2023年5月号
素人が会社を変える


H.U.グループホールディングス
代表執行役社長 兼 グループCEO
2002年の10月、ソニー・ミュージックエンタテインメント(以下、SME)のコーポレート・エグゼクティブとしてグループ全体の管理部門を統括していた私は、突然ソニー・グループのアニメーション製作会社であるSMEビジュアルワークスの社長を命じられました。
この会社は発足してから8年ほど鳴かず飛ばずの状況でしたが、「これが足りない」「このやり方はダメ」と外野席からのヤジを社内から飛ばしていた私に対し、「そんな偉そうに言うのなら自分でやってみろ」という意味での人事だったと思います。それまで音楽畑を中心にキャリアを積んできた自分にとってはまさに青天の霹靂、同じエンタメ業界と言っても音楽と映像では全く違うし、ましてアニメ業界となると自分にとっては雲をつかむようなものでした。
就任して最初に、長年の低迷による社内の停滞感を打破し再スタートを切るため、あえて退路を断ち社名を変えようと考えました。それまではSME(SONY)というブランドに頼る戦略や発想が多く、それが甘えにつながっていると感じたからです。
そこでSMEとはまるで関係がなく、将来アニメブランドとして意味のある、そしてオリジナリティのある社名にしたいと考え、「アニプレックス」(アニメーション+ビジネスコンプレックス)という社名にしました。SMEに頼らないゼロからの出発、「背水の陣」ということに当初は不安な表情をしていた社員が、徐々に自分たちのブランドで勝負することに目覚め、仕事に対して過去と比べ物にならないくらい積極的になってくれました。「われわれは過去の実績がない分失うものはない、だから他社がやっていない、やってこなかった手法を積極的にやろう」と指示を出し遮二無二突き進んだことで自然に運が向こうから飛び込んでくるようになり、『鋼の錬金術師』という大ヒット作を生み出すことになったのです。そうなると会社は完全に「プラスのスパイラル」に入り、その後も次々にヒット作を出し急成長しました。
アニプレックスは最近でも『鬼滅の刃』などの大ヒット作に恵まれ、日本最大のアニメーション会社に成長しています。

