新たに創設される育成就労制度の施行に向けた意見
座長 長尾 裕
(ヤマトホールディングス 取締役社長 社長執行役員)
少子・高齢化による生産年齢人口の減少に伴い、わが国の労働力は不足の一途を辿っており、特にエッセンシャルワーカーの人手不足は日々深刻さを増しており、喫緊の課題として解決を急がなければなりません。働き方改革の推進、女性や高齢者の活躍、技術革新などによる生産性向上に取り組むとしても、なお人手不足が予見される以上、エッセンシャル領域の業務を担う外国人材のより多くの活躍が急務となっております。
有識者会議においては、制度設計を具体化する際に、エッセンシャル領域の外国人材と、彼らを受入れる企業双方の視点を踏まえて検討されるべきと考えます。
そのため、本意見では、育成就労制度とそれに続く特定技能制度が、制度の目的を十分に果たすために必要な施策を取りまとめました。併せて、制度の実効性を高めるべく、実際に制度を用いてエッセンシャル領域の外国人材を受入れる企業が果たすべき役割・責任についても整理を行いました。なお、本意見では、目下エッセンシャル業務に従事する外国人の中で大きな割合を占めており、アルバイトとして就労している留学生が、卒業後も引き続きわが国で活躍するための方策についても言及しました。
意見のポイント ※詳細は、別添の概要版及び、意見本文をご確認いただきますようお願いいたします。
【育成就労~特定技能制度に対する評価と課題及び、解決の方向性】(一部抜粋)
- 現場の就労ニーズに対する、従事可能業務の制約と、解決の方向性
課題:現行の制度下では、当該在留資格を持つ外国人の従事が認められていない分野・業務区分(特定技能制度下)、職種・作業(技能実習制度下)も存在し、育成就労制度へ改正後も従事が認められなかった場合、各業界・企業にとってエッセンシャルワーカーの確保が果たされない懸念がある。
解決策:エッセンシャル領域における人手不足を解消する観点及び、当該外国人材の効果的な育成を促進する観点から、政府は、各業界の申し出を踏まえ、育成就労の在留資格を有する外国人材が従事可能な業務を拡大するなど、不断の見直しを行うべきである。 - 育成の実効性低下
課題:育成就労制度では、従来の技能実習1~3号が1つにまとめられ、3年間の育成期間を経て、特定技能1号に移行するためには、評価試験に合格する必要がある。しかし、受入れ企業が十分な育成を行わず、低難易度の業務ばかりを行わせた場合、特定技能へ移行できずに帰国する事態が続き、後に続く外国人材がわが国での就労を躊躇する懸念がある。
解決策:産業分野・業務区分ごとに、毎年の技能・日本語力の到達水準を設定し、各外国人材がその水準に到達しているかを、第三者機関が中間評価するべき。育成に遅れが見られる企業・事業所には、今後の受入れ可能数を減らすなどの罰則を課すべきである。 - 入管法制と労働法制における、転籍制約の不一致
課題:育成就労制度では、1年もしくは分野によって2年の同一受入れ企業での就労を条件等に、本人意思での転籍が可能となる。しかし2年間雇用の拘束を認めた場合、最大1年間までの拘束を認める、労働法制上の有期雇用契約に関する規定と平仄が合わない。
解決策:転籍制限の期間を、労働法制上の有期雇用における最大拘束期間と揃え、産業分野や業務区分の例外なく1年までにすべきである。雇用契約書内にもその旨の明記を義務付けるべきである。
【留学生が卒業後にわが国で就労する際の、現行制度に対する評価と課題及び、解決の方向性】(一部抜粋)
- 「技・人・国」の外国人材に対する、従事可能業務の制約
課題:技術・人文知識・国際業務(「技・人・国」)の在留資格では、従事可能な業務に一定の制約が存在し、企業にとって、当該外国人材が1人で一連の業務フローを実行できないことで就労現場全体の業務効率性を下げてしまう場合が存在する。
解決策:エッセンシャル領域における人手不足を解消する観点及び、当該外国人材の就労可能性を広げる観点から、政府は、各業界の申し出を踏まえ、「技・人・国」の在留資格を有する外国人材が従事可能な業務を拡大するなど、不断の見直しを行うべきである。
【外国人材にわが国が選ばれるために企業が果たすべき役割と責任】
- 賃金の向上
エッセンシャルワーカーが多く従事する職種は、全産業平均と比べ給与水準が低い傾向がある。国内外の人材に限らず、上記職種への魅力を高めるため、経済情勢に応じた賃上げは継続すべきである。 - 就労時の生産性向上支援
外国人材が円滑に業務を遂行するための支援を積極的に講じるべきである。例えば、多言語の業務マニュアル、現場の就労を支援する専属の外国人材の配置や、外国人材支援の専門部署の設置などが挙げられる。 - 人権保護の強化
各社・各業界がサプライチェーン全体で、「国籍による不利益を一切許容しない姿勢」を示すべきである。大企業であれば、統合報告書などにその姿勢を明記することを義務付けることが挙げられる。 - 複線的なキャリアステップと適切な人事・育成体制の構築と発信わが国での就労や定住の予見性を高めるため、育成就労を始めとする制度を通じて、中長期的かつ複線的なキャリアプランを提示し、その実現のための人事制度や育成体制を構築することが重要である。
- 生活面・教育面での支援
就労面以外も、受入れた外国人材の支援を惜しむべきではない。例えば、専属人材を採用し、寮や勤務場所を巡回して、相談やわが国のマナー・文化理解に向けた支援を行うなど、私生活も支援すべきである。
以上