私の一文字

2024年6月号

会員の方が思いを込めて選んだ一字に、書家の岡西佑奈さんが命を吹き込む「私の一文字」。
今月は、田中孝司地政学リスク研究委員会委員長にご登場いただきました。

実現のため、冷静に「思う」

地政学リスク研究委員会 委員長 田中 孝司
KDDI 取締役会長

岡西

「思」を選ばれたのはどのような背景でしょうか。

田中

「想」や「志」ではなく「思」を選びました。私は大阪出身で、子どものときから松下幸之助氏の話をよく耳にしており、松下氏が京都の中小企業経営者が集まった講演会で、ダム式経営をどうやって実現するか、との質問に対して、「やっぱり、まず大事なのはダム式経営をやろうと"思う"ことでしょうな」とお答えになったとのことです。何かを始めるには、「実現方法」が最初でなく、まず普段から「思う」ことが大切なのだと。後にこの講演に当社の創業者の稲盛和夫氏も出席されていたことを知り、びっくりした記憶があります。

岡西

「思」という漢字は、上が幼児の脳を表し、下が心臓を示しています。心だけでも脳だけでもなく、同時に動かすことが「思う」であり、まさに強く思うことが行動に向けて大事なのだろうと、あらためて感じました。

田中

企業経営をする上でも「なぜこうしたいのか」について、幼児のように素直な頭で考えて、強く思うことが大事だと感じています。ただ、自分の思いだけでは、独りよがりにもなりかねません。若いころは思いが強くなければやり切れないと思っていましたが、最近はそれだけでは駄目で、時間をかけて普段から冷静に「思う」ことが大事だと再認識しました。
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岡西

書に向かうときも同じかもしれません。強い思いでそれなりに迫力のある字にすることはできますが、なぜ書きたいのかまでさかのぼらないと、作品自体の物語がなくなってしまう気がします。ただ、田中さんが身を置かれている世界は変化がとても速いので、じっくりと時間をかけて、とはいかないところもありそうです。

田中

モバイル通信の世界は2000年ごろから急速に拡大してきました。変化は目まぐるしく、先のことは常に考えておかないといけません。ただし最先端を追ってばかりではバランスを欠くと思います。技術を追う一方で「思う」ことを忘れないのも大事だと思います。私はアート(芸術)も好きなのですが、そこは同じなのではないでしょうか。

岡西

もともと通信の研究がご専門だったそうですね。

田中

そうですね。仕事柄というのもありますが、なぜそうなるかという探求心がもともと強いと思います。未来のことを考え、「思う」のも昔から好きでした。

岡西

経済同友会では地政学リスク研究委員会委員長を務めていらっしゃいますが、どういった活動が中心なのでしょうか。

田中

今の世界情勢は不確実性が高まっており、どう対処するかを解くことは簡単ではありません。そこでまずは、地政学リスクをニュートラルな視点で理解していくことを重視しています。ぜひ温かい目で見ていただき、考え方を勉強する場に活用してもらえればと思っています。

書家 岡西 佑奈

1985年3月生まれ。23歳で書家として活動を始め、国内外受賞歴多数。
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