政策提言
新政権に望む
-新たな経済社会への転換にむけた合意形成-
公益社団法人 経済同友会
代表幹事代行 岩井 睦雄
代表幹事代行 岩井 睦雄
日本初の女性総理大臣が率いる新政権が発足した。これが日本の社会、そして政治における多様性を加速する契機となることを期待する。
我が国は、国内においては、少子高齢化と人口減少、それにより深刻化する人手不足、また、対外的には厳しさを増す安全保障環境への対応などの課題が山積しており、これらを本質的に解決する合意形成が必要である。コストプッシュ型インフレ、それによる国民生活の苦境への対処は焦眉の急であるが、新政権には、これらの足元の課題に、中長期的に日本の競争力を強化する構造改革との一貫性をもって取り組むことを求める。
政治における多党化が進む中で、社会を分断することなく、安定的な政権運営を行うには、新たな連立の枠組みで、政策について歩み寄り、実行するリーダーシップが不可欠である。一方、野党には現実的かつ具体的な対案をもった政策議論や対話を通じた合意形成により、その責任を果たすことを求める。
以上の観点から、新政権において優先的に実行すべき政策を以下に述べる。
- 財源と効果を踏まえた物価高への対応
⚫ 物価高対策としての一律の減税や給付は、財政規律の維持、持続性の観点から行うべきではない。
⚫ 需給ギャップが改善しインフレに転じている中で、財政出動には慎重を期すべきである。EBPMに基づくワイズスペンディング、財源や効果を踏まえた政策の選択、優先順位付けを徹底する財政運営が必要である。 - 経済のダイナミズムをつくる成長戦略の実行
⚫ 人手不足が続く中で、幅広い世代で人材流動性を高め、これを通じて経済のダイナミズムをつくるべきである。競争力ある企業は、魅力的な機会や待遇により優れた人材を集め、さらなる成長を実現する。中小企業においても合従連衡により競争力を強化する。その一方で、役割を終えた企業は市場から退出することにより、企業の新陳代謝を活性化すべきである。
⚫ 働く個人については、企業が淘汰されても、新たな活躍の場に円滑に移動できるように、AI活用等のアップスキリングに係る支援を拡充し、雇用のセーフティネットを強化すべきである。
⚫ 民間企業の余剰資金を国内投資に向けるべく、規制改革・緩和、DX、GX、ヘルスケア、ライドシェア、自動運転、データセンター等における投資環境の整備を推進すべきである。 - 外国人材との共生社会の構築
⚫ 構造的な人手不足、とりわけエッセンシャルワーカーの不足への対応として、外国人材の活躍促進は急務である。外国人材との共生社会を実現すべく、共生社会の定義と基本方針、国・自治体・企業の役割と財源措置などを提示した「外国人材の活躍促進基本法」(基本法)の制定が必要である。
⚫ 共生政策を統括する横串機能をもった組織を政府に設置し、外国人材の活躍の重要性や共生社会構築の必要性を発信すべきである。 - 日米関税合意の着実な履行と経済安全保障の強化
⚫ 日米関税合意の最大の意義、すなわち、日本が米国の特別なパートナーとして、戦略的に重要な分野でのサプライチェーン構築に加わることを踏まえ、双方が着実にこの合意を履行することが重要である。
⚫ 対米投資計画については、米国のみならず、日本の経済安全保障と産業競争力、国益に資する結果が得られるよう、官民が足並みを揃えて取り組むべきである。
<国家ビジョンの提示と令和モデルへの転換を加速する政策の推進>
価値観の多様化が進む中で、ステークホルダー間で合意を形成していくためには、目指す国家ビジョンの共有が重要である。新政権には、経済のダイナミズムと人々の分断を招かない包摂性をあわせ持つ社会の実現にむけて、ビジョンの提示を求めたい。
また、日本に山積する課題を解決するには、人口増加、高成長を前提とした昭和・平成の時代に構築された制度や政策から、令和の時代に合致した経済社会モデルへの転換が必要である。これを加速すべく、以下の政策に取り組むことを求める。
- 賃上げの継続と人手不足への対応
⚫ 企業としては、CPI+1.0%以上の実質賃金の水準に向けて、賃上げのモメンタムを継続していく。賃上げのノルムを形成する意味では、最低賃金を全国加重平均1,500円に引き上げること、特にエッセンシャル分野では人材移動を促す高い水準に引上げることが必要である。
⚫ 人手不足への対応として、まずは年収の壁を撤廃し、「働き控え」の問題を解消すべきである。また、労働投入量を増やし潜在成長率を高める観点から、従来の働き方改革を見直すことも必要である。
⚫ 労働法制においては、健康確保を前提に、労働契約法に基づき、企業と自律した意欲ある個人が柔軟に契約を結べる枠組みを検討すべきである。
⚫ 人手不足への対応、生産性向上やイノベーション創出には、多様な人材の活躍が不可欠である。これを妨げる不都合の根本的な解消にむけて、選択的夫婦別姓制度の導入を引き続き求める。 - カーボンニュートラルと産業競争力強化に資するエネルギー戦略
⚫ エネルギーの安定供給に向けて、安全性が確認された原発の再稼働について、立地地域の理解、同意が得られるように国が前面に立って最大限努め、実現することを期待する。
⚫ 中長期的には、カーボンニュートラルの実現とエネルギー需要増、そして産業競争力強化への対応として、特定のエネルギー源に過度に依存しないポートフォリオとなるエネルギーミックスが不可欠である。
⚫ そのためには、次世代原子炉や新エネルギーの研究開発の推進も非常に重要であり、これらへの投資を拡大し、フィージビリティの高い将来のエネルギーシステムの構築に今から取り組むべきである。 - 地域が主体的に未来を切り拓く地方創生
⚫ 地方創生交付金の倍増にあたっては、自治体間連携を前提とする効果的な交付を行うとともに、都道府県が市町村の連携促進や補完に責任を持って取り組めるように、自由に使える資金を用意すべきである。
⚫ 各地域のチャレンジは、第三者機関がデータに基づき検証し、より効果的な施策の実施と横展開を加速する必要がある。また、デジタル技術を活用した遠隔地連携については、制度面・財政面での一層の後押しを期待する。
⚫ 農業に関しては、分散した農地集約を効率的に進めるなど、生産性が高く、持続可能な構造への改革を推進すべきである。 - 全ての世代で支える社会保障制度への改革
⚫ 主に現役世代で支える制度から、マイナンバーに紐づくデータ管理の仕組みにより、世代を問わず個人の経済状況に応じた負担を強化する制度への転換が必要である。また、公的医療保険給付の範囲の見直し等により、社会保険料を抑制し、現役世代の可処分所得向上を図るべきである。
⚫ 年金制度については、将来の安心に備えるために、基礎年金の底上げに必要な財源について議論を進めるべきである。また、第3号被保険者制度を段階的に廃止し、第2号に移行する制度改革を求める。 - 国際秩序の変化、地政学リスクに対応した外交・安全保障政策
⚫ 日本が置かれた安全保障環境が厳しさを増す中で、自らの国は自らで守るという自立性の確立と、そのための抑止力強化が必要である。さらに日米同盟に加えて、QUAD(日米豪印戦略対話)、同志国である韓国、フィリピン等との連携により抑止力向上を図るべきである。
⚫ 経済外交については、ハイスタンダードなCPTPPの堅持、RCEPにおけるグローバルサウスの参画と互恵性向上に向けた取り組みを期待する。 - 政治資金の透明化と政策本位の政治の実現
⚫ 与党で多数を占める自民党に対しては、政治資金問題の抜本的解決を求める。
⚫ 企業・団体献金も含めた政治資金の流れを簡素化し、監視が行き届くようにすべきである。使途と流れの可視化・監査の質向上にむけて、現金授受の完全禁止、同一の国会議員が複数の政治団体を持つことの禁止、データベース管理システムの構築が必要である。また、全ての政治資金の支出について、具体的な使途とその目的を報告書に記載すべきである。
⚫ 与野党ともに政策本位の政治に徹し、喫緊の課題への対応はもちろん、新たな経済社会への転換にむけて、政治のリーダーシップを発揮することを求める。
以上