大学生・大学院生論文コンクール 受賞作品決定
経済同友会は、めざすべき社会像を幅広いステークホルダーと議論する「みんなで描くみんなの未来プロジェクト」の一環として、大学生・大学院生から憲法改正についての論考を募集するコンクール(共催:月刊『中央公論』)を開催しました。
この度、経営者と学識者から成る審査委員会(委員長:経済同友会 代表幹事 小林喜光)の審査を経て、憲法改正に関わる着眼点や論文としての完成度のほか、次の時代を担う若者らしい問題意識が高く評価された作品を、最優秀賞(1作品)、優秀賞(2作品)として選出しました。
最優秀作品は、中央公論新社『中央公論』12月号(2017年11月10日発売)に全文が掲載されました。
※授賞は論文コンクール審査の結果であり、憲法改正に対する経済同友会の見解ではありません。
最優秀賞 佐藤 信吾さん(23歳)/慶應義塾大学大学院 社会学研究科 修士課程 2年
『国民投票法における「最低投票率」導入報道の分析 ~「最低投票率」再考と「絶対得票率」~』
論文はこちらからお読みいただけます。
論旨
憲法改正手続きを定めた国民投票法における「最低投票率」の扱いに着目し、健全な民意を反映する策として、「絶対得票率」制度の導入を提案。
講評
最低投票率をめぐるメディアの主張を護憲派と改憲派の視点で比較し、そこから専門性の高いテーマを明快な構成で論じている。憲法改正を議論するにあたっては手続き面の検討も重要であり、日本における最適制度として、絶対得票率の導入という現実的な提案をしている点が評価された。
受賞コメント
この度は素晴らしい賞を頂きありがとうございます。憲法は国の根幹を担う最高法規であるため、その改正手続きにかかる疑義はできる限り少なくしなければならないと考えています。本論文では、マス・メディアの記事や言説を単に批判するだけではなく、健全な民意を反映できる憲法改正手続を提案することを目指しました。憲法改正議論ではあまり注目されていない国民投票法に、少しでも光が当てられたなら、この論文の意味もあったかと思います。まだまだ若輩者でございますので、皆様からのご批判やご感想を頂ければ幸いです。今後の研究活動や執筆活動において、この度の経験を生かしていけたらと考えております。重ねて、このような素晴らしい機会を頂きありがとうございました。
優秀賞 安齋 耀太さん(27歳)/東京大学大学院 総合文化研究科 博士課程 2年
『日本国憲法における庇護権の可能性とその意義』
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論旨
国のかたちや日本国憲法を論じる際に国際的視点は不可欠であり、前文が掲げる国際社会への貢献に向けて、憲法に難民の庇護権を盛り込むことを提案。
講評
国際政治上の重要なイシューとなっている難民問題を取り上げ、各国の対応を比較しつつ、日本の姿勢について問題提起している。グローバルな社会情勢をふまえ、新しい論点として庇護権を提案した点が、筆者ならではの視座と専門性の高さとして評価された。
受賞コメント
私は本論文で取り上げた「庇護権」を研究しています。ドイツ憲法上のこの権利は、現実には難民受入の理念として働いています。庇護権を日本が受け入れるならば、どのような問題が生じるか。この問いを本論文で考えたいと思いました。つまり、本論文は私にとって応用研究の一環です。他方で、他人の目にどう映るかは不安でした。国際的価値から憲法改正を考えることは決して王道ではなく、ましてや日本で聞き慣れない庇護権への着目はエキセントリックとしか言いようがないからです。私が受賞できたのは日本でも難民問題への関心が大きくなっているからでしょう。この論文の役目は「一石を投じる」ことです。今後、肯定も否定も含めて様々な波紋を呼ぶことができれば嬉しく思います。
優秀賞 田中 駿介さん(20歳)/慶應義塾大学 法学部 政治学科 1年
『憲法を語れるようにするために ―主権者教育と市民教育の実践を―』
論文はこちらからお読みいただけます。
論旨
実践的な主権者教育が欠如した現状では、若者がリアルな憲法観や国家観を形成しがたいと指摘し、学校教育における憲法学習の拡充と、市民主体の民間教育活性化を提案。
講評
米国に比べ、日本の学生が国家観を語れないのはなぜかという、自身の体験に基づいた若者らしい問題提起である。日本国憲法公布から70年が経つが、国民の憲法認識や国を守る意識が希薄ではなかったかという反省の念を喚起させ、審査委員の共感を呼んだ点が評価された。
受賞コメント
昨年発表された、ある「憲法観」が衝撃を与えた。批評家・柄谷行人が著した『憲法の無意識』だ。柄谷によると、憲法9条は改正がそもそも出来ないものなのだという。9条は、戦争を拒む日本人の無意識によって支持されているから、国民投票では改憲は阻止される、と。さて私は、政治的関心が比較的強い若者は、憲法議論では9条護憲派が多いだろうと考えていた。なぜなら、戦場に駆り出されるのは若者なのだから。ところが米国人と対照的に日本人が9条を語れない「高校生外交官」らの現状を見て、認識はやや変容した。日米関係に興味が強い優秀な高校生が、安保や地位協定どころか、憲法についても語れないのは何故か。柄谷理論は我々の世代には全く適用し得ないものなのか。現在、私は「対話キャンプ」というフィールドワークを提唱している。高・大学生が中心となって沖縄や福島に行き、自分の頭で考える。今回の受賞を機に、こうした市民教育に更なる脚光が当たることを願ってやまない。
<コンクール実施概要>
※告知ページはこちらから(募集は終了しております)
主催
公益社団法人経済同友会/中央公論新社
開催の背景と論文テーマ設定
本コンクールは、経済同友会会員(経営者)の枠を超え、社会のあらゆるステークホルダーと議論、対話、連携していく多様な場(テラス)をつくり、めざすべき社会像を共に模索し、政策立案に向けた叡智を結集する「みんなで描くみんなの未来プロジェクト」の一環として実施しています。
昨年、創立70周年を迎えた経済同友会は、変化の激しい時代にあっても持続可能な日本の姿を『Japan 2.0 最適化社会に向けて』として提言し、健全な危機感を持って社会を変革していく必要性を示しました。新しい社会を論じるにあたり、国家の基礎となる日本国憲法についての議論を避けて通ることはできないとの意識から、憲法改正に関し、広く国民的な関心と議論を喚起することを視野に入れ、コンクールのテーマを設定いたしました。
応募対象
大学生・大学院生
(2017年12月時点で大学・大学院に在籍する学生・個人。在職中の社会人学生を除く)
審査過程
2017年6月末~8月末にかけて募集。コンクール事務局(経済同友会事務局・『中央公論』編集部)による事前審査を通過した論文を、審査委員会にて(1)妥当性、(2)論理性、(3)独創性、(4)専門性、(5)説得力の5つの視点から判定しました。
審査委員会
(役職は2017年11月9日時点)
審査委員長 | 小林喜光 | 経済同友会 代表幹事 (三菱ケミカルホールディングス 取締役会長) |
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審査委員 | 秋池玲子 | 経済同友会 経済同友会2.0を実践推進するPT 委員長 (ボストン コンサルティング グループ シニア・パートナー&マネージング・ディレクター) |
宇野重規 | 東京大学 社会科学研究所 教授 | |
大八木成男 | 経済同友会 副代表幹事/憲法問題委員会 委員長 (帝人 取締役会長) |
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篠田英朗 | 東京外国語大学 大学院総合国際学研究院 教授 |