代表幹事の発言

山口明夫経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

公益社団法人 経済同友会
代表幹事 山口 明夫

冒頭、自然災害について言及した後、記者の質問に答えるかたちで、長期金利上昇、令和9年度予算の概算要求、消費減税財源、時間外労働一律抑制の見直し、デジタル活用による地方自治体間の遠隔連携、原子力バックエンド、温暖化対策、クールジャパン機構(海外需要開拓支援機構)等について発言があった。

山 口:自然災害の影響について(述べたい)。千葉県、福井県、石川県、富山県において、集中豪雨により被災された方々に心よりお見舞い申し上げたい。経済同友会にはNPOを含む様々なメンバーが所属している。例えば、特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパンの大西健丞 副代表幹事や、クラウドワークスの吉田浩一郎 幹事(が代表理事を務める、一般社団法人 災害時緊急支援プラットフォーム)のチームが現地に入り、できる限りの支援に取り組んでいると聞いている。経済同友会としても、何か対応できることがあるのか、引き続き考えていきたい。

Q:本日、長期金利が一時3%台に上昇した。高市政権発足以降、長期金利上昇のトレンドが続いているが、その要因と日本経済への影響について伺いたい。

山 口: 一番の要因は、中東情勢が非常に不安定になっており、なかなか解決のめどが立たないことによるインフレだと思う。国内に目を向けると、人手不足が非常に厳しい状況にあることも一つの要因である。また、各国、特に日本の財政や国債需給への懸念も要因となっているのではないかと考えている。加えて、ベッセント米財務長官がG20において、日本は利上げをした方がよいという趣旨の発言をしたとの記事を拝見したが、それらも影響しているのではないかと考える。この金利の動きは、最終的には為替にも影響し、経済界にとってプラス、マイナスの両面で影響があるため、かなり注視している。

Q:厚生労働省は、企業の時間外労働に対する労働基準監督署の指導について、これまで月45時間を超える時間外労働が可能な企業に対しても一律に指導してきたが、経済界からの要望も受け、9月からこれを見直すということである。今回の見直しについて、受け止めを伺いたい。

山 口: 労働時間に関する全体のルールは引き続き担保されており、その中で、局所的な(人材の)需給バランスにうまく対応できるよう考慮されたものだと受け止めている。仕事内容や環境に応じて企業が判断できる柔軟性を持たせることは、よいことだと思う。一方で、ベースとなるのは働く社員の健康である。身体面、精神面の双方をしっかりと見ながら対応していくことは、これまでと変わらず重要だ。また、時間で(仕事を)測るよりも、いかに生産性を向上させるかを考え、人手ではなくAIやロボティクスにシフトできるところはシフトすることにより、極力、人間が従事する仕事の量を減らしながら、付加価値を高めていく。そのような形で進めていくことが重要だと思う。

Q:急ピッチに上昇した長期金利の動き方と、設備投資や国内不動産市場への影響などについて改めて伺いたい。

山 口: (長期金利上昇の)スピードについては、この(3%という水準)辺りまでいく可能性はあるのではないかと、おそらくマーケットも各企業も予測の範囲だったと見ている。経済状況としては、この後、日米の金利差がどうなっていくのか、為替に大きく影響を及ぼすため、状況をしっかりと見極める必要があると考えている。

Q:食料品の消費税減税に伴う代替財源の確保を巡って、野党などから法人増税を求める声が聞かれるようになった。財源の捻出は必要だと思うが、法人税に狙いを定めるというのは、成長投資を促す政府の施策との整合性や、国際競争力の観点から疑問に思うところもある。代表幹事のお考えを伺いたい。

山 口: 国際競争力を削ぐような結果になってはいけないと思う。一方で、一つの財源であることも間違いない。それによるメリットとデメリットをしっかりと評価した形で、判断をしていくことになると思う。反対でも賛成でもないが、一つの財源として、しっかりと検討することが重要だ。

Q: 8月17日に発表された地方自治に関する提言(2025年度地域共創委員会『人口減少時代の地方自治 ―単独・自前型から連携・分業型への転換―』)について、地方自治体が単独・自前で全ての住民サービスを提供するのではなく、連携や分業を提言していた。今のような災害時や復興支援においても必要な視点だと思うが、必ずしも近接する自治体と連携するに限らず、デジタル技術を活用すれば飛び地ともつながれて効率化できるという話だった。実際にこのようなケースや可能性があるのか、デジタルを活用した広域連携による行政の効率化があり得るのか伺いたい。

山 口: 日本全国で人口が減少していく中で、適切なサービスを提供する事例として、例えば地方銀行が挙げられる。地方銀行は昔、各金融機関の中にそれぞれのITの基幹システムを持っていたが、複数の銀行が1つのコンソーシアムになって、共有できるところは共有しようという取組みがある。各行で個別にサービスを提供するところは行う。それで全体の費用、それからスキル不足や人手不足(を解消し)、全体でのサービスレベルを上げていく。そのような対応に取り組まれている。それらは公共のサービスについても十分適用できると思う。教育やおそらく病院のシステムもそうだろう。物理的にそこにいる必要がなくなり、様々(連携の)パターンがこれから生まれてくるのではないか。

Q:来年度予算の概算要求が、総額で140兆円超になる見通しについて、所感を伺いたい。また、これが財政悪化への懸念に繋がり、長期金利(の上昇)に影響したという見方もあるようだが、見解を伺いたい。

山 口: 概算要求は、143兆円(前後の見通し)と理解している。しかし、2026年度の当初予算と2025年度の補正(予算)を合わせると140.6兆円となり、2~3兆円程度の増額となっている。今回の概算要求は、補正(予算)も組み込んでいると説明されていることから、apple to appleで比較すると2~3兆円の増額レベルであると考えている。ただ、事項要求がいくつか書かれており、それらがどの程度の規模になるのか、今後ウォッチしていかなければならない。企業経営に当てはめて考えてみると、社長が各事業部に「来年はもっと経費を削減しよう」と言うと、(それぞれが)昨年よりも低い金額で一生懸命に(業務を)するが、やり方を(大きく)変えるなど、よほどのことが無い限り対前年比で売り上げは伸びない。別のダイレクションで、ある程度の費用(増加)は見るが、昨年より10%売り上げを伸ばす方法を考え、成長にコミットしようという場合、もちろん(費用は)積み上がってしまうが、大事なことは積み上がったものを会社全体で見てみることだ。この(概算要求の)ケースでは国全体で見て、短期に最も効果の出るもの、中長期的に効果が出るものをしっかりと精査をして費用の割当ての優先順位をしていくことが一番重要であると思う。また、これまでの(予算の)使い方を精査し、ワイズスペンディングを含め、短期、中長期(それぞれ)の投資対効果を見ながら、予算のアロケーションを検討していくものと考える。その成り行きに注目していきたい。

Q:昨日、国から茨城県の自治体に(高レベル放射性廃棄物の)最終処分の文献調査を申し入れた。それについては前進(した)と思うが、他方で(日本原燃の)再処理工場の竣工は(今年度中という目標時期から遅れ、)来年度以降に延期(の可能性)も取り沙汰されている。バックエンド政策に対する今の評価を伺いたい。

山 口: バックエンド事業については、再処理工場を含め、様々取り組んでくださっていることは評価している。原子力の稼働は経済成長を含めて十分な貢献をする一方で、(廃棄物の)処理の問題など、課題もある。極端な話、原子力を動かさずに経済成長を抑えるのか、(もしくは)ある程度原子力を動かし、課題にも正面から対応していくのか。このバランスをどうしていくのか、その全体を見ていくこと(が肝要)だと思う。

Q:柏崎刈羽原子力発電所(6号機)が再稼働し、フロントエンドは前進している感がある。今後、政府にはバックエンドも同様に前進させてほしいということでよいか。

山 口: そのとおり。ただ、エネルギー(源)は原子力だけではない。自然エネルギーも含め、どの時点でどこまで行うのか、その際どんな課題があるのか、中長期なロードマップがどんどん共有されていくことが望ましい。その(時々の)状況は、技術の進歩や様々な環境で変化していくため、それを更新しながら、都度、建設的な議論をして前に進めていくということだと思う。

Q:2年間の(食料品の)消費税減税の財源の議論として、政府においても法人税が俎上にのぼった場合、検討に値するという理解でよいか。また、メリットやデメリットには現時点でどのように考えているのか。

山 口: 法人税を上げることによって、今の継続的な賃上げに影響が出るかもしれない。また、国際競争力を削ぐ可能性があるかもしれない。そうであればマイナスであるが、影響が軽微であれば、財源を確保する方法の一つとして、選択肢としてあると思う。この点は整理をしていくことになると考えている。

Q:長期金利の上昇は、日本だけではなく世界全体で起きていることを踏まえ、考えていく必要があると考えるか。また、政府の純資産に与える影響や状況を見ていかないと、適切性を欠く気もする。これらを含め、日本の経済財政政策への示唆を伺いたい。

山 口: 色々なパラメータがある中で、金利(上昇)は日本だけの話ではない。米国でもいろいろな議論が起きており、非常に注視している。日本銀行も含め関係者の方々には、外交を含め、全体を見据えた上で適切に金融政策を実施いただくことを期待している。

Q:法人税の問題も国際的な状況が非常に関係する。法人企業は(どの国に)立地するかによって、法人所得税の課税率を下げてきた過去の歴史があり、(国際的な法人税率)引下げ競争が生じてきた。その中で日本(の法人税)だけ高止まりをしていいのかということが、これまで課税率を引下げの議論だったと思う。その議論が米国で起きており、それらの状況を見極めて国際的な潮流を見定めて、自分たちのやり方を変えていかなければいけないのではないか。

山 口: 国際競争力と申し上げているのは、そのような部分の話のことである。

Q:令和9年度予算の概算要求が、長期金利の上昇要因になっているとの見方もあるが、見解を伺いたい。

山 口:概算要求が長期金利(上昇)の一つの大きな要因になっているかは、現時点ではまだ明確ではなく、今後、より明確になるだろう。さらには、年間5兆円(規模)の消費税減税に係る財源の話も、今後、明確になるだろうし、防衛費の拡大も一つの要素として残っていると思う。それらが出揃い、着地点が見えてくれば、金利や為替に影響してくることは間違いないと思う。

Q:消費税減税や防衛費(の拡大)のいずれも現時点では、長期金利への影響をそこまではっきり言える段階ではないということか。

山 口: そのとおりである。

Q:多発する自然災害を地球温暖化の影響と捉えているのか。仮にそうであれば、温暖化対策は今がラストチャンスとも言われる中、経済団体として会員企業や国への働きかけや、国際的な課題として積極的に関与・発信していくことについての見解を伺いたい。

山 口: ご指摘はもっともだと思う。(国内の)集中豪雨のほか、欧州では大規模な火災も起きている。最近では、ネパールでの土石流(による洪水被害)もある。そうした(災害の)要因が温暖化によるものなのかどうかについては、私は専門家ではないためわからないが、(自然災害の発生状況が)過去と現在とでは明らかに異なる。(自然災害の多発が)温暖化によるものであれば、本会としても(自然災害との関係性について)調査し、強く発信するべきものと考える。

Q:クールジャパン機構の廃止が検討されたことについて伺いたい。本件は、官による目利きが十分に機能しない場合、官民ファンド運営の危うさを示す証左になったと思う。今回の(日本成長戦略における)17の戦略分野への370兆円の官民投資に与える影響などについて、見解を伺いたい。

山 口: (詳細を把握しているわけではないが)予算の概算要求の件と同様であると考える。370兆円の官民投資についても、世の中の変化が激しい中では、当初の計画通りに投資から確実なリターンを得られるとは限らず、10戦10勝というわけにはいかない。したがって、最も重要なことは、投資し、予算をつけて実行する中で、想定通りの効果を得られない、もしくは、ほとんど効果がないと見極めた際、すぐに止めることができる仕組みである。一方で、(投資に対して)大きな効果が期待できる、あるいは想定以上の効果が見込まれると判断した領域には、そこにヒト・モノ・カネを集中させるといった柔軟な運営は極めて重要であり、その辺りをしっかりと実行していただきたい。企業も同様に様々なところに投資し、短期的、あるいは長期的にリターンが得られると考えて事業を進める。しかし、環境や世の中の情勢が変われば、早期に(事業を)止めると判断することもある。この判断には勇気がいることである。これまでに多くの資金を投じてきた、あるいは一定の約束をしてきたという事情があったとしても、状況に応じて変えていかなければ、傷口が大きくなる。私が申し上げるまでもなく、政府においても、そうした点をしっかりと検討いただいていると思う。

Q:今回は(廃止に向けた)判断が遅かったということか。

山 口: クールジャパン(機構)について、(廃止に向けた)判断が遅かったのか、早かったのかについて、(それを判断できるほど)詳細を把握していない。

Q:9月の日本銀行金融政策決定会合を前に、市場では利上げの織り込みが9割を超えており、ベッセント米財務長官からも利上げを巡る率直な発言があった。政府内には利上げに慎重な見方がある一方、市場の利上げ観測は強まっているが、この状況をどのように見ているか。また、金融政策(を担う日本銀行)の独立性について、代表幹事個人の考えを伺いたい。

山 口: 個人的な意見として、日本銀行も当然、さまざまな市場の声やデータを踏まえ、しっかりと独立性を担保し、あるべき姿を追求しながら判断するものと考えている。それについて、私が(日本銀行に対して)特定の判断を求めたり、その動きが適切でないと申し上げたりする立場ではない。

以 上
(文責: 経済同友会 事務局)

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