イノベーション創出へのDEI経営
~第二章:男性育休から考える育児のジェンダー平等~
委員長 田代 桂子
(大和証券グループ本社 取締役 兼 執行役副社長)
委員長 星野 朝子
委員長 安渕 聖司
(アクサ生命保険 取締役社長兼CEO)
報告書 ※詳細は、別添の本文をご確認ください。
人口が減少する現代の日本社会において、企業・組織の更なる成長にはイノベーションの創出が不可欠です。その推進力となるのは、経営の意思決定における多様性です。Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包摂性)推進の「第一章」である女性の社会進出そのものは順調に拡大する中、さらなる女性活躍の促進には男性の果たすべき役割も大きいと言えます。
本報告書では、DEI推進の「第二章」として男性の育児休業を切り口とし、家事・育児のジェンダー平等に向け、経営者として持つべき視座や取り組むべき施策、政策課題について整理しました。
男性育休推進の背景と現状
l 共働き世帯が増加する中、育児・家事負担は依然として女性に大きく偏っている。男性の育休取得率は上昇しているものの、男女同時の育休取得が前提であり、男性はあくまで「女性主体の育児のサポート役」が期待されるにとどまる。一方、他国では男性単独での育休取得を前提とする制度もあり、育児のジェンダー平等が推進されている。
l 米国における「DEIへの揺り戻し(バックラッシュ)」の本質は、行き過ぎたクオータ制への反発である。性別や人種ではなく、個人の能力や実績に基づく人材評価は、多様性の推進に繋がる見込みすらある。日本は、人種、性別、年齢、性的指向のいずれにおいても米国社会の多様性とは彼我の差が大きい。DEI黎明期の日本は、他国の経験を参考に、バックラッシュを起こすことなくDEIを持続的に推進していくために、政府として、また企業としての取り組みを考えて行く必要がある。
組織による男性育休の推進事例と課題
l 民間企業・自治体による多様な事例から、その効果や検討課題を抽出する。
o 石井食品:⾧期休業を全社に導入し、柔軟な働き方を提供
o ヤマト運輸:労働集約型産業における短期・⾧期両側面からの組織風土改革
o 三井住友海上火災保険:同僚を対象とした祝い金制度による企業風土作り
o 山梨県庁:トップによる強い推進と、モデルプラン提示による複合的サポート
検討課題と取り組むべき施策
l 経営者が持つべき3つの視座:
1. 既存評価軸から脱却し、前例にとらわれずに多様な個人を尊重する
2. お客様のための自己犠牲を賞賛するのではなく、企業理念を従業員のwell-being の追求とともに実現する
3. 経営者自らの旗振りによる組織変革・DEI の推進
l 企業が実践すべき4 つの施策:
1. 育児やボランティア活動など、業務外で得た能力を正しく評価し、組織の多様性に繋げる
2. デジタルツール等を活用し、個人ではなく組織としての生産性向上を目指す
3. 総労働時間から成果・能力重視への評価体系の転換
4. 男性主体の育児を促進する視点での育休推進施策見直し
l ジェンダー平等達成に向けた政策的課題:
o 育休取得率とは別に、育休制度がジェンダー平等推進にもたらす効果を正しく測定する指標を設け、政策目標として
その改善に取り組む
o 育休復帰後も続く育児のジェンダー平等を目指した支援体制の設計
o 男性単独での育休取得にインセンティブを付与するなど、育児のジェンダー平等を目指した育休制度の検討
o 男女同時の育休取得推進による育児休業給付の増加が見込まれる中で、男女それぞれが単独で育休取得する制度は、
財政的観点からも検討の価値がある
o 男性主体の育児を前提とした社会インフラ(公共施設等のハード、男性の産後うつ対策等のソフトの両面)の整備
おわりに
l 育児のジェンダー平等を前提とした育休推進施策は、(1)育児などの業務外での個人の学びや経験が業務に新しい発想・アイディアをもたらす、(2)育児をはじめとする家庭での経験を業務に活かす人材のキャリア中断を防ぐことで、意思決定層が多様化する、(3)育休取得による欠員が生じても、DX 推進などで生産性が向上する、以上三点を通じてイノベーション創出に繋がる。
l 今後の人事施策や法制度の設計においては、人々の多様性を前提とする意識が必要である。
男性育休に焦点をあてた本報告書が、その起点となることを願う。
以 上