私の一文字
2025年7月号
会員の方が思いを込めて選んだ一字に、書家の岡西佑奈さんが命を吹き込む「私の一文字」。
今月は、南部智一副代表幹事にご登場いただきました。
今月は、南部智一副代表幹事にご登場いただきました。
リーダーとして遍(あまね)く「照」らす
副代表幹事 先端科学技術戦略検討委員会 委員長 南部 智一
住友商事 取締役 副会長
住友商事 取締役 副会長
岡西
「照」はどのような思いで選ばれたのでしょうか。
南部
与えられた責務に全力を尽くすことを、仏教では「光をあてて照らす」と考えるそうです。若い時には「戦う」気持ちが強かったのですが、ある人からこの話を聞いて、まさにこの考え方だと思いました。その時に「一燈照隅」という言葉も知りました。ここに示されているのは利他の精神です。当社で掲げる「自利利他公私一如」の事業精神とも合致する言葉で、各人が責務に全力を尽くすことで全体が光り、国全体が照らされて、遍く共助につながっていくのだろうと、今あらためて思っています。
岡西
この漢字は上部が神霊を迎えて拝む様子、下部が拝む姿を光で照らす様子を表しています。力強さというよりも優しさを秘めた姿を意識した書にしました。
南部
混沌としたこの時代には、向かう方向を照らしたり、人の状態を照らしたりすることが必要です。どれだけ照らすかによって明るさの変化も起こります。
岡西
先を照らす役割でもあるのがリーダーですが、リーダーとして意識されてきたことはございますか。
南部
思いの根本部分が正しく隅々まで伝わっているかどうか、常に意識しています。例えば、デジタルをリードしたときには3千人ほどと直接話し、1万件以上の質問に答えました。ただし、数万人規模となると伝え切れません。そこで必要なのは同じ価値観を共有するリーダーを増やすことです。多くの「灯火」を増やすと、いずれ「万灯」のようになる。このように全体を「照らそう」と考えてきました。
岡西
リーダー育成のポイントはございますか。
南部
リーダーとはトラブルに直面しても利他の心で行動できる人材です。早くから修羅場を経験させ、必要なタイミングで柱になる言葉を掛けることが大事だと思います。
岡西
ご自身はどのような経験をしてこられたのでしょう。
南部
修羅場は何度も経験しました。例えば1994年米国赴任直後に、今のように関税が大幅に上がりました。ある取引先が1カ月の猶予をくれたので、代替品を必死で探してフランス企業を何とか口説き落としたのを覚えています。ただ、このスキームは結果的に新たな拡大施策となりました。絶望の後に希望が生まれることは何度もありましたので、先の道が照らされることの大事さは強く感じています。
岡西
最後に経済同友会の副代表幹事として、今後の活動の展望をお聞かせください。
南部
産業競争力や経済安全保障を意識し自由に、中長期に意義ある発信ができるのが経済同友会の特徴で、そこで活動できることを意義深く思っています。私自身は内閣府推進の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」にもかかわっており、そうした取り組みと経済同友会での活動とを重ねながら、科学技術領域をはじめマルチセクターによる協働や共創を高めていけたらと思っています。
書家 岡西 佑奈
1985年3月生まれ。23歳で書家として活動を始め、国内外受賞歴多数。