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最適化の考え方と対話の場【2017年度通常総会・代表幹事所見】

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公益社団法人 経済同友会
代表幹事 小林 喜光

はじめに

皆様、本日はご多用のところ、ご出席を賜り誠にありがとうございます。只今、代表幹事としての1期2年の任期を満了し、再任のご承認を賜り、身の引き締まる思いでございます。これから代表幹事所見を述べさせていただきます。

昨年、経済同友会は創立70周年という大いなる節目を迎え、11月21日に過去の延長線上には無い持続可能な新たな日本の姿として『Japan 2.0 最適化社会に向けて』を発表いたしました。そして、本会自身も変わらなければならないとの考えから『経済同友会 2.0 -自ら考え、自分の言葉で発信できる「異彩」集団-』を取りまとめて、その中でテラスのような自由な場を設け、若者を含めた社会の様々なステークホルダーと議論、対話、連携していく決意を表明しました。代表幹事として、本年度は、まさにこれらの決意を実行に移す1年間にしたいと思います。

I.動的な世界が直面するリスクと静的な日本が内包するリスク

この1年間を振り返りますと、国内外で実に多くの動きがありました。

まず、欧州では、昨年6月にイギリス国民がEU離脱を選択し、先月にはイギリス政府がEU離脱に向けた交渉の通知を行いました。1958年の欧州経済共同体(EEC)の設立以来、統合・拡大の道を歩んできた欧州は大きな試練に直面しています。5月のフランス大統領選挙の決選投票、6月のイギリス総選挙、9月のドイツ総選挙は、EUの分散の動きが本格化するのか、歯止めがかかるのか、極めて重大な分水嶺になると考えられます。

そして、何といっても昨年の最大の出来事は、米国大統領選にドナルド・トランプ氏が勝利したことです。自由で開かれた国家を築いてきた米国が「アメリカ・ファースト」という考えの下、保護主義的な姿勢へと大転換しつつあります。TPPからの離脱や地球温暖化対応の後退など、トランプ大統領の政権運営には幾つかの懸念があります。また、昨日、ムニューシン財務長官らが、連邦法人税率を35%から15%へと大幅に引き下げる基本方針を発表するなど、グローバルな競争条件に大きな影響を与える案件も具体的に動き出しています。他方で、大統領令などの政権運営に対する議会からの反発や司法の判断など、チェック・アンド・バランスが機能している点は評価できます。こうした中で、2月の安倍総理とトランプ大統領との会談、先週の麻生副総理とペンス副大統領の日米経済対話など、両国関係が良好であることは、激動の世界情勢下で大変重要であると考えられます。

さらに、安全保障問題を巡っては、今月に入って極度に緊張が高まってきました。米国によるシリア政府軍へのミサイル攻撃、アフガニスタンへの大規模爆風爆弾の投下、朝鮮半島近海への空母カール・ビンソンの派遣や原子力潜水艦ミシガンの釜山入港など、トランプ大統領の断固たる行動によって、東アジアをはじめとする世界の秩序が変化する可能性が出てきました。とりわけ北朝鮮に関して、一時期は一触即発状態になるなど、一見平穏に見える国内は、重大なリスクに直面していると言っても過言ではありません。われわれ国民は一人ひとりが、冷静かつ強い危機意識を持つ必要があるのではないでしょうか。

世界は、経済のグローバル化とともに統合の道を歩んで来ましたが、格差や移民の問題が欧米を中心に顕在化し、自国優先主義の勢いが増しつつあります。グローバル化、デジタル化、ソーシャル化のうねりが不可逆的であることを考えれば、昨今のナショナリズム、ポピュリズムの台頭は、人類の長い歴史の流れの中の一点の澱みであると捉えるべきでしょう。これまでの統合の流れを分断・分散へと逆行させ、過去の時代に回帰させてはなりません。米国を除いたTPP11(イレブン)といった動きには、今後も注目していきたいと思います。

さて、国内に目を転じますと、安倍政権は、近年稀に見る長期かつ安定した政権です。アベノミクスは5年目を迎え、いわゆる6重苦は一定程度緩和されました。しかしながら、企業収益を大きく左右する為替は、国際情勢によって大きく振れるリスクがあります。企業は、いわば風にそよぐ“葦”のような存在であり、政府にあっても為替を中長期的にコントロールすることは不可能です。未だデフレから完全には脱却しきれず、足元の消費は力強さに欠けています。こうした厳しい状況の中でも日本経済が持続的に成長していくには、まず、経営者自身が心の内なる岩盤を打ち破って、事業の再編・統合の推進や新事業の創造に果敢に挑戦しなければなりません。同時に、政府には構造改革の徹底推進と、成長戦略の更なる積極展開を期待したいと思います。

わが国の財政について、国際公約である2020年度の基礎的財政収支黒字化目標の達成は、消費税率引き上げの再延期などによって一層厳しくなっています。また、社会保障制度は、団塊の世代が後期高齢者になる2025年までに持続可能にしなければなりませんが、その目処は全く立っていません。今月、5年ぶりに発表された将来推計人口は若干の改善が見られました。しかし、それでも約50年後の2065年には1人の高齢者を1.34人の現役世代で支える「肩車型社会」になることは避けられません。長期視点で受益と負担のあり方を抜本的に見直さない限り、国家財政は立ち行かなくなることは必至であります。

II.相矛盾する状況下で最適解を見出す

このように、ダイナミックに変化する世界は予測不可能なリスクに直面している一方で、変化を嫌う日本は見過ごしやすいリスクを内包しています。日本経済は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会が行われる2020年頃までは安定的に推移していくと思われます。しかし、2021年以降に極めて深刻な状況に陥る危険性があります。したがって、これに対する考察と準備を今からしっかりと行わなければなりません。

わが国では政治も行政も企業も「今さえよければ、自分さえよければ」と不都合な真実を直視せず、問題を先送りしてきました。その結果、社会が閉塞感に覆われ、改革の遅れの歪みがいよいよ臨界点に近づいています。

昨年度の代表幹事所見の中で、X・Y・Zの3つの軸を用いて様々な事象を最適化し、国家価値の最大化を図ることを述べました。具体的には、X軸が経済的豊かさの実現、Y軸がイノベーションによる未来の開拓、そしてZ軸が社会の持続可能性の確保です。これらを3次元で表し、時間的要素も加えて考えると、それぞれが相互に関連、相矛盾して利害が錯綜することが多く出てきます。国家価値を最大化する最適解を見出すことは容易ではありません。

以下では、「Japan 2.0」で列挙したZ軸の6つの政策分野に沿って、二律背反、相矛盾する状況を、具体的に紹介します。その上で、これらに対して、真実を直視し、せめぎ合いを冷静に分析し、如何にして最適解を見出していくのかを本年度事業計画を踏まえながら考え方を述べて行きます。

1.人口・労働

第1は、人口・労働です。人口は国力の基礎であり、少子化対策に最大限の努力をすべきですが、総人口が長期的に減少していくことは避けられません。最新のデータを見ても、現役世代は単調減少し、高齢世代は単調増加しています。また、地方では人口減が進み、都市では人口増が続いています。その結果、地方ではいわゆる限界集落が増え、人手不足などによって地域社会の維持が出来なくなると言われています。それとは対照的に、人口が増加・集中する都市部では、保育園の待機児童や特別養護老人ホームの待機者の問題等が深刻化しています。特に、東京周辺では単身高齢者が益々増加することが予想されていますが、その準備を怠ることは許されません。

人口・労働の問題の最適解を模索する上で、鍵を握るのが働き方改革や地方創生であると思っています。まず、長時間労働を是正すべきことは論を待ちません。その上で、わが国の産業構造、就業構造を考えれば、勤務時間に比例して付加価値や賃金が増えることを前提とした制度は、是が非でも改革しなければなりません。多様な働き方の実現には、労働市場の更なる流動化も必要です。また、地方都市への集住化を進めて需要と供給の密度を高めるとともに、地方都市の間を既存の新幹線や高速道路等を上手く利用して、人流と物流を活性化すれば、様々な可能性が開けるでしょう。

働き方改革や地方創生とは、むしろX軸、すなわち生産性向上こそが主目的であるということを忘れてはなりません。

2.教育

第2は、教育です。グローバル化、デジタル化、ソーシャル化が進む中で、次世代育成に必要な教育は、長期化、高度化、多様化、そして高額化する傾向にあります。しかしながら、わが国の現状は、貧困に伴う就学機会格差の拡大、海外留学生や博士課程進学者の著しい減少などの問題を抱えています。

そこで、教育費の負担や社会人として活躍するという観点から最適解を考える必要があります。自由民主党の2020年以降の経済財政構想小委員会は3月に「こども保険」の導入を提案しました。幼児教育・保育を実質無償化する第一歩とのことで、その財源や負担のあり方を巡って様々な議論があるようですが、無償化は賛成です。本会も3月に発表した提言『子どもの貧困・機会格差の根本的な解決に向けて』で、就学前教育の義務化・無償化、義務教育期間の完全無償化、高等学校の義務教育化を求めています。その費用は国が負担すべきとしていますが、無償化に必要なお金は、費用ではなく未来への投資と考えるべきです。

また、デジタルネイティブやミレニアル世代はIT教育を受けなくても自由自在に情報を収集・活用していると言われていますが、国民のITリテラシーの底上げと、データサイエンティストなど高度専門人材の育成には教育の見直しが急務です。

さらに、教育段階で「教える」から「学ぶ」へ、いわゆるアクティブ・ラーニングの習慣を身に着けることは重要です。加えて、企業が協力してインターンシップを大学の1~2年生の頃から1ヶ月程度体験することで、リアルな職業観を養うことも重要です。この様な取り組みによって、就職ミスマッチを減らすとともに、課題に能動的に対応できる社会人の育成につながるのではないでしょうか。

3.社会保障

第3は、社会保障です。制度が持続可能性の危機に瀕していることは周知の事実です。今年は診療報酬・介護報酬の2018年度同時改定の議論を行う年です。高齢者人口の増加に伴って、社会保障給付費の増加は、ある程度はやむを得ません。ただ、Y軸であるイノベーションに注目すると、高度先進医療を保険収載することによるコスト増加は避けがたいですが、一方で効率化や省力化に係わるテクノロジーで大きなコスト削減ができるはずです。しかし、現実は削減努力が徹底されず、成果が挙がっているとは思えません。カルテやレセプトの電子化とオンライン化は一定程度進みましたが、医療・介護分野におけるビッグデータ化、社会保障分野でのマイナンバー活用などデータヘルス分野での課題は山積しています。

また、公的保険である医療保険と介護保険には、これまで効率化という発想が感じられませんでした。供給サイドからみると、医療は基本的に出来高払いであったために過剰診療・過剰投薬になりがちで、介護は介護度を改善させると事業者は収入減になってしまいます。一方、被保険者は医療や介護の給付を受けても、受けなくても、保険料負担は変わりません。これではモラルハザードが起きるのは必然で、インセンティブ、ディスインセンティブの両面から制度を再設計するべきです。これに加えて、データを基礎にした保険者機能の強化を図らなければなりません。

4.財政健全化

第4は、財政健全化です。先進国でも最悪の財政状態から脱却すべきという総論に反対する人はいないでしょう。しかし、アベノミクスの3本の矢で取り上げられた金融政策、財政政策、成長戦略に加えて、消費税率10%は未だならず、政治と民意が複雑に絡み合い、結果として財政状態は悪化の一途を辿っています。

経済学者トーマス・セドラチェクは、著書の中で「Gross Domestic Product(GDP)は、Gross Debt Product(GDP)ではないか」と述べています。経済が成熟した国では、短期的な景気刺激策はGDPの成長よりも、むしろ債務の累積に終わる可能性が高いということを指摘していますが、これこそ最適解の追求が求められる課題です。

もちろん、X軸、すなわち稼ぐ力を基礎にしたGDPの成長は必須であり、生産性向上が中心的な課題であることに異論はありません。政府は成長戦略として、ビジネス環境ランキングで2020年までに先進国中3位以内を目指すという目標を掲げています。しかし、2013年以降、残念ながら年々低下して、2017年はOECD加盟国の中で26位という状況です。この流れを変えるためには、抜本的な規制緩和、行政手続きのIT化・ワンストップ化・効率化が必須となります。

一方、財政健全化においては、「如何にして出ずるを制すか」ということが最優先課題となります。自助・共助・公助を冷静に分析し、受益と負担のあり方を問い直す必要があります。

われわれに必要なことは、稼ぐ力の追求、内需の拡大、出ずるを制すの3者間に最適解を求めることに他なりません。

5.環境・エネルギー

第5は、環境・エネルギーです。2015年12月のCOP21で合意に達した「パリ協定」を受けて、わが国は温室効果ガスの排出を2030年までに2013年比で26%削減する目標を掲げました。その内訳として、2030年の電源構成を原子力発電比率が20~22%、再生可能エネルギーが22~24%としました。しかし、原子力規制委員会の新規制基準を満たしても再稼働できないという現実に対しては、地域社会の理解を得る努力を丁寧に続けていくしかないと思っています。

製造段階でのCO2削減努力は当然必須ですが、省エネ性能が高く環境負荷が小さい製品を製造することで、その使用に伴うライフサイクルを通じたCO2の総排出量に着目して、合理的な政策を講じることが必要です。化石燃料由来のCO2排出に対して、近視眼的に、低炭素、脱炭素を叫ぶのではなく、地球という大きな系で炭素をマネージしていく「循環炭素社会」を目指すべきであると考えています。

30~40年の長期にわたる研究開発が実を結んだ炭素繊維のように、エネルギー資源に乏しいわが国は、省エネや代替エネの研究開発に信念を持って取り組んでいくべきと思います。

6.外交・安全保障

最後は、外交・安全保障です。わが国は、自由、民主主義、法の秩序といった価値観を共有する米国と良好な関係を維持してきました。トランプ氏が大統領選挙に勝利した際、外交・安全保障に関する懸念はありましたが、現在までに明確な方向性を示しつつあります。しかし、トランプ大統領のシリアや北朝鮮への対応、軍事力と影響力の拡大を目指す中国やロシアの動き、欧州や中東で頻発するテロなどを見ると、世界のパワーバランスの変化と不確実性の高まりを強く意識せざるを得ません。

われわれ経営者も、複雑化する国際関係の中で、地球規模で国際情勢を捉えるとともに、国や地域ごとに政治、行政、企業の信頼できる人的ネットワークを不断に構築していくことが必要とされます。

おわりに

改革を先導し行動する政策集団である経済同友会は、2017年度から「Japan 2.0」と「経済同友会 2.0」で表明した決意を実行に移すべく、それぞれのプロジェクト・チームを発足させました。以下では、従来の委員会活動等に加え、本年度から新たにスタートする主な取り組みをご紹介します。

まず、グローバル化と格差、社会の分断、個人・企業・市場・国家の関係性の変容などについて調査研究するために、「民主主義・資本主義のあり方委員会」を設置します。昨今、顕在化している企業活動のグローバル化に伴う様々なリスクに関しては、「ビジネスリスクマネジメント委員会」で、法務・財務・技術等に関する経営者のリスクマネジメント力の強化について議論を行います。
「グローバル化と海外ネットワークの強化」では、外交・国際問題、海外情勢に関する調査研究を「国際関係委員会」で地域横断的に行います。加えて、フランス、イギリス、ドイツの選挙後、10月に代表幹事ミッションを欧州に派遣します。
次に、2009年度以来、8年ぶりに「憲法問題委員会」を設置し、憲法改正に関する主要論点の調査研究に着手いたします。
また、「震災復興(防災・減災)プロジェクト・チーム」も新たに立ち上げ、東北・熊本復興へのIPPO IPPO NIPPONプロジェクトを今後ともフォローすると同時に、南海トラフや首都直下型地震に備える対策について議論いたします。
さらに、日本経済再生の基盤となる「地方創生と地方ネットワークの強化」を図ります。

経済同友会は、会員以外の様々なステークホルダーと対話する「テラス」の場を活用して、企業、社会、そして地球の最適化を常に意識しながら議論してまいりたいと思います。

会員の皆様には、今後とも積極的なご参画、ご支援・ご協力をお願いいたしまして、私のご挨拶とさせていただきます。ご清聴、ありがとうございました。

以上


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