◆5 医療・介護・予防
2026年5月 公益社団法人 経済同友会
| 位置づけ | ② 安心・安全の基盤確立 | 時間軸 | 中期 ~2030年「供給力の抜本的強化」 | 力 | 〈支える力×分かち合う力〉 |
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提言のポイント
- 給付と負担のメリハリ付け
- 生産性の向上
- 医療安全保障の実効力強化
- 診療報酬の意思決定プロセスの転換
- 民間投資による予防・健康づくり市場の構築・拡大
- DXの推進
経済同友会の主張 サマリー
課題認識
医療機関を取り巻く経営環境は急速な悪化を辿っている。
医療・介護給付費がGDP成長率を大幅に上回る速度で膨張を続け、現役世代が負担する社会保険料は年々増大の一途を辿っている。
諸外国と比較して病院数および病床数が過剰な水準にあり、同一圏域内に類似の機能を有する中小規模の病院が混在
地域(とりわけ地方部やへき地)および診療科間における医師の偏在は、もはや看過し得ない状況。看護職、介護職の不足も深刻
医薬品の供給不安定化が常態化。医薬品の原薬や医療機器の生産を特定の国や地域に過度に依存する構造。
医療機関を標的としたランサムウェア攻撃や不正アクセスが相次ぎ、基幹システムの機能停止により、診療の継続断念や救急搬送の受け入れ制限といった深刻な事態が頻発
現行の診療報酬制度における意思決定プロセスは、「短期的サイクル」「閉鎖性」「財政交渉偏重」という3つの構造的課題を抱え、中長期的な医療制度改革を阻害
予防・健康づくりを通じて国民の健康寿命を延ばすことが必要であるが、公的保険市場への依存には限界がある
目指すべき方向
物価高騰や賃金上昇に伴う経費の増加を診療報酬の改定のみで補てんすることは適切ではない。医療機関が創意工夫を凝らし、生産性や収益性を向上させる自助努力が不可欠
小さなリスクは自助、大きなリスクは公助との考え方の下、給付と負担の両面における実効性のあるメリハリ付けが不可欠。「ワイズスペンディング」を徹底するとともに、「応能負担」の原則をさらに強化することが必要
医療機関の機能分担の明確化と集約化が急務。各圏域の特性に即応した柔軟な施策展開を可能とする制度設計が必要
職種間における役割分担の抜本的な再定義、チーム医療の深化、さらには医療DXを通じた業務プロセスの構造的効率化
平時より官民連携による緊密な準備を徹底し、有事の際、限られた医療資源を迅速かつ機動的に確保・配分し得る体制の構築
医療分野におけるサイバーセキュリティ対策の強化は、国民の生命を保護するための「危機管理投資」の一環として位置づけ、国が主導的な役割を果たす形で強力に推進
診療報酬の意思決定プロセスを「中長期ビジョン型」へと転換することが不可欠
予防・健康づくりを「コストではなくアセット」として捉え、民間投資による予防・健康づくり市場の構築・拡大が不可欠
具体的な施策
- 医療機関の経営ガバナンスを強化し、経営能力を最大化させる規制緩和(医療法人の理事長職における兼務制限の緩和や、医師免許保持者に限定されない経営専門人材の理事長就任など)+公的保険外事業を適正かつ積極的に展開し得る収益基盤の多角化の推進(予防・未病対策や健康増進に資する関連商品・機器の販売といった収益事業の解禁など)
- 公的保険の給付範囲の見直し(ノーバリューケアやローバリューケアの適用除外など)+負担の垂直的・水平的公平性を確保する仕組みの構築(金融所得等の勘案など)
- 地域別診療報酬制度の導入、都道府県知事の権限強化、医療機関の再編・統合
- 処遇改善による経済的基盤の強化、他職種への「タスク・シフト/シェア」の果敢な推進 、人工知能(AI)やロボティクス技術の実装による過度な業務負担の軽減
- 国が主導してリアルタイムでの情報共有システムを高度化・定着させる。重要医薬品および医療機器の国内生産基盤の強化、増産体制への財政的・技術的支援、さらには戦略的備蓄の拡充を一体的に推進
- 全医療機関におけるシステム障害を想定した業務継続計画(BCP)の策定。中小病院向けの「専門アドバイザー」派遣事業の創設や医療実務とITの両方に精通した人材の養成
- 5~10年単位の「医療制度改革マスタープラン」を策定すべき。診療報酬の「原則・方向性・中期目標」を明示し、2年ごとの改定は「機動的な短期調整」として再定義
- 保険者でもある企業や地域が民間サービスや地域のリソースを最大限活用するための制度・規制改革+個人へのアプローチによる意識改革・行動変容の各種施策
現状 2026年4月時点
| 施策1 | 理事長要件の一部について緩和されているものの、まだまだ規制が多く残っている。 |
| 施策2 | OTC類似薬の自己負担増(令和8年度診療報酬改定)や、窓口負担や保険料への金融所得の勘案(医師法改正案)が進められているものの、改革はまだ道半ば。 |
| 施策3 | 地域別診療報酬は財務省が提起しているものの動きなし。都道府県知事の権限は少しずつ強化される流れ(直近は2025年医師法改正による医師偏在対策など)。国は地域医療連携推進法人の活用を進めているものの、再編・統合の進捗は極めて限定的。 |
| 施策4 |
補助金や診療報酬改定により処遇改善は少しずつ前進。「タスク・シフト/シェア」やAI・ロボティクスの活用は少しずつ導入が進んでいるものの不十分 |
| 施策5 |
国は地方自治体や民間企業と連携して着実に対策を強化。民間企業は事業継続計画(BCP)の策定や従業員向けの研修や訓練が不十分 |
| 施策6 | 国は「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」および「サイバーセキュリティ対策チェックリスト」を策定して医療機関を支援 |
| 施策7 |
診療報酬改定の意思決定プロセスに向けた動きなし |
| 施策8 |
セルフメディケーションは促進されているものの、特定健診・特定保健指導の実施率は依然として 100%に程遠く、健康無関心層へのアプローチには、さらなる創意工夫が必要
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提言内容 詳細
給付と負担のメリハリ付け
1. 公的保険の適用範囲の見直し
- 緊急性が高く、生命の維持に直結する医療を含む大きなリスクは公助の考えのもと給付率を維持。一方、自身で管理できるような小さなリスクについては自助との観点から、給付率の引き下げかOTC医薬品への転換等、保険適用外化(7割給付原則の見直し)
- 経済成長率を恒常的に上回る医療・介護給付の伸びを抑制するサーキットブレーカーを導入
- 地域別診療報酬制度の導入(国が決定する基礎診療報酬と都道府県が決定する地方裁量診療報酬の二階建て構造へと再編)
- 外来受診時定額負担の導入、後期高齢者の医療費自己負担2割への引き上げ、介護利用者負担2割への引き上げ、「現役並み所得」等の判断基準の見直し など
2.医療機関の機能分担の明確化と集約化
- 地域において、医療機関間での役割分担を明確にし、機能を集約化
- 医療機関の連携、ネットワーク化を促進
- 必要な医療機関や医師数について需要を踏まえて精査し、医療機関を再編・統合
3. 保険者機能の強化
- 74歳以下の公的保険制度は、地域保険に再編・統合し、単一制度の下、地域単位での複数の保険者により運営
- 後期高齢者支援金の加算・減算制度インセンティブのさらなる強化
- 健保組合が選択すれば75 歳以降も企業健保に継続加入できるようにし、そうした健保組合には後期高齢者支援金の拠出を求めない
4. 応能負担の徹底
- 金融所得・金融資産の勘案
5. 長期的な受益と負担のあり方に関する国民コンセンサス形成
- 多様なステークホルダーとの議論の場を早期設置し、論点・対立軸を明確化
- 若年層を含めた国民的な議論による改革コンセンサスの形成を推進
生産性の向上
1. 経営効率化に資する規制緩和
- 医療法人の代表者である理事長の兼務、医師以外の理事長就任
- 医療法人による収益事業の認可
- 混合診療・選択的介護が可能な領域の拡大
- 質に応じた価格設定
- 株式会社による医療機関への参入規制の緩和・撤廃
- 人員配置基準の見直し
2. 多職種連携を実現するタスク・シフト/シェアを推進する規制緩和
- <医師→看護師>医師の指示を受けずに一定レベルの診断・治療等を行える国家資格(ナース・プラクティショナー(NP)制度)の創設検討
- <薬剤師→看護師>訪問看護ステーションの配置可能薬拡大
- <薬剤師→その他>一部調剤業務の外注
- <看護師→介護職>在宅酸素療法の開始・流量調整/研修を受けた介護職員の胃ろうへの薬の注入
- <看護師→薬剤師>薬剤師により在宅患者への点滴交換等、褥瘡への薬剤塗布
3. 日本のヘルスケアシステムの輸出・海外普及の支援
- 日本のヘルスケアシステムのサービスレベルの認知向上やブランド構築の観点から公的支援(滞在型医療インバウンド、ODA を活用した新興国支援など)を行う
- 医療・介護サービスプロバイダー、医療機器メーカー、金融機関、商社などによるインフラ輸出コンソーシアムの設立をサポートする
医療安全保障の実効力強化
1. 有事の際、限られた医療資源を迅速かつ機動的に確保・配分し得る体制の構築
- 現場の稼働状況を即時把握し得るデジタル基盤の構築
- 政府対策本部長(内閣総理大臣)の権限の明確化
- 訓練の実施等
2. 医療分野におけるサイバーセキュリティ対策の強化
- 「専門アドバイザー」派遣事業の創設
- 医療実務とITの両方に精通した人材の養成
診療報酬の意思決定プロセスの転換
1. 「短期的サイクル」・「閉鎖性」・「財政交渉偏重」から「中長期ビジョン型」へ
- 医療制度全体を俯瞰した5~10年サイクルのマスタープランを策定。その中で診療報酬改定に関する「原則・方向性・中期目標」を示し、2年ごとの改定は本プランに基づく「機動的な短期調整」として再定義
民間投資による予防・健康づくり市場の構築・拡大
1. 民間サービス提供者の新規事業創出・投資拡大の推進
- スタートアップ企業などを中心とした予防・健康ビジネス支援(当該領域に特化した競争的(公募)財政支援制度の導入、研究開発税制見直し活用など)
- 医療法人による予防・健康づくりに関する取り組みの収益事業の認可
- 薬局による予防・健康づくりサービス提供のインセンティブ付与(地域支援体制加算の実績要件の見直し(健康サポート薬局認定要件の一部見直し))
2. 個人への動機づけを行う企業および地域の施策
- 企業に対する支援(協会けんぽおよび市町村国保の健診合同実施、予防的ヘルスケアサービス提供など)
- 地域に対する支援(産官学医プラットフォームの設立、普通調整交付金改革による財源確保、SIB活用など)
- 個人に対する支援(セルフメディケーション税制の税額控除化(一律10%)、手続きの軽減等見直し)
3. 健康経営の実践
- データヘルスやコラボヘルスなどを推進し、健康経営にかかる取り組みを強化
- 高齢者雇用を推進するとともに、若年層の意欲・生産性の低下を防止
DXの推進
- オンライン診療・オンライン服薬指導の普及促進
- 次世代医療基盤法による医療ビッグデータの活用を安定的、継続的に行うべく、認定事業者を国が支援する制度に見直し
- 健康・医療・介護データのデジタル化とPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)整備により個々の健康状態を時系列でトラッキングし、重複検査・投薬を防止
- 医療サービスや薬剤の費用対効果を継続的に可視化し、診療報酬決定に活用
- 政府のデータ活用・社会実装およびPHR二次利用促進に向けた制度改革(PHR事業者の二次利用に対する個人の包括的な許可・撤回を一元的に管理できるUI・API整備、倫理審査基準の標準化・人材育成など)
- 予防・健康づくりのためのデータヘルス促進に向けた政府組織の一元化(健診データの標準化に向けた省庁横断体制の構築)
その他
- 社会保険医療の消費税課税対象化
参照提言
- 抜本的な医療制度改革への提言~持続可能な制度への再構築と産業としての医療の発展を目指す~(2010年4月22日)
- 医療・福祉の質向上と経済成長の二兎を追う―医療・福祉ビジネス3つの具体的行動―(2012年5月11日)
- 経営者のリーダーシップによる健康経営の実践と保険者機能の発揮(2016年2月15日)
- データ利活用の推進を急げ―今ある健康・医療・介護データを活用・連結しビッグデータへ―(2019年6月3日)
- 希望ある超高齢社会を支える介護の枠組み ~DXによる生産性革新を通じた処遇改善と質の向上~(2020年10月22日)
- 活力ある健康長寿社会を支える社会保障のあり方 ーコロナ禍を経て、今改めて考えるー(2021年7月19日)
- オンライン診療・オンライン服薬指導に関する意見―新たな診療概念としての確立と普及促進に向けた不断の改革を求める―(2021年12月10日)
- 豊かな社会の実現に向けたデータ利活用の基盤を速やかに整備する(2023年2月8日)
- こども・子育て政策の財源に関する意見 ―現役世代の可処分所得の増加を図るため、まずは徹底した歳出改革を―(2023年11月22日)
- 規制改革による持続可能な医療提供体制と患者中心の医療の実現 ~タスク・シフト/シェアの推進と経営効率化~(2024年4月25日)
- 予防・健康づくりは“コストからアセットへ” ~民間投資・地域による公的保険外市場拡大~(2025年5月23日)
- 持続可能で強靱な医療システムへ~7つの危機に立ち向かう2つの改革~(2026年4月23日)