2024年10月号
無錫と志清意遠
中国の無錫というとカラオケの「無錫旅情」を思い起こす人も最近はだいぶ少なくなってきた。実は無錫には15年ほど前、私がNTTデータのグループ経営企画本部長の時に設立したBPOセンターがある。そのセンターには設立当初から「志清意遠」という額が掲げられている。設立準備で無錫を何度か訪ねたある時、隣の蘇州にある明代の庭園で、世界遺産にもなっている拙政園を訪問した時に見つけた言葉だ。自己流に解釈して、「志を清くして意(意識、目標)を遠く(高く)持つ」という意味だと思い、当時のセンター長の高さんとBPOセンターのビジョンとしてはどうかと話をした。センターといっても当時は、ビルの1フロアしかなく、20 人ほどの中国の若い人たちが日本語の勉強を熱心に取り組んでいた。「問題は解決されるためにある」といった日本語のさまざまな標語が壁のあちこちに張られ、日本人でもなかなか使いこなせない敬語まで勉強する若い人たちの熱気に圧倒された。まさに、志が清く、意識を高く持った若者の集まりだと思った。
あれから15年たってBPOセンターも大きくなり、無錫以外に長春にも拠点が広がり600人の若者が働いているということだ。平均年齢が28歳、全員が日本語検定2級を取得し、1級も7割以上の人が取得しているとのことで大変たくましく感じている。みんな日本が好きな若者たちだ。現在の日本と中国は非常に微妙な関係にあるが、中国の人たちと直接話をすると非常に真面目で熱心な人が多く、信頼のできる人たちばかりだ。国と国との関係は単純ではないが、お隣さん同士の国である日中の関係をもう一度考えていく時だと思う。このような時こそ、お互いに清い志を持って高い意識で両国の関係を考える時ではないだろうか。「無錫旅情」も、心を広くしてもう一度やり直そう、という歌詞だったような。