ラウンドテーブル2020 分科会「グレートリセット後の未来 2-B:オフィス・働き方」記事掲載
2021年2月18日に開催いたしました「ラウンドテーブル2020 ~未来を探る円卓会議~」分科会の様子をご紹介します。
グレートリセット後の未来 分科会2-B「オフィス・働き方」
※所属・役職は開催当時
《パネリスト》 ※写真は左から
秋好 陽介(ランサーズ 代表取締役社長CEO)
河野 貴輝(ティーケーピー 代表取締役社長)
森 浩生(森ビル 取締役副社長執行役員)
《モデレーター》
米良 はるか(READYFOR 代表取締役CEO)
米良:今日はモデレーターを務めさせていただく米良です。最初に自己紹介を少しだけさせていただきます。私は、インターネット上で不特定多数から資金調達が可能なクラウドファンディングサービスの「READYFOR」というサービスを運営しており、READYFOR株式会社という会社を経営しております。インターネットの会社なので、働き方や不動産といったリアルな場所に関して、私は特に今まで何かをしてきたわけではございませんが、登壇者の皆様が本当にプロフェッショナルですので、お話を伺っていきたいと思います。
働き方やオフィスというテーマは、コロナ禍で一番皆さんが悩んでいらっしゃる点なのかなと思っています。私自身も利用者として、非常に悩んでいるところもありますので、素人目線でもいろいろな質問をさせていただきながら、これからについて、皆さんと議論できたらなと思っております。
では、さっそく始めてまいります。1つ目にまず、ランサーズの秋好さんに質問をさせていただきたいなと思っております。秋好さんの会社は、クラウドソーシング領域で第一線を走っている会社だと思うんですけれど、働き方の面でも、サービス自体も、働き方をより良くしていこうと挑戦されていると伺います。いろいろな取り組みをしているのかなと思いますので、そのあたりを含めて、自己紹介いただけるとうれしいです。お願いします。
秋好:インターネットで、働きたい個人と仕事をお願いしたい企業をマッチングするサービスをやっています。たとえば、エンジニアの人に仕事をお願いしたいなと思うと、全てオンラインで完結します。エンジニアの募集をして、採用して、最後に報酬を払うまで一連の流れが進みます。シェアリングエコノミーといわれたり、一部がギグワークと呼ばれたりするんですけれど、そういう会社をやっています。
そうした点から、我々の会社の働き方は、実は何もコロナ禍で変わっていないです。コロナ禍前から時間と場所にとらわれずに働こうというのを推奨していました。今日の登壇があるので、会社の出社率のデータを調べてみたんですけれど。ちょうど1年前、コロナが発生する前の12月とか1月だと、出社率50%、60%ぐらいでしたね、元から。
米良:すごいですね。
秋好:ただ、コロナ禍になって、緊急事態宣言もあり、一層の出社抑制はしました。結果、出社率は20%ぐらいまでに減りました。オフィスの統廃合もしています。ただ、会社のスタンスは変わっていないのですが、周りの方が結構変わりました。たとえばランサーズの社員だと、エンジニアの社員というのが結構多いんです。今回は振り切って、1年間で50人エンジニアを増やしたんですけど、99%がリモート採用でした。会ったことはなくて、面接もオンラインで、会社にも来ないっていう。ふたを開けてみると、50人増えた中にはなんとロシアに住んでるエンジニアの人も採用できたりして、びっくり。日本人なんですけれどね。自社は変わっていないけれど、周りが変化したというのが大きいなと思っています。働き方に関しては。
米良:ちなみに今のお話だと、オフィスは縮小したってことですか?
秋好:そうですね。3つオフィスがあったんですけれど、縮小しました。
米良:残したオフィスの機能としては、どういう機能を残したのでしょう?
秋好:オンラインで基本的に何でもできる一方で、感情をシェアするような会議、ブレストとか、新入社員のわからないことを教えるとか。そういうものはオフラインの方がいいところもあるので、そういった点です。あと、フレックス制度ってあるじゃないですか。この時間だけ来てねっていう。一緒に働く体験も大事なので、何曜日のこの時間だけは会社に来てねというのもやっています。フレックスプレイス制度って言うらしいんですけど。その、フレックスプレイスのために、本社機能を残していますね。
米良:来ているときは、全体の20%ぐらいが毎日いらっしゃるんですか?
秋好:そうです。月曜日は管理部、火曜日はマーケティング部みたいな。
米良:部署別にってことなんですね。
秋好:そうですね。
米良:20%ぐらいが目安となったときに、経営陣ですぐ、こういう方針でやろうって決めた感じなんですか?
秋好:そうですね。元からオンラインではやれていたんですけれど、とはいえ、オフラインが主流だったのをオンライン主流にしようって決めて、オンラインウェイのようなのを会社で決めました。たとえば細かいのですが、会議をするときに1人でもZoomがいるんだったら、8人がオフラインでもその8人がZoomに入ろうとか、そういう細かいルールをいろいろ決めて。失敗もいっぱいしましたけれど、今に至るという感じです。
米良:こういったTipsは、今日聞いていらっしゃる皆さんの参考にもなりそうだなと思ったので、また後で掘り下げさせていただければなと思います。
インターネット界の新しい働き方というランサーズさんのお話を聞いている一方で、森さんと河野さんはオフライン、場所というところでずっとビジネスをされてこられたと思います。今回のコロナ禍をどう見ていらっしゃるのか、お伺いしたいと思います。
まず、森さんから。森ビルさんの働き方でもいいですし、あるいは森ビルさんに入っている、利用されている企業の動向のようなことがあれば、ぜひ教えてください。
森:こんにちは、森ビルの森です。いきなり秋好さんが、オフィスを縮小したって聞いて、皆さんがそれに追随しないようにと思っているんですけどもね。
この数字を出すと、非常に皆さんわかりやすいかと思うのですが、直近の六本木ヒルズの出社率。これを毎日取っているんですが、まさに昨日の2月17日の六本木ヒルズは22%です。出社率が。
米良:ランサーズさんの20%とすごい近いですね。
森:ただ、もちろん会社によってばらつきはあります。一方で、実は去年の8月、9月、コロナがすでに発生して、第二波が来る前の段階でも、33%から35%の間ぐらい、つまり3分の1ぐらいの人しか出社していないんです。登録してもらっているテナントの皆様の状況ですが。そういう意味ではかなり、六本木ヒルズはリモートワークを進めている会社が多いんだろうと思います。どちらかというとネット系企業が多いということもあるでしょうね。ある日のフロアを見ると、数人しかいない状態もあります。
米良:すごいです。
森:セキュリティーゲートを通っているので、どの部署の人か全部わかるんです。それで見ていると、オフィスのあり方に変化は来るのかなと思いますね。一方で、アークヒルズという建物があります。これは比較的、重厚長大産業も含めてテナントとして入っていらっしゃいます。こちらは去年の夏ごろで55%から60%ぐらいの出社率ですね、3分の2ぐらいが使っていた。それが今、まさに昨日の数字でいくと、39%から40%ぐらいですね。緊急事態宣言期間中はリモートワークを進めてきたけれど、それでもまだ半分弱ぐらいまでしか来ていないという数字です。これをどっちと見るかですけれど。
そういう意味では、ネット系の会社、テック系の会社が多いところ、渋谷なんかはそういうのが集積していると思いますし、六本木もそうだと思うんですけれど、こういうところは出社率が低い。そうすると、ちょうど去年の春先、それこそ渋谷のビルを中心とするリート会社のリートは全部売られたんですよね。テナントがどんどん流出するんだろうと。大手町、丸の内の方は出社率はもう少し高いと見られたからか、そこまでの動きではありませんでした。ただしこれは非常に微妙で、企業の成長性と見ると、どちらかというとテクノロジーをちゃんと使っているところだろうと思うんですけれど。これは、我々のようにオフィスをもっている、場所を提供している側からすると、今、非常に微妙なところにあると思っています。
ただ、オフィスの契約は、定期借家契約を結んでいますので、3年とか5年。そろそろそういう期限が来るところが見直す動きがくるでしょうね。減らす動きですね。ただ僕は絶対、ゼロにはならないと思っている。秋好さんのところでもゼロにはしないですし、オフィスに集まってやらなきゃできないことが必ずありますから。この価値が逆に高まるので、これをどこにするかっていう取捨選択になると思うんです。足元が痛んでいる観光、商業、レストランとかはワクチンで戻るかもしれないけれど、オフィスは2年後、3年後ぐらいに動きが来るかなと思っています。そのときにダウンサイズするけれど、選んでもらうのは何かというのを、今、一生懸命考えているところです。テナント皆さんの声を伺いながらっていうのも含めてですけどね。
米良:私も自社は半蔵門にオフィスがありますが、今後どういうふうにしようかというのは、まさにコロナ禍が始まってからすごい議論になりましたね。今、秋好さんも森さんもおっしゃったようなリアルの価値ってすごくあるなと。でもそれを今まであまり言語化してこなかったというか、何となくみんな集まった方がいいよねという感じで、決めてきてしまっていた。じゃあ、その価値って一体何だろう、それに対して、どれぐらいちゃんと我々は投資をしていかなきゃいけないんだろうかっていうところを、改めて経営でも議論しています。今の森さんの話を聞いていると、そこを考えて今後、オフィスビルの設計のあり方も変わるのかなと思いました。実際、すでに何か議論が始まっていたりするんでしょうか。新しいビルだったり、今のビルをアフターコロナの社会に向けたオフィスのデザインにしていくといった点については。
森:ある意味、感度のいい会社ほど、ビルオーナーに対する要求は出ていますね。空調をどのぐらいの頻度で入れ替えているかから始まって、エレベーターのボタンをタッチレスにどう持っていくかとか、そんな議論が始まっていますけど。ハード面なので、そんなにすぐに対応ができるわけでもないんです。
ただ、僕、絶対思ってるのは、人間ってソーシャルなものなんですよ。横丁とかでみんなでワイワイ、ガヤガヤやるのが大好きなんですよね。ソーシャルなアクティビティーの中で人類って成長してきたので。とにかくソーシャルディスタンスって言葉はだめだって僕は言っていまして。フィジカルにディスタンスを取れ、ですね。
米良:いいですね。そのとおりですね。
森:絶対、人間ってそれで成長してきたんだと思います、お互いをコラボレーションしてね。その場所にこれからなっていくんだと思っています。
米良:コラボレーションとしてのリアルな場所っていうものを、どうつくっていくかってことですね。ぜひ、リアルという場所で、共通している河野さんにもお伺いしていきたいんですけども。ティーケーピーさんもそういった場所、イベントの場所などをたくさん展開されていらっしゃると思いますが、今の話を聞いてどう考えられたか、ぜひお願いします。
河野:ティーケーピーは、時間貸しの貸会議室から、リージャスという世界ナンバーワンのレンタルオフィス会社を買収していまして、そちらを合わせて、今18万坪。そのスペースを日本で展開しております。その中で、森ビルさんからも会議室やオフィスを借りて、リージャスという小口化したレンタルオフィスをやっています。
我々も全く同じで、緊急事態宣言期間中はほとんど使われず、出社する人が全くいない状況を目の当たりにしていました。20%どころか、10%もいなかったと、私は記憶しているんですね。小口化のレンタルオフィスは、ほとんどテック企業。エンジニアもそうですし、あとは大企業のテック企業が多かったんですよ。WeWorkでも言われていましたけれど、そういう人たちは年末にかけて、どんどん出ていってしまったんですね。去年、大型のテナントが一気にいなくなりまして。森ビルさんはまだ長めの定借だと思うんですけれど。リージャスは、1年ぐらいの定借なので、大型のものからどんどん解約されていきました。あと外資系の企業がどんどん日本の支店を縮小したというのもあって、こうした影響をかなり受けていました。だから一時的に稼働は落ちたんですけれど、ようやく最近になって風向きが変わってきました。大口ではなく、小さい単位で貸していく方向にどんどん切り替えたんです。大手企業に大きく貸していたところは、どんどん工事をして小さくし、レンタルオフィス、シェアオフィスに変えていっているところです。
ティーケーピー本体の方では会議室の他、ホテルやレストランなどをやっていましたので、こちらも非常に打撃を受けてしまいました。ただ社員は、もちろん現場がありますので、自宅待機もありつつ状況に応じて出勤。営業部署に関しましては、5割から6割ぐらいは会社に来ていました。キャンセル手続きがすごかったんですよね。90億円ぐらい会議室のキャンセルが発生しました。キャンセル手続きの問い合わせが多くて、毎日売上がマイナスになるという初めての貴重な経験をさせていただきましたね。
そこから、交代でテレワークにして、全体の3割が自宅でテレワーク、残りの1割ほどが全国のあらゆるリージャスに設置したサテライトオフィスで働けるようにしました。会社の近くでもいいし、家の近くでもいいし、お客さまの会社の近くでもいいので、好きなところで働けるようにという環境を整えて、サテライトオフィスの実験を兼ねた形にもしておりました。
米良:ありがとうございます。先程、一時的にWeWorkさんなどが、撤退していったという話がありましたが、一方で今後のウィズコロナ、アフターコロナの世界で、どれぐらいリアルな場所が必要になるのか。借りたり解約したりしやすい、あるいは、いろんな場所で借りられる、そういったことへの小口ニーズがすごく上がっていくんじゃないかと思ったのですが、そのあたりをどのように読んでいらっしゃいますか?
河野:これからは、フレキシブルオフィスという形はありますね。今までオフィスはワンフロア単位複数フロア単位など、すごく大きな単位でオーナーさまに借りていました。オーナーさまも、もちろん自ら小口化して、貸していくということをやっていくのでしょうけれど、我々ティーケーピーとしては、リージャスの世界的なブランドやネットワークをうまく使って、「小口化」を任せていただけるような業者となり、不動産オーナーさまと一緒に組んで、共同でマーケットをつくっていきたいと思っているんです。小口化したり、シェアリングオフィスで貸したり、コワーキングスペースで貸したり。リモートオフィスや分散オフィスニーズの高まりというところに向けてですね。ぜひ、森ビルさんお願いいたします。
森:よろしくお願いします。
米良:それこそ、自社の場所というだけではなくて、自分の家だったり、あるいは自分の会社のサテライトオフィスみたいなものだったり、そういう小さな単位のものがすごく広がっていきそうだと思います。まさにあり方が変わってくるのかなと。
そこから働き方の話に入っていきたいと思います。働き方という点ではまず、ランサーズさんの新しい先鋭的な動きをもっと深掘りして聞いていきたいなと思いますね。ランサーズさん、それこそコロナが始まったときに、自社の中にスタジオみたいなのを作ったんですかね?スタジオじゃないですか?あれは。
秋好:あれは、結論として簡易スタジオです。全社集会で集まれないけれど、先ほど森さんがおっしゃったように、ソーシャルな生き物は集まりたいんですよね。ただオンラインで集まるというより、演出するためにスタジオをつくって、テレビ局のようにいろいろワイプで抜いてというような、リアルな全社集会を再現しました。
米良:秋好さん、画像で結構あげていらっしゃったじゃないですか。あれ見て、本当にすごいなというか、むしろリアルなイベント感がものすごくあって、社員の方は喜んでいるように見えました。反響はどうでしたかね。また、逆に社員の方々がリモートワークになったことによってポジティブだったこと、ネガティブだったことがあれば、ぜひ教えていただければと思います。
秋好:一番ショックだったのは、たとえば経営の方針とか、会社の方針を、今まではリアルで語っていたんですよね、200人とか集めて。それを、完全オンラインのイベントでやって、アンケートを取ったんですよ。「経営方針がわからなくなった」とか、「ただ効率的なんで便利です」とか、そういうのが来るのかなと思ったら、「会社の経営方針がよりわかるようになった」とかが来まして。今までの全員集めていた会議は何だったんだっていう。
米良:それ、何でですかね?
秋好:恐らく、僕の話がつまらなかったのか......一方向じゃないですか。オフラインで座って聴いているって。オンラインでは「いいね」を押したり、チャットしたり、いろいろ茶化せる機能をいっぱい用意したんですね。参加型にして、参加型のテレビ番組みたいな感じにしたので、そこで自分事感が逆に上がったのかなって思いました。
米良:ちなみに、茶化せる機能とかっていうのは、Zoomとかでやっているんですか?
秋好:Zoomでやっています。
米良:それも先ほどおっしゃったルールみたいなことを決めることによって、みんなが参加しやすくしたってことなんですかね?
秋好:そうですね。クイズみたいなのも用意しました。「A、B、C、どれ?」みたいなのが表示されてクリックすると、Zoomが更新されるとか。いろいろテクニックはあるんです。
米良:すごく細かいですね。どれぐらい準備して、やっているものなんですか?
秋好:全部オープンソースでできるので、そこまで機械とかハードとかはいらなかったですね。ミキサーとかを用意して、数十万もいりません。
米良:すごい。でも先ほどおっしゃっていたように、リアルからオンラインへとシフトを決めたから、そこまである種、振り切って設計したということですよね?
秋好:そうですね。切り替えを決めたっていうのが一番大きいと思います。普通の脳みそで考えたら、イベントするのに200人集めた方が伝わりそうじゃないですか。なので、そこは200人が集まらずに、より伝わるにはどうしたらいいかっていうのを徹底的に考えて、そっちを正しくするっていうふうに頑張ったという感じです。
米良:めちゃくちゃおもしろい。それこそ、私はまだオフラインで全社発表する方がいいと思っちゃっている面はあるんですよね。理由は、オンラインだと、どうしても何人か画面をクローズにする人がいて表情がわからないとか、今どういう心境なんだろう、何考えているのかなっていうのが見えないように思うので。それに対して、社員全員が目の前にいるオフラインで話すのは、反応がすごくわかるので、ある種の呼吸が合っているような気がしていたんですね。そこが、秋好さんの場合は本当に飛び越えて、ただしゃべるだけじゃないってことですよね。
秋好:そうですね。今の話も、我々のテレワークウェイがあって、全社集会にするときは、可能な限りビデオはオンにするっていうルールにしたり、細かい工夫で、95%ぐらいのデメリットは払拭できると思っています。
米良:なるほど。
秋好:ただ、二次元の情報だけで伝わらない匂いとか空気のようなものは、どうしてもオンラインだと伝わらないですからね。そこは最後の課題として残っているところです。
米良:ちなみに、課題だと思っている部分はどういうところで、それが皆さんのビジネスにどう影響する可能性があるんでしょうか?
秋好:基本的に、ほとんど課題がないと僕は思っています。M&Aを去年1件やったんですけれど、それも全部オンラインなんです。
米良:すごい。
秋好:機関投資家向けのIRもオンラインでやっていますし、基本的にはできると思っています。ただ、ブレストとか、大きな意思決定をして誰かの感情を揺さぶるようなこと、たとえばこの事業をやめてこちらに投資するといったことは、「ちょっとオンラインで言われると」というのはありますね。アメリカ映画で『マイレージ、マイライフ』というのもありましたが。オンラインではやりづらい点はあって、そこはオフラインじゃないとできないとは思っています。
森:ちょっといいですか?
米良:どうぞ。
森:今の我々も、オンラインもいろいろ工夫ができると思っているんですよね。画面出して、頷いてもらえるって結構大事じゃないですか。
米良:めっちゃ大事です。
森:画面をとにかく出すようにすることや頷くこと。あるいは会議が10時から始まるっていったら、9時50分からみんな入って、何となくアイスブレイクの雑談をするとか。
秋好:大事ですよね。
森:そういうのも必要なんですよね。あと、結構大事な会議が終わった後に企画側はその部屋に残ってもう1回ラップアップをするとか。そういうことで、たぶんリアルに近いカバーはできると思うんです。ただ、あくまでもカバーでしかなくて、リアルはリアルのまた別のものもある。本当にハイブリッドになるんだと思いますよ。
米良:そのあたりをぜひ次、森さんに聞いていきたいですね。まさに思っていたことですが、秋好さんの事例は、先頭のモデルだと思うんです。秋好さんがやられてきたことを、ある種みんなが学びながら、オンラインに最適化する会社も出てくるかと思いますが、でもそれだけではない。まさにリアルを大事にしている会社。これもある種の経営の意思決定だと思っています。そのあたりについて、リアル事業中心の森さんが考えるこれからのハイブリッドモデルがあれば、ぜひ教えてください。
森:難しいんですよ。本当にどこにソリューションがあるかわからないんです。ただ、ハイブリッドの仕方も、縦をハイブリッドにする場合と横をハイブリッドにする場合のように、それぞれあると思っているんです。たとえばシェアオフィスの使い方も、同じスペースを同時に数社で使うシェア型もあれば、月曜日、火曜日はA社が使って、水、木はB社が使う、金曜日はD社が使う。こういう仕方ももしかしたらあるかもしれない。集まるときには大勢が集まるけど、週に5日間使わないとか。
僕は、絶対リアルが大事、ソーシャルだからと思っています。一番それを強く思ったのは、虎ノ門ヒルズのビジネスタワーに、虎ノ門横丁をつくったんですよ。
米良:行ったことあります。
森:楽しいでしょう?あそこで、みんなでワイワイ。
米良:活気がすごかった。
森:横にいる別の人たちも楽しんでいる。その雰囲気の中にいるのもいい。三井不動産さんが宮下パークにつくった渋谷横丁も同じようだと思います。若い人に限らず我々の世代も、みんな、ああいうのには飢えているんですよね、間違いなく。ただしあれが全部になると、さすがに勘弁してってなる。ハイブリッド度合いがすごく微妙だと思っているんですよね。すいません、答えにはなってないんだけど。
米良:いえいえ。
森:いろんなミックスの仕方がある、縦のハイブリッド、横のハイブリッドがあるのかなといった点は、今まだ研究しているところ、考えているところなんですけどね。秋好さんから、いろんな知恵をもらえるかもしれないなと思いました。
米良:すごいです。秋好さんの最適化の仕方は。でも、逆に言うと、リモートじゃなくて、オフラインこそ価値があるんだという発想もあるわけですね。
森:組織文化をどうつくるか。やっぱり組織文化、匂いというか、ブランドというか、それをどうつくるかがありますね。あの人が言っているから信用しようかなという信頼関係や、私はこの組織に帰属しているんだというエンゲージメント。意識を高めるといった点は、絶対リアルが関わると思っています。
米良:まさに新人研修のオンボーディングのようなところは、確かにすごく難しいなと思います。このままいくと本当に1回も会ったことがない人になりそうとも思ったり。もちろんスキル面はこうやってオンラインで教えられますが、まさに帰属意識みたいなものですね。あとは、部署間だったらコミュニケーションできるけれど、部署を横断した会社全体のコミュニケーションや、「この人いるな」「この人が入社したんだ」とか、そういうことは感じにくいなと思いますよね。
森:その昔、外資系の金融機関のトレーディングルームというのは、為替もあれば、株もあればとあちこちで動いていて。あっちの方で騒いでいるから、動きがあるってわかるのも大事なんですよね。最近、AIによるトレーディングが増えているから、こういうことはもう減っているかもしれないですが、そういうところで人間の研ぎ澄まされた感覚が磨かれるところもあるのかなと思ったりします。
米良:それはあると思いますね。河野さんからすると、これからをどう見られていますか。オフラインで場所を使ってもらうという点はどうなっていくのでしょう。
河野:基本的なスタンスは、森さんと同じです。講演をするときにも、観客が目の前にいないとつまらないんですよ。なので、話す内容が違ってくると思うんです。観客がいるからちょっと調子に乗って、しゃべっちゃう。これはあると思うんですね。
たぶん社員研修も同じで、一般のマナー研修なんかはいいと思うんですよ、オンラインで。ただやはり、会社の文化を伝えるとか、社長が何かを伝えるとか、人事部で何か本当のメッセージを伝えたいときに、テレビを見る感覚で画面を見ておけというのと、実際そこに人がいてやるというのは、受け取る方も本気度が違いますよね。画面を見ているだけで、本当は頭に入っていない人もいっぱいいるでしょうし。講演している先に寝ている人が出てくるというのは、いっぱいあるんですよ。
米良:ありますよね、そういうの。
河野:100人ぐらい画面で見たとしても、100分割して見えるわけでもない。誰が退屈しているんだろうかとか。そういうことを考えて見たらいいのかもしれないですね。この辺がリアルじゃないと見えないのもありますから、会議室はなくならないんじゃないかと思います。そういう意味で、我々も「会議室に全員来い」ではなくて、ハイブリッド型だと思っています。オンラインとリアルのスペースをちゃんと一緒にする。たとえば株主総会も、今まで1,000人、2,000人と来ていたところを、100人ぐらい来られる観客席をつくりつつ、オンラインでも実施する。会場に入らなければ、第2会場、第3会場に入ってもらえればいいわけですからね。1つの大きなコンベンションホールが必要という時代ではなくて、小さくてもよくなります。いわゆるテレビ観覧席放送スタジオみたいな感じですね。我々としてはそうやって、会議室を改良して行いました。
米良:観覧席があるスタジオってイメージ湧きますね。テレビとか見ていても、最近観覧席に人を入れないじゃないですか。そうすると、芸能人の方もちょっと遠慮しているというか、反応を見ながらトークしている様子に見えますのでね。
河野:反応ですね。交渉するときも、目の動きや口の動きを見ながら、交渉するパターンと、ただ電話だけで、もしくはオンラインだけでやるパターンはシビアなときほど違うと思いますね。そういうことで、僕のポジショントークかもしれないのですが。
米良:いえいえ。
河野:リアルは必要だと言いつつ、秋好さんにぜひ聞きたいですね。
米良:どうですか?秋好さん、それに対して。
秋好:でも、本当にそうだと思いますね。ランサーズもこれだけオンラインで特化していますけど、じゃあ、オフィスゼロにするの?って言われたら、全然そんなことはなくて。作業する場所、議論する場所としてはオンラインに行くんですけれど、さっき森さんがおっしゃったみたいに、会社のカルチャーをつくるとか、盛り上がり感を出すとか、温度感を上げていくようなことはオフィスじゃないとできないなと議論しています。ランサーズにおける話ですが、オフィスを「聖地メッカ」みたいにしようと。毎日は行かないけど、たまに巡礼して、会社のカルチャーを感じるみたいなことですね。
米良:巡礼っていいですね。
秋好:行きたくなる場所になったらいいなと思っていまして、おっしゃるとおりだと思います。ただ、意味付けは変わってくると思っていますね。
米良:なるほど。
秋好:米良さんもそうだと思うんですけれど、我々の周りって、スタートアップ企業が多いじゃないですか。スタートアップ企業って、経済界の変化の兆しみたいな見方もできると思うんです。要は、危険があったら一番反応する存在。多くのスタートアップは、オフィスをいきなり構えて、全部正社員で始めるのはなかなかないですからね。まず自宅で起業しますから始めて。でも人数が増えていくと、オフィスが必要になって。すると信頼関係のない仲間とオンラインだけで、チームビルディングはできないので、だんだん変わってくる。そういう段階も含めて大事なときがあるというのは、アグリーです。
米良:だから、本当にゼロになるとはたぶん誰も思っていないでしょうね。ただ、今まで言語化されていなかったオフィスの価値みたいなところが、これだけオンラインがスムーズになってきたときに、どういう位置付けになっていくのか。それを、改めて考えるきっかけになったというのが今なんでしょうね。私としては、先ほどの株主総会のテレビ局のイメージがすごくわかりやすく、確かにそうだなと思いました。ちなみに、株主総会などでうまく使っていた事例があれば、ぜひ教えていただきたいです。
河野:ティーケーピーは、株主総会をまさしく先ほどの形でやりました。
米良:なるほど。
河野:300人、400人と来るんですけど、去年の株主総会では、観客席にあたる第1会場は30人に絞りました。第2会場は、100人入れるようにして、基本的にはオンラインで配信しました。そうすると、本当に質問したい人だけが第1会場に集まるんですよ。第2会場は、非常に細かい質問がくる感じで、ちょっと戦々恐々としていました。
こうすると本当に本気で来ている人と1対1で話すような感じもありました。何で株価が上がらないのか、下がっているなと言われましたけれどね。非常に中身のある株主総会ができたかなと思います。たぶん、完全にオンラインだけだと、株主との間に熱量が伝わらなかったと思います。株主とあまり話したくない、質問されたくないという会社はオンラインだけにしてもいいと思うんですけれど、株主と対話をしようと思うと、リアルに来て質問していただかないと、やはり質問の趣旨もよくわからないですよね。こういう株主もいて支えてもらっているんだと思うと、我々経営陣も、またもっと頑張ろうという気にもなるので、ハイブリッド型がいいと思いました。
米良:わざわざ来ていただいて、ご質問していただいたという方に対して、丁寧にしっかりと説明しようという、お互いのぶつかり合いみたいなところがリアルの場で出てくるということですよね。すごくおもしろい例ですね。
私もオンライン中心の会社なんですけれど、リアルがどういう価値になっていくのか、皆さんとの話でだんだんわかってきたように思いました。今までの話を聴いて、森さん、いかがでしょうか?
森:この流れは不可逆的だと僕は思っているんですよ。ワクチンができても、通勤電車に乗らなくてもいいってわかってきたみたいなことって、不可逆的だと思うんです。
ただたとえば、在宅勤務での生産性ですね。アメリカは85%上がったと言い、日本は85%が下がったと言うんですね。昨日の西村大臣からもありましたし、冒頭で櫻田代表幹事が「グレートリセットじゃなくて、グレートリターンになっちゃったらおしまいだろう」とおっしゃったのも同じで、僕自身も全くそう思います。そもそもデジタル化や、社会の変化、多様性の受け入れなどに対して、日本はぬるま湯でゆるく対応してきちゃっていたんですよ。コロナ禍を機にちゃんとそういうものの意義を考えていかないと、選ばれない組織、選ばれない提供物になっちゃうわけですから。まさに今、ふるいにかけられるところだと思っています。
今よく言われているのは、アクティビティー・ベースド・ワーキングですか、どういう行動をするかに基づいて、オフィススペースや働き方をシフトしていくという大事なところに差し掛かっていると思います。ここで目を覚まさないと、日本はやばいんじゃないかというのは、ちょっと感じますね。
米良:その点では、ワクチンができたら一部のインターネット企業だけがリモートワークを続け、ほとんどの企業はまた元の姿に戻るという未来かもしれないのですが。それはもったいないので、せっかくだったら、ここでまさに生産性が上がる働き方、多くの人たちが多様な働き方ができるところまでもっていった方がよいというお考えでよいでしょうか。
森:いいと思っている人も間違いなくいるので、両方を包含できるような社会にしなきゃいけないと思うんですよね。
米良:秋好さんはどうですか?今の森さんのお話聞いて。
秋好:本当にそうだと思いますね。元に戻るのはもったいなさ過ぎるし、かといって全部テレワークという世界はないと思うので。こういう働き方をうまく活用する企業が、いかに残っていくかだと思います。
「どうやったら、そういうハイブリッドがうまくいくの?」っていうのを、めちゃくちゃよく聞かれるんですけど、逆にどういうパターンがうまくいかないかは大体わかっていて。タスク管理型、時間管理型で、オンラインは生産性しかないって思っている会社は大体うまくいかないんですよ。どういうことかと言うと、オンライン型のハイブリッドにしようと思ったら、管理ではなく活用・解放みたいな概念でマネジメントしないといけないですし、時間を徹底的にタスク管理するのではなくて、ミッションで握らないといけない。働く自由がある分、タスクで握ってしまうと、結果が出なくなってしまいます。あとよく誤解されるのは、オンラインだから生産性の高いことだけをやろうよとなるのは、全然だめですね。森さんがおっしゃったみたいに、会議の10分前に集まって雑談するとか、オンラインなんだけど非生産的みたいな。ここに、実はすごい価値があるんです。逆にそこを軽視すると、ガチガチになっちゃって、全然うまくいかなくなってしまうので、やり方次第かなと思います。自社はどうだとかいうよりも、うまくやっている会社は、たぶんロシアだろうと、イギリスだろうと、社員を採用し始めていると思うんですよね。なので、採用力という意味でも、競争環境は激しくなっているのでうまく取り入れた方が勝ちなんじゃないかと思います。
米良:「コロナ禍でも無理やり出社させている会社のカルチャーが嫌だから転職したい」といった話を、結構聞くことが多くなったように思うんですよね。だから、やっぱり会社を選ぶ側、まさに採用の視点でも、どこでも働けるっていうことがすごく重要になってきていると思うのですが、秋好さんもそう思われますか?
秋好:思いますね。時間とか場所にとらわれず働く、出社するっていうことそのものが民主化したというか、そこすら選択できるようになったんです。いいとか悪いとかではなく、そうなってしまったので、そこはうまく活用した方がいいんじゃないかと思います。
米良:会社側からすると、全世界のいろんな人が関わりやすくなる、採用しやすくなるっていうのは、すごくいいことですよね。
秋好:思います。
米良:そういう視点で、自分たちの会社の経営とか、働き方を考えていければいいですよね。最後に、河野さんも今のお話を聞いていて、いかがでしたでしょうか?
河野:私は、ちょうど10年前に震災があった頃、ニューヨークに出店していました。ニューヨークのマンハッタンにティーケーピーをつくって、現地の従業員を雇って。それで周りのアメリカの企業を見ていたら、本当に時間ではないんですよね。正直言って日本人から見たら全く働かないようにも見えましたが、完全な成果が求められていたわけなんです。何が言いたいかというと、ニューヨークのマンハッタンでやっている会社というのは、本当に高収益企業しかいない。何もかもが高いんですよ、本当に。労働賃金も当然、日本とは比にならないぐらい高いですし。残業とかそういうのもないですし、土日も絶対働かないですし。その中で生産性を上げていって、マンハッタンで利益を上げていくのはすごいことだというのを、目の当たりにさせてもらったんですね。だから、時間で何とか利益を出していく企業っていうのは、非常にこの後、厳しくなる。
そのときに、すごく日本は遅れているなと思いましたし、働き方がすごく変わってくるのかなとも思いました。今回のコロナで一気に働き方が変わってくるので、会社に来ていれば給料をもらえていた人、年功序列でずっと偉くなった人、というのは大変な時代になっちゃうと逆に思いますね。どんどん効率化していったら、そういう労働者はどうなっちゃうんですかね。受け皿が必要になってきますよね。
ちょうど去年まで、コロナ禍になる前までは、雇用に貢献しようと発信していました。ティーケーピーはとにかく人を雇ってなんぼだというふうにみんなに言ってきたんです。ただ我々もそれではさすがになかなか生きていけない時代になってきましたし。じゃあ、そこで溢れた人たちはどうなるんだろうと。社会の問題は根深く出てくるんじゃないかなと思っています。
米良:今の河野さんのお話は本当にそのとおりだなと思います。今回のコロナ禍で、株価がものすごく上がっているという話もありますけど、一方で、正規労働者じゃない皆さんが、外食産業などが厳しい状況の中で雇用を切られたりして、本当に格差がこの後すごく出てくる。まさに、新しい働き方についていける人と、そうじゃない人といったときに、我々は経営者としてどのように雇用を守っていくか、社会を守っていくかが問われていくだろうなと思います。働き方っていうよりも社会のあり方みたいなところに、これから私たちは向き合っていかなきゃいけないんだなと改めて思いました。では、時間になりましたので、これでセッションを終わりたいと思います。お三方、本当にありがとうございました。