採録記事|未来志向の政策トーク番組
『日本再興ラストチャンス』第7回「グローバルサウス」

第7回 グローバルサウス

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経済学者・成田悠輔氏と経営者の対話を通じて、日本を、経済を再興させるアクションプランを考える「日本再興ラストチャンス」。今回は、グローバルサウスを日本企業はどうビジネスチャンスにつなげるかをテーマに議論しました。(この記事は、ビジネス映像メディア「PIVOT」で配信された動画を採録した広報誌『経済同友』202311月号の再掲です。PDFはこちらから

  • 成田 悠輔
    イェール大学 助教授/半熟仮想株式会社 代表
  • 岩井 睦雄
    経済同友会 副代表幹事/日本たばこ産業 取締役会長
  • 牧浦 土雅
    Degas Founder& CEO
  • 大野 泉
    政策研究大学院大学 政策研究科教授
  • 佐々木 紀彦
    PIVOT CEO

(所属・役職は出演時)

グローバルサウスとのかかわり

佐々木 日本企業はグローバルサウスをどうビジネスチャンスにつなげられるかについて、3人の経営者・有識者のお話を伺っていきます。岩井睦雄さんから、グローバルサウス諸国とのかかわりを伺えますか。

岩井 当社は世界約 120カ国でブランド展開をしており、濃淡はありますがグローバルサウスの市場にも相当数入っています。

成田 たばこ市場が伸びているのはどの地域ですか。

岩井 東南アジアやアフリカがまだ需要が伸びる市場、ヨーロッパやBRICsはピークを越えたという感覚です。アフリカや中南米の国々では、ほとんどの人が1、2本の単位で買いますが、やがてパック買いになり、ローカル銘柄からグローバル銘柄の購入へと移行していきます。

佐々木 2人目のゲストは政策研究大学院大学教授の大野泉さんです。途上国開発に詳しく、さまざまな国際機関で勤務されてこられました。

大野 私は JICAや JBIC、世界銀行といった国際協力の現場で仕事をし、今は大学で教えています。当校には新興国のミッドキャリアの方々を含め 400人ほど在学し、私のクラスにも多様な国の方々がいます。国の特性も違う中、「グローバルサウス」と一括りにしてよいのかは気になるところです。そもそも言葉の持つ意味合いも変化してきました。ベトナム戦争の時代にあるジャーナリストが使ったのが最初です。第1世界・第2世界・第3世界といった世界の見方をしていた頃です。2000年代には、グローバル化の中で取り残されている国に目を向けるコンテクストで使われるようになりました。最近はロシア・ウクライナ問題などが起きる中で、中立の立場を取る国々を指して使われることが多いのではないでしょうか。

佐々木 3人目はガーナからオンラインでご参加の牧浦土雅さんです。ガーナでどのようなビジネスをされているのでしょうか。

牧浦 アフリカ大陸には小規模農家が6億人いるといわれています。彼らに肥料や種子類の農業資材を融資する事業を行っています。さらにテクノロジーを使って、与信判断や農業実務自体の支援も行っています。

成田 どのようなきっかけでアフリカ突撃を?

牧浦 2012 ~ 13年ごろに東アフリカのルワンダに住んでいて、アフリカの発展が非常に遅い状況を目の当たりにしました。18年に再びアフリカに戻ったときも同じ状況で、誰かが解決しないといけないと思い、創業しました。「そこに登る山があったから」の感覚ですね。

いくつかの整理軸でグローバルサウスを捉える

佐々木 近年グローバルサウスはアジア・アフリカ・中南米の新興国の総称として使われています。中でもインドは盟主と呼ばれることもあります。経済面では 2050年にかけてグローバルサウスが米国・中国を上回る規模になると予測されています。人口面では、2050年時点で全人口の3分の2がグローバルサウスになるといわれています。特にインドの人口割合は大きく、経済的にも人口の存在感としても重要度を増していくでしょう。

大野 一方、現時点でアフリカ大陸全体は 14億人、つまり中国・インドと同じ規模であり、2050年にはこの倍になるといわれています。

佐々木 ガーナでグローバルサウスという言葉を聞くことはありますか。

牧浦 聞きません。大野さんのお話に補足すると、2050年以降に人口が伸びるのはアフリカ大陸だけといわれています。

成田 地球上で最後の人口成長のフロンティアがグローバルサウスになるかも、ということですね。

大野 他方、アフリカでは若年世代が人口の6割ほどになっていきます。人口ボーナスは良いこともたくさんありますが、若い人たちに仕事がある社会経済をつくっていかないと、社会の不安定化にもつながりかねません。
ただG7サミットなどでは、国際的な対立の中で自国の態度を曖昧にしながらリーダーシップを取ろうとしている、あるいはそれぞれのポジショニングを考えている国をグローバルサウスと呼んでいると思います。ビジネスでグローバルサウスとまとめて議論してしまうのは、ミスリーディングにもなりかねないと思います。

成田 いくつかの整理の軸があるわけですね。市場の発展度で言うと、これから伸び盛りの国の政府や企業と日本のような成熟老衰国がどう付き合っていけばいいのか、経済のライフサイクルの問題とも捉えられますね。米中の地政学的緊張がサプライチェーンにも影響している今、特に大事な問題だと思います。

岩井 人口が伸びるのは良いように見えるけれど、仕事がなければ社会が混乱します。日本や先進国側も単純に儲かるから進出するのではなく、責任を持って考えるべき部分があるわけです。経済同友会では今、グローバルサウス・アフリカ、グローバルサウス・インドという委員会を立ち上げて議論していますが、各国の健全な成長にどう貢献できるかは、大事な視点です。

自社のストラテジーを立て、現場を目で見て、適正なリスクテイキングを

佐々木 ここから皆さんに三つずつ、グローバルサウスとの連携をビジネスチャンスにつなげるための提案をしていただきたいと思います。岩井さんからお願いします。

岩井 一つ目は「ストラテジー」を挙げました。企業としてアフリカやインドというフィールドをどう捉えるかが大事です。自分たちは何者なのか、どこで世の中に貢献していくかという議論をして、ストラテジーを立てなければいけません。「アフリカは分からないから」と避けていると、伸びるマーケットを失う可能性もあります。日本には面白い技術やビジネスモデルを持っている会社も多く、アフリカに行って初めて活用の仕方に気付いたり、それをまた日本での新展開に使えたりする可能性もあると思っています。
二つ目は「リスクテイク」です。グローバルでの事業展開にはリスクがあります。「最初は損失が出たとしても、その先で成長できるか」といった検討をし、適正なリスクを取れるか否か。左脳でリスク分析をきちんとやると、どうしてもリスクを取りづらくなります。そこを突破するのが経営者・リーダーです。ポートフォリオをしっかり考えて決断することが重要です。
三つ目は「現場」です。トップがアフリカやインドを実際に見に行き、どこに機会があってリスクがあるかを肌で感じること。「現場」「現物」「現実」と言いますが、経営者が自分の目で見て、リスクを取ることが大事だと思っています。

成田 今後はアフリカ・インドのどのような業界や産業にチャンスが広がると見ていらっしゃいますか。

岩井 やはり農業は大事です。アフリカはかなり食料の輸出もしていますが、食料を買わなければいけない立場でもあります。生産性を上げて国として自給自足を成立させることは大切ですし、ロジスティクスが整備されれば、かなり変わるだろうと思っています。

佐々木 牧浦さんはいかがでしょう。

牧浦 アフリカ大陸 14億人のうち、労働人口の7割ほどは1ヘクタール程度しか耕していない小規模農家です。そして、1日 1.9ドル以下で生活する、いわゆる貧困人口の8~9割はアフリカにいるといわれています。農業の生産性は世界平均の3分の1から4分の1にとどまっていますので、この生産性をドラスティックに上げることが事業機会として非常に大きいと思いますし、日本企業にも日々その話をさせていただいております。

岩井 寄付ではなく、新しいビジネスモデルやイノベーションによって社会課題に向かっていくことが、グローバルサウスでビジネスをするときに必要なストラテジーであり、牧浦さんがまさにそれをされていると思います。

成田 日本人がゼロからアフリカでビジネスを立ち上げているケースは、牧浦さんの他にもたくさんありますか。

岩井 事業となると相当限られますが、例えばセネガルではシュークルキューブという会社がエネルギービジネスを展開しています。郊外の学校などで太陽光発電ができるようにし、通信とつないでスマートグリッドをつくっていこうという発想です。経済同友会・アフリカ委員会の主要メンバーで、社会課題を解決する事業に投資していくインパクトファンドを立ち上げました。日本人で現地事業をやっている方の応援もしたいですし、アフリカ現地の方が発案する事業にも投資をしていきたいと思っています。

牧浦 レストラン事業のように小規模に展開する日本人は一定数います。ただ、一時期の赤字も良しとしながら売り上げを1億、10億、100億と指数関数的に伸ばしていくようなスタートアップの取り組みはまだ少ないですね。

成田 起業する人たちの視野にアフリカが入っていないのか、根本的にアフリカでの起業が難しいのか、どちらでしょう。

牧浦 ロールモデルが少な過ぎてイメージが湧きにくいですし、アメリカンドリームならぬアフリカンドリームが存在することに気付けていない。機運の小ささの背景だと思います。

岩井 ナイジェリアではユニコーン企業が数社出てきています。株式市場が未整備な国が多いですが、欧米ファンドなどから資金がどんどん入ってきていますので、これから変化していくと思います。

現場で一緒に築き上げる関係性が大切なアセット

佐々木 大野さんからも提言をお願いします。

大野 グローバルサウスといってもやはり国により異なるので、「各国固有の社会課題に着目」を一つ目にしました。その国にどっぷりと浸かりながら解決策を一緒になって考えていくスタンスが必要です。気候変動対策と言っても、灌漑農業の普及が求められている地域もあれば、国土が沈下してしまう国もあります。個々の国の課題を現場で見ることが本当に大事だと思います。
二つ目には「長期の信頼関係を築く」としました。各国固有の課題を理解するためには、その国のリーダー、そして活動するコミュニティとの信頼関係づくりが必要です。牧浦さんがまさに体現されていると思いますが、信頼できるパートナーをつくりながら協働する。そのために人を育てるということも大事だと思っています。

佐々木 牧浦さん、その辺りはいかがですか。

牧浦 今、ガーナの人をフルタイムで 80人くらい雇用しています。ガーナは約 60の言語があるといわれていて、各地・各コミュニティの言語を話せる人を揃えて農家をマネジメントしています。一方、ファイナンスやPRの担当は欧米からアジアまで多国籍です。グローバルな観点でベストタレントを集めて、世界的に大きな課題を解決していこうと、日々汗をかいています。

大野 スピードという点だと他国に強みがあります。ただ、日本は現地で一緒に汗を流すような取り組みをやってきました。日本は頼りになると思ってもらえる関係にしていくことが大事ですし、そのためには現地の方と一緒に動く必要があります。そこで三つ目に「人と人との絆」を挙げました。2013年のアフリカ開発会議を機に、アフリカからの留学生を累計 1,500人ほど各地の大学で受け入れています。企業でインターンをすることもありますので、企業にとって一つのチャネルになります。日本は長年、いろいろな国際協力プロジェクトを各国で展開しています。その現場で築き上げた関係性は本当に大事なアセットです。ここに若い世代の交流を組み合わせて、絆を太く長くしていけたらと思います。

佐々木 インドについてはどうでしょう。

岩井 日本からの直接投資はこの 10年で倍増していますし、これからも伸びていくでしょう。製造拠点としても注目されています。多様な言語や慣習、政府の規制といった難しさもありますが、もっと関係を深くすべき国です。

大野 貧困の問題も大きく残っていますが、その分ソーシャルビジネスが盛んです。早くから ITテクノロジーを使った遠隔診療が進み、活用されています。こうした現場を知って一緒に事業に取り組むのも重要だと思います。

牧浦 6月はインドに滞在していました。各地を回ったのですが、すごいと思ったのは人口の 99%が登録しているという生体認証システム「アドハー」です。日本で言うとマイナンバーシステムのようなものです。これを使って補助金支給が行われ、農業資材の購入もできる。生体認証と決済が完全に統合されていることを実感しました。今後、医療・保健・農業といった分野でぐっとIT系のサービスが伸びるポテンシャルがあると思います。

世界の脱炭素の鍵はアフリカにある

佐々木 牧浦さんからも提言をお願いします。

牧浦 私は「気候変動」「AI」、そして「脱成田悠輔化」を挙げました。先日、ロンドンで金融のラウンドテーブルに参加したのですが、世界は気候変動とAIで動いています。われわれは農家へのファイナンス支援をしていますが、同時にサスティナブルな農法の普及にも力を入れています。肥料を少なくして土壌が本来持つ肥沃な力を使い、二酸化炭素を土に隔離しながら農業を行っていく手法が今、非常に注目されています。アフリカは過去 40年間で干ばつが3倍、洪水が 10倍にも増えています。しかし、世界の温室効果ガスの排出量におけるアフリカの割合はたった3.8%しかない。世界で最も気候変動の影響を受け、しかし最も寄与していないわけです。一方、世界の未開拓耕作地の6割はアフリカにあります。欧米の投資家は今、こぞってアフリカの農地に投資をしています。サスティナブルな農法や植林事業を行うことでカーボンクレジットを拡大できる機会を持っている。つまり、世界の脱炭素の鍵はアフリカにあるわけです。日本も温室効果ガス排出が第5位ですので、アフリカへの投資が加速することに期待したいと思います。欧米の名だたる財団や基金はエネルギートランジションに1兆円規模で投資しています。全世界の気候変動への投資のうち、3分の2くらいがグローバルサウスといわれる国々に投下されないと、世界のネットゼロはあり得ないと思います。
二つ目の「AI」に関して、当社では世界的な財団から資金提供を受けて、大規模言語モデルの開発も行っています。われわれは3万軒ほどの農家にファイナンスを提供しているのですが、識字率はほぼゼロで、スマホもネット環境もありません。現地をこまめに回るフィールドエージェント人員を配置し農業をサポートしているのですが、彼らが現場で使えるようなAIモデルです。農地の水分量や農作物の種類を入力してもらうと、どういう農法で何ができるか、二酸化炭素の吸収がどの程度かといったことが分かります。AIの活用は途上国の未来を大きく変える重要な技術で、多くの可能性が秘められています。

成田 気候変動の影響がアフリカで特に大きいのはなぜなのでしょうか。

牧浦 そもそも気候変動に対する許容力がなさ過ぎます。1人当たりのGDPが 2,000ドル前後で、灌漑設備などを造りたくても資金がありません。先進国のような保健制度も整備されていません。

佐々木 三つ目の「脱成田悠輔」とはどういうことですか。

牧浦 なぜ成田先生がバズっているのかを考えると、至極当然のことをズバッと言っているからだと思います。言いたいことが言える、やりたいことがやれる社会を形成していかなければ、日本の根幹は変わらないのではないか。成田先生の影響力が良い意味で弱くなっていくのが日本再興の鍵ではないかと思います。

佐々木 もっとみんなが率直に表現せよということですね。他国では人々が声を上げ、運動が起こるのですが、日本ではデモも少ない。

成田 他国であれだけデモや暴動が起きているのに、一番やばいはずの日本で何も起きないのは不思議です。素直に表で堂々と言う・やるということを取り戻そうということと受け止めました。日本はまだギリギリ豊かだし、そこそこのガンバリでぬるくやっていくのが一番効率良いと、短期的には思えますよね。文化の違う遠い国に突入していくなんて、合理的な人はやらない。けれども、目の前ではインセンティブがないことをやる人間が、長い目で見ると一番合理的です。本当の危機が訪れてどうにもならなくなる前に、勝手に立ち上げる人がどれだけ増えるかが大事だと思いました。

大野 牧浦さんは自分の使命として、新しい方法でアフリカで農業に取り組んでおられます。そのようにやりたいと思うことがある人を潰さない、むしろ許容し奨励するコミュニティや仕組みも必要だと思いました。

グローバルで起きている大きな流れを捉え、官民連携した取り組みを

成田 企業や個人ができることについて話してきましたが、それを支える政策や制度など、政府がやるべきことについての問題意識を伺えますか。

岩井 中国を見ていると、官と民が戦略的に手を携えて進出していると感じます。対する日本はなかなか連携できていない。こういう国にはこういった形で日本全体として貢献しましょう、といった絵があって、そこに皆が乗っていくような産業政策をグローバルな視野で進めていただけると、物事が加速すると思います。

大野 官民が共になって相手国の官民と対話していくことが重要です。国際協力の現場では専門家同士だけでなく、大使や省庁担当者、企業、各機関などを巻き込んで議論をしてきました。すると相手国が何を考えているか、キーパーソンは誰かが見えてきます。全ての国にはできないけれど、日本に関心を持ってくれている国、長期的に関係を構築したい国を選んで官民で対応していく。日本は戦後長年かけて世界各国で信頼を回復・構築してきました。その過程で築いた知日派人材とのネットワークを活用していくべきだと思います。

牧浦 気候変動・AI・グローバルサウス補助金で 100兆円をお願いしたいです。米国ではインフレ抑制法という名を借りながら、EV補助に数十兆円近く使っています。こうしたドラスティックな資金投下が求められています。

佐々木 皆さんのお話を伺ってきましたが、グローバルサウスを日本としてどうチャンスにするかという点について、成田さんからコメントをいただけますか。

成田 グローバルサウスという言葉はやや雑な括りだと思いますが、歴史を踏まえて世界の行く末をきちんと考えて、ビジネスも個人の行動も選択していこうという、当たり前のところに戻ってきたということでしょうか。得てして国内の内輪の話になりがちですが、まったくスケールが違う世界史的な変化がグローバルで起きている、「逆転の逆転」のような現象も起きています。概して農業もしやすく、天然資源も豊富な南側に比べて、その恵みが少ない北側は、人の力で社会制度を創る必要があり、その結果強くなっていったのが 18 〜 20世紀だったとも言えます。今起きているのは南側の逆襲であり、長い近代史の大きな結節点にいるのかもしれません。

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「日本再興ラストチャンス」
経済同友会とビジネス映像メディアPIVOTがコラボレーションし、YouTubeで配信する未来志向の政策トーク番組。「失ってしまった」30年を経て、これからどのように日本を、経済を再興すべきか。毎回1テーマを設定し、経済学者・成田悠輔氏と経営者との対話を通じて、解決に向けたアクションプランを提案します。配信一覧はこちらから

動画はYouTube PIVOT公式チャンネルから
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