私の一文字
2023年10月号
会員の方が思いを込めて選んだ一字に、書家の岡西佑奈さんが命を吹き込む「私の一文字」。
今月は、三毛兼承副代表幹事にご登場いただきました。
今月は、三毛兼承副代表幹事にご登場いただきました。
今こそ『學び』続ける
副代表幹事 三毛 兼承
三菱UFJ フィナンシャル・グループ 取締役 執行役会長
三菱UFJ フィナンシャル・グループ 取締役 執行役会長

岡西
旧字体の「學」を挙げられたのが、印象的でした。
三毛
漢字がもともと持つ意味が、旧字体であることでより見えやすいと思っています。
岡西
まさにそう思います。この「學」は下段の「子」を屋根が覆い、上段は「〆」の記号を両脇から手が支えています。屋根の下で並ぶ子どもたちを手で支える意味が込められた漢字なのですが、どういった思いで選ばれたのでしょうか。
三毛
「學ぶ」には二つの条件があると思っています。一つには新しいことを求める自らの意思があること、もう一つは自らの無知に対して謙虚であること。自身の軸が定まるほど新しさへの感性は鈍りがちです。変化の激しい今の時代こそ学び続ける行為が重要だと考え、選びました。
岡西
書道の「道」も自身が学び続けることだと常々思っていますので、今のお話に非常に共感します。

三毛
ある米国の教育学者の言ですが、学習には知識を獲得する形成的学習と、新しい見方やものの捉え方をする変容的学習があるそうです。経営者こそ、形成的ならびに変容的学習の両面に常に取り組んでいないと、本当に重要な経営判断を間違える可能性もあります。例えば将棋を考えると、縦横9マスしかない将棋盤の上で、今なお新しい手が編み出されています。そう思うと、何事にも未知があり、学び考え続けるものだと思うところです。
岡西
若い社員の方々と意見交換をされるのも新しいことへの接点と思いますが、印象に残ったことはありますか。
三毛
「経営者も含めた私たち社員、全員が変わっていこう」という話をした際、「三毛さんから経営者が変わっても、会社はそれを本当に継続していくのか」と問われたことがあります。鋭い指摘だと思いました。一人ひとりの毎日の変化を累積していこうと真摯に対話しました。
岡西
海外事業の経験から学ばれたことはございますか。
三毛
タイの銀行を買収したときに、そこの会長から「あなたたちの方がグローバルな経験値は豊富かもしれない。しかし私たちはこの地で営々と事業をしてきた。あなたたちもこの地で新たに学ぶこともあるだろうから、皆の話に心を傾けて聞いてほしい」と言われたのが印象に残っています。最初の赴任先ロンドンで、当時のJPモルガンのCEOから、信頼されること、謙虚であることの大事さを教えてもらったのですが、年月が経ってあらためてその教えに立ち戻った気もしました。
岡西
最後に副代表幹事として、今後の展望をお聞かせください。
三毛
私は主にスタートアップ領域とグローバル領域の委員会活動にかかわっています。「失った 30年」は変容的学習をしてこなかったことが影響したのではないでしょうか。今後、社会として新しい価値をもっと生み出すことが必要ですし、経済同友会としてもそうした活動に力を入れていきたいと思います。
書家 岡西 佑奈
1985年3月生まれ。23歳で書家として活動を始め、国内外受賞歴多数。