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ラウンドテーブル2020 分科会「コロナ禍でのサバイバル術 1-B:リテール」記事掲載

2021年4月15日

2021年2月18日に開催いたしました「ラウンドテーブル2020 ~未来を探る円卓会議~」分科会の様子をご紹介します。

コロナ禍でのサバイバル術 分科会1-B「リテール」

※所属・役職は開催当時

《パネリスト》 ※写真は左から
秋田 正紀(松屋 代表取締役社長執行役員)
日色 保(日本マクドナルド 代表取締役社長兼CEO)
吉松 徹郎(アイスタイル 代表取締役社長兼CEO)

《モデレーター》
髙島 宏平(オイシックス・ラ・大地 代表取締役社長)

画像:分科会1-B「リテール」 パネリストとモデレーター

髙島:今日はよろしくお願いします。「コロナ禍でのサバイバル術」ということで、この12か月どのようなサバイバルをしてきて、今どのような未来を見ているか、皆さんにお話しいただきます。
コロナ禍については去年の今頃からですね。2020年の2月3日にダイヤモンドプリンセス号が横浜に入港しました。そして2月13日に初めて亡くなった方が出て、2月27日に安倍首相が臨時休校要請と。この頃から様々な影響が出てきました。それから12か月の間、様々な環境変化がある中で、各社がそれぞれサバイバルをしてきたと思います。最初にそれぞれ自己紹介と業態の紹介、そして12か月間のサバイバルをお話しいただけますでしょうか。まず秋田さん、よろしくお願いします。

画像:秋田 正紀氏

秋田:はい。私は、銀座と浅草で百貨店を構えております松屋の秋田です。一昨年に創業150周年を迎えて、翌年から大変な状態になってしまいました。昨年の3月に突然小池東京都知事から週末の営業自粛を要請されたのがはじまりで、それから大変な時間が過ぎました。中でも4月、5月と約2か月近く休業を余儀なくされたという点では、コロナの影響が大きかった業態の一つだったと思います。対面商売が前提だったので、正直な話、最初は手も足も出ないというような状況でした。ただそこで止まってはいけないと、そこからいろんな対応をしたという次第です。
百貨店は不要不急の代表のように言われていたのですが、休業から1か月くらい経つと「何とか早く店を開いてほしい」というお客さまの声が強くなったんですね。地元のお店やスーパーで総菜を買って過ごしていたけれども、やっぱり心の豊かさという点でしょうか。百貨店にいって買い物をしたいという声がすごく強くなってきたんです。そこで我々がやったことは、まずとにかくご来店いただく。そのためには安心安全が最優先ですので、サーモグラフィなどの設置ですね。お客さまに対しての安心安全だけではなく、従業員や販売員の人たちにとっても安心安全でないといけないということで、店頭だけでなく、社員食堂とか休憩所とかロッカーとか、そういうところの安心安全をいかに確保するかをやりました。
その次にやったのは、お客さまへのアプローチです。これまで百貨店は大量集客を追いかけてきたのですが、それはできないし、ましてや来ていただける人も減っている。そこで既存のお客さまに何とかアプローチしようということで、インターネット販売、eコマースなども拡大しました。ただ実は百貨店のお客さまはご高齢の方が多いので、電話でのご案内やタクシーでのデリバリーサービスといった、アナログなことが効果的でした。
3点目はこれからの課題でもあるのですが、集客が見込めない中では、いかにお客さま1人あたりの買い物単価をあげるかが重要になってきます。これまではついつい、たくさんのお客さまを呼ぶことを前提にしてしまっていたのですが、本当にお客さまの立場になったときの買い物のしやすさを改めて考えさせられました。たとえば展覧会をよくやるのですが、従来は何万人集めるという規模で考えていたんです。ある展覧会だと1日平均6,000人、多いときには12,000から13,000人くらい入るのが通常なんですね。ただこの時期はそうはいきません。この頃にミッフィーの展覧会をやったのですが、1日2,000人くらいに絞って、事前にチケット販売をして予約制でやったんです。そうしたら実は、鑑賞後のグッズの買い物が、お客さま単価としては3倍くらいになりました。結局売り上げとしては5年前と同程度になりました。商売の原点を見直しさせられることが、いろいろとあった1年間だったなと思います。

髙島:ありがとうございます。最後の話は特に興味深いですね。人数を3分の1に絞ったら、1人あたり3倍買ったというすごくおもしろい話だなと思うんですけど。ちなみにその3分の1にお客さまを絞るときには、何か特定のお客さまを優先したということがあるのでしょうか。どうやって選んだんですか?

秋田:1日30分単位でチケットを売り出そうと決めて、30分で何人入っていただくのが適正かを出したんですね。安全確保のガイダンスに従うと、1日2,000人が最大だという計算になったので、それで事前販売をしました。

髙島:特に売り上げが見込める2,000人というよりは、制約条件で2,000人にしたら、自然と1人あたりのレア感が高まって、購入意欲が高まったということですね。

秋田:それもありますし、今までの混雑がなくなったのもあると思います。展覧会でご覧になった後にグッズ販売会場があるのですが、これまでは満員電車のようだったんです。だから「こんなに混んでいるんだから買うのをやめよう」「レジに並ぶから買いたいけれど諦めよう」とか、あるいは「混んでいてもっと見たかったのに見られなかった」「ゆっくり買い物できなかった」とか。そういうお声は今までも実はあったんですね。ただ、やっぱりたくさんの方に来ていただくのが最優先だったために、そういうお声を、ないがしろにしていたわけではないのですが、ついついお客さまの立場に立った見方をしなくなってしまっていたというのが、すごくよくわかりました。

髙島:なるほど。購入しやすい環境が結果的にできたことで、皆さんご購入いただけたと。

秋田:そうですね。見やすさを最優先にした配置にしたり、レジに並んでいただくときにも、できるだけ密にならないようにとレジの台数を増やしたりしました。逆算的なことでいろんなサービスの向上をはかったわけですが、本来もっと早くやるべきだったのも多かったというのが気づきです。「禍転じて福となす」ではないですが、改めて認識されました。

髙島:もう一つ、結果として見えてきた機会について伺えますか。eコマースをやったものの、実は電話に手ごたえがあったように聞こえましたが、そこにチャンスがあるという感覚をもたれましたか?

秋田:たとえばお節料理のときをご紹介すると、確かにインターネット予約はこれまでと比べ物にならないくらい入ったんですね。ただやはり、大晦日には、想定の数倍のお客さまが、当日に買いに来られたんです。「お買い物は事前に」というご案内を相当やっていたと思うのですが、それでもちょっと先のことがお客さまにはピンとこないのかもしれません。やっぱり直接思ったときに購入するというところに、リアルの便利さがあるなと思いました。

髙島:なるほど。ありがとうございました。では日色さん、お願いします。

画像:日色 保氏

日色:日本マクドナルドの日色と申します。どうぞよろしくお願いします。この1年は、今、秋田さんが言われたのとまったく同じような状況に置かれました。リテールではなく外食産業ではあるのですが、消費者向けの店舗ということで同じような状況となりました。その時の打ち手を3点ほど整理してお伝えしたいと思います。
まず第一に、即応体制をつくったということです。全国の現場からあがってくる情報、カスタマーサービスに集まってくる情報を危機管理チームで吸い上げます。そして私を含む役員全員が入っているクロスファンクショナルチームを設置し、毎日そこに情報を集めました。その場でディシジョンして次の日にアクションに移すと。お客さまの声もすごくたくさんあるのですが、平均値をとってしまうのではなく、他にあまりないけれどユニークな意見なんかもなるべく拾うようにして。みんなでディスカッションして毎日毎日、実行に移していきました。

髙島:どういうお客さまの声があるのですか?

日色:たとえばソーシャルディスタンスに対する不安の声などがありますよね。ビニールカーテン一つとっても、安心という人と、汚らしいという人とがいます。注文の声が聞こえにくくなるという意見もありました。平均をとると、設置する方が安心だという声になるんですよ。でも、少数意見でも取り上げて議論して、毎日何かのアクションにつなげるということをやっていました。

髙島:「n=1」の意見をしっかり見ていくということですね。

日色:そうですね。

髙島:そうなると、どの「n=1」を日色さんの手元まであげるか決めていらっしゃる方がいるのですか?それともかなりの量を、日色さんご自身でも読むんでしょうか。

日色:2,900店舗くらいありますからね。全部読むのはやはり無理なので、現場の人が特に自分の頭にひっかかったもの、心の琴線に触れたものをあげてもらうようにしました。それを危機管理チームで整理して、最終的に役員のところにあげる、そういうプロセスにしていました。

髙島:なるほど。ありがとうございます。

日色:それから二つ目は、安全安心対応です。マスク、消毒、アクリル板といったソーシャルディスタンス関連の整備はすばやく行いました。実は各店舗には、コロナを機にものすごいお客さまが押し寄せました。だから客席の安全やソーシャルディスタンスがとれなくなりそうで、客席の使用を中止しました。それでテイクアウト、デリバリー、ドライブスルーに限ったのですが、その辺もお客さまの声を聞いて対応しました。こういう安全安心対応は、手探りの中で何とか進めていったというところです。
三つ目にはやはり、いろいろな経営アクションのプライオリティを見直しました。随分変えましたね。たとえばデリバリーは自社でのデリバリーと、Uberさんのようなパートナーを含めてどう展開させていくか。プランを大幅に見直して、一気に拠点を増やしました。モバイルオーダーなんかも、もともと去年の1月から全国展開していたのですが、予定していた機能追加のスケジュールをぐっと短くして前倒しました。駐車場でモバイルオーダーすると車まで持って来てくれる「パーク&ゴー」というサービスも、本当は今年からはじめる予定だったのですが、去年実現させました。
それから、メニューやマーケティングのメッセージングも随分変えましたね。たとえば去年の夏は「どこでもハワイ」というメニューを売り出したのですが、「どこにも行けないから気分だけでもハワイ」という点が伝わったのか、かなり売れました。こういう環境下でお客さまがどういうつながりや楽しみを求めているか。それをメニュー、マーケティングのやり方、デジタルのチャネルに反映していくことには相当力を入れています。どちらかと言うとエンゲージメントにつながるようなマーケティングチャネルやメッセージングですね。このようにプライオリティを変えてきた12か月だったと思っています。

髙島:意思決定を集約化してトップダウンでやっていくのは、一つの定石的な方法だと思うのですが、日色さんのところは2,900店舗にその実行をやってもらわないといけない点がありますよね。いかに早く意思決定しても、実行で足並みがそろわないこともあると思うのですが、意思決定を実行に移すまでにどういう工夫をされているんでしょうか。

日色:一番効果があったと思うのは、毎日何か発信したことだと思っています。決まったことだけではなくて、こういうことを議論したといった過程も伝えていく。毎日出していると、現場は毎日期待するし、毎日見るんですよ。その上に「みんなでこの危機を乗り越えているんだ」という、ナチュラルハイのような一体感も出てくるわけです。だから今日は特に情報がないというときでも、必ず何か発信するようにしました。そうすると必然的に習慣化して、みんな見るようになる。次の日にはまた何かが来るとわかっているから、今日来たメッセージは今日中に何かアクションしなきゃと思うようになっていく。そういうルーティンをつくったというのは大きかったなと思います。

髙島:具体的にはどうやってそのメッセージを届けるのですか?

日色:メールですね。我々の店舗は7割くらいがフランチャイズ制のオーナーさんなんです。ですので、店長やオーナー宛に毎日発信していました。もともとそういう発信ルートはありましたしね。

髙島:ちなみに、毎日配信はいつからいつまで続けたんでしょう。

日色:3月に入ったあたりからはじめて、緊急事態宣言が解除された後、2、3週間くらい経つ頃までですね。

髙島:つまり約3か月、100日くらいこの体制でやったということですね。

日色:そうですね。その後も危機管理チームは続けましたが、クロスファンクショナルチームの方は組織的に対応力があがってきたということで、現場に任せるようにしました。

髙島:どうもありがとうございます。では最後、お待たせしました。吉松さんにお話しいただきます。アイスタイルさんはリアル店舗もネット販売も両方行っていたので、ピンチもチャンスも同時に来たというように思いますが、この12か月間はどのように過ごされましたでしょうか。

画像:吉松 徹郎氏

吉松:はい。簡単に自己紹介しますが、当社はアットコスメという化粧品のインターネット口コミサイトからスタートした会社です。今はECと実際の店舗の両面で事業をしています。会社がスタートしたのは1999年ですので、もう20数年前です。店舗は2007年から始めていまして、日本国内で24店舗、海外で15店舗まで増やしていました。
この1年間なのですが、実は化粧品は「トラベルリテール」と言われるように、酒、たばこと並ぶほどの免税商品なんです。なので海外旅行者が減ったとたんにマーケットの10%くらいがぐっと減って。実はこれがすごく大きな出来事の一つ目でした。
二つ目に大きかったのは、マスクをするようになった、あるいは出かけないようになった、というお客さまの生活形態の変化で、化粧品スタイル自体がそもそも大きく変わってしまったということです。化粧品会社としては、化粧品の購入スタイルが変化していく中で、インバウンドも来なければ、テレビコマーシャルをやってもお客さまが店頭に買いに行けないという状態が続き、化粧品ブランドのマーケティング費用をぐっと抑える方向にいきました。
その中で、当社のクチコミサイトのサービスは店頭での相談ができない分、インターネットで情報を調べる量が増えたので、ページビューやユニークユーザー数がぐっとあがりました。ECもおかげさまで大きく伸びています。実は化粧品業界のEC化率は5%強くらいしかなく、ほとんど店頭で対面販売で売るような業態だったので、ECの事業が大きく伸びる機会になりました。
また、昨年の1月のコロナがはじまる直前に、私たちは創業20年間の集大成として原宿の駅前に大きなビル1棟を借りて、@cosmeTOKYO(アットコスメ東京)という場所をつくったのですが、さぁこれからという時に大きくつまずいてしまいました。実際、リテールサイドだとあまりやれることがないんですよ。お客さまも呼べなければ、そこで売ることもできません。
なのでインターネットへのアクセス数が増えても店頭側の収入減が大きく響いて、会社全体が苦しんでいたというのが、この1年間の全体の流れになっています。

画像:髙島 宏平氏

髙島:社員の方々から見ると、原宿ではじまる取り組みへの期待値も大きかったのではないかと思うのですが、この間のコミュニケーションはどのようにされていましたか?

吉松:原宿の立ち上げに関わっていたり、お客さまに近い仕事をしている社員ほど、厳しい状況を肌身で感じたと思うんです。だから会社がメッセージを出しても、ある程度理解はしてくれました。
一方、海外投資をやるメンバーの方が、葛藤があったようです。事業計画通りに進んでいる中で、その事業を止めると言われてね。グッと成長が見えてきたところで畳むものが多くありました。
他のインターネット企業を見ると、コロナ禍ゆえにかえってITが盛り上がっている。それに比べてうちは大丈夫だろうかって不安に思ったり、いろいろ大変だったと思いますね。

髙島:一方、本業の収益性を高めようと取り組んだ中で、手ごたえ感が出てきた点はありますか?

吉松:実は、日本国内の店舗は、去年1年間で全部黒字化できるまで戻しました。

髙島:通期で黒字化ですか?

吉松:10月から12月の直近の四半期です。

髙島:要因はどんな点でしょう?

吉松:複数の事業をもっていたことと、特にECが伸びたのは大きいですね。一般的にネットベンチャーは、成長の規模を拡大するためにひたすら投資をしていると思います。私たちも海外に対してかなり、M&Aの投資含めて費用をかけていました。実は3年で80億くらい投資していまして、日本国内の利益を海外投資しながら成長してきたのですが、国内の利益が止まった瞬間に海外事業分が大きな重しにもなるという構造にもなっていたので、こうした事業を積極的に整理したことも大きな要因の一つです。

髙島:EC化はコロナ禍が終わった後も残りそうですか?それとも揺り戻しが起こるモノでしょうか?

吉松:感覚としてはリアルに戻ります。4月、5月に緊急事態宣言があって、ECがぐっと伸びて、リアル店舗の方は今後大丈夫だろうかと思っていたんですが、宣言開けにECはものの見事に減りまして。みんな店舗に買いに来てくれました。

髙島:そうなんですか。それは化粧品だからですかね?あるいは単純に外に出る人の量ということですか?

吉松:買うものが明確だとECで買いやすいですし、わざわざ店舗に行かなくていい。ただ、買うものを決めていくプロセスが必要なときは、やっぱりリアルの方が利便性が高いんだと思います。ウィンドウショッピングも一例ですが、たとえば、スキンケア商品を何か探して買おうと思っている時、そのときにインターネットだと、たくさんのページを見る時間がかかりますが、店頭だと一目で比較できる。その点で、店舗の利便性が高いんです。さらに、そのついでに「こんなメイク商品があったんだ」と、まったく違うセレンディピティが起きたりもする。このように、人がものを好きになるプロセスというのが断然リアルの場で起こりやすいというのが僕の仮説です。

髙島:なるほど。

日色:外食も同じ傾向があります。緊急事態宣言が終わってしばらくしたら、やっぱりお店の中に人が戻ってきました。ご家族でハンバーガーでも食べながら楽しい時間を過ごしたいというのは、本当は皆さん望んでいらっしゃったと思うんです。できなかったからテイクアウトやドライブスルーやデリバリーを使ったのであって。安心度があがると戻ってくるというのは、我々も実感しました。

髙島:ありがとうございます。ここから2巡目のような形で、未来の話に入っていきたいと思います。コロナ禍の1年間で、リアルの価値、あるいはバーチャル、ネットの価値が、それぞれ見えてきたということですよね。そこで「やむを得ずネットで買う」「ネットの方が便利だ」「リアルじゃないとだめだ」という観点が見えてきて。我々ビジネスサイドが気づいたこともあれば、お客さま自身が気づいたようなことも結構あるんじゃないでしょうか。ワクチンも到着して、ウィズコロナの時代からアフターコロナの時代にちょっとずつ移行していくタイミングに差し掛かってきています。その中で「お客さまはこういう風に変わるんじゃないか」という点と、「それに対して自社はどのように進化していこうか」「どういう風にチャンスをつかもうとしているか」というのを、教えていただけますでしょうか。秋田さんいかがですか。

秋田:やっぱり今、かなりお客さまが変わってこられているなと思いますね。価値観の変化はものすごく、感じます。「モノの豊かさから心の豊かさへ」というのは随分前から言われてきましたが、一層心の豊かさや、コトや体験に関する欲求が高まっているのを感じています。よく言われている「家ナカ消費」もその一つですね。家具を買う人が急に増えてたり、アートなんかにもすごく関心が高まってきたり。そういう現象も心の問題の一つだと思いますね。
それから、レジ袋の有料化というのも一つの転機だったと思います。百貨店でもプラスチックごみがすごく話題になったのですが、こういう変化を通じて、サステナブルや環境問題への意識は高まっています。意義のある消費であれば、お金を出してもいいというお気持ちはすごく強くなっているように見えますね。絆とかつながりというものも、コロナ禍を通じてますます強くなっていると思います。ギフトを買いたいという方はとても多いですし、お節料理も自分ではなく、会えないご家族に送りたいというのが今年は多かったです。その点ではリアルの良さはぜひ、高めていきたいですね。

髙島:もともとデパートに行くという行為自体が、モノが欲しいというよりは、心の豊かさを埋める象徴だったような気もするんです。そこには吉松さんがおっしゃったような「セレンディピティ」もありますし。今まで知らなかったことに気づける場ですよね。ちなみにその要素を高めていくためには、デパートで言うと何を変えるということですか?

秋田:お客さまアンケートで来店理由を聞きますと、ここでしか味わえない非日常を求めてという声が7割以上なんです。EC化は進めていくべき部分ですが、一方でリアルを磨き上げていくこともこれからの課題だと思っています。ここでしか買えないもの、ここでしか味わえないサービスを提供できるのは、やはり百貨店をはじめリアルな店舗の強みじゃないかと思っています。

髙島:なるほど。その点ではよりユニークな品揃えといったマーチャンダイジングを進めていく方向ですね。

秋田:そうですね。先ほど申し上げた展覧会のグッズでも、会場に来られたときだけ買えるというようなものを、もっともっと開発していかないといけないなと思っています。

髙島:おもしろいですね。わくわくします。今度は日色さんに伺ってみましょう。お客さまの変化とそこへの対応について、どのように見られていますか?

日色:根源的なニーズはそんなに変わらないと思うんです。おいしいものを食べたい、親しい人とつながって過ごしたいといったニーズですね。ただ、ブランドの選び方、もしくは選択をするときのダイナミズムというのは変わってきたと感じています。一つには、ブランドの信頼感とか安心感がすごく大事になってきた点ですね。スーパーでもテイクアウトでも、定番商品がすごく売れるようです。一方、知らないところのテイクアウトはかなり苦戦している。知っているブランドは「ここへいけばこういう体験ができる」「このサービスが得られる」「この味なら店でもテイクアウトでも変わらず安心」といった安心感をもって選択するんです。さらに、たとえば家族4人で一緒に食事するときに、誰か1人でも「あそこはいやだ」と言うと、全体としても選択しなくなるんですよ。その時に、全員がわかっていて安心というのは大きいですね。そういった点から、ブランドに対する信頼感や安心感の価値が、これまでよりさらにあがったと見ています。
その上で私たちが、どういうユニークなバリューを出していくかなのですが。よくマーケティングでペルソナ分析と言いますが、ペルソナと言うよりもう少し深い視点がいると思っています。どういうオケージョン、どういう場面、どういう理由でどういうサービスを購入するのか。その理解が、一段深くならないとだめでしょうね。従来は「顧客理解」すなわち「ラーン・アバウト・カスタマー」だったと思いますが、これからは「ラーン・フロム・カスタマー」。お客さまから教えていただかないとわからないことが、すごく増えてきています。だから、これまでのマーケットリサーチ手法はあまり役に立たなくなったと感じていまして。顧客インサイトをどう取り込んで分析するか、非常にクリティカルになってきています。そのためには、ビジネスをしながらお客さまと何らかの形でエンゲージできるような形が必要ですね。我々もモバイルオーダーなどをやっていますが、その辺を深めないと打ち手を間違えてしまいそうに思います。

髙島:ありがとうございます。「マクドナルド」というブランドの安心感は、これ以上ないくらいじゃないかと思ってしまうのですが、さらに何をやるべきだとお考えなのでしょう?

日色:マクドナルドの場合は、朝も昼もおやつの時間も夜も、全部の時間帯にお客さまが来られるんですよ。でも今まで朝来ていたお客さまって、コロナの影響で激減しているんです。つまり、今まで機能的な意味合いだけでマクドナルドに来て、朝ご飯を食べていた人はなかなか戻ってきていません。ただ一方で、「どこにも行けないからマクドナルドに朝のコーヒーを飲みに行こう」と来てくださる老夫婦が、来続けてくださったりするんです。そういう方をしっかり見て、特別なオケージョンを見逃さないようにしないといけない。その老夫婦にとってのマクドナルドのバリューは、今までとは全然違うはずなんです。こうしたオケージョンを一つ一つ認識して、ブランドに対する安心感をつくっていくのはまだまだ必要です。

髙島:機能性より価値性を出していくということですね。

日色:そうですね。エモーショナルなバリューの方がこれから大きくなっていくと思っています。

髙島:もう一つお伺いしたいのは、傍らで不景気の足音を感じられることがあるか、それに対する準備はどうされているかという点です。

日色:感じますね。もともとマクドナルドって「わりとお得感のあるもの」という位置づけなので。そこに対するニーズが高くなってきているのはひしひしと感じます。だから、楽しさを打ち出しながらもお得感を打ち出すのはすごく大事です。今後さらに重要度が増すでしょうね。

髙島:なるほど。ありがとうございました。今度は吉松さんにお伺いします。化粧の価値自体も、お客さまの行動様式も変わってきている中で、どのように今後、お客さまの変化とそれに対応する自社の変化を考えていらっしゃいますか?

吉松:大きく二つあると思っています。一つめは、カスタマージャーニーを描く意味がなくなっていると思う点です。お客さまのデータをとり、ソーシャルでつながるというのを重視されている方も多いと思うのですが、いくらつながってもお客さまは動かないです。「つながること」と「動いてもらうこと」は別なのに、つながることに大きな費用をかけていてもったいないなと思います。それよりもお客さまを動かすのは、クリエイティビティです。先ほど日色さんが言ったエモーショナルな話や、秋田さんのおっしゃった価値の話も同じようなことだと思うのですが、やっぱりクリエイティビティを磨くことこそ、これからとても大事になってくると思っています。
二つ目はビジネスモデルのリセット。物を仕入れて販売して得る利ザヤだけでは店舗を維持できなくなってきています。リアル店舗をやっていると、お客さまにとっての価値をどう提供し続けられるかを日々感じます。一つのビジネスモデルだけでは限界がきているので、これをどう組み合わせて「組み合わせのビジネスモデル」をつくっていくかだと思いますが、会社の構造やモデル自体を根っこから変えることが、限られた時間内で考える点かなと思っています。

髙島:今有望なビジネスモデルの仮説ってありますか?

吉松:どこまでいっても「融合」だと思うんですよね。この問いはすごく難しいのですが、最近結構注目しているのはウォルマートのやっていることです。リアル店舗を展開する会社ですが、Amazon、Googleに次いでIT投資が大きいんですよね。リテールの会社があそこまでITに振り切るやり方は一つの注目すべきモデルになるかもしれないと思っています。

髙島:ビジネスモデルとしては、コンビネーションの開発みたいなことですね。

吉松:その通りです。

髙島:ありがとうございます。お三方から刺激あるお話をたくさんいただきました。共通して伺ったのは、まずモノからコトという価値転換が本格的に起きると。そのときには、今までのマーケティング手法では通用しなくなる。「ラーン・フロム・カスタマー」という言葉もありましたが、お客さまと一緒に事業を成長させていくフェーズになってきているのでしょう。これまでマーケティング手法はいろんなものがありましたが、我々はマーケティング自体を自分たち自身で発明していくべきときに直面しているんだと思います。ぜひそれぞれのフィールドでがんばって、また1年後くらいにどんなことを発明したかを教えあうことができたらうれしいなと思います。登壇していただいた皆さん、本日はありがとうございました。

画像:分科会1-B「リテール」 セッション風景

以上
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