代表幹事の発言

長谷川閑史経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

長谷川閑史 代表幹事
前原金一 副代表幹事・専務理事

記者の質問に答える形で、(1)景気認識、(2)電力システム改革方針の閣議決定、(3)新卒採用時期の後ろ倒し、(4)投票価値の平等と定数削減、(5)雇用法制(労働移転)、(6)国民栄誉賞、について発言があった。

その後、長谷川閑史代表幹事より、意見「国際リニアコライダー(ILC)日本誘致に向けた政治のリーダーシップを」について発言があった。

Q: 日銀短観では9か月振りに企業業績が改善したが、市況はここ2日足踏み状態で、為替は(1ドル=)92円台を付けている。現在の市況をどう見ているか。

長谷川: しばらくほぼ一本調子で株高・円安が続いてきたが、これから先はアップダウンがある調整局面に入ってくるだろう。ここ2日ほど株価が少し下がり、為替も若干円高に振れているが、これが続かない限りはそう懸念することはないと思う。

Q: アベノミクス剥落か、という後ろ向きの意見も一部にはあるようだが。

長谷川: 今のところ、具体的に経済成長に結び付くようなこと(施策)が結果として出ていないが、本日、日本経済再生本部でも示された通り、前例のない改革をしていくという方向の中で、安倍晋三首相は確実に指示を出されている。結果が出るには少し時間がかかり、その間には(株価や為替にも)少しアップダウンがあるだろうが、アベノミクスの剥落とはまったく思っていない。

Q: 政府は本日、発送電分離を盛り込んだ電力システム改革方針を閣議決定した。2018年から2020年を目途にとの内容で、約60年振りに電力供給の地域独占が見直されることになる。発送電分離について、見解と期待、注文を伺いたい。

長谷川: 経済同友会では、2011年11月18日の提言「需要者の視点で電力システムのイノベーションを」(2011年度諮問委員会・電力供給と発送配電のあり方研究会)で示した通り、発送配電分離を支持しており、やるべきであると考えている。(2018年から2020年という)タイミングについては、党内議論や多方面からの意見もあったようだが、報道によれば、首相の強い意思でタイミングを閣議決定に盛り込んだようであり、歓迎すべきと考える。ただ、詳細な事情を知らない立場からすれば、もう少し早くできないものかとも思う。

また、懸念材料として、ニューヨークやカリフォルニアの停電を例に挙げる方もいるが、日本の電力会社や発電・送電・配電を担う組織には、非常に高いレベルの品質があり、今から心配をする必要もなく、方針さえ決まればトラブルなく見事に実現できるものと確信している。例えば、東京電力福島第一原子力発電所事故後の排水処理についても、当初は仏アレバ社に依頼をしたが、結局は日本の技術で何とか対応しているように、日本の技術レベルは非常に高く、同時に問題のない形で運営するシステムも優れている。他国で(停電などの不具合が)起きたからといって、(日本で)起きるようなことはない、と確信している。

Q: この電力システム改革によって、国民としては電力料金の低コスト化を期待していると思うが。

長谷川: 当然、このような改革の究極の目的として、発電・送電・配電をより効率的なものにすることで電力料金の低下につなげなければあまりやる意味がなく、期待している。同時に、(各家庭などに)スマートメーターを入れることで、ユーザーサイドも夜間と昼間の料金の違いが目に見える形となり、料金の安いときに電力を消費する行動をとることになるだろう。また、ドイツのように、例えば発電の方法によって原子力と再生可能エネルギーとで電力料金に差が出てくれば、高くても再生可能エネルギーを選ぶなど、いろいろなやり方ができるようになる。消費者と供給者の間がより密接に結び付き、そこに多様な選択肢が提供され、それを消費者が選んでいく、そして全体として効率性を高めていくことが可能になるだろう。さらに、これまでは電力は必要に応じて全量供給するという発想だったが、スマートメーターの導入によって、自分たちも節電・省エネをしていこう、あるいは技術の発展による蓄エネで再生可能エネルギーの安定的供給を図っていこう、というようなことも相まって、全体の供給量あるいは消費量をあまり増やさなくても経済成長を実現し、GDPあたりの電力消費量が効率的な国になっていけるのではないか。そのようなことも期待している。

Q: 報道によると、採用活動の解禁時期を(大学3年の)12月から(大学4年の)4月に遅らせるよう、政府が経済界に要請をするとのことだが、所見を伺いたい。

長谷川: 経済同友会では、2011年1月21日の意見書「新卒就職採用活動の適正化に関する意見」および2012年2月23日の「新卒採用問題に対する意見」(新卒採用問題PT)において、公式見解を出している。「原則として新年度(4年生)から」という大学側の要請が強く、その背景には大学3年生の間は必要な勉学に集中してほしい、というもっともな理由がある。企業側が学生の質の低下を嘆いたり批判したりするのであれば、少しでもその改善に役立つ(大学からの)要請には当然応えていくべきである。本会の意見として、(就職採用活動の開始時期について、)「広報活動は大学3年生の3月(春休み)から、選考活動は大学4年の8月から」とすべきと提言している。政府がこれを提唱するということであれば、我々の後押しにもなり、まったく矛盾はない。私自身も日本製薬工業協会(製薬協)の会長時代から一致して対応しているし、日本貿易会も既に打ち出しているので、大きな支障があるとは思わないが、懸念を示している立場からは学生の意見を聞く必要があるとの声もあるので、それはそれで検証してみてはどうか。

Q: 採用期間が短くなることに対しての懸念と、外資系企業が良い人材を先に採ってしまうという懸念を持つ経営者がいるようだが。

長谷川: 自社が優秀な人材、求めている人材をいかに多く獲得できるかは、もちろん業績が良くなければならないが、学生が望むことを具体的にどこまで実現させているか、それに伴う報酬がどこまで競争的であるかといった要素で決まる。就職のタイミングや期間の長短で優秀な人材が獲得できないというのは人事担当の怠慢で、もっとしっかりすべきである。自社がどういう人材を求め、どう獲得していくかをしっかりと考えるべきで、(採用活動期間は)あまり影響がない。

前原: (2011年度新卒採用問題PT委員長として)提言をまとめたが、(採用)期間が短くなるから学生が大変、ということはまったくない。学校の経営にも携わったが、問題はミスマッチ(就職人気ランキング等で上位にある人気企業への過度な応募が起こる一方、中堅・中小企業をなかなか志望しないということ)が非常に大きいことである。これをうまく解消するために経済界も努力しなければならない。地方企業とのマッチングの仕組みを考え直すなど、ミスマッチを解消していくことで、学生にとっては落ち着いた就職活動ができるのではないか。もう一つは、海外の企業のように、インターンシップを(学生と企業との)マッチングにうまく活用できれば、世界標準になるのではないか。

Q: 日本経済団体連合会(経団連)の米倉弘昌会長には、非公式ながらも政府から(採用時期に関しての)要請があったようだが、経済同友会にアプローチはあったのか。

長谷川: 政府と考えが近いからかもしれないが、今のところ特にない。

Q: 米倉会長は慎重姿勢を示しており、経済界として足並みが揃っていない気がするが。

長谷川: 各団体の考えがあり、いつも足並みが揃うわけではないが、揃わないことで多少なりともネガティブなイメージを与えているのであれば残念である。本会としては終始一貫しており、特にコメントはない。

Q: 経済同友会の提言では、開始時期について、広報活動は大学3年の3月から、選考活動は大学4年の8月からとすべきとあるが、(政府の言う)新年度は(4年生の)4月ではないか。

長谷川: 我々の提言にある3月とは、3年生と4年生の間の春休みからという意図である。

前原: 3年生の年度末の試験が終わり、春休みからという意味である。

Q: 統一見解として今の段階ではどちら(春休みからか、4月から)と考えたらよいか。

長谷川: 春休みからである。大学3年生のすべての行事が終わって春休みに入れば、(採用活動を開始して)良いのではないか、という考え方である。

Q: 経団連の「採用選考に関する企業の倫理憲章」(平成23年に解禁時期を2カ月遅らせ3年生の12月に改定)を遵守すると約束している企業は、経済同友会会員所属企業とも重なっているのではないか。製薬協は遅らせると同意していると言うが、実際に足並みが揃わない場合、どちらに揃えるのか。

長谷川: 製薬協の会長を離れて長く、実態の詳細は把握していないが、少なくとも自社では製薬協のルール通り2月から広報活動を開始しており、支障があるとは聞いていない。また、営業職や工場勤務以外はTOEIC730点以上でないと入社試験は受けられないと宣言し、昨日はその第一回生の入社式だった。インターネット通じて2万人強のエントリーがあり、前年度に比べ若干減ったが、質の低下は見られず、必要な人材を獲得できたと人事からも報告を受けている。個別企業の体験からも、実施してしまえば特に支障はないと思っている。

前原: 学生のためにも良いのではないか。実際に大学関係者からも「学生にもしっかりと勉強してもらえるので嬉しい」と言われている。

Q: 政府は2015年春からと言っているが、実施時期はいつからが望ましいのか。

長谷川: 平仄を揃えるなら早い方が良い。一部の企業や団体では既に実施しており、政府も方向を打ち出しているなら、早いに越したことはない。留学生や海外からの直接採用、ボストンで毎年開催しているキャリア・フォーラムでの採用などは、このような(国内企業での)申し合わせの埒外にある。大学側から3年生の間は勉強に集中させたいとの要請があるのであれば、それを受け入れたところで支障はない。多くの企業では通年採用も始まっており、一斉に「用意ドン」で新卒採用を行うという時代も変わりつつある。大学側の要請を聞いた上で短期集中して採用する、足りない部分は通年採用や海外での採用などもあり、多様化が進んでいるのであまり時期に拘る時代ではない。

Q: 「一票の格差」是正について、先週までに16の裁判のうち2つの無効判決を含め、違憲もしくは違憲状態との判決が出たが、これについての所感を伺いたい。また、「0増5減」や定数削減について、いろいろな意見が出ているが、まずはやれることからやるべきなのか、やるからにはきちんとやるべきなのか、その辺りの国会の動きも含め考えを伺いたい。

長谷川: まず、一人一票(投票価値の平等)の問題と定数削減の問題は、直接はまったく関係ないので、分けて考えるべきである。一人一票(投票価値の平等)については、2011年3月23日の最高裁判所大法廷での(違憲)判決から1年半以上経っての総選挙だったにも関わらず、判決に対応した是正がなされていない。「0増5減」は(民主党政権下で)三党合意をしたが、選挙区割りの問題がありその体制では(総選挙が)実行できていない。高裁の一部とはいえ、無効判決が出たことについて、立法府は真摯に聞くべきである。最終的には最高裁判所で司法判断が下されるだろうし、一部報道によると今年秋くらいにも判決とのことだが、やはり立法府が、法を司る司法が憲法違反と判断した問題について、時間があったにも関わらずきちんと対応していないことの重さは、真剣に考えてもらう必要がある。一人一票(投票価値)の格差是正はできるだけ早くきちんと法制化し、対応いただきたい。

定数削減の話も出ており、やっていただくことは良いことだと思うが、方法が多々あってなかなか前に進まない。これと一人一票とをセットにして先延ばしされることは本末転倒である。まずは、憲法違反の問題についてきちんとした回答を出して対応し、次の選挙からは問題を解消した形で実施できる(ようにすべきである)。各県一議席配分方式(一人別枠方式)である限り本質的な解決はできないと指摘されているので、そこまで踏み込んだ改定をするのが、司法の要請に応える立法府の義務であると考える。定数削減については別途考えていただきたい。

Q: 雇用法制について、本日、日本経済再生本部で成長産業への労働移動という総理指示が出た。一方、先週28日の衆院予算委員会で安倍首相より、解雇の金銭解決は考えていないとの発言があった。この件について所感を伺いたい。

長谷川: 産業競争力会議の共通の理解は、成熟産業から成長産業へ、失業なき労働移転ができるよう、官民挙げて全力で取り組もう、ということと認識している。前回の記者会見でも述べた通り、具体的には、個人情報の問題などがあるにしても、ハローワークのデータを然るべき民間(企業)や公益(機関)にも開示し、成熟産業から成長産業への移転を可能にするための必要な職業訓練・教育について、官が得意な部分は官が、民が得意な部分は民がしっかりやっていく。同時に、民が特に得意としているアウトプレイスメント・サービス(再就職支援)、企業が自社では当面活用できない余剰戦力について、同業他社や他産業に移転していただくことで、本人のやりがいも将来性も良くなるだろうというマッチング・サービスもうまく組み合わせることで、失業なき労働移転をあらゆる策を講じてやろうということである。

解雇の金銭解決について、産業競争力会議で述べたのは以下の例である。企業側が解雇に相当すると考えて解雇し、その個人が不当解雇として訴え、最終的に裁判で原告(非雇用者)が勝訴した場合、原職復帰という選択肢になっているが、金銭的に解決する方法もあり得るのではないかということである。現段階ではこれについての優先順位は低く、将来考えても良いのではないかと述べた。金銭ですぐに解雇できるようにしてほしい、という話ではないので、誤解のないようお願いしたい。

Q: 安倍首相の解雇の金銭解決は考えていないとの発言に、違和感はないということか。

長谷川: まったく矛盾はない。

Q: 春闘で賃上げをする大企業が増えているが、中小企業や非正規の労働者への波及について、所感を伺いたい。

長谷川: 個別企業の事情によって異なるだろうが、今の仕組みからいくとそちら(中小企業や非正規社員)の方まで波及するには時間がかかるかもしれない。できるだけ早くキャッチアップをしてほしいが、あくまでも個別企業の事情もあり、少し時差があるのが実態かと思っている。

Q: 昨日、政府は、長嶋茂雄氏と松井秀喜氏に国民栄誉賞を授与する方針を固めた。長嶋氏と松井氏の年齢差や横綱・大鵬が亡くなってからの受賞だったことなどを考えると、(受賞の)基準についてもう少し明確にすべきではないかとの意見もある。見解を伺いたい。

長谷川: 国民が認めた、あるいは国民の意識・士気の高揚に貢献した、として国民栄誉賞の授与は政府の判断で決まるが、広くアピールする賞であるだけに、選考基準をある程度明確にする方が良いとは思う。機会があれば、意見として政府にもお伝えしようと思う。今回選ばれた長嶋さんと松井さんについては、心から素直におめでとうございますと申し上げたい。

意見「国際リニアコライダー(ILC)日本誘致に向けた政治のリーダーシップを」について

昨年7月、欧州原子核研究機構(CERN)で、神の粒子といわれるヒッグス粒子が発見されたと発表があった際は、その分野に携わる人たちの間で大変話題になった。国際リニアコライダー(ILC)計画とは、直線30kmほどの長さの超伝導加速器の両端から粒子をぶつけてよりビッグバンに近い状況を作り、その実験結果から様々な解明や発見をしていくという国際的なプロジェクトである。

日本でぜひやってほしいというのが国際世論として盛り上がっているようだし、景気が停滞している状況もあり、日本に優れた学者も多く、彼らの士気高揚だけでなく世界にも貢献できる良い機会である。アメリカや欧州は様々な事情の中で、このようなことに手を挙げて積極的に取り組める状況ではないと聞く。もちろん日本も、累積債務が1千兆円といわれ財政的な余裕はなく、建設費8,000億円の内、半分程度はホスト国が負担しなければならないという問題もあるが、一方、忘れてはならないのが、日本のグローバル化である。この計画が実現すれば、約3,000人の一流の科学者たちが集い、その家族も含めると1万人規模の新しい国際都市が出現する。日本で初めてそのような都市ができる。

国内の建設候補地は岩手県と宮城県の県境にある北上山地と、福岡県と佐賀県にまたがる脊振山地の2か所があり、岩盤、地質ともに最も適した場所であるということで候補に挙がっている。建設地をどちらにするかは、選考委員会を設け証左に基づいて判断すべきである。今年の5~6月ごろには大体の方向付けがなされるという状況も聞いている。日本がこのような状況であるだけに、革命的、画期的な国際研究都市の出現と世界に貢献しうるような先端技術、機器の導入を推進すべきであるということで、経済同友会としても全面的にサポートしていきたい。ぜひ後押しをお願いしたい。

以上

(文責:経済同友会事務局)

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