採録記事|未来志向の政策トーク番組
『日本再興ラストチャンス』第13回「教育」

第13回「教育」

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経済学者・中室 牧子氏と経営者・有識者の対話を通じて、日本を、経済を再興させるアクションプランを考える「日本再興ラストチャンス」。今回は、新しい学力観をテーマに教育について議論しました。(この記事は、ビジネス映像メディア「PIVOT」で配信された動画を採録しています。)

  • 中室 牧子
    経済学者/慶応義塾大学 教授
  • 日色 保
    経済同友会 副代表幹事/学校と経営者の交流活動推進委員会 委員長/日本マクドナルドホールディングス取締役社長 兼 CEO
  • 工藤 勇一
    教育アドバイザー/内閣府規制改革推進会議専門委員/横浜創英中学・高等学校 前校長
  • 佐々木 紀彦
    PIVOT CEO/MC

(所属・役職は出演時)

教員が「不幸せ」な状況が起こってしまっている

佐々木 本日は教育をテーマに議論していきたいと思います。中室さんは教育政策に関して、どのような問題意識をお持ちでしょうか。

pivot13_nakamuro1.png中室 最近よく思うのは、 教育には「需要サイド」と「供給サイド」があるということです。需要サイドは親や子ども本人、供給サイドは学校や先生、政府など教育を提供する側を指します。政策の議論では、 需要サイドの話が中心になりがちです。たとえば教育無償化は親の負担を減らす政策ですが、供給サイドの質が十分でなければ「安かろう悪かろう」になってしまうリスクがあります。本来は両方とも考えていかないといけないですし、供給サイドについてはインセンティブのようなものも理解し、検討に含めていく必要があると思っています。

佐々木 今日は2名のゲストをお招きして進めていきます。日色さんは経済同友会で、学校と経営者の交流活動推進委員会委員長も務めてらっしゃいますが、これはどういう活動でしょうか。

日色 経営者が全国の中学校や高校に出向き、出張授業をやるというのが主な活動です。働くとはどういうことか、これから社会で求められるスキルは何かといったことを、経営者の経験をもとに授業しています。

佐々木 工藤勇一さんは「カリスマ校長」として実績も出されていますが、今はどういう活動をされているのでしょうか。

工藤 講演活動をしたり、民間企業や大学、私立学校、自治体等のアドバイザーをしていたりします。

佐々木 今、一番どのようなことに皆さんは困っているのでしょうか。

工藤 教員が不幸せだということでしょうか。やってもやっても責められる。その構図がわからないということですので、問題がなぜ起こってるかを紐解いて、違う方法を伝授していくことをしています。

佐々木 なぜ不幸せになっていくのでしょうか。

工藤 教育がサービス産業化したことに問題があると思っています。主体的な人間を育て、社会の当事者を育てるべきなのに、子どものころから良かれと思ってサービスを提供し続けて子どもの主体性と当事者性を奪ってしまい、さらにサービスを求める子供たちを育ててしまった。企業でもあると思いますが、サービスは過剰になると質に対する文句が生じます。その根
本的な問題が教育にもあって、いくらやっても幸せになれない構造になっています。

教育の「需要サイド」だけではなく「供給サイド」にも目を向ける

佐々木 最初にまず教育政策の面から考えていけたらと思います。教育無償化に関する議論が今まさに出ていますが、このアプローチは皆さんとしてどうお考えでしょうか。

日色 教育機会を広くつくるのはよいと思います。ただ、4分の3ぐらいの高校生はほぼ授業料が無償になっています。未対象者で経済的事情がある人には確かpivot13_hiiro1.pngにサポートが必要ですが、一方で先ほどの指摘にあった「安かろう悪かろう」の観点は気になります。原資が無償化に行き、教員や教員をサポートする職員への投資が細くなってしまうとしたら議論が必要だと思います。

工藤 私は長く公立学校におり、その後4年間私立学校で勤めました。無償化になるのは、私立学校には追い風です。もちろん、私立学校が本当によいのかという議論はあります。ただし、公立学校の従来型の教育に期待が持てずに私立学校を選ぶという背景は、少なからずあります。一方で気になるのは、教員の疲弊です。一握りの教員は楽しくやっていますが、多くの教員は一生懸命取り組んでも生徒や保護者から厳しい評価を受け、時間的にも追われ、競争の中で苦しい思いをしています。うまくいかない自分を責めて教員を辞めてしまうケースも多く、ますますなり手を遠ざけています。

佐々木 中室さんはいかがでしょうか。

中室 2つ考えたい点があります。まず教育無償化を進めている「維新の会」などの政党は、子育て世代を取り込みたいという選挙に焦点を当てた目的があり、はたして子どもの将来に向けてよい影響があるかという視点が抜けている気がします。もう1つは、無償化によって浮くお金が塾に使われるのではないかということです。すると家計の負担は減らず、より偏差値という序列競争が激化します。やはり順番としては供給側を強化する政策が先なのではないでしょうか。

佐々木 そもそもこうした議論が少ない気がします。

中室 やはり選挙で子育て世帯を取り込みたいという目的が強いからでしょうか。無償化に使うお金は将来子供たちが返していかなければならない借金なので、やはりその投資にきちんとリターンがあるかが非常に重要だと思います。

佐々木 機会の格差を埋めたいという点もあります。

中室 そうですね。その場合は全員ではなく経済的に困難な家庭に対して集中的にやる方が合理的で、そういう施策は非常に多く見られます。

記憶することが優秀だというパラメータはすでに変わりつつある

佐々木 供給の観点では「質の高い教育」もポイントになります。質にも定義があると思いますが、質をあげるためには何が一番大事だと思われますでしょうか。

日色 企業経営の観点から考えると、 アウトカムを明確にすることが重要です。「何をやるか」よりも「どんな結果を出したいのか」という点です。教育の議論では、この視点が欠けがちではないでしょうか。

佐々木 今の論点にも重なると思いますが、「AIが普及した現在、従来の記憶型の学習は意味がないのではないでしょうか。もっと創造性をはぐくむような教育は難しいのでしょうか」という質問が来ています。いかがでしょうか。

日色 まさにその通りだと思います。もちろんすべてが一度に切り替わることはないでしょうが、記憶することが優秀だというパラメータはすでに変わりつつあります。先日経済同友会の仲間が、知識労働はAIに置き換わり、肉体労働はロボットに置き換わるだろう。その時に残るのは感情労働だと言っていました。これから大事なのは、違う要素の知識や経験をうまく結合して、新しい問いを立てたり解決策を出したりしていく力だと思っています。そこで人の話をどれくらい共感して聞けるか、バックグラウンドが違う人の壁を乗り越えてコラボレーションできるか、という点が重要になります。企業からすると、学び方を学んで来た人に来てほしいと思いますし、そうした教育が必要だろうと感じます。

中室 私は 好奇心こそが教育において非常に重要だと思っています。「なぜこうなるのか?」と考える力は、まさに知的好奇心から生まれるものです。学生の中には、幼少期から高校まで多額の教育費をかけ、受験勉強に全力を注いできた結果、大学に入る頃には知的好奇心を失ってしまったように見える子も少なくありません。義務としてやらされる学習と、自発的な好奇心は相性が悪いのです。日本ではこの「好奇心を高める」というプロセスを飛ばし、 ひたすら学力向上を目指してきました。そこは、大きな間違いだったのではないかと、私は考えています。

工藤 おっしゃる通り、知的好奇心はすべての人が生まれながらに持っています。赤ちゃんは言葉を自分でいろいろ試して動きますが、小学校高学年になる頃にはその主体性が失われています。「あれをしなさい」と先回りされ、手をかけられすぎた結果、「先生、どうすればいい?」と指示を求めるようになります。日本の教育現場では「自主性」という言葉がよく使われますが、「主体性」とは大きく意味が異なります。

佐々木 主体性と自主性は違うのですね。

工藤 全然違います。自主性という名の下では、先生のやってほしいことを忖度して、それを進んでやっています。先生の言うことに疑問を持つ視点自体をつぶしています。大人になってから考えろと言われても、それは無理に決まっています。

佐々木 創造性と言うわりには、つぶしているわけですね。

工藤 理由はいくつもありますが、やはり 受験制度を含めた日本特有の知識偏重型教育 が大きな要因だと感じます。日本では長年、 学力を高める学校が素晴らしいという価値観が根付いてきました。そのため、教育がなかなか変わらず、今も知識重視のスタイルが続いているのだと思います。

佐々木 知識偏重の受験がなければ、また変わるのでしょうか。

中室 受験を乗り越えてきた学生の中には、勉強を苦行だと捉えている人がいます。でも、本来学ぶことは楽しいはずです。もっと知的好奇心や創造性を育む教育にシフトすべきです。おそらくこの問題は、AIの隆盛のようなこととは関係なく、日本の教育システムや親のステレオタイプ型思考の影響が大きいでしょう。社会人になって必要とされる力は、受験で身につけた力とは違います。人生の本番は、もしかすると40代・50代に訪れるかもしれません。 18歳がゴールではない という視点で、教育を考えていく必要があると思います。

企業の採用視点が変われば、学校教育も変わっていく

佐々木 中長期な視点で、本当に子供のためになるアウトカムはどうつくればよいとお考えですか。

日色 今のお話を聞いて、 企業側も反省すべき点が多いと感じます。高度経済成長期には、企業はあまり個性を求めず、むしろ 均一な人材を必要としていました。「戦後、経済界が“金太郎飴”を求めたのが教育の方向性を決めた」という言葉も聞いたことがあります。そこから時代は変わりましたが、 採用基準はあまり変わっていません。結果として、大学教育も変わらず、大学受験の仕組みも変わらないという連鎖が続いています。企業が大学の成績を正しく評価することが重要だと思います。もちろん、大学や高校での評価が多面的に行われていることが前提ですが、採用時にそうした成績をほとんど見ないというのが現状です。「コンピテンシーを重視して成績を見ていく」ように変わっていくことで、大学の教育自体も変わっていく可能性が高まると思います。また、学校の中での活動だけではなくて、ボランティアのようなことも海外では評価されます。

佐々木 成績をつける側の中室先生はいかがでしょうか。

中室 アメリカではGPAという成績を、企業がきちんと見ます。その成績が就職に関係すると学生も知っているので、一生懸命勉強します。

佐々木 先日キャリア採用のプロと話していたら、だいぶ新卒一括採用が揺らいできたとおっしゃっていました。そこが変わると多くのものが変わる可能性があるということですね。他方で受験というものは、変わる方向は見いだせますでしょうか。

pivot13_kudo1.png工藤 制度自体が大きく変わるかもしれません。すでに日本は少子化に直面しており、昨年生まれた子どもが70万人を切りました。今の高校1年生は約100万人なので、 15年後には高校の30%が消滅する可能性があります。大学の状況はさらに厳しく、名のある大学で定員割れがすでに起き始めています。こうした傾向が続けば、 従来型の受験そのものが崩壊するかもしれません。しかしこれは、日本の教育が大きく変わる最大のチャンスだと見ています。

佐々木 どのような方向に変わるべきでしょうか。

工藤 日本の学校が本当に考えるべきことは「教育は誰のものか?」 という根本的な問いではないでしょうか。教育は国や学校のものではなく、子どものもの です。子ども自身が主体的に学び、自ら選びながら将来独り立ちできる力を身につけることが大切です。問題を解決するのは「自分自身」だという当事者意識を持つことも重要です。学校の役割は、 子ども一人ひとりの能力を最大限に引き出し、社会で自立できる力を育むこと。もう一つは、意見がぶつかっても対話を重ね、合意を形成する能力を身につけること です。本来、教育とは科学的に分析し、どうあるべきかを 言語化して議論するべきものです。

中室 入学時に厳しい選抜を行うのではなく、 卒業時に必要なことを学び、身につけたかをしっかり評価する仕組みにすべきでしょう。入試が若者の学び方や行動に大きな影響を与えると理解した上で、制度設計を行うべきです。そして企業が大学での学びを評価することで、大学教育そのものが変わっていく可能性があります。

入口の審査よりも、何を学んだかで評価されるべき

日色 大学も、ここに特化しているという戦略をもつべきだと思います。企業側の視点で考えると、従来型の教育を受けたトップ校の学生よりも、 特定の分野に特化して探求学習をしてきた学生のほうが魅力的に見えます。

佐々木 大学の統廃合が進むことが合理的だという見方もできるのですが。

日色 もちろん統廃合も1つの方法ですが、統廃合した結果、また入口の審査ばかりに目が向き続けてしまう可能性もあります。それよりも、入口は入りやすく、その後の学び自体がきちんと評価されるのがよいのではないでしょうか。

中室 学校の新規参入と撤退が健全に行われることも大事だと思います。現在だと、大学は比較的新規参入があるものの、 撤退のルールが明確に示されていません。高校は規制が厳しく、 一部の都道府県では条例で新規の学校設置を認めていない状況です。学校の新陳代謝が進む中で質の高い教育が実現されるはずですが、現在の規制はそれを阻んでいるわけです。

佐々木 今の観点について、工藤さんからはいかがでしょうか。

工藤 日本では学校教育法第1条に規定されたところしか正式な学校として認められません。逆に1条に該当すると、税制優遇や私学助成金などのかなり手厚い保護があります。すると、子どもが集まらず経営が厳しくなっても、簡単には潰れないわけです。つまり、 国が既得権益を持つ学校の延命を支えている 状態になっています。本来なら、 新しい教育を目指す学校が次々と生まれ、淘汰を経て本物だけが残るという競争原理が働くべきです。しかし、現在の日本の教育制度では 競争の仕組みが機能しておらず、問題だと思っています。

佐々木 教育無償化するとさらに延命されるところが増えそうな気がします。

中室 ですので、教育無償化を実施するには、 制度設計を慎重に行わなければ成功しないと思います。無償化によってかえって子どもの学力が低下した という研究もあります。国の税金を使って行った政策が、結果的に子どもに悪影響を与えるようなことがあってはなりません。無償化を進めるなら、学校設置の参入や撤退のルールも適切に整備し、 新たな学校が参入できる環境を作らないとフェアではないでしょうね。

佐々木 視聴者からの質問として、「都市部では中学受験が盛んですが地方では受験させる私立中学がありません。このような国内の教育格差についてどのように考えますか」と来ています。いかがでしょうか。

工藤 そもそも 何をもって格差とするかはしっかり考えるべきだと思います。従来のように学力だけで判断するのではなく、 子どもたちに本当に教えるべきことは何かを、国として問い直さないといけないと思っています。国際的に見て本当に通用する学力を高めることが問われています。守破離の守が大事と言いますが、日本は基礎的な知識や技能を身に着けることが守だと考えている人が多いです。そうではなく学び方が守なのです。まずは学び方を教え、そのうえで問題があるなら教育格差を論じていくべきだと思っています。

考える力を伸ばすための方法を真剣に議論する必要がある

佐々木 新しい学力観を定義しないことには何の議論も始まらないということですね。そこでお考えのところはありますでしょうか。

日色 これだけ動きの激しい世の中ですので、前提条件は変わっていきます。知識だけの詰め込みでは通用せず、柔軟性があるかどうかが大事になります。ある企業で業務成績と学校の偏差値で相関をとったそうなのですが、この2つに相関はなかったとのことです。いい大学を出てきても、会社でアウトカムが出ているかというと関係がない。またいい大学を出ても、もはや1つの会社で定年を迎えるという概念ではなくなってきています。時には会社も変わりながら、変わりゆく世の中にきちんとついていけるかどうか。つまり、いい中学、いい高校、いい大学というフレームワークから変えていかないといけないわけです。

佐々木 中室先生の書籍では非認知能力の話がかなり書かれています。新しい学力観というときの鍵の1つでしょうか。pivot13_sasaki2.png

中室 学力と言うのを、多くの人は 学力テストで測れる能力だと捉えています。定義としては間違っていませんが、 本質的に学力とは「考える力」 です。考える力を伸ばすにはどうすればよいか。長期的に役に立つスキルとは何か、ということを真剣に議論すべきです。ある調査によると、新卒採用で長年重視されているのは 「コミュニケーション能力」 だそうです。実は私自身にとっては、マクドナルドでアルバイトをしたことが一番コミュニケーション能力を伸ばすのに役立ちました。さまざまな年齢層のクルーと働き、幅広いお客様と接する中で鍛えられ、それは社会に出てからも役立っています。そうしたことを理解しているのにも関わらず、子どもを育てるときには、 受験の結果に夢中になり、点数に一喜一憂するという矛盾を、改めて考え直すべきではないでしょうか。

日色 マクドナルドでの体験をコミュニケーション能力と言ってくださいましたが、もう少し掘り下げられるかもしれません。マクドナルドでの就業環境は、ものすごくダイバーシティにあふれているのが特徴です。高校生、大学生、フリーター、外国人、主婦、シニア等々。全然バックグラウンドが違う人たちとお互いに理解し合うことを、そこで身につけていきます。お客様もいろいろな人がいます。ダイバーシティ環境だからこそ、本当の意味での共感能力が育っていると思います。

中室 多種多様な経験をすることが、スキル形成の重要な一歩だということですね。勉強だけがスキル形成として重要ではないわけです。

佐々木 関連して部活動についての質問も扱ってみたいと思います。部活動の地域移行や廃止という話が増えていますが、部活動も多種多様な経験の1つだと思います。何らかの形で維持することは必要なのか。どういう形がよいのかという点ではいかがでしょうか。

中室 学生時代にスポーツをやっていた人は生涯賃金が高いというような研究も最近は出てきています。部活動を通じてコミュニケーション能力も身につけることができますし、忍耐力やリーダーシップなども身につけることができると言われてきて、実際にそうだと思います。

工藤 僕自身も部活の顧問をずっとやってきましたし、そこで学ぶものはとても大きいと思っています。ただ、部活の弊害はあります。きちんと練習できる場所、時間、そして専門性をもった指導者。こうした仕組みが部活動には必要で、現在の制度は適しておらず、民間に移行していくべきだと思っています。その時にどうソフトランディングしていくか。指導者になってくれる人がいるのか。地方で成り立つのか。そうした問題はもちろんクリアしていかないといけません。

日色 今の問題は、教員に何でも求めすぎている点にあります。教員は教えるプロで、変化する時代には、リスキリングをしていかないといけない人たちです。その時間がとれないのは本末転倒ですので、教育の質をあげるための優先順位を考える必要があるでしょう。部活の指導や、保護者対応のようなところには、それぞれの専門家が対応していくのが筋だと思っています。

佐々木 予算を使うなら、そういう専門の人を雇うためという考え方もありますね。

日色 まさにそうだと思います。家庭の経済事情で起きる体験格差というものがあります。やはりお金があればキャンプに行ったり運動クラブに入ったりすることもできるけれど、経済的に余裕がないとできません。そういうところに支援するのも1つだと思います。

工藤 麹町中学校というところの校長をしていたときに、経済産業省と議論したことがあります。たとえば学校にはいろいろな設備があります。麹町中だと屋内プールがありました。それがほとんどの時間、空いています。最終的には民間委託をして外部の人が使えるようにしたのですが、そういう考え方もあると思います。つまり、何時間かの部活動だけのために専門家を探しても来ないかもしれませんが、最初から施設自体を民間に委託して、必要な時には学校が連携して使うような方法です。一定の時間以降は市民向けの生涯学習施設にしてもよいかもしれません。

従来のやり方にとらわれない工夫が、教育の質を上げる

佐々木  地方の小学校教諭の方から、「産休・育休に入る教員の代わりが確保できず、教頭や教務主任が担当している学校が多い。単に人を増やすだけでは学校現場は持ちこたえられず、数年で崩壊すると感じている。義務教育改革をどう考えますか」という質問がありました。教育の質や教員の幸せという点にも通じる問いだと思いますが、いかがでしょうか。人を増やすだけでは解決にならないわけですよね。

工藤 人を増やすだけでは十分な解決策になりません。まずは教員の役割がずれています。僕は麹町中や横浜創英中学でチーム担任制というのを取り入れました。1クラス1人の担任ではなく、皆で学年全体を見ていく仕組みです。責任が分散すると批判する人がいますが、まったく逆ですね。子ども達が主体的になる教育をしていくために何をするかをプロフェッショナルとして考える組織になります。また、教員の誰かが休んでもカバーできます。今の時代、メンタルでつぶれる教員が多いのですが、1人の責任でやっていくとそのリスクも高まります。こうした工夫はまだできる余地がたくさんあるはずです。

日色 学校の先生が何でもやりすぎだという点は気になりますね。1週間に使っている時間の中で、教員のための教育を受けていないとできないことは何なのか。海外の場合、教員をサポートする職員数がものすごく多くいます。もっと業務の切り分けをして効率化していくのは重要ですし、そこでDXも使えるはずです。もう1つ、学校をもっと開くべきだと思います。地域のボランティアの人が関わろうと思っても関われないケースも聞きます。工藤先生がおっしゃったように、学校という場を何重にも使える形にしていくことはぜひ考えたほうが良いと思います。

佐々木  地域に開く活動については、最近はどうなのでしょうか。

工藤  以前に比べれば外部の方を入れるようになってきたとは思います。ただし、教員免許を持つ人が必須で、何か問題が起きたら教育委員会の側にも責任があるという構造が根強くあります。本当はもっといろいろな人が教育に関われるはずです。たとえば今の時代、ITに詳しい人がそんなに教員にいるわけではありません。一般企業で最新の技術に触れている方に、短時間オンラインで授業してもらうだけでも質のよい授業が提供されると思うのですが、今は資格を持っていないと授業ができません。一方で、大学院を出た人でないと専門性がない、だから教員を大学院へもっといかせろという議論もあります。日色さんがおっしゃったように、専門性が必要なところ、そうでないところを区別していくことで、教員の負担はもっと減らせるはずです。

佐々木  最後の論点も含めて、中室さんに総括をお願いします。

中室 今日の議論を聞いていて思ったのは、今進んでいる教育政策の議論は拙速に着地しないようにしてもらいたいということです。教育は100年の計と言われますが、本当にこの国のあり方に大きな影響を与えます。総合的に様々な観点から、この国の教育をどうしていくかを考えないといけません。目先の選挙で勝てるかどうかという目線だけで政策を決めるのは非常に危険なので、本質的な議論が進んでいけばと思っております。

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「日本再興ラストチャンス」
経済同友会とビジネス映像メディアPIVOTがコラボレーションし、YouTubeで配信する未来志向の政策トーク番組。「失ってしまった」30年を経て、これからどのように日本を、経済を再興すべきか。毎回1テーマを設定し、経済学者と経営者・有識者との対話を通じて、解決に向けたアクションプランを提案します。配信一覧はこちらから

動画はYouTube PIVOT公式チャンネルから
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