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日本再生の戦略を担う新たな「器」の構想を
~「埋没」の危機を乗り越え、いて欲しい国、いなくては困る国・日本へ~
<2020年度 通常総会 代表幹事所見>

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公益社団法人 経済同友会
代表幹事 櫻田 謙悟

代表幹事所見

投影資料

先ごろ、新型コロナウィルス感染症に係る緊急事態宣言が全面的に解除されました。私たちは、ひとまず、想定を超えた危機の第一波を乗り越えることができました。この間、人々の生命と生活、社会活動を守り維持するために、比類ない使命感とプロフェッショナリズムをもって職務にあたられた方々に、深い敬意を表します。こうした皆さまの献身、そして、何よりも多くの国民の他者への配慮と自制心に基づく行動は、日本の伝統的な精神性と美点を体現するものと言えます。

目前の危機は、一旦沈静化したように見えますが、まだ完全に過ぎ去ったわけではありません。むしろ、危機の本質を掘り下げ、新しい現実に適応していくための挑戦が、今まさに始まろうとしています。

経済同友会は、2018年12月に『Japan2.0 最適化社会の設計』を発表し、世界的な大変革の中で日本が目指すべき方向を世の中に指し示しました。

昨年4月に代表幹事に就任してから、このビジョンを受け継ぎ、私なりに発展させていこうと考察を深めて参りましたが、私たちを取り巻く環境は、想像以上のスピードで変化しつつあります。

そこで、代表幹事として二年目の活動をスタートするにあたって、企業経営者が集う団体として、時代環境の変化をどのようにとらえ、直面する課題にどう向き合い、自分たちの役割を果たしていくべきか、所見を述べさせていただきます。

1.コロナ危機を超えて ~危機の教訓を活かし、不確実な未来に向き合うための変革を

新型コロナウィルスの世界的な感染拡大は、個人の生活や価値観、働き方、ビジネスの形態、人と社会との関わりから国際秩序まで、あらゆる面で大きな影響を及ぼしつつあります。これらの影響は決して一過性のものにはとどまらず、人類社会の不可逆的な変革につながるものです。

人類社会は、コロナ危機以前から、グローバル化・デジタル化という変化の潮流によってもたらされた課題や歪みに直面していました。今回の危機は、そのような問題を一気に顕在化させ、増幅しつつあるのではないでしょうか。

第一に、デジタル化の加速に伴う社会不安や格差が挙げられます。

技術革新・デジタル化のうねりは、既存の産業・ビジネスモデルへの破壊的なインパクトや、「人間の仕事」が代替されるといった予測により、人々の不安を拡大させてきました。さらには、価値や豊かさを生み出す源泉であるデータへのアクセスの偏在が、経済的な格差を取り返しのつかない水準にまで拡大させることも懸念されています。

この数か月間、私たちは、物理的な人と人との接触や移動を極限まで制限せざるを得ない状況を経験しました。これを契機に、社会・経済活動のインフラがデジタルへとシフトしていくことは、もはや必然だと言えるでしょう。この変化への適応が国や企業の競争力を決定づけ、また、デジタル・インフラを担うプラットフォーマーの圧倒的な存在感を一層高め、格差のさらなる拡大を引き起こすことが予見されます。

第二に、これまで国際社会の安定を支えてきた前提が大きく揺らいでいることに、強い危機感を持つ必要があります。

貿易摩擦に端を発した米国と中国の対立は、コロナ危機の拡大に伴って一層先鋭化し、もはや歩み寄りの余地が見えない段階に達しているように思えます。この二つの超大国の力学によって、その他の国・地域は、いやおうなく自らの立ち位置を見直さざるを得なくなります。

しかも、日本や欧州を始めとする先進諸国が共有してきた、民主主義と資本主義に基づく多国間連携という国際秩序の原則を奉じるリーダーは、今の世界では少数派になりつつあります。

第三に、人類社会の持続可能性がどれほど重要な課題であるか、世界中が身をもって体感したことが挙げられます。

さまざまな災害が世界各地で猛威を振るったことを受けて、気候変動問題を始めとするグローバルな課題の緊急性と、将来世代に持続可能な社会を引き継ぐことの重要性を訴える声は、急速な高まりを見せています。

今回の危機は、人類社会のさまざまな活動が自然環境に影響を及ぼし、それが思いもかけない形で自らにはね返ってくるリスクを改めて示唆しました。そして、世界のどこにもサンクチュアリは存在しないこと、持続可能な開発目標(SDGs)に代表されるグローバルな課題への対応は、「誰か」のためではなく、「私たち」自身の生き残りと安全、繁栄のために他ならないことを鮮明に描き出しました。

人類の想定を超えた予測し得ないショックの襲来は、決してこれが最後ではないでしょう。世界中の人々の尊い命と引き換えに得られたこの教訓を、実際の変革と行動に結び付けて行けるのか。不確実性の下でも持続的に発展・成長を目指しうる、強靭性ある社会の姿を新しく描き直すことができるのか。それが今まさに問われていることだと思います。

2.埋没の危機に直面する日本 ~自らの強みを活かすための戦略と行動を

こうした時代背景の下にあって、私たちの国、日本は今どこにいるのか。

極めて残念ですが、私には、日本が世界の潮流からさらに置き去りにされ、国際政治やグローバル経済のダイナミズムを受動的に受け入れるしかない、周縁に位置する国として、国際社会の中で埋没していく可能性を毅然として否定できるとは思えないのです。

歴史的に、日本は国難や危機に際して思い切った方向転換を遂げ、国を挙げて新しい環境に適応し、成長と繁栄への道を歩んできました。

しかし、明治維新、終戦に次ぐ「第三の危機」が謳われた1990年代以降、この国は、そうした強靭性や柔軟性を全く発揮できないまま、「茹で蛙」のように、じわじわと現在の状況に追い込まれているように思えます。

この10年程を振り返ってみても、私たちは、リーマンショック、東日本大震災といった「未曽有の危機」を経験し、辛くもそれを乗り越えてきました。それぞれの危機に際して、「先送りされてきた構造的な問題を解決しなければならない」という提言、「改革のラストチャンスを逃すな」という警鐘が繰り返し発信されてきたものの、事態の収束に伴って、それらは空しく立ち消えてしまいました。

国際的な環境がどのように変わろうとも、日本が世界の中で存続していくための条件は、本質的に変わりようがありません。日本は、海に囲まれた地理的条件もあり、歴史的に、言語・宗教・民族に基づく地域的なブロック(圏)との結びつきが薄い、独自の存在でありました。それだけに、基本的な価値観を共有する国々との絆と連帯、経済的な価値の交換なくしては、この国の安全と人々の豊かさを保障することはできません。

人々の知恵と産業の力で高い価値を生みだし、世界的な課題に解を提供し、国際社会の安定と繁栄の増進に寄与すること、その蓄積によって、世界から見て「いて欲しい国、いなくては困る国」であることが、日本の存立基盤に他なりません。

今年5月、アップル、マイクロソフト等、米国の時価総額上位5社の合計が、東証1部の日本企業2170社の時価総額の合計を上回った、という報道がありました。日本がたのみとする経済・産業の力、ただこの一点を見ても、日本の存立基盤が既に危機的な状況にあることは明らかです。

しかも、日本がしのぎを削る相手は、技術革新の恩恵を活かした巨大プラットフォーマーだけではありません。強力な国家主導の下、政治と経済が一体となって大戦略を展開する中国、さらには、米中に対抗し、多様な国々の結束を元に存在感を発揮する欧州等を念頭に置いた際、圧倒的な規模の差というハンディキャップをどう克服するか、まさに、日本としての戦略が見えてこないことが最大の問題だと言えるのではないでしょうか。

時価総額だけで企業そのものの価値を測ることはできませんが、総体として見た場合、日本企業の多くが、卓越した技術やユニークな知見・ノウハウの蓄積を持ちながら、それを十分に価値に転換しきれていないことは明らかです。この点について、なぜ価値創造に資する変革に踏み切ることができなかったのか、私たちは企業経営者として、そして経済団体として、深く自省すべきだと思います。

日本にはさまざまな強みがありますが、中でも、「私」を超えて公に貢献する意識や「三方良し」に象徴されるステークホルダー重視の姿勢は、これからの世界にとってこそ、一層の意味を持つものだと思います。グローバル化、デジタル化の進展に伴う社会のゆがみを前に、従来の資本主義・民主主義が問い直されている中、そのような特質に世界からも関心が寄せられています。

ただ、そのような精神性だけでは、日本が埋没の流れから反転攻勢をなし遂げることはできません。自らの強みを分析し、それを活かす方策を突き詰めて考え、果断に実践する戦略と実行力こそが、今の日本に求められているものです。

3.日本の反転攻勢と再生に向けて ~将来に向けた選択のため、新たな政策形成の「器」を

コロナ危機によって、価値観や政治体制による国家間の分断と、巨大なプレイヤー同士の経済的な覇権競争という時代の基調が鮮明になってきました。こうした中で、日本はどこに向かうのか、自らが希求する国際的な立場をどう確保し、その存続の足場を何によって築くのか。このような長期的な視野に立った問いに答え、国としての戦略を定めていくことが喫緊の課題だと思います。

そうした焦燥感に駆られると同時に、私は、避けて通ることのできない、もう一つの疑問をも抱えています。それは、では誰がその戦略を決めるのか、どのような器を使ってこの国の進むべき道を決めるのか、というテーマです。

これまでにも、高齢化・人口減少への対応、財政、社会保障、教育、人材活用、国と地方の関係など、この国の形を決定づける重要課題について、幅広いステークホルダーがそれぞれの立場から声を挙げ、提言をしてきました。私たち経済同友会も、この国の経済社会の豊かさの実現という観点から、数多くの提言を発表し、世論喚起にも取り組んできました。にもかかわらず、これらの問題について、日本の長期戦略に立った真の議論が行われ、現在と将来に関わる選択において、熟議の結果が現実の政策・制度として具現化してきた例は決して多くはありません。

そうした声は、さまざまな審議会、有識者会議等、行政の所管・権限の枠内に設けられたパイプを通じて吸い上げられ、限られた当事者・利害関係者による議論、複雑に絡み合った、決して容易ではない利害調整を経て、政策という結論に着地します。ただ、日本社会の慣習を踏まえたプロセスは予定調和的で長い時間を要し、結果として導き出された結論も足下の課題の対応にとどまりがちに見えます。

その間、グローバル化・デジタル化に伴う世界的な変化の潮流は加速度的に速度を増してきました。日本がこの流れに追いつき、大胆な決断を下せるようになるためには、避けて通ることのできない長期かつ戦略的課題を論点として示し、国民的議論に供する新たな器を、従来の政策決定プロセスの外側に設けることが必要なのではないでしょうか。

今、日本に必要なのは、既存の政治・行政の機能を外部から補い、社会のあらゆるステークホルダーを変化に向けて突き動かす力を持った、新しい政策形成の仕組みです。日本の潜在性を解き放ち、「勝てる日本」を作っていく志を共有するステークホルダーが、共通の目的に向けて知恵を出し合う場を作ることです。

そこに、産業界・労働界など経済社会、アカデミア、政治、行政、持続可能性や社会性の実現を支えるNPO・NGO等を代表するありとあらゆるステークホルダーが、組織やセクターの垣根を超えて集結し、日本の長期的な繁栄と安全を確保するための重要課題を特定し、日本を再生させていくための論点・選択肢を描いていくことを推進すべきです。

例えば、ダボス会議を主催する世界経済フォーラムは、「世界の状態をより良いものに(improving the state of the world)」というスローガンの下で、各界のリーダーが向き合うべき課題を多様なステークホルダーの目であぶりだし、変革に向けたそれぞれの行動を呼びかけ、促しています。

それと同様に、参加者の自由闊達な議論を通じて、立場や意見の相違はあったとしても、重要な論点・選択肢を共有し、国民に示していくことが必要なのです。

それによって、あたかも企業が生き残りを賭けて、勝負すべき領域を特定し、リソースの最適配分を行うように、日本という国を一つの戦略と共通の危機感の下で有機的に動かしていく、そのような方向に一歩進むための仕掛けを皆様と共に作り出していきたいのです。

4.経済同友会の行動 ~「with/after コロナ」の経済社会像を描き、Do Tankとしてのコミットメントを

私は、今年度を起点として、経済同友会を新たな政策形成の場づくりを担う運動体へと進化させていきたいと考えています。日本の将来を憂いつつも、その潜在力とコアコンピテンスを信じるステークホルダーの共感を引き出し、皆が目線と志を共有しながら議論ができる場を整え、その運営を支えることを、新たな責務として自分たちに課していきたいと強く思っています。

経済同友会は、これまでも、山積する課題解決に挑戦するためには、会員組織の枠を超えて、社会のあらゆるステークホルダーと対話・連携していくことが必須と考え、「みんなで描くみんなの未来プロジェクト」や「日本の未来を議論するラウンドテーブル」等の取り組みを実践してきました。

そして、私は、政策を立案・提言する“Think Tank”機能に加えて、その実現に向けて自ら行動する“Do Tank”機能をより一層強めていきたいと、呼びかけてきました。

現在の日本の状況に照らし合わせるならば、この二つの方向性に添ったさらなる行動、コミットメントが必要だと思います。

そのため、まずは全体の司令塔として、正副代表幹事会の下に「with/after コロナ・イニシアティブ」を設置します。

私と、危機感を共有する副代表幹事の皆さまのリーダーシップの下で、これからの環境変化に対応した経済社会の姿を描き直すための議論を開始し、「Japan 2.0」を進化させていきます。その一環として、他のステークホルダーを招き入れるための中立的でオープンな対話プラットフォームの構想を具体化していきます。

さらに、経済的な危機の克服や制度・規制改革など、スピード感を持って推進すべき政策については、既存の行政の会議体等のパイプを活かして、短期・中長期の両面から提言を行い、積極的にはたらきかけていきます。

同時に、経済同友会のすべての委員会・PT等においても、「with/after コロナ」という環境への適応を問題意識として共有します。財政・社会保障、雇用や人々の働き方、政治・行政の国民に対する責任等、多くの課題について、今回の危機に伴う変化を踏まえた新たな解が必要とされています。中でも、持続的に高い価値を生み出す企業経営を実践し、日本の再生に貢献することは、私たち経営者の最大の責任でしょう。これらの課題に対する解や実現可能な提案を、組織内外の動きと連動しながら、会員の皆さまと共に生み出していきたいと思います。

経済同友会の設立趣意書にて、私たちの先達は、「旧き衣を脱ぎ捨て、現在の経済的、道徳的、思想的頽廃、混乱の暴風を乗り切って全く新たなる天地を開拓しなければならない」と、敗戦からの復興に臨む国民と自分たち自身を鼓舞しました。

経済同友会の思想的伝統は、この強烈な危機感とたゆみない改革への意思、そして、自らの実践・行動に対する企業経営者のコミットメントに尽きると思います。その伝統を踏まえ、今、この時代背景の下で経済団体がなすべきこと、求められる役割を全うしていきたい。そのために、会員の皆さま方のご支持とご参画を心からお願いし、私の挨拶を締めくくらせていただきます。

以上


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