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ラウンドテーブル2020 分科会「グレートリセット後の未来 2-A:医療データ」記事掲載

2021年5月13日

2021年2月18日に開催いたしました「ラウンドテーブル2020 ~未来を探る円卓会議~」分科会の様子をご紹介します。

グレートリセット後の未来 分科会2-A「医療データ」

※所属・役職は開催当時

《パネリスト》 ※写真は左から
白石 徳生(ベネフィット・ワン 代表取締役社長)
楢﨑 浩一(SOMPOホールディングス グループCDO執行役常務)

《モデレーター》
武藤 真祐(鉄祐会 理事長)

画像:分科会2-A「医療データ」 パネリストとモデレーター

武藤:医療法人社団鉄祐会の武藤と申します。今日は、このような貴重な機会をいただきまして、ありがとうございました。私自身は、今、医師として患者さんも診ていますし、一方でインテグリティ・ヘルスケアというベンチャーを立ち上げて、オンライン診療のシステムの提供もしております。
今回、COVID-19が及ぼした社会への影響は非常に大きかったわけではありますが、1つはっきりわかったのは、残念ながら日本はデジタル後進国であった。しかも命に最も関わる医療の分野においても後進国だったという、非常に残念な結果が国民に見えてしまった点です。ただ一方で医師の目から見ますと、患者さんがチュージング・ワイズリーといいますか、自分で考えて医療を受ける1つのきっかけになったのではないかと考えているところです。
本日は、医療データについて伺うのに非常にふさわしいお二方においでいただきました。まず楢﨑さん、いろいろとグローバルの状況もご存じの中で、今、見えていらっしゃる医療データ、そしてそこにおける課題というものについて、簡単にお話しいただければと思います。よろしくお願いいたします。

画像:楢﨑 浩一氏

楢﨑:よろしくお願いいたします。私、楢﨑と申しまして、SOMPOホールディングスのCDOでございます。今日の冒頭セッションで出ていましたピーター・ティールが会長をしているPalantir Technologies Inc.という会社、こことSOMPOとで、フィフティーフィフティーで日本でテクノロジー会社を共同設立しました。それがPalantir Technologies Japan株式会社と言いまして、そちらのCEOも務めさせていただいております。
パランティアという会社は、データの力で社会を救うと言うんでしょうか、社会課題を解決するという観点で、コロナ対策を含めていろんなことをやっています。冒頭のセッションで、データが「原油」だという話が出ておりましたが、SOMPOとしても、パランティアとしても、医療データは「データオイル」とも言うような、まさに原油の中でも最上級の油だと思っています。その医療データというのは、カルテに書いてあることだけではなくて、個々人のバイタルデータも含まれます。ダイナミックに毎日、毎秒変わっているデータですし、もしかすると、そのご本人が暮らしている環境関連も、広義では医療データになってくるかもしれません。我々はそのデータをいろんな形で統合して、解析をして、介護をはじめ、一種のウェルビーイング、ヘルスケア、未病のような事業分野でも活用しております。ですから、我々なりに良質な「原油」をたくさん集め、それを、原因のもとである皆さまの健康のために使わせていただいているんです。本来、医療データというのは、生活を支えるおおもとであるといった感覚を持っております。

武藤:ありがとうございます。今の楢﨑さんがおっしゃったことは本当にそうだと思いますね。プレシジョン・メディシンという言葉が世界中で使われていると思いますが、プレシジョンというのは主に人間のDNAですね。個人についてプレシジョン・メディシンを提供するという概念があります。今回、コロナ禍でわかったのは、実は社会環境、国、教育レベルで考えなければ、プレシジョン・ヘルスは実現できないということです。ソーシャルディターミナント、パブリックヘルスは誰でもわかっていることですが、さらに新型コロナウイルスにより引き起こされた事態で、本当に国の運命すら変えていくことがわかったと思っております。
もう少し楢﨑さんにお伺いしたいのですが、パランティアは各国で、特にコロナ禍に対して医療データを用いて活動なさっていると思います。1つの進んだ形として具体的にどのようなことをなさっているのか、おっしゃられる範囲でお伺いできますか?

楢﨑:はい。パランティアは今、約30カ国の政府機関・民間機関とコロナ対策を展開しています。いくつかやっているんですが、一番大きいのは日本でも大問題になっている「医療崩壊を防ぐ」、すなわち防止です。武藤先生には釈迦に説法のようになってしまうのですが、医療ってものすごく長い複雑系のサプライチェーンだと思うんですね。お医者さん、看護師さん、ベッド、病院、救急車、注射針、薬みたいなものが全部そろって、医療というサービスが行われる。
このとき、東京で足りなかったとしても、富山で余っているものは意味がないわけです。たとえばベッド数ですね。かなり局地的にネットワークされていないと、何かのときに崩壊してしまう。日本でもこれだけ問題になっている医療崩壊について、パランティアは、約30カ国で防止してきた実績があります。医療の質と量と言うんでしょうか、医療キャパシティーの全体を上げて、新型コロナウイルスに対応するということです。
たとえばワクチンを取り上げてみます。今、恐らく、ワクチンを世界一うまく接種できているのはイギリスだと思いますが、実は後ろ側でパランティアが支えているんです。どこでどうワクチンを仕入れて、どこに配って、どのように冷凍保管するか。使用期限が短いので、どれだけの人をどういう順番で集めて、どうやって打つか、現場でどのような人の流れにするかといった話......それこそサプライチェーンなんですけれど、これをパランティアが全部後ろで見ています。これを日本でも何かご活用いただけないかという点については、今各所にご提案をさせていただいているところでございます。

武藤:ありがとうございます。もう1点だけすみません。サプライチェーンマネジメントが非常に重要だというのは、私も一医師としても納得するばかりなのですが。日本は、もともとサプライチェーンマネジメントが得意だったんじゃないかと思うんですね。ただ、必ずしも今うまくできているように見えない理由は何なのか。あと、医療データと、サプライチェーンマネジメントを組み合わせていくというのは、どのような成功モデルがあるのか、簡単にお伺いできますでしょうか?

楢﨑:はい。まず、おっしゃるとおり、日本はサプライチェーンを磨いてきたと思います。トヨタのかんばん方式、ジャスト・イン・タイムというのは世界中の教科書に出るぐらいですから、ものづくりの質とサプライチェーンは世界一だったと思うんです。ただ、残念ながら医療に展開されていないのは、すみません、私は全く門外漢なんですけど、医療っていうものがかなり個のものだからだと思うんですね。
1人のお医者さんが、あるいは1人の患者さんが、その人に最もカスタマイズされた医療というサービスを受けなきゃいけないと考えると、極端は1対1対応になるわけです。お医者さんそれぞれに、そして患者さんの症状に応じた治療、手術、入院という状況によって、いろんな供給品が集まってくるわけです。つまり、大量生産ありきの発想ではなく、効果的なサプライチェーンが必要だという発想に、もともと立っていなかったんじゃないでしょうか。
それがアメリカでは、いろんな形で合従連衡が起こって、病院や医療法人が大きくなっています。法人化をどんどん進める中で、おのずから企業としてのサプライチェーンの拡充が、いろいろと考えられてきている。私、アメリカに13年住んでいたのですが、つぶれる病院はいっぱいあるわけですね。一方で、成功する病院はどんどん大きくなっていく。企業としての損得勘定と言うんですか、事業運営の巧拙によって、優勝劣敗が明確になります。だから今、生き残っている医療現場は、ものすごく練られてきている。日本はそうした法人化、ビジネス化というよりは、むしろ「医は仁術なり」にあるような尊さが重んじられてきたんでしょうね。今の医療の質はすごく高いのですが、先ほどのサプライチェーン的な発想については、後回しになったという残念さがあるんだと思います。
それから、医療データとサプライチェーンマネジメントの組み合わせの例はいっぱいあります。たとえばパランティアの例でいうと、NIH(アメリカ国立衛生研究所)とか、CDC(米国疾病予防管理センター)といったアメリカのいわゆる研究団体と組んで、随分前から取り組んでいます。たとえば、今はもうあまり名前を聞かないのですが、アメリカではエイズが20年くらい前に広がったんです。早急にエイズ対策をしなきゃいけない。ここがまた、サプライチェーンだと思うんですよ。薬だけじゃなくて、どういうところで感染が広がるか、どう防止しなきゃいけないか、ですね。そのときに個別の医療情報を、もちろん患者さんや陽性者のプライバシーを守りながら、CDCやNIHがどんどん研究をしていきまして。たとえばこういう患者さんがこう動くと次の感染が起こると分析し、二次感染をちゃんと全部防いでいったんです。個別のデータを絶えず見ながら、サプライチェーンを直していく。全体最適化を図るところは、政府が堂々とやってきたんですね。もともとエイズ問題がすごくまん延してる国だから、成功と言えるのかはわかりません。ただ、トラックレコードがしっかりとれていたということです。ちなみに、これもパランティアが、実はかなり力をふるったところでございます。

武藤:どうもありがとうございました。今、お話を伺って思ったんですけど、医師の立場で考えると、やっぱり自分の基本的なやり方や考え方が大変尊重されるので、良くも悪くも先生の特徴は出やすいんでしょうね。私、自分の医療法人で言っているのは、スペシャライゼーションもいいんだけど、スタンダーゼーションと共にないと、結構ばらばらになるという点です。医師もしくは医療は、両方を考えて良い品質を保たないといけないと日頃言っているのですが、まさに今、また勉強させていただきました。
個の医療ということで、白石さんに伺います。個であり過ぎるとばらばらになるといった点で事業的に大変さもあるとお伺いしましたが。まず、ご自分の今のお考えや、コロナ禍においてどのような問題意識を持たれているか、教えていただけますでしょうか?

画像:白石 徳生氏

白石:今、私どもはヘルスケア事業部を通して、企業健保の健診予約代行、特定保健指導、データヘルス計画に基づいた企業の健診データ管理業務というのを、3点セットで提供しております。
我々は医療データというか、健診データを取り扱っているのですが、今、4000件ほどの日本全国の検診機関をネットワーク化しました、それで、各健保の組合員さんの健診の手配をしたり、データを集めて健保ごとに納品するという作業をしています。ただ実は、健診データですら、病院ごとに全部ばらばらなんですよ。結局、もらってきたデータを、最悪のときには全部手入力し直すこともありました。最近はAIが出てきたので、100%手入力はだいぶ減りましたが、それでもものすごく負荷がかかっています。
これをたとえば、国の方で統一の健診データフォーマットをつくり、それを普及させるという発想もあるのではないかと思っています。我々みたいな業者のコストが下がるだけではなく、個々人にとっても有効性があります。年により受診機関を変えて健診を受けるケースもあると思うんです。今は経年でデータを見ようと思っても不統一です。もしこのフォーマットが統一されていれば、個人から見てもすごい便利になりますよね。ただ、厚生労働省や大臣に話す機会があるたびに進言させていただくのですが、いいよねとは言われつつ、実はなかなか実行されないような状況なんです。聞いてみるとどうやら、病院ごとに健診を含めたトータルのシステムが入っていて、それはいわゆる大手のSIベンダーさんから納品されているものだそうです。そのシステムがベンダーさんごとでそもそも違うので、なかなかデータフォーマットの統一ができないと。でもこれは、一丁目一番地だと思うんです。医療データ、ビッグデータを語るのであれば、フォーマットの統一化ぐらいできないと、とてもじゃないけど難しいと感じますね。私どもの事業視点から見ると、医療データの本当に入り口の問題点は、そこにあるんじゃないかと感じています。

画像:武藤 真祐氏

武藤:白石さん、ありがとうございました。日本は手帳文化がすごいとよく言われるんですよね。母子手帳から始まって、結構皆さんこまめに書く。今で言うと、おくすり手帳もあります。ただ、まさに「手帳」なんですね。それぞれに情報の共有性、互換性がなく、紙が多いんです。医師としても患者さんとお話しするときに、これは高血圧手帳と、これは何とか手帳と、1つ1つ頭の中でデータの統合をしないといけないんです。そう思うと白石さん、実際にお客様にいろんなサービスを提供なさっていくときに、お客様は困っていないんでしょうか?今の状態は。

白石:お客さんは困っていますよ。

武藤:どんなお声があったり、どういうことを望まれていらっしゃるんですか?

白石:データヘルスケア計画に基づいて、各健保には過去の健診データを未来永劫、全データを記録しなさいと。そしてそれをビッグデータとして活用し、医療費を下げなさいと、法律までできています。ただ先ほど申し上げたように、本当に入り口の段階で、データをローコストで集めることに、つまずいている状態なんです。ですから、法律が一応施行されているものの、あまり実行が進んでいない。罰則規定がない点もあるのですが、各健保で確実にビッグデータ活用が行えているかというと、本当に入り口のところでつまずいて、非常にもったいないなという感じがします。ただ一部、糖尿病の重症化予防なんかは成果を出しているのもありますけれどね。そんなに大きい投資もいらないので、誰かが強引に旗を振って、抵抗勢力を強引突破すれば可能じゃないかなと感じております。

武藤:ありがとうございます。たとえば中国であれば、恐らく国がいろいろなことを強制的にやっていくと思いますし、アメリカは結果としてパランティアだったり、さまざまな民間の巨大プレイヤーが生まれていると思うんですが。日本は一体どうなっちゃうんでしょうか?お二方は政策にも通じておられると思うんですが、何でこんなことになってるのかという点ですね。先ほどのSIer(エスアイヤー)の話など、旧態依然のビジネスモデルがもしかしたら残っている面があるかもしれませんし。言葉を選ばずに言えば、政治のダイナミクスが時代の変化についていっていないのかもしれません。今回はクローズということもあって、お二方それぞれのお立場で、思っていることをぜひえぐってお伺いしたいのですが、楢﨑さんいかがでしょうか?

楢﨑:私だけしゃべり過ぎて、すぐ後で叩かれる......。でも、今おっしゃられた二つのポイント、両方とも問題だと思うんですよね。これは、別に誰かが悪いのではないんです。いい意味でも悪い意味でも中庸を求めてきた、つまり横並びみたいなところでしょう。たとえばSIerさんで言えば、電子カルテもつくられていますよね。結局統一のシステムはなくて、あるA社とB社が競って寡占状態であると。本来電子カルテって、今まさに手帳の紙文化からデジタル化ができるタイミングなのですが、囲い込みのようなものがある。ベンダーさんご自身のベクトルからしても、どこかに預けるというと、結局自身の優先性がなくなってしまうこともあり、進まない面があると思います。
一方で政策側も、正直に申し上げると「触らぬ神に」のようなところがちょっとあるんじゃないかと思うんですね。繰り返しですけど、私、日本に帰ってきて、こんな素晴らしい国はないと思うんです。医療でも。アメリカはご存じのとおり、貧乏人は死ぬしかないんですね。私たちも、家族でものすごい高い民間保険に入っていました。歯を抜くにしても、出産するにしても、高額。出産なんて普通の分娩で300~400万円も払うんです。普通の人は無理なんですよね。極端にいうと、産むなという話になってしまう。それが日本に帰ると、健保という素晴らしいシステムがあるんです。ただ逆に言うと、健保というシステムがだいぶ赤字になってきている。根本的に全体の生産性を上げたり、痛いところにメスを入れないと駄目なのでしょうが。今までそれなりにうまくいってきた分、やめるわけにもいかないところが、何となくずっと悪弊として残っている。最後にどんと破裂しちゃったら、我々の医療もなくなってしまいますからね。その点で、日本人の中庸というよりは事なかれ主義のところに、私はものすごい危機感を感じている次第です。

武藤:ありがとうございます。恐らく楢﨑さんのおっしゃりたいことはまだまだあるのかと思いますが......。一方で、白石さんはいかがでしょうか。民間データが統合されていないのは、ベンダー側の事情だったり、今、楢﨑さんがおっしゃられたように、これまでのビジネスモデルの面もあるんだと思うんですが、こういったものはどう変えていけるのか、変えていけないのか。もしくは、政策に期待するようなところはどのようにご覧になられていますでしょうか?

白石:過去は過去の環境においてシステムが構築されていたのであって、それは決して間違いではなかったんだと思うんですよね。ただシステムはよく免疫と言われていますけれど、今、費用対効果も含めてちょっと時代に合わなくなってしまったのが現状だと思うんです。キーワードはたぶん、どっかのタイミングでのリセットだと思うんですよ。年号も変わったわけですし、平成から令和になって、たまたまそのタイミングで、今回のコロナ騒動があって、いろんな意味でリセットをするタイミングではないかなと思っています。
経済産業省さんや厚生労働省さんの次官クラスの方と意見交換する会に参加させていただくと、結構どこでも医療データの話は出てくるんですよ。ただし話を聞いていて思うのは、各省がそれこそ本当にばらばらで政策をやりつつ、どこがリーダーシップを取るというのも、何となくお互い遠慮しているのか、あるいは自分のところでやるというのか、意識がばらばらなんですね。政治がどこかでリーダーシップを取ればいいのかもしれないですが、もう少し官庁横断した形でやれないかなと思っていまして。そういう意味で、今回デジタル庁は非常に期待していいのではないかなと考えております。

武藤:まさに、次のテーマの頭出しまでしていただいてありがとうございます。私自身も、たとえば被災地、石巻に行って、そこで新しくITを使った地域医療連携システムを、協議会も含めて立ち上げたりした経験もあるんですけど。そこは総務省のご支援をいただいたんですが、あわせて厚生労働省、経済産業省、あとは内閣官房も含めて、いろいろとご支援いただいた形でした。
ただ今白石さんが、おっしゃられるように、1つのところでリードするというよりは、それぞれの視点でやっておられるので、全体を通じて進むということは必ずしも十分でなかった。そんな中で、デジタル庁への期待というのは医療に限らず、多くの人が持っていると思うんですが、一方で何をするのか当然まだ見えない。もうこれはすごい仮定の話ですけれど、もしお二方がデジタル庁のヘルスケア担当責任者になられたら、何をなさいますか。大きな質問で恐縮ですけれど、これはやっていくぞというのがあれば、ぜひお伺いしたいんですけれど。まず楢﨑さん、何をなさいますか?

楢﨑:第1に医療データを全部きれいにネットワーク化します。きちっとしたAPIだとか、つなぎ込みの仕様をつくりまして。私もアップルウォッチを持っているんですが、こういう類も含めて、医療データは個人のバイタルデータも含みますね。完全にデータドリブン医療、データドリブンウェルネスみたいなものを実現させられるので、まず国民の方々の全医療データを、何らかの形でクラウド、アクセスブルにします。当然これは、医療現場のお医者さん側が持っておられるカルテとかもやります。
すでにいろいろな研究はされていて、パランティアとかSOMPOも実はちょっとやっているんですけれど。たとえば認知症をどう予防するんだとか、どう処置するんだといった知見は、製薬メーカーさんもお持ちだし、SOMPOも一応日本最大手級の介護施設ということで研究していますし。こうしたオープンデータを使って、マッシュアップと言うんですかね。いろんなアプリケーションというか、実践を展開することによって、まさに国民全体の健康レベルをもう少し上げていくようにしたいです。
これは、どのお医者さんも別にアウト・オブ・ビジネスになる話ではないんです。遠隔医療の話などもありますが、とりあえずは、3人パターンじゃないかなと思っていて。私が患者だとすると、武藤先生がネットの向こうにいて、白石ドクターは私の地元のホームドクターで。私に肺疾患があるとすると、武藤先生がそれの専門で、白石ドクターはジェネラルドクター、私のホームドクター。こういうパターンでやるイメージです。しかも、未病の特許データが全部あるとすると、ものすごい治療というか、効率が上がるわけですよ。これは三方良しの話だと思うので。こういうインフラというか、プラットフォームとなるシステムをつくれたらと思います。

武藤:ありがとうございます。私も大賛成でありまして、ぜひそういう方向に向かっていければと思います。ただそのときに、私が言うのもなんですが、抵抗するのはわりと現場の医師であったり、もしくは医療プロフェッショナルなのかなと思っています。もちろん医療プロフェッショナルは、目の前のことを一生懸命やっていることが大前提ですけれども、ありがちなのは、あまりに今の環境が変わるということには少しためらいがある。ありていに言うと抵抗があると。このような状況が結構想像できるのですが、それにはどう説得していけばよろしいでしょうか?

楢﨑:もちろんやったことがない話なのでわかりませんが。でも類似することは思い出しますね。たとえば私はSOMPOのCDOですけど、社内でも「いや、AIとか進めたら、俺たち首になるの?」みたいなことを言う人が相当いたんですね。5年間CDOをやってきた中でも。「いや、違うんだ」と。いかに仕事を楽にして、いかにもっとクリエイティブな楽しい仕事をやるか、人と人が触れ合うのを含めていくんだっていう点は、進んでいく中でやっとみんな腹落ちしてくれたんですよ。こうしたことはスモールスタートでやって見せるしかないので、そこはちょっとベタにでもやるしかないと思っています。
先ほど私が申し上げた「とりあえず」の状態じゃないですけれど、「3人で」というイメージのもとはアメリカです。アメリカでは全員ホームドクターを持っているのが当たり前なんですよ。日本では私、一応おかげさまで健康なんで、特定のお医者さんにかかることはないんです。そうすると、病気したときに「どこに電話するんだっけ」となるんですけれど、本当はおかしいと思っていて。さっきの例でいうならば、白石ドクターがいつもうちの家族のことをよく知っている。ただしオールマイティーの医師なんていらっしゃらないので、「肺に問題があるね」とわかったときには武藤先生にすぐつながると。これができたら、むしろ医療現場の方々にとっては、重症化した新しい患者さんに触れ合うより前に、普段からインターフェースがある状態がつくれる。しかもカルテというか、その人の医療データも全部そろっている状態がつくれて、「ああ、肺なら武藤先生」ってできるわけです。
ちなみにアメリカは、医者も歯医者も完全にそうなっています。歯医者の場合、1人の歯医者の後ろに、抜歯だけのドクターと、麻酔だけのドクターと、矯正だけのドクターとがみんないて。それこそクラウドみたいにネットワークになっているんです。同じ敷地内が大体多いんですけれど。なので、「はい、じゃあ、次、後ろの何とかドクターのところに行って、歯抜いてもらって」って話なんですよ。これは日本でも医療とか、看護師の方々からすると理想形じゃないかと思うんです。仕事は減らないというか、売上は減らないんですけれど、医師も、看護師も、患者も、すごくまずい状態に対応するんじゃなくて、普段からずっと触れ合っている状態で全体のウェルネスが上がる。たぶんこれが、日本の健保、財政を救うことになるんじゃないかなと思っています。

武藤:ありがとうございます。私、大学の6年生のときにボストンで2カ月ほど学生として実習をしたことがあったんです。まさに今、楢﨑さんがおっしゃったような病院の体制を見て、相当びっくりしました。それぞれがすごく分化されていると。そのときに教授に伺ったんですね。「これって、医者として面白いんですか」と。何となくジェネラリスト的な方が私は面白いなと思ったので、教授に聞いたんです。教授がなんとおっしゃったかと言うと、「医者がどうかは置いといて、患者にとってみたらその方がいいだろう」と。つまり、「どのプロセスも、そのプロセスのプロが、経験のある人がやって、ちゃんとそれがまさにサプライチェーンのように流れていけば、それは会社にとっても社会にとってもいいんだ」と言われて、衝撃を受けまして。それまで医者の立場でものを考えていたので、なるほどと。それがもしかしたら、いろんな活動に目を向けていった1つの起点になったのかなと思います。どうもありがとうございました。では、白石さんどうでしょう?何をやり遂げますか?

白石:最初に、ビッグデータ活用が国の成長戦略の一番の柱だってことを明確に定義したいと思います。人口1億人超える国で、国民のほとんどが毎年検診をしていて、なおかつ、そのデータが最近デジタルデータ化された国は日本しかないと思うんですね。この段階からちゃんとその後のレセプトですとか、カルテのデータを電子化すると、たぶん世界で唯一、ビッグデータの活用ビジネスが展開できる。そういう基本的なものを持っている。自動車で言うと、ドイツ、イスラエルに相当するようなポテンシャルを日本が持っていると思います。
それを明確に定義した上で予算をがっぽり取りますね。その上で今、問題になっている各医療機関の古いシステム。これを全部リセットする、1回伏せてしまうと。そのために国が予算を付けて、すべての医療機関が全く新しい横のつながりのあるシステムを思いきって導入する。今回のコロナの件もありますしね。そして導入して、最終的に成長につなげると、そんなことをできたらなと思っております。

武藤:ありがとうございます。私も賛成で、医療のデジタルトランスフォーメーションにはいろんなアプローチがあると思っています。AIもその1つなんですけれど、そもそも医療のデジタル化がないところに、RPAだろうと、何だろうとありませんよね。それがない中で部分部分の情報を集めて、何か最適化しようと思っても、それを多くの国民の方々に享受していただくには、さらに大きな壁がある。まずは全体をデジタル化していくことを目指す必要があります。楢﨑さんがおっしゃったように、医療機関が持っている医療データだけではなくて、個人の持っているバイタルデータなども含めてつくっていけたら、本当に国のまさに成長戦略の1つになるかなと思っております。
最後にもう1点だけお伺いしたいんですけど、今の日本でデジタル庁ができたとしても、最大のボトルネックは、結局どこなんでしょうか?つまり、それは政治なのか、もしくは関係団体なのか、ひいては国民なのか。今までのまとめのような話になりますが、どこが一番課題と思われてますでしょうか?

楢﨑:省庁間の壁なんですけれど、でもよく見てみると、省庁間の壁は壁として確かにある。ただしそれは、監督官庁がある業界を監督するところに表れることで、もともとそういう縦割りがあるんですね。さっきの医療じゃないですが、ネットワーク化されていなくて、1つ1つにパソコンが1台ずつあるような感じです。隣の家とパソコンとはつながってません、全体のインターネットにつながっていませんみたいな話なんですよ。その意味でいうと、縦割りの壁、一種のファイアウォールが厚過ぎるという問題があって。そこを壊して、上でつなげようとしているのがデジタル庁だとすれば、この省庁間の壁というのはたぶんクリアできる。
そうすると、その次の「ラスボス」というのは、実は業界団体だと思います。特に、医療はよく存じ上げないんですが、我々の場合は金融庁が監督官庁なんです。そこには金融業界の業界団体があります。保険団体、銀行業界における協会が悪いって言っているわけではないです。ただ、今まで官と民の付き合い方では、この業界団体が官の言うことを聞いて、全体のコーディネートをしてきた。そのコーディネートは結局何かっていうと、横並びなんですよね。そうすると、横並びから上離れするインセンティブがゼロになっちゃったんです。監督官庁の監督も、各社をまとめている団体に対して指導すれば済むので、話は簡単じゃないですか。
要するに、クラスの委員長に一言先生が言っておけば、あとは委員長がクラスをまとめてくれるみたいな状態なんです。誰も悪くないんですけれど、それによってむしろ先生が変わろうとしたときに、委員長側が「いやいや、急にそんなこと言われても困ります」と。「私は言われて仕切ってきたんだから」みたいなことがあって。もし協会というものに人格があるとすると、そこが実は一番のとりでだと思います。医療はわかりませんが、少なくとも金融業界においては確実にそうだと思います。

武藤:医療界においても同じですし、たぶん全般を通じて思うのは、その業界から新しい何かイノベーターが生まれるときは、当然あると思うんです。一方で、生まれてきて、あるところまでいくと、その業界のうまみみたいなものによって、結局業界の中で普通のプレイヤーになってしまうことって、いろんな業界を見ていて思うんですよね。そこを突き抜けていくものが、なかなか日本では生まれにくいのかなと思って。その1つに、皆さんでつくっている団体だったり、協会というのは、もしかしたらあるのかもしれないと思いました。ありがとうございました。白石さん、いかがでしょうか?

白石:私も、基本的には楢﨑さんの意見にすごく同意いたします。業界団体は一番大きいと思いますね。もう1つあるとすれば、私は日本国民のプライバシーに対する過剰な反応が根っこにあるんじゃないかなと思っております。また、それをあおっているメディアであったり。マイナンバーのときなんかが非常にわかりやすかったと思うんですけれど。必要以上にこれは政府が悪用するんじゃないかとか、過度なほどあったと思うんですよね。僕は、マイナンバーはものすごく必要なものだと思うんですけれど、ベースな抵抗感が国民にあるがゆえに、行政も政治も何となく国民に忖度していますよね。だから全面的にマイナンバー活用を言いにくいことが、たぶんあるんじゃないかと思います。
実は私がそれを実感したのは、ワクチン接種のアウトソーシング関連です。今回のコロナ対策のものを、一部受注しているんですね。自治体から受注しているのですが、たとえば自治体の場合は集団接種なので、体育館とかで手配して行うんです。それもいいんですけれど。多くの企業では、もともと毎年インフルエンザの接種を企業内でやっていますので、特に大手企業の社員さんであれば、わざわざ休んで体育館に行かなくても、会社で接種できるはずなんです。
この提案をしてみたんですが、そのときに開口一番に言われたのが「そのとおりだ」と、「ただし、受けた人と受けてない人が複数になると、総合管理ができないだろう」と。そこで「マイナンバーがあるじゃないですか?」って話をしたら、「なかなかマイナンバーに対しては抵抗が強くて、自治体も実は拒否反応があるんだよね」っていうのが、最初だったんですね。
実はその後、デジタル庁さんの方で「マイナンバーを使ってもらわないと困る」と強力に言ったらしく、マイナンバーを使って企業接種と自治体接種というハイブリッドでいこうという方向は出てきているようです。こうした背景には、何となく日本人の過剰なプライバシーに対する反応、あるいはそれをメディアがあおってしまうところがないかと、僕は非常に危惧しております。

武藤:ありがとうございました。私も全く賛成ですね、一方で実は、日本人がゆるいところもあるんじゃないかと思っていて。たとえば、購買履歴や、検索、コミュニケーションといったものは、もしかしたらすごく漏れているかもしれない。そこはあまり意識せず、公的なものに対してはやけに厳しい面があると思うんです。なので、公的なものに対する信用度みたいなもの、もしくはそこを使うことによるメリットみたいなものをつくっていかないといけないのかなと思っております。
今日は、本当にお二方の専門性からも勉強させていただきまして、ありがとうございました。恐らく私もそうですが、みんな考えていることは同じで、あとはぜひ経済同友会の枠組みの中で頑張っていただければと思います。本日は、どうもありがとうございました。

画像:分科会2-A「医療データ」 セッション風景

以上
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