代表幹事の発言

山口明夫経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

公益社団法人 経済同友会
代表幹事 山口 明夫

冒頭、長谷川閑史元代表幹事の訃報について言及した後、記者の質問に答えるかたちで、日本銀行の利上げ・金融政策、第二次高市改造内閣、AI開発スピードの抑制、年金制度改革等について発言があった。

山 口:長谷川閑史元代表幹事のご逝去について申し上げる。長谷川元代表幹事は、東日本大震災という国難の直後、2011年4月に代表幹事に就任された。自ら被災地に足を運び、全国の経済同友会と連携して「IPPO IPPO NIPPONプロジェクト」の立ち上げに尽力され、一貫して東北の復旧・復興に寄り添われた。このプロジェクトは本会にとって重要なレガシーであり、現在も能登や熊本(の被災地へ)と支援対象を変え、地域の復興に大きな役割を果たしている。また、安倍政権下においては、政府の産業競争力会議に民間議員として参加し、歯に衣着せぬ発言で成長戦略に関する議論をリードされた。特にTPP交渉の加速、岩盤規制の打破、国家戦略特区の推進など、民間の力を引き出し、成長につなげるための改革を強く主張された。本日、本会の幹事会において黙とうを行い、改めて長谷川元代表幹事のお人柄とご功績を偲んだ。私自身、長谷川元代表幹事と海外出張をご一緒したことがあり、企業変革の重要性や、日本企業が世界で勝っていくために何に取り組まなければならないか等、飛行機の中を含め道中、様々なことを教えていただいたことを思い出す。

Q:日本銀行は本日、政策金利を1%程度から1.25%程度に引き上げることを決定し、31年ぶりの高い水準となった。審議委員2人が反対票を投じているが、今回の判断について所感を伺いたい。

山 口:(利上げは)様々な議論をした結果だと思うが、景気は非常に強いとみている。銀行貸出も前年比6%(程度)の伸びとなっている。また、物価についても(8月の生鮮食品を除く総合指数の上昇率は前年同月比)1.7%であるが、恐らく、政府の補助金によって上振れが抑えられている面もある(のではないだろうか)。その分が今後徐々になくなることを考えると、インフレ(率)はさらに上昇する可能性がある。企業物価指数も7%を超えており、全体として強含みの状況にある。そうした中で金利をしっかりと引き上げ、継続して(経済や物価の動向との)バランスを取っているのではないかとみている。

Q:今回の利上げを評価しているということか。

山 口:経済界としては適切な水準ではないかと考えている。

Q:2024年に金融政策の正常化が始まって以降、今回は前回の利上げから3カ月と、最も短い間隔での利上げとなった。日本銀行は基調的な物価上昇率が2%を上回るリスクも意識していると思うが、市場では今後、利上げのペースが速まるとの見方もある。こうした積極的な利上げ姿勢をどのように評価しているか。

山 口:積極的か消極的かというよりは、現在の市場動向を適切に分析していることは間違いないと思う。銀行貸出は金利を引き上げた後も前年比6%(程度)増加している。M&Aや設備投資などに起因していると思うが、結果として経済が非常に強いことを示していると思う。一方で、上振れリスクとして、AIの(進化)や中東情勢などもみていかなければならない。そうした状況を踏まえれば、現在の金利水準は適切に判断されたものと考えている。

Q:ベッセント米財務長官は、(日本は)リフレ政策をやめるべきではないかとの趣旨の発言をされ、日本銀行の利上げを促すかたちとなった。また、今回は政府から利上げを牽制するような発言もなく、日本銀行にとって利上げを行いやすい環境だったと考える。この経緯を踏まえ、今回の利上げをどのように受け止めているか。また、今後の金融政策に対して、政権はどのような距離感を持つべきかを伺いたい。

山 口:日本銀行は、基本的には日本の物価、インフレの状況をしっかりとみた上で、独立した形で適切に判断していると理解している。もちろん、米国や欧州との金利差が為替に大きく影響し、その結果としてインフレがさらに助長される環境もあり得る。国内景気の強さ、中東情勢、AI等の進化によって景気がどの程度上向くのか、これまで実施されてきた補助金がなくなった場合にどのような影響が生じるのかもみていく必要がある。さらに、日本では供給制約も考慮しなければならない。人材不足等によって人件費が大きく上昇しており、それもインフレを上振れさせる一つの要素だと思う。(日本銀行は)そうした状況全体をみながら適切に判断していると考えている。政府の(意向による)ものではなく、マーケットをしっかりとみて判断し、今後も金融政策を継続していくのだと思う。

Q:第二次高市改造内閣が発足した。党役員人事が決まり、経済政策を担う主要閣僚は留任となった。経済界としての受け止めを伺いたい。また、AIについて、開発事業者から開発スピードをある程度コントロールした方がよいのではないかとの発言が出ている。AI業界に身を置いてきた代表幹事に所感を伺いたい。

山 口:まず、第二次高市改造内閣の発足については、経済政策、成長を継続的かつ力強く推進する布陣であると理解している。中長期的な視点に立った政策運営と財政の持続可能性の確保について、これまでどおりしっかりと対応していただきたい。AI(の質問)については、Anthropic、OpenAI(等)から(AIの)開発スピードを少し緩めた方がよいのではないかという話(が出ている件について申し述べる)。どんどん進化するAIについて、現在、人間が管理しているガバナンスの中でコントロールできなくなってきている事象が現れたため、そのような判断をしていることは間違いない。例えば、自動車がどんどん進化し、街中を走り回るようになってきたものの、ブレーキ等の性能が上がっておらず、信号や交通ルールなどもまだ十分に整備されていない状況(を想像してほしい)。一度、少し(開発)スピードを落とし、ガバナンスや様々な仕組みの確立を並行して進めながら、前に進んでいくことは重要である。そのような判断もあると、私は前向きに捉えている。

Q:実際にAI(開発)の現場を見ている中でも、コントロールできない未来がかなり迫っているという肌感覚はあるのか。

山 口:確かにAIをコントロールできていない事象が少しずつ現れてきていることは事実だ。しかし、決して未来永劫コントロールできないとは思わない。様々なガードレールや仕組みを整備することによって、適切に社会に浸透していく環境をつくることができると思う。その重要性が、今回、「開発スピードを落とす」という(形で)社会へのメッセージとして出てきたのではないかと思う。

Q:AIをコントロールできない事象が出てきているとのことだが、具体的にはどのような内容か。また、技術開発とルールの整備を今後どのように進めていけばよいか。

山 口:AIエージェントが暴走して、本来アクセスしてはいけない情報にアクセスしてしまったといったことが、現在起きている。そこは本来、人間がいくつか設計をして、動きをコントロールできるものと思っていたが、その範囲を超えて動き始めたというのが具体的な事象である。人材の例に置き換えると、例えば100人採用し、この仕事をしてもらう(と決め)、それを遂行する人たちだと期待していたものの、そのうち何人かが、範囲を超えて様々なことを勝手にやり始めた事象、と理解いただくと分かりやすいかもしれない。(技術開発と規制の整備をどのような関係で進めるかについては)大きく二つある。(まず)技術的にしっかりと管理する仕組みをつくり上げることである。例えばAIエージェントが企業の中で数多く動くとすると、「このAIエージェントはこの領域で、このデータにしかアクセスできない」「こういう業務しかしてはいけない」というように、その範囲を定義する。それをコントロールするプラットフォームをつくり、勝手に様々なことをしないようにする仕組みである。これは技術的に可能であり、どんどん導入していくことになるだろう。(もう一つは)法的な対応というより、暴走したとしても大丈夫なように、大事なデータにアクセスされないよう格納場所をしっかりと管理していくことである。そうした両方の方法があると思う。

Q:(現在の状況はAIが)人智を超えたシンギュラリティに入ったということなのか。(AIが)人智を超えて、制御不能になる可能性はあると考えているか。

山 口:(シンギュラリティに入った)ということではない。AIはあくまで人間に取って代わるものではなく、人間の能力を補完するものと考えている。例えば、人間が計算すると1年かかるものを数秒で(計算)することは十分可能だと思うが、それ以外のところはまだまだ代わるものではないと私自身は思っている。一方で、人間の能力を超え、自律的に色々なことをできるようになると仰っている方もいるため、もう少し状況を注視する必要がある。

Q:金融政策で(物価上昇を)抑制するために利上げを行う一方、財政政策では、ガソリン補助金を継続するなど、依然として拡張的な政策が取られている。一般的に、ポリシーミックスにおいて双方が同じ方向を向くことが通常だと思うが、高市政権のこうした財政政策について、どうお考えか。

山 口:財政政策自体は、成長を求める場合には重要な施策だと思う。前回も申し上げたが、これを企業経営に当てはめると、企業が成長を目指す際に、各事業部門が様々な投資案件を検討し、より効率的に利益や売上を生み出す方法を考えていく。一方、ファイナンス部門は、企業全体として利益を確保できるのか確認を行い、こうしたアクセルとブレーキのバランスを取りながら経営していく。アクセルを踏むべき局面において、経営トップがコスト削減と足元を固める発言(ばかり)をしていては絶対に成長しない。このバランスの中で、現在、様々な形で新しいことに挑戦しているのであり、私は非常にポジティブに捉えている。ただし、そうした環境に甘んじることなく、我々企業も再編を進めながら、人材投資や研究開発を行い、国内外の市場を開拓しながら成長していく必要がある。経営者の責務として、この環境を最大限活用し、徹底的に活動していくことが重要である。

Q:第二次高市改造内閣の発足にあたり、昨日公表されたコメント(『第二次高市改造内閣の発足にあたって』2026年9月17日)では、「いまを生きる世代の利益にとどまらず、将来世代に対する責任を基軸に据えていただきたい」と述べられている。この発言に込めた思いと、具体的にどのようなことを念頭に置いているのか伺いたい。

山 口:社会保障制度を含め、税のあり方を今後どう考えていくべきか、まさに様々な方々が知恵を出し合って考える時だと思う。短期的には、一部の方が我慢をしなければいけないケースもある(だろう)。しかし、日本全体、かつ将来を考えたときに、それが最終的にベストであるという判断になるケースもあると考える。そうしたプロ・コンも含め、短期・長期の観点から、様々なことを国民全体で共有し、取り組んでいく(べきだ)との思いを文章に込めた。全員が幸せな政策(というものがあるとして)、初めからそれだけを延々と続けるのはほぼ不可能である。ある時には誰かが負担し、(別の)誰かがメリットを享受することもあるが、最終的には皆にとってよい形になるというロードマップや仕組みを考えていくことが肝要である。

Q:国民年金の第3号被保険者制度について、9月に厚生労働省が検討会を立ち上げ、見直しに向けた議論を始めた。経済同友会は廃止を求める立場にあると理解しているが、代表幹事の考えを伺いたい。家族構成や社会の変化を踏まえて廃止を求める声がある一方、育児や介護で働けない人に保険料を課すのは厳しいという声も根強い。対象者を絞って制度を存続させることも検討すべきなのか。また、経済同友会は2024年の提言で、基礎年金部分の保険料徴収を段階的に廃止し、全額税方式に移行すべきと主張していた。消費減税や防衛費強化など、財源確保が大変になっているが、この主張に変わりはないか。

山 口:2024年公表の提言通り。第3号被保険者について、その考え方は変わっていないが、子育て世代や働けない方々には何らかの減免(を行う)など、別の方策も組み合わせて最もよい方法を考えるということがベースである。また、基礎年金の保険料を全て税にした方がよいのではないかということも、経済同友会の考え方として(維持して)いる。ただ、ピース(個別制度ごと)で考えるのではなく、法人税や消費税をどうするのか、そもそも税のあり方はどうあるべきかということを(総合して)本会では議論をしており、いずれ皆さまにも共有させていただきたい。(具体的には、)二つに取り組んでいる。一つは、給付付き税額控除のモデルはどうあるべきなのか。近々提言を発表させていただく予定である。(もう一つは、)法人税や防衛費(の財源)、先ほどの第3号被保険者制度など、様々な要素を全てテーブルに載せて、短期、中期、長期の(観点から)見た(あるべき)姿を議論し整理している。

Q:第3号被保険者制度は従来通り段階的な廃止を求める、基礎年金を税方式にするという主張は現時点では変わらないということか。ただ、社会保障全体を見渡して、給付付き税額控除も含めた議論を現在行っているという理解でよいか。

山 口:その通りである。第3号被保険者の部分だけを(単独で議論して)「廃止・賛成」とするような話ではない。別の対応を取るべき方々に対しては、その案もきちんと示すよう整理をしている。

Q:AIの開発減速論については、トップランナーであるAnthropicから(開発抑制の動きが)出たということと、数日前には急進左派のバーニー・サンダース氏と、トランプ大統領の元側近のスティーブ・バノン氏から、原則や規制が必要ではないかという声が出ており、超党派で(規制が)必要ではないかと(訴えている)。この意義について改めて伺いたい。また、先ほど例に挙げられた自動車も長い時間をかけて進化し、人命被害も発生する過程で規制も発展した。一方、AIは指数関数的に技術が発達し、規制がなかなか追いつかない面もあり、かつ、その影響は一部にとどまらず幅広い影響や被害が考えられる。技術革新と規制のあり方はどうあるべきと考えるか。

山 口:(AIは技術発展の)スピードと影響を及ぼす範囲が非常に広いことは、おっしゃる通りである。もし、ネガティブなインパクトが出ると、社会全体に大きな影響を及ぼすことが十分に考えられる。そのため、スピードを落とそうという判断になったのだろう。それは、私は適切な判断だと思う。AIを提供する企業側や、プロセッサー製造、データセンターなどの経済圏は非常にいい形で成長しているが、AIを使うユーザー側は、効率化や供給制約、人(手不足)の解決にはなっているものの、(AIによって)新たなビジネスをつくり上げることができているとは言えない。AIを利用して新しいビジネスを構築することを考えていかなければいけないと思う。また、本会では教育革新委員会を立ち上げたが、その趣旨は、AIによって教育のあり方や求められるスキルが大きく変わること(に対する検討)である。実社会において、この変化になかなかついていけていないということで、(この課題を)冷静に整理をしていかなければいけない時だと思う。とはいえ、おそらく(この変化のスピードは)止まらない。様々な方が研究開発を行い、様々な企業がさらに次のステップを狙って活動をしている。1週間後には、もしかすると私は異なることを申し上げているかもしれない(というほどに変化は激しい)。非常に注意していかなければならない状況だと考えている。

Q:Anthropicのダリオ・アモデイ氏がそういった(開発抑制という)ことを提言したことには意味があるが、開発のモメンタム自体は、なかなか減速しないだろうということか。

山 口:その企業(Anthropic)についてはそうかもしれないが、(開発を)止めない企業はおそらく止めないと思う。どんどん進めていくだろう。「世界全体で合意しましょう」と決まればそういった動きになるが、どこまでガバナンスの効いた形になるか。(なかなか)そうならず、難しい環境にあると思う。

以 上
(文責: 経済同友会 事務局)

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