私の一文字
2023年6月号
会員の方が思いを込めて選んだ一字に、書家の岡西佑奈さんが命を吹き込む「私の一文字」。
今月は、平子裕志・日ASEAN委員会委員長にご登場いただきました。
今月は、平子裕志・日ASEAN委員会委員長にご登場いただきました。
『運 』り動かす
日ASEAN委員会 委員長 平子 裕志
ANAホールディングス 取締役副会長
ANAホールディングス 取締役副会長

岡西
「運」は戦をしながら進み、戦をしながら止まるという由来の文字で、力強さを意識しながら書かせていただきました。語源をもともとご存じだったそうですね。
平子
ANAの社長だった 2018年の暮れに『悠久の軍略』という本に出合い、「運」という文字の意味を知りました。その後、コロナ禍になって1年ほど経った 2021年の初頭、社内の女性だけが集まる会議に参加した時に、「今年の一文字は?」と質問され、私は「運」と答えました。
岡西
本当に大変な時期だったかと拝察します。
平子
その理由は三つありました。まず、「運」という文字の由来。まさに「軍をしながら進み、軍をしながら止まる。決して平坦ではないが苦労しながらも前に進もう」と。会社はコロナ禍で立ちすくむ大変な時期でしたが、自戒の念も込めて社員に伝えました。二つ目は社員皆が不安に感じたキャリアについて。「馬車が去っていった後の轍」から「たった一回限りの自分の人生を運ぶ」という意味になったキャリアは運命そのもの。軍の中にこそ運命が動いて新しいキャリアを形成できるチャンスだと励ましました。三つ目は「運ぶ」。航空会社ですから、「今年こそもっとお客さまと貨物を運ぼう」と。少しでも皆が元気になればとの思いでした。
岡西
ご自身の強さも必要だった時期だと思いますが、どのように行動されたのでしょうか。
平子
「会社の品格は社長の力量を超えられない」と知人から言われたことがずっと頭の中にありました。社員の言葉と行動のレベルを引き上げるには、まず自分自身の力量を高めるしかないと。コロナ禍では、とにかく社員と共に乗り越えていかねばならないと必死でした。

岡西
オンラインでの社員対話を続けられたとお聞きしましたが、現場に寄り添うことへの思いがうかがわれました。
平子
社員とのコミュニケーションこそ大切です。どれだけ本質的な話ができるか。厳しい意見も多くありましたが、労使協議会のような場でも本音で話そうと伝えました。
岡西
私自身も、作品にはうそのないことを描きたいと常に思っています。
平子
まさにその積み重ねですね。コロナ禍の最中に有志だけの少人数オンライン対話をほぼ毎週行いました。うれしかったのは、それを通じて今まで接点のなかった参加者同士のコミュニケーションが生まれていったことです。こうしたナナメのコミュニケーションは草の根的であるがゆえに困難なときには雑草のような力強さに変わります。
岡西
最後に、経済同友会での活動もお聞かせください。国際交流委員会のアジアPT委員長でいらっしゃいますね。
平子
経済同友会は、1974年から日ASEAN経営者会議(AJBM)をホストしています。昨年 12月の第 48回会合で、この会議を単なる交流会ではなく、地域共通の課題解決という目的を持った活動にしようとの声が上がりました。最大テーマは地域内での高度人材の育成と循環。日本の立ち位置が大きく変わろうとしている昨今、どんな仕組みにするのが持続的なのかという観点で、現在具体化に向けて進めているところです。(取材時はアジアPT委員長)
書家 岡西 佑奈
1985年3月生まれ。23歳で書家として活動を始め、国内外受賞歴多数。