コンテンツ産業の持続可能な成長に向けて
~アニメ産業の制作現場の改革と競争力強化~
委員長 北原 義一
(東京ドーム 取締役会長CEO)
委員長 芳賀 敏
(JCOM 取締役会長)
委員長 廣田 康人
(アシックス 取締役会長CEO)
日本のコンテンツ産業は、新たなクールジャパン戦略等で国の基幹産業と位置付けられ、更なる成長が期待される分野です。特にアニメ産業は国際的な競争力と成長性を有していますが、その一方で、制作現場には、労働環境、賃金、人材不足など多くの課題が存在しています。また、一部の成功例を除き、コンテンツをどう海外市場に展開し、いかに収益化するかというビジネス面の課題も大きいところです。
上記を踏まえ、今般、アニメ産業を焦点に、制作現場の改革と競争力強化に向けて、官民が取り組むべき施策を提言します。
提言のポイント ※詳細は、別添の提言本文をご確認いただきますようお願いいたします。
【課題認識】
- アニメへの愛情を持った現場のアニメーターたちが制作会社の経営を支え、アニメ産業全体を成り立たせてきたが、制作現場の深刻な人材不足等により、産業崩壊の危機に瀕しているとも言える状況
- 存のビジネスモデルだけでは、ビジネスプロデューサーが育ちにくく、資金調達手段も限定的。また、製作委員会に出資できる企業は一部に限られ、制作会社がIPを保有することも困難
(1)制作現場
Ø 成功報酬をはじめとした収益分配構造の不全
ü フリーランスのアニメーター等に印税収入が還元されるケースは極めて少ない。また、フリーランスのアニメーターに支払われる制作単価は10年以上変化なし
Ø 供給体制に見合わない制作本数と深刻な人材不足
ü 次世代のアニメーター等の育成や生産性向上が十分に進んでいない中、制作本数が増加したことにより、スタッフの取り合いやスケジュール遅延が常態化
(2)企画開発・資金調達・プロモーション
Ø ビジネスプロデューサーの不足
ü グローバル視点で戦略立案・交渉できる人材が不足。製作委員会方式は、出資者それぞれが事業の一部を担うため、当該人材が育ちにくい。プロデューサーライツを保有することも稀であり、目指すに値する価値と成功に対するリターンの機会が与えられていない
Ø 限定的な資金調達手段
ü オリジナル作品は、多額のコスト、長期の開発期間がかかり、成功率も低く、出資者が集まらない。ヒットしたマンガ等原作作品は、既存の製作委員会方式で一定資金が集まり、他業界の参入障壁が高い
【提言:制作現場の制作力・生産性向上】
- 労働環境の改善・賃金向上はもちろんのこと、DXによる生産性向上、人材不足の解消にあたっては海外リソースの活用も含め、制作現場に作品の量・質を高められるキャパシティを創出することが必要
(1)労働環境・低賃金の改善に向けた契約慣行の見直し
Ø 業界全体で関連法・各種ガイドラインに基づき、契約慣行を見直し、①フリーランスのアニメーターを含めた個人への収益還元設定、②工程毎の単価の見直し、③適正な制作費の算出・発注を推進すべき
Ø 政府は①関連法・各種ガイドラインの遵守徹底に向けた実態調査・周知活動強化、②補助金申請等においては関連法・各種ガイドラインに沿った契約締結を条件化すべき
(2)生産性向上に向けたDXの活用
Ø 膨大な制作工程の管理、プロセス効率化を図るため、元請けから二次・三次請けの制作会社を繋ぐ進行管理ツールや、遠隔でも連携して作業できるツールの導入等を第一歩に進めることが必要
Ø 政府は二次・三次請けの制作会社では導入が難しいツールを中心に導入支援の拡充を図るべき
Ø AIについては、将来的な活用を見据え、関連する法整備や更なる技術の進展を期待
(3)人材不足解消に向けた海外アニメーターの育成とマッチング
Ø 海賊版対策が喫緊の課題であるが、視点を変えると、その国・地域では日本アニメが浸透しており、日本アニメ制作に携わるアニメーターが育つ土壌が存在すると捉えることもできる
Ø 政府は各国への海賊版対策の要請と併せ、海外アニメーターの育成支援、さらには、日本の制作会社とマッチングする機会を提供するなど、一歩進んだ形での海賊版対策の推進を検討されたい
【提言:新たなビジネスモデルの構築】
- オリジナルも含めた新たな作品をより多く生み出し、海外市場への展開を通じてより大きな収益を上げ、それを制作現場に還元し、魅力ある労働環境を実現する突破口として、新たなビジネスモデルを提示
(1)作品の成功率を高める仕組み
Ø 段階的プロモーションにより、成功率の高い原作やスターとなるクリエイター・制作会社を創出ü アワード:SNSや配信プラットフォームで認知・評価された企画などを募集・ノミネート・評価・表彰
ü
Ø 育成/教育面においては、初等・中等教育の段階から学びの機会を拡充
(2)ビジネスプロデューサー主導の製作
ØSNSや配信プラットフォーム、アワードの評価を踏まえ、収益が見込めると判断した企画をファンドに提案、収益が見込めると判断した企画をファンドに提案
Øファンド資金を活用し、製作委員会を組成・製作
(3)ファンドを活用した資金調達
Ø 国内外問わず、アニメファンからの投資も含めて資金調達
Øビジネスプロデューサーから提案を受けた企画を審査し、製作委員会に出資
- 政府には、プリプロダクション制作支援や、ローカライズ支援、国際見本市への出展支援等、認知向上に資する支援の更なる強化、また、アワードの開催支援の拡充と評価の公認、オリジナル作品のプロダクション・ポストプロダクション制作支援、教育機関への支援の拡充を期待
終わりに
- アニメは、国際的な競争力と成長性を備えた日本の誇るべき基幹産業
- 次世代のクリエイターが育ち、才能ある人材が集まり、素晴らしい作品を生み出すため、そして、世界中のファンの期待に応えるため、今こそ産業が抱える課題に真摯に向き合う時
- その魅力に心を奪われた世界中のファンが、日本アニメの未来を共に支える存在となり、制作に関わるすべての人が、創造の喜びを感じながら、安定して働ける環境を実現し、アニメ産業が持続可能に成長し続けるよう歩みを進めていきたい
以上