある範囲を各社が何らかの形で設定し、その遵守を「企業行動規範」の中に盛り込むことが、不祥事再発防止の一助となると考える。

戦後間もない1951(昭和26)年、経済同友会の先輩諸氏は他の経済団体に先駆けて、戦後経済の再建を担う経営者は企業の日常行動において率先して健康かつ清潔簡素な生活秩序を確立しなければならない、と考え、会社の接待費を極力節約する、不健全な宴会・贈与を止める、といった内容を柱とする「新生活運動」を提唱した。このような諸先輩の行動に思いを致し、それを後世に正しく伝えていかなければならない。

おわりに

21世紀を輝かしい"企業の世紀"とするために、我々企業と企業経営者は日本的経営が持て囃された過去の成功体験にしがみつかず、もっと謙虚にしかし自信を持って長期的視野に立った自社の構造改革に果敢にチャレンジしていかなければならない。"意志あるところに道あり"という。改革に向けての具体的な手法は各社様々であろう。しかし、市場主義の下で厳しい国際競争に立ち向かうことが、日本経済と日本企業を再活性化し、より良い明日、豊かな21世紀をもたらすであろう。

以上


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