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第12回企業白書

日本企業の経営構造改革
 – コーポレート・ガバナンスの観点を踏まえた取締役会と監査役会のあり方 – 

(1996年5月21日)

目次

  1. 時代認識 – 自己改革の時期
  2. 今後の企業活動の基本的視点 – 「個」の尊重と透明性・公正性の重視
  3. 日本企業の経営構造 – 現状の意思決定とチェックシステム
  4. 望ましい取締役会・監査役会のあり方
  5. おわりに – 求められる経営者のリーダーシップ

1. 時代認識 – 自己改革の時期

今日わが国は、明治維新後の改革、第二次世界大戦後後の改革に匹敵する、言わば第三の改革の時期を迎えている。

(1)経営環境の変化

企業経営を取り巻く環境も、a. 日本経済の高成長経済から低成長・成熟経済への移行、b. 経済・企業活動のボーダーレス化、c. 官主導型の経済・社会システムから民主導型市場経済への転換、d. ステークホルダーズの変化、e. 法改正等(商法改正・製造物責任法が成立)など、大きく変化しつつある。

(2)変革を求められる企業経営

・今や日本企業はグローバルに活動する行動主体であり、国際化、自由化の波の中で、市場原理・グローバルな行動基準に基づいた企業運営を行っていかなければならない。

・企業のリーダーであるわれわれ経営者は、こうした状況下で変化に対して萎縮するのでなく、自らの企業を世界に通用する企業として発展させていくために、自らの決断と責任に基づく前向きな行動、すなわち企業家精神を発揮していくことが求められている。

2. 今後の企業活動の基本的視点 – 「個」の尊重と透明性・公正性の重視

(1)「個」の尊重

・ステークホルダーズそれぞれの高度化する欲求を満たしつつ、それぞれの「個」の特性を引き出し、「個」との間のより良い関係を構築していくことによってこそ企業は活性化する。

・様々なステークホルダーズとの「緊張感」のある相互信頼関係の再構築を図ること、および第三者に説明できる公正さ=チェック&バランスを確立することが企業経営の質・レベルを引き上げる。

・「企業は様々なステークホルダーズの支持に支えられてこそ存続する」という観点に立ち、これまで従業員の比重が大きすぎたコーポレート・ガバナンスの視点を見直すことが必要である。

(2)求められる透明性・公正性

・これからの企業には人間性、社会性とともに、市場原理に則った透明性・公正性の高い経営が求められる。

・社会の公器としての認識を新たに、市場の信頼性の確保に向けて、タイムリーで継続的なディスクロージャー(情報開示)を推進することが肝要である。

・情報を開示し、外部と共有化することが、自らの企業経営の質を高めるということを認識した上で、ステークホルダーズの諸利害と企業の運営管理機構のあり方をいかに結びつけるかということが重要になってくる。すなわち、外部からの健全なチェックが機能するシステムを構築するとともに、内部のチェック機能を改めて見直す必要がある。

3. 日本企業の経営構造 – 現状の意思決定とチェックシステム

(1)意思決定システムの問題点

1)日本企業の意思決定システム

・日本企業の意思決定は、合議制が有効に機能している反面、責任の所在、決定のプロセスが不透明になりがちである、経営の路線づくりについての議論不足は、必ずしも議論が十分に行われていない、経営トップは独立した権力として存在し、誰に責任を負うのかあいまいになっている、等の特徴がある。これらの結果として、経営トップに戦略決定と事業執行の権限と責任が集中し、トップが間違うと全て間違う危険を内包しているのではないか、また、新規事業への挑戦、あるいは抜本的な改革といったリスクの大きいテーマに対し、経営トップが本来持つべき企業家精神を十分に活かしきれていないのではないか、という疑問が生じる。

2)取締役・取締役会の現状

・取締役会は、取締役の人数が数十名に増大し、実質的な議論ができない、取締役の大部分は社内昇格者であり、社長等上級役員からの独立性を期待しにくい、取締役のほとんどが執行役員であり、担当部門の利益・保身を優先しがちである、株主の意向を代表して経営方針を決定し、執行状況を監督するという色彩が弱い、常務会等、取締役会以外の経営トップ層の会議で一定の結論を得ている、といったことを背景に、単なる決裁(追認)機関としてしか機能していない。

・また、商法上定められた「〔代表〕取締役の職務の執行を監督する」というチェック機能も、期待しにくい状況である。

(2)チェックシステムの問題点

1)日本企業のチェックシステム

・業務執行に対しては、社長・会長自らチェックを行いながら決定している比率が高い。

・わが国の企業における業務執行に対するチェックとしては一般的に、取締役会と監査役会の二つの機関によって二重に行う体制になっているが、現状は必ずしもうまく機能しているとは言い難い。われわれの調査では、特に取締役会のチェック機能を高めたいとの意向が見られた。

2)監査役・監査役会の現状

・監査役は経営にとって取締役と両輪をなすものであるという認識が一般的には希薄であり、その地位・機能が尊重されているとは言い難い。また、監査役は株主総会で選任されるが、実質的には、監査される対象である社長あるいは取締役によって選定が行われているケースが多く、独立性が十分確保されていない。

4. 望ましい取締役会・監査役会のあり方

・取締役会、および監査役・監査役会についての法整備は進展しているが、必ずしもそれが制度の活性化には結びついておらず、経営トップ、あるいは取締役・監査役の良識に委ねられているのが実状である。すなわち、法律に忠実な"法治主義"ではなく、"人治主義"による取締役会、監査役会の運営が企業経営を向上させてきたという状況である。

・欧米でもコーポレート・ガバナンス論が盛んに論じられているが、望ましい経営構造については必ずしも「モデル」とすべき制度は存在しない。

・わが国における経営構造改革を考える時、意思決定機関としての取締役会の活性化と、前向きの意思決定をサポートする意味での健全なチェックシステムの確立が必要となる。

・現状の法体系の中で、経営トップ、そして取締役、監査役の各々がその役割と責任を認識し、実践することが最も重要である。そして、意思決定機関として、またチェック機関としての取締役会の活性化を図ると同時に、推進役としての取締役・取締役会の暴走を防ぎ、企業経営の健全性を担保する上でのチェック機関としての監査役・監査役会が実質的に機能するよう対策を講じるべきである。

(1)取締役・取締役会

・商法上に規定された取締役会の活性化こそ基本であり、最重要課題である。取締役会の活性化のためにはまず、取締役が、執行者としてのみならず、ボードメンバーとしての意識を持ち、経営者の一員としての責任を自覚していることが重要である。

・それには経営トップの役割も大きい。戦略ビジョンを明示し、それを取締役間で共有させるとともに、取締役の「個」を尊重し、ボードメンバーとしての自覚を持たせることも経営トップの重要な仕事である。

・一方で、株主から経営を委託された存在としての取締役の意識・行動を株主の利害とより連動させるため、ストック・オプション制度を導入していくべきである。

・さらにシステム面からの改革として、例えば以下の事項について真剣に検討する必要があるとわれわれは考える。

a. 戦略決定機能の強化:戦略決定機能と業務執行機能との分離

過去の成功体験や従来の延長線上の発想にとらわれた意思決定のみでは危険である。企業の将来を左右する基本戦略・路線について議論を尽くすとことが不可欠である。

その意味から、取締役会の中で、経営戦略と業務執行に関する協議を明確に分離させ、双方の機能を高めていくべきである。

b. 実質的な議論の重視:取締役会の人数の見直し

真の"論議・審議・決定"ができる場とするためには人数の制約は大きい。取締役会の人数を見直すことを真剣に検討すべきである。また、真の議論を実施するためには、横断的なテーマに沿った「委員会(例えば投資戦略委員会、人事戦略委員会等)」を活用することも有効である。

c. 取締役の間での認識の共有化:情報の開示

経営トップが暴走しそうになった時に止められるシステムの第一は取締役会である。そのためには取締役が会社の状況についての共通認識を持っていることが必要であり、取締役の間での情報の共有を図ることが不可欠である。例えば実質的な協議は社長と担当役員との間だけで行う場合でもその内容をオープンにする、取締役会以外の常務会・経営会議等の議事録を作成して取締役会でその内容を開示する、といった方策を実施し、取締役がその責任を果たせる体制を整備することが必要である。

d. 自律的ガバナンス機能の向上:社外取締役制度の導入

あるべき姿に向けて、常に自律的、他律的に牽制していくのがガバナンスである。当面、取締役総数の少なくとも1割以上をめどに社外取締役を導入し、社員出身の取締役とは異なる経験と知見を活かすことによって、自律的ガバナンス機能を高めていくことが必要である。

(2)監査役・監査役会

・商法改正により監査役に使命感が高まると同時に、監査役と取締役の間の緊張感が一層増したと言える。今後、日本企業の有り様を変えるために監査役が果たす役割は大きい。

・監査役は業務監査に関しては法の規定(適法性監査)に止まらず、妥当性監査まで範囲を広げ、経営層に対し、立場の異なる観点から常に助言して欲しい。

・経営者との緊張関係の下で日頃から率直に発言していくべきである。監査役は商法改正の意義をあらためて認識し、経営層の企画、決定の内容を十分に知った上で、監査役の機能を全うすることが望まれる。

・われわれ経営者は、監査役がその機能を発揮し、経営に対するリスクを十分チェックすることで、安心して経営に専念することができ、新しい事業へのチャレンジも行える。その意味で、監査役にふさしい人材を獲得することは極めて重要である。

・社外監査役は会社内部の人間による一元的なチェック体制を打破する可能性を持つ。公認会計士や弁護士ばかりでなく、経営(トップ)経験者などを社外監査役に登用していくことを検討すべきである。

・加えて、監査役が十分に機能が発揮できるよう、環境を整備するとともに、社内での監査役に対する理解を深めることが重要である。そのためには、たとえば、a. 取締役の業務、企業の重要な会合に自由にアクセスできるようにする(情報アクセスの自由)、b. トップに対していつでも一対一の話し合いができるようにする(トップとの対話)、c. 監査役室スタッフを充実させる、といったことが必要である。

・さらに、監査役の独立性を一層高めるために、商法上の大会社については、監査役候補者を株主総会に付議する場合、事前に監査役会の同意をとることを基本とするなど、組織としての監査役会の機能をより高めることを検討すべきである。

5. おわりに – 求められる経営者のリーダーシップ

経営トップは自らの経営理念を明確に持ち、それに基づくポリシーを社内に徹底していく必要がある。その際、会社の内部、外部を問わず、チェック&バランスの体制がどうあるべきか、経営に対する責任と権限は明確化され、十分に機能をしているか、を常に自覚しなければならない。われわれ経営者には、企業経営そのものに対する責任と同時に社会に対する責任も求められる。企業家精神はそれらに支えられてこそ真の求心力を持つ。われわれ経営者は、変革の主体として、企業家精神に則ったリーダーシップを発揮し、経営構造の早急な再構築に踏み切るべきである。制度・仕組みに魂を入れるのは経営トップの重要な使命である。

以上


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