政策提言
将来のエネルギー・GX戦略に関する意見
公益社団法人 経済同友会
代表幹事 新浪 剛史
エネルギー委員会 委員長 見學 信一郎
委員長 兵頭 誠之
代表幹事 新浪 剛史
エネルギー委員会 委員長 見學 信一郎
委員長 兵頭 誠之
先の衆議院議員総選挙の結果を受け、少数与党での政権運営が始まった。エネルギー・GX戦略は、わが国の成長戦略であると共に、経済安全保障の面でも大きな役割を果たす。先送りが許されない重要政策課題であり、前政権から続く検討の蓄積や大きな方向性を踏襲し、今後の姿を決定していくべきである。
GX2040ビジョン、次期エネルギー基本計画、地球温暖化対策計画の素案が年内に提示される見込みとなったことから、本会の意見を以下に述べる。
- GX2040ビジョン
●脱炭素と経済成長の両立に不可欠な重要項目のトップ3は、【国際競争力】、【高生産性・高付加価値】と【消産最適配置】。これらに配慮した①グリーン価値創出を促す市場の形成と産業構造の変革を促す制度設計、および②それを支える、脱炭素エネルギーインフラの最適設計とエネルギーインフラの転換を促す制度設計の二つの政策立案をお願いしたい。
●それぞれの具体的施策の立案に当たっては、より健全な民間の投資行動を促すために、わが国を取り巻く環境条件のファクト分析と科学的論拠に基づく合理的な(移行期とカーボンニュートラル社会達成以降、わが国が国際社会に於ける戦略的不可欠性を維持強化しながら持続的成長を継続できる)「GXの勝ち筋シナリオ」を示すことが必要である。合理的で説得力のあるシナリオは、長期にわたる民間の力強い投資行動を活性化し、政策目標の達成を促進する。結果として、自由で公正・公平な共存共栄主義に基づく世界から歓迎される日本版エコノミック・ステートクラフトの実践につながる。
●上記のシナリオが織り込むべき五つのテーマを述べたい。まず、エネルギーの地産地消の観点から、地域の自然環境を活かした大中小規模電源に需要産業や社会を近接させる産消立地政策を行うことが合理性をもつ可能性があり、上記を踏まえた地方創生に資するエネルギー政策と産業政策が重要なテーマとなる。加えて、国際競争力に優れる、化石・非化石由来の脱炭素エネルギー源、脱炭素電源や、その他の再生可能エネルギーを有する諸地域(国内外)において、地産地消コンセプトに基づいたグローバル産業バリューチェーンを構築することも重要なテーマとなる。
●三つ目は、技術開発と人材開発。GXの推進には、複数の専門分野に精通した高度人材の確保が急務となる。教育プログラム開発や教員養成などにあたり、企業と大学、研究機関がシームレスに連携する国際競争力に優れるエコシステムを構築する必要がある。そのためには、あわせて、海外高度人材の熾烈な獲得競争にあたり、ビザの緩和や居住環境の整備等が必要となる。これらは、わが国の将来の経済発展を支える重要な基盤となる。
●四つ目は、国際連携。わが国のグリーン産業の発展には、グローバル市場を見据えた取り組みが不可欠である。有志国等との連携が一層重要性を増す中で、自由で、公正・公平な経済秩序の重視と共存共栄のアプローチにより、グリーン価値市場のルールメイキングを実現し、わが国の戦略的不可欠性の確立が肝要となる。特に、アジアにおいてはAZECを通じた協力の強化により、アジア地域全体におけるグリーン市場拡大に向けた各種取り組みを日本のリーダーシップの下で推進する必要がある。
●五つ目は、課題解決。日本の変革と持続的な成長を果たすためには、少子高齢化と人口減、労働者不足や社会保障など、先送りにしてきた日本固有の社会課題解決を実践し、課題解決先進国である姿を示すことが必要。自らの意思に基づいて自らを成功に導く歩みがあってこそ、将来、世界からの投資と優秀な人材が集まり、戦略的不可欠性の強化もなし得ることをできることを決して忘れてはならない。 - 第7次エネルギー基本計画 (2024年8月2日公表の意見を再掲)
●再生可能エネルギーについては、地域の特性に応じた抜本的な拡充が必須である。そのためは、国土交通省を中心に行われているハイブリッドダムのような府省庁間の壁を克服した政府一体の取り組みや、国民負担で積み上げてきた卒FIT事業用太陽光の維持・活用するための仕組みづくりが必要である。また、欧州においては、変動性再生可能エネルギーに対応する送電網や蓄電システムの整備の必要性に直面していることから、わが国においても電力システムの整備に向けた社会全体の議論と具体的施策の立案実行が必要である。
●原子力に関しては、審査合格後の早期再稼働を進めていくとともに、原子力規制委員会の仕組みのアップグレードが必要な局面を迎えているのではないかと考える。また、リプレース・新増設については、実装のタイミングからバックキャストして必要なリードタイムを確保した取り組みを今から開始し、より安全な次世代炉を柱とする最適ポートフォリオの構築を望む。さらに、長期の投資回収を要する原子力事業は、中長期的な事業の予見性の確保が不可欠であることから、より投資しやすい事業環境に向け、予見性を高めることに資する国の関与と政策の長期安定性を実現していただきたい。
●需要側の取り組みとしては、「ベストアロケーション(最適割当)」、すなわち、家庭部門を含む、全ての分野領域での省エネを徹底することを大前提に、誰が・どのようなエネルギーを使うか(非電力含む)について、具体的な目標と戦術シナリオを描くべきだと考える。
●国の将来を左右する最も重要なテーマの一つである、原子力を含めたエネルギー全般について、社会全体の幅広いステークホルダーが「自分事」として考えていくべきものである。国全体を俯瞰した効果的なコミュニケーションの仕組みを構築・運営することが望ましい。本会としても、さまざまなステークホルダーとの熟議をはじめ、責任ある対応を進めていく。
●2050年のカーボンニュートラル社会の実現に向かってこれから二十数年にわたる移行期間を経ることになる。その間の不確実性の高い、正に混沌と激動の時代が続く中で、日本独自の戦略を描きながら、常にアジャイルかつ柔軟に工夫を凝らしてチャレンジを継続していくことができる、「蓋然性」「予見性」「具体性」のある明確な道筋を示したものを望む。 - 次期NDC(国が決定する貢献)と地球温暖化対策計画
●現行NDCである2030年の温室効果ガスの削減目標(2013年度比46%削減))について、5年余りを残すだけとなった。当初より不安視されたその野心的な目標について、達成の鍵となる再エネ導入、原子力再稼働、省エネ等の各水準を見ると、現段階でその実現は極めて困難な見通しといわざるを得ない。こうした「不都合な真実」に正面から向き合って検証し、国民に率直に伝え、どのような意思をもって政府として次期NDC、地球温暖化対策計画を策定し、実行していくのかを示すことが重要である。
●来年2月までに国連提出が求められている次期NDCでは、目標設定年次を2035年あるいは2040年とするにしても、革新的技術の開発・実装の時間軸、社会変革や産業転換に要する現実的かつ経済合理的なパスを考慮した上で、わが国の2050年カーボンニュートラル達成をバックキャスティングした1.5度目標に整合した数値を掲げるべきである。その上で、数値目標の実現に向けての、技術開発支援、産業転換の支援、公正・公平なコスト負担、社会の行動変容のための諸政策の提示と実行が極めて重要となる。
●米国、欧州も現行NDCの目標に対して超過傾向が見られる。さらに、米国の次期政権では、パリ協定から脱退し、NDCを提出しない可能性が高い。こうした動きに呼応して、非友好国が米国と他国の離間にこの問題を使うとの見方もある。2050年カーボンニュートラル実現は世界の共通目標であり、世界が一致して取り組むべきものである。こうした米国、欧州、中国、インド等のNDCの現状や見通し、あるいは気候変動問題を巡っての国際政治上の動静にも十分に意識しながら対応していただきたい。
●世界は協調から競争の時代へより一層突入していくものと予想される。世界全体の排出量で3%を占める日本だけが、排出削減のために国民や本邦企業が国際的に公正・公平性を欠いた負担を強いられ、経済成長や賃上げが逆風に晒される事態は何としても回避せねばならない。わが国として、どのように国際政治・経済の荒波の中を官民連携の下で柔軟に生き抜いていくのかということにも密接に関連するテーマである。
●わが国としては、今まで以上に強かに、現実的で実践的な戦略を描く必要があり、官民の対話と協力が求められている。新たに提示される政府案に基づき、経済界を含むステークホルダーとの熟議の機会を設け、各種GX方針を、わが国の産官学の総合力を発揮したGX実現のための羅針盤とすべきであり、そのために経済界としても全面的に協力していく所存である。
以上