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ラウンドテーブル2020 分科会「コロナ禍でのサバイバル術 1-A:観光」記事掲載

2021年4月 8日

2021年2月18日に開催いたしました「ラウンドテーブル2020 ~未来を探る円卓会議~」分科会の様子をご紹介します。

コロナ禍でのサバイバル術 分科会1-A「観光」

※所属・役職は開催当時

《パネリスト》 ※写真は左から
伊達 美和子(森トラスト 代表取締役社長)
平子 裕志(全日本空輸 代表取締役社長)
山野 智久(アソビュー 代表取締役社長/CEO)

《モデレーター》
佐々木 紀彦(NewsPicks Studios 取締役)

画像:分科会1-A「観光」 パネリストとモデレーター

佐々木:今日は観光をテーマに話していきたいと思います。全体で3つのパートを予定していまして、最初は現状認識の話。そして2つめが今年の話。オリンピックをやるかどうかまだ完全には分かりませんが、どういうふうに今年は動いていくのか。マクロ視点と会社視点と両方伺おうと思っています。そして最後に未来の話、どのように観光産業が変わっていくか、どこに新しい機会があるか、チャンスがあるのかということをお話しいただきたいと思います。せっかくなので未来の話、パート3を厚めにして、パート1・2はさらっという形で議論していければと思っています。ぜひ活発なご意見をよろしくお願いします。
最初に、簡単な自己紹介と現状認識をお伺いできればと思います。平子さんからお願いしてもよろしいでしょうか?

画像:平子 裕志氏

平子:皆さんこんにちは。ANAの平子です。よろしくお願いします。
報道等でご存じのとおり、航空業界は最もコロナの影響を受けたと言われています。総務省の家計調査を見ても、パック旅行と航空運賃が圧倒的に対前年比で落ちているんですね。Go Toキャンペーンで少し需要が戻ってきたのですが、12月頃からコロナの第3波が来てまた意気消沈状態。年を越えて1月、2月となる今は、本当に厳しい状況です。
今日は6月からとっているお客さまアンケートの状況を紹介して、お客さまの行動心理や社会現象面について少しご紹介したいと思います。
まず、「お客さまが移動や旅行に際し、重視することは何か」という質問です。これに対して「旅行したい気持ちはある」というのはずっと高いレベルです。6月からずっと10点満点中10点に近い水準を保ってきているというのが、私どもの調査の結果です。ところが社会の雰囲気については乱高下していまして、11月末辺りからの第3波が始まったときには旅行しづらい雰囲気を重視するお客さまが増えました。それで12月末には旅行しない方向に社会が逆転したというのが、今の状況です。気持ちはあるけれども旅行しづらい雰囲気が、移動を妨げているというのが分かってきています。
それから、「旅行や移動に対する不安解消として必要なことは何か」という質問もしています。これに対しては、「航空会社あるいは公共交通機関、宿泊先の感染症の予防対策」「ワクチンの開発、普及」が9点台でトップを占めています。続いて「目的地の感染者数や混雑状況の可視化」「緊急事態宣言の解除、あるいはWHOの終息宣言」がその後に続きます。
3つ目には「ワクチン接種開始後に旅行をしたいかしたくないか」という質問をしています。これに対して「感染拡大前以上に旅行したい」あるいは「同等に旅行したい」と答えている方が過半数を占めています。52%ですね。一方で、「以前よりも慎重に行いたい」と言った方も3割くらいで、両極端の傾向になっていることが伺えます。後は、コロナがもたらした社会現象面についてですが、これは皆さんも大体分かってらっしゃると思いますが、衛生や人の接触というものに非常に敏感になったことです。ここから非対面や、非接触、あるいはキャッシュレス、こういった価値観の向上が生まれてきています。
ここから派生したのが、テレワークやワーケーションです。オンラインによるコミュニケーションが激増しましたが、そのメリットを知る、享受できる状態になったのが、今の現象ではないでしょうか。定住が前提だった世の中の前提も崩れて、働きたい場所を自由に選べる移住、これを前提とする世の中に変わり得る可能性が今、示されているのかと思っています。
また、新型コロナウイルスがパンデミック化したという事実から、今後、環境破壊、感染症の大流行が地球温暖化に起因するんじゃないか、といった捉え方が広がる懸念もありますね。この辺が、まさしくリアリティーを帯びてきているように感じます。

佐々木:どうもありがとうございます。伊達さん、いかがでしょうか?

画像:伊達 美和子氏

伊達:森トラストの伊達です。昨年のラウンドテーブル2019では、オフィス関係で登壇させていただきましたが、今年はホテルをテーマにまたお話しさせていただく機会をいただきました。ありがとうございます。当社は不動産事業で、オフィスやホテル等を展開しているわけですが、そこで今の観光業がどうなってるかをお話ししたいと思います。
ちなみに皆さんは、世界の旅行がこの1年間でどのぐらいロスしたかというのをご存じでしょうか。世界観光機関が発表した資料によりますと、136兆円も消えてしまったと言われています。これは、リーマンショックのときの11倍もの大きさです。旅行者数で言うと10億人減った、74%減ったとも言われています。
一方、日本の状況ですね。昨日、日経新聞にも出ていたのでご覧になった方もいるかもしれません。述べ宿泊数としては3億人減ったと言われています。そのうちの2億人が日本人、1億人がインターナショナルです。金額ベースで見ると、10兆円ぐらいドメスティックの売上が減ったと言われています。さらに3兆円強もインバウンド分が減ったということで、13、14兆円ぐらい減ったということですね。
非常に厳しい状況ではありますが、世界の70~80%減と比べると日本の50%減はまだいい方と見ることもできます。緊急事態宣言は厳しいものですが、ロックダウンまでは至っていない。よって、今の旅行者がゼロではないわけですね。感染数も世界と比べれば少ない方だ、ということも影響したんだろうと思っています。ただ減少の内訳を見ていきますと、日本人の旅行者は60%減、外国人が84%減です。すると同じホテル事業でもインバウンド重視かドメスティック重視かで、結果に少し差が出てきたというのがあります。
さらに観光庁のデータで旅館、リゾートホテル、ビジネスホテル、シティーホテルの稼働率内訳を見ますと、秋頃の前年比は旅館が一番いいんです。11月は対前年で94%と、そこまで復活しているというのが見えます。次に良いのは、リゾートホテル。そしてビジネスホテル、シティーホテルという順番でした。つまりホテル事業をしている立場で言うと、やはりどのポートフォリオ、どのエリアに、どんな種類のホテルを持っているかによって、収益が結果として変わってくるということになります。
当社では、観光に特に力を入れたのが5、6年前になります。その際に、グローバルスタンダードを日本に持ってくること、都心だけではなくリゾート地にもつくること、そして、ドメスティックとインバウンドの両方を対象にしていくといった方針を定めてやってきました。結果的に、リゾート系は対前年稼働が大体77%というのが、1年間の数字です。一方、シティー部分に関しては対前年の40%程度。結果的に、60%ぐらい対前年減となっています。つまり当社でもセグメントによって違いが出ている状況です。厳しい環境下としては当初想定よりよかった面もありますが、やはり観光・ホテル業というのは労働集約型、そして装置産業型ということで、非常に固定費がかかるビジネスです。我々の会社が不動産として持っているオフィス、分譲、ホテルといったセグメントの中では、非常に厳しい結果が出たと捉えています。

佐々木:ありがとうございます。では山野さんにも伺います。体験型レジャーをされてますけれども、ご自身の事業も含めて、どうでしょうか。

画像:山野 智久氏

山野:アソビューの山野です。よろしくお願いします。最初にちょっとご紹介すると、旅行って5つの分野があるんですね。まず「現地まで行く移動」。これを平子さんのところが担当していらっしゃいますね。そして「現地での宿泊」。これが伊達さんのところです。そして「現地で遊ぶ」「食事をする」「お土産を買って帰る」。この5分野を総じて、旅行観光と呼んでいます。
で、私がやっているのは、今の3つ目の分野となる「現地で遊ぶ」という部分です。オンラインで集客、予約できるプラットフォームをつくっています。宿泊の予約ではなく、現地の遊びの予約ですね。こういうサービスを立ち上げたベンチャー企業ということで、このセッションに参加させていただきました。
皆さんが、かなりマクロのお話をしていただいたので、私は現実的なミクロのお話をしようと思います。第1回目の緊急事態宣言があって、4月、5月と売上自体は前年比でマイナス95%までになりました。壊滅的という言葉が正しいでしょうね。緊急事態宣言下中は、本当に皆さんが家から出ない状況でしたので、ほぼゼロ更新という数字を体験したという状況になります。
6月以降は少しずつ消費が戻ってきて、7月、8月の行楽シーズンでお出かけいただく機会も増えて、消費動向は少し変わってきました。長距離旅行というより近場の旅行が多かったですね。マイカーで行けるような場所で、泊数も少し制限して、と配慮をしながらの旅行で、少しずつ回復していった状況でした。
そこから旅行業は11月を頂点として、非常に盛り上がりを見せます。Go Toキャンペーンですね。内閣官房が出してるV-RESASというのがコロナの消費動向の計測に非常にいいツールなのですが、11月には2019年対比を超える国内需要が生みだされて、観光業界も旅行業界も非常に希望を感じたのがありました。何ならこのまま我々の未来は明るいんじゃないかと浮足立ったところもあったと思います。しかし年明けにまた緊急事態宣言が出て、相変わらずお通夜の感じ、各社、非常に苦しい状況です。3人ともここに出てる余裕があるのか、悩みながら出てきたと思いますが、それぐらいかなり苦しい状況が今、続いています。

画像:佐々木 紀彦氏

佐々木:ありがとうございます。このまま2つめの問いの方にいきたいと思います。この緊急事態宣言の明けた後も含めてどうなるか、ワクチン接種も含めてまだ読めない部分はありますが、2021年はどうご覧になっていますでしょうか。山野さんからどうでしょう?

山野:2021年は、まだ自粛と緩和を繰り返すと思っています。私、もう1つの顔として、観光庁の検討会のアドバイザーにもなっておりまして、そこで観光戦略、特に観光領域におけるDX、デジタルマーケティングみたいなところを、民間の立場として意見をお伝えさせていただく役割も担っているんですけども。全体の所感として2021年は、ワクチンが普及しつつも、まだ緊張と緩和を繰り返し続けるのではないかなと思っています。
Go To自体については、実際にGo Toで感染拡大をしたわけではないといった話も出ています。ただし政治判断が世論や、世論をつくるメディアに影響されてつくられていくところがありますよね。先ほどの平子さんのお話のとおりで、旅行しづらい社会の雰囲気っていうのがあって。メディアの行動と比例して増えていく状況なので、感染数が増えていくとメディアの報道も強まり、Go Toの再開に踏み込めない状況が2021年の継続的な状況になり得ると見ています。

佐々木:メディアがあおり過ぎってことですか?

山野:僕は否定しないですね......そんなこともないとは思うんですが。

佐々木:どんどん言ってくださいよ。

山野:感情的にそう受け取る方が多くいらっしゃる報道になっているのはありますね。いい悪いって話ではなくて、当然、事実情報を伝えるって役割を担っているとは思っています。ただそこから解釈する側が、「ああ、自分が迷惑かけちゃいけない」となりがちでしょうね。今日参加されている方も、去年少なからず旅行に行ったでしょうが、あまり皆さん、SNSにはあげなかったと思うんですよ。こういう感じが世の中にはびこっているのが、旅行しづらい社会の雰囲気っていうものですね。

佐々木:分かりました。ありがとうございます。伊達さんは、今年についていかがでしょうか?ワーケーションなど新しい需要も出てきているとは思うのですが、そういったことも含めて、お話伺えればと思います。

伊達:Go Toとか感染状況については、データでもまだ分からないところがあって、ワクチン次第であると思っています。行ったり来たり、曖昧な時期が続くっていうのは山野さんと同じ意見です。一方で、緊急事態宣言そのものは、エリアの状況に応じて解除されていくだろうと捉えています。するとGo Toの復活に関しては、都道府県の知事判断がどうなるのか、かつ判断できるのか、それ次第だと思うんですね。実際、この1年間を振り返ると夏の時期に、首都圏は出られないけれども、Go Toが実行されている時がありましたよね。それなりの人が出入りしながら、各リゾート地では稼働が上がっていった状況でした。首都圏がなくても、地域にとってはプラスになったと思いますし。各都道府県内、自分の自治体の中での移動、宿泊ニーズが生まれたのです。そういう形で、どうにかバランスを取っていくのが、この1年、特に前半の動向ではないかと思っています。
ただその場合でも、大手を振って旅行できるわけではない、やはり心配だという考えの方が多いので、移動したとしても部屋の中にこもって過ごされる需要が多いだろうと思います。また出かけるにしても、できる限り自然豊かで、空気がきれいであろうところを好む人が多いでしょうね。かつ、都会の限られたところから少し解放されたいという気持ちも含めて、大自然へ大自然へと向かっていく傾向は強まると思ってます。実際、我々の施設を見ても、長野県の白馬にある施設が、一番早くからお客さまが戻ってきたという傾向がありました。
もう1つ、個別の話なんですけど、ドッグツーリズムも非常に伸びています。我々の施設でも結構稼働率がいいんですね。5月、6月を休みにしてしまったので、対前年にするとマイナス気味ですが、その時期を除外すると、ドッグ系の稼働はむしろ前年よりいい数字になったかもしれません。ファミリー単位で動いて楽しもうというライフスタイルも増えているでしょう。もう1つは、一人旅。このニーズもじわじわと増えてきていると思います。
一方で先ほどのワーケーションですよね。ワーケーションについてはある種、テレワークが可能になり、働く場所の選択ができるようになった。だったら家じゃなくて、「軽井沢からです」でも、良いわけですよね。それ自体は何の問題もなく、かつ、きちんと仕事ができればいい。平日にリゾートで仕事しながら、半分アクティビティー、遊びをしてもいいんじゃないかって考え方が、今、盛り上がってきていますね。その部分を私たちは伸ばしていきたいと思っています。

佐々木:山野さん、何か突っ込みたそうですね。

山野:これは、この分科会が始まる前に、控室でお話ししたんですよね。ワーケーションは、当然コロナ禍で加速した非常に素晴らしいライフスタイルの変化であり、コンセプトだと思ってるんですけど。僕自身は、話題になってるほどには浸透していかないんじゃないか派です、という話をさせていただきました。
伊達さんのホテルに泊まりにいける方々はきっと高所得者で、経済同友会の会員の方々もワーケーション万歳となるように思うのですが。ちょっと待ってくださいと。一般的なマジョリティー、所得層の方々がリゾート地に行って1週間、宿泊費用も払って、仕事しながら遊ぶイメージが本当にありますか?っていうのは、1つ論点じゃないかと思うんです。
なので、ワーケーション自体にマーケットがないわけではなく、絶対にあるのは事実です。一定の所得者の方々には、新しいライフスタイルが定着していく可能性が高いんですけど。日本のマスマーケットを見たときに、本当にワーケーションというコンセプトがライフスタイルを変えるのか。そんなことはないんじゃないかっていうのが、控室で盛り上がりかけまして。

伊達:この場で話そうと一旦止めたんですよね。

佐々木:伊達さん、いかがですか?この話を受けて。

伊達:わざわざお金まで払って、仕事をする場所を確保するだろうかというのは、当初私も懐疑的に思ってました。思っていたんですけれども、コロナになったことによって、子どもたちとどこかに行けるという機会が失われてしまった。そして、春休みは有給休暇というものが皆さん取りにくくなっていた。ゴールデンウィークも楽しめなかった。だからこそ、失われた休暇というのを夏に取り戻そうと考えるのではないかと、ワーケーションプランを夏に打ち出したんです。各事業所にプランを導入したところ、結構利用者がいらしたのです。お父さんは日中仕事をして、子どもたちは遊んで。翌日は有給休暇で一緒に遊ぶというような形で、うまく切り分けて使われていたんです。お客様の動向を見ながら、選択肢として、部屋の中の仕事スペースだけでなく、パブリックスペースに働きやすい空間をつくる。働く場所と子どもが遊べる場所とをすみ分けられる造りにもしました。お互いが見える範囲で好きなことができると、評判がよかったです。
その後、秋口にもワーケーション施設を増やしたんですね。数字は伸びてきました。夏休みではないので、家族連れではなく独身の方が来るかなと思っていたんですが、ファミリーでいらっしゃる。もちろん、小学校に入る前のお子さんと共にというのが多いのですが、こうした家族ぐるみのワーケーションをされる方が一定数いて、徐々に増えている現象が見て取れます。
あと、実際どういう方が使っているの?というお話ですが、30、40代のIT系の方が多いですね。ITに関連するメーカー系の方もいらっしゃいますし。こうした世代の年齢層の方々にニーズがあり、ワーケーションに賛同してくれているのかなと思っています。

佐々木:山野さん、納得しましたか?

山野:もう1回整理をすると、僕は一部のミクロの観点で、ワーケーションは非常に素晴らしいコンセプトだと思っているんです。ただワーケーションがこのコロナ禍において、マーケット全体を救うみたいなマクロの話になると、どうかなと。そこまで大きな影響ではないと思いますというのが、最初の話でした。

伊達:マーケットというか、重視したい点はやはり、平日なんです。平日の動きがあるのは大きい。旅館が対前年で97%程度に持ち直したと先ほど言いました。リゾート系もいいと言いましたが、それにはからくりがあって、本来は、秋から冬は、シーズンオフなんです。普通は土日しか動かないものが、平日にも多少動きがでれば、前年比で増えるという現象が起こります。一方で都心のホテルはもともと平日含めて90%ほどの稼働があったと考えると、なかなか対前年との開きが縮まりません。
少し話がずれるかもしれませんが、要は平日の稼働を上げることは、この産業にとってとても重要なんですね。それがワーケーションのように、平日に人が動けるようなライフスタイルが一般化することは大きなインパクトになると思っています。一方で、有給休暇の取得率は70%を目指すというのが政府の目標ですが、今のところ達成度は54%ぐらいなんですよね。それを高めていかなければいけない。どうやって取得するかを考えたときに、1週間単位で取れないから単発で取る。あるいは業務を止めないような取り方ができれば、という発想が出てくると思います。自分が3日か4日かワーケーションでどこかのリゾートにいて、必要な会議だけ参加してということができれば、業務を止めずにすむ。休みも取得しやすくなるんじゃないかと思っています。ただし、ワーケーションがメジャーかというと、もちろん違います。ホテル観光業において、1つの手段だけに絞るわけでもなく、多種多様な選択肢を持たなければいけなくて、その積み上げの中にある1つの可能性だと捉えてます。

佐々木:ありがとうございます。今、国内の話が多かったのですが、海外のインバウンド需要も含めて、平子さんから見通しを伺ってもよろしいでしょうか?

平子:今年の動向で言いますと、まずは国際線は鳴かず飛ばずの状態なので、何とかしたいということですね。変異種の影響も大きそうだなと思っています。その上で国際線をどう考えるかですが、安心材料さえそろえれば需要はあると思っています。これは間違いない。ただ最も需要を妨げているのが、いわゆる入国時の隔離措置です。調べでは「80%以上が到着地で隔離措置が取られる限りは、渡航しない」と言っているんですね。逆に、PCR検査や各種検査は、90%以上の人が受けることの抵抗をあまり持っていない。つまり、入国したら自由に行動したいという人たちがほとんどです。航空業界としては、隔離措置をなくすことに対して、どこまでコミットができるかということにかかってきます。
たとえば、ワクチンの接種証明やPCRの検査証明といったものがあれば入国時に隔離措置を取らないと、各国が同意していくということが大事なんです。そのための仕組みづくりをしていこうという動きの中で、「コモンパス」という検査証明アプリも動きはじめています。それを各国の入国時に示せば隔離不要となれば、移動するお客さまが一挙に増えてくるんじゃないかと思いますね。「コモンパス」は世界経済フォーラムが主体で行ってますが、IATA(国際航空運送協会)でも同じようなものをつくっています。
ワクチン接種情報、各種証明、生体認証、あるいはパスポート情報といったものを入れ込み、入国手続きを簡便化できれば、お客さまにも安心感が出ますし、国自体も住民の方々にも安心感が生まれると思います。山野さんの言葉のように自粛と緩和の繰り返しになりますから、いかに安心感を醸成していくかは、非常に大事なことじゃないかなと思っています。

佐々木:どうもありがとうございます。では3つめのより中長期的なテーマに移りましょう。ポストコロナを見据えた上で観光業はどう変わっていくかについて、最後に伺っていきたいと思います。

平子:コロナ禍でいろんな学びがあったと思いますが、やはりワークスタイルも変わって、人口が分散化して、生活様式も変わってきていますよね。ワーケーションもその1つだと思いますが、多様な働き方は確かに広がってきています。東京一極集中が少し分散化されるのは、非常にいいことだと思います。また多様化という観点からいくと、混雑時期の集中が緩和されるのも、非常に大きなポイントだと思います。
このときに必ず出てくるのが、デジタルの進化ですね。バーチャルとリアリティーの混在が当たり前の時代が来つつあります。逆に言うと、デジタルツールを使って、お客さまが自分の時間価値を最大化するという行為になっていくだろうと思ってます。だから我々は今、MaaSに取り組んでいます。航空会社、各事業者、観光施設等々と連携を図り、シームレスな移動サービスを提供していく試みですね。体の不自由なお客さまを含めたユニバーサルなサービスも、MaaSが必要な点です。たとえばバリアフリーの乗り継ぎルートをご提供するようなことも、これから力を入れていきます。
それから、アバターにも取り組んでいます。実際、移動したくても移動できないという移動の壁っていうのがありますよね。時間がないとか、コストが高いとか、身体的に難しいとか。あるいは、移動するためのインフラがないこともあるでしょう。こういった移動の壁を取り除く手段の1つに、分身ロボットであるアバターを開発し、そこに自分の意識や技能を伝達して、瞬間移動ができるという仕組みがあるんです。視覚、聴覚、触覚までアバターでできますので、まずそこで三感を刺激して、五感をフルに使うリアルの旅行に結び付けたいというのが、私たちのねらっているところです。
最後に申し上げたいのは、今回のコロナ禍では大きな教訓を得たという点です。健康と衛生への意識が高まり、気象変動とか環境保護への意識も高まった。観光においても、地球環境、ユニバーサル、社会的要請という要素がもっと増大してくると思います。ESGの取り組みが不十分な企業は、いずれ投資家や顧客から選択されなくなりますし、それをちゃんと肝に銘じておくべきだと改めて思いました。観光も大量生産とか大量消費、あるいは大量廃棄に直結しないような取り組みがより必要になってきています。
観光の意義は、文化と歴史に触れる学びがあったり、非日常に身を置くことで、自分自身の生活や社会のありようについて見つめ直す機会だったりすると思っています。すると新しい観光のあり方としては、都市生活者と地元の生活者との出会いの創造、あるいはそこから生まれる交流を通じて、何が新しいものをつくっていく、創出するという点に立ち返りますね。それがあれば、これから先いろんな形で、いわゆる持続可能になってくるんじゃないかと思っています。
先ほどワーケーションの話がありましたが、ワーケーションした者同士がそこで交流する、コ・ワーケーションのような考え方があると、もう少し広がりが出てくるんじゃないかなと私は思います。レクリエーションでも、リ・レクリエーションという再創造に観光の視点を移していくことによって、より持続性が高まるものと思っています。

佐々木:どうもありがとうございます。次は山野さんに、観光DXという観点での具体的な示唆や、観光DXに限らず今後の観光業界のポイントについてお話しいただけますでしょうか。

山野:端的に言うと、観光DXは目的ではなく、手段です。目的は、観光消費者の利便性の向上と、事業者の皆さまの経営の効率化。この2つの大きな目的に対して、それぞれ何の技術、何のデータを活用して、目的を実現していくかということが、観光DXでまず押さえなければいけないポイントです。
まずここが整理されると、それってどうやってDXで解決していけばいいんだっけ?という話が効率的になると思います。今後の観光産業にとっては伸びしろがものすごくあるところだと思いますし、売上が上がらない今、経営を効率化しないと生き残っていけない状態ですからね。DX推進による経営の効率化は、どんどん進めていけるだろうと思っています。
あと3つ、全体的に思っているポイントをお伝えします。まずマイクロツーリズムです。星野リゾートの星野さんがおっしゃっていましたが、近場旅行は必ず再開され、海外も近場のアジアから必ず再開されていくでしょう。近いところから始まっていく流れに対して、どう対応していくかがポイントですね。
2つめには伊達さんのお話にもありましたが、「アウトドア」はキーワードです。我々の消費データを見ても明らかなんですね。おそらく、緊急事態宣言が解除されると、近場のオープンウェアなアウトドアから消費が増えますと。感染症対策の中で、アウトドアはもともと大きなキーワードであり、かつ皆さんが体験をした上で、より重要性を増してきた。我々も打ち手として、アウトドア専門のアクティビティーの会社を買収したといった対応をしています。
3つめに、有給消化率ですね。先ほどの話にも挙がりましたが、これが非常に重要で、特に観光産業の中ではかなりホットトピックスとなっています。観光公害といった問題もある中で、やはり休日をどう分散化して、消費を平準化するかが論点なんですね。我々がいかに有給消化率を上げ、平日の需要をつくるかが結構論点になるので、ここは経済同友会でも皆さまに勧めていただけると非常にありがたいなと思っています。

佐々木:分かりやすくお伝えいただきました。ありがとうございます。最後、伊達さん、よろしくお願いします。

伊達:やはり、観光を1つの成長産業として今後も支えていきたいなと思っているわけです。しかしながら、2019年までにインバウンドが伸びていったときには、観光公害、オーバーツーリズムという声が各地から聞こえてきてきました。だからこそ、観光産業のひずみについては考えなければいけないんじゃないかと思っています。
たとえば、ドメスティックで見ると2004年の産業は27兆円なんですね。2019年は22兆円となって、2018年よりは増えていますが、まだまだ足りないです。人口は、確かに減っているでしょうし、高齢化しているけれど、本当はまだ伸びしろがあったはずなんです。
インバウンドについても、今はもちろんゼロに近い状態でありつつ、「日本に行きたい」というアンケート調査はあるわけですよね。どこに旅をしたいかという問いで、アジア系では1番、欧米系も含めればアメリカに次いで2番に挙がっている。そのくらいニーズがあるのです。さらに、海外の方々は「自由になったら海外旅行したい」と80%の人が言っている。ちなみに、日本人はまだ怖いからと50%程度。そう考えるとインバウンドは必ず戻ってくると思います。
すると、どの観光地も再度賑わう可能性があるわけです。ただそれまでに、何が原因でオーバーツーツーリズムになってしまったのかを突き止めて解決しておかないと、また同じことが繰り返されてしまう。今こそ、観光客を受け入れるまちづくりとして、何が必要なインフラなのか、見直すべきときだと思っています。
たとえば、かつての団体旅行のときには、旅行者はたくさんいたけれど、バスに乗って決まったところに行ったので、日常の生活の中に入ってこなかった。ところがインバウンド需要が高まり、海外の方が路線バスに乗ったり、大きな荷物持って道を歩いたり、日常生活の中に、海外の観光客という違う行動が入り込む状態になってしまった。生活インフラと観光インフラはそもそも違うと捉えると、それを別にするのか、両方共存するのか。そうした都市計画的なインフラ整備を再度考える必要があります。
一方で、先ほどからも話されているように、通信、IT技術を使うことによって、利便性は高まるし、付加価値の提供ができるようになります。経営的にも合理化できる方法が目の前にあるのだから、観光DXをまちづくり、経営のインフラとして、早く整備していくことが、当然において必要だろうと思っています。そうしたムーブメントに各自治体がすすむように、経済同友会の立場としては、提言などもしていきたいなと思っています。

佐々木:どうもありがとうございます。ちなみにホテルとか宿泊施設、コロナ禍前にすごく増えましたよね。供給過剰になっているのでしょうか?それとも、戻ってくれば、十分な供給であり、もっと増えてもいいぐらいなのでしょうか?もちろん分野にもよると思うんですけれど。

伊達:ホテルが急激に増えたのは、この2020年ですね。本当の結果は、まだ見えないのかもしれないです。もともと、インバウンドが4000万人、4兆円というのを目標としてやってきましたので、そこを目指して人数が増えていくのであれば、受け皿は必要だったと思います。日本人の旅行者も2015、2016年頃から伸びていますし、その受け皿になっていたと思うんですね。
さらに、かつては旅行者がシルバー中心で、若者の旅行ニーズは2004年頃から下がっていたんです。それがこの4、5年の間で若者のニーズが盛り返していました。30、40代の方の旅行が増え、かつ、金額、単価も上がってきました。それは、あるべきタイミングに次のものが常に投入されてきた効果であり、新規開発は間違いではないと思ってます。常に新しいもの、商品、サービスが投入されるのこそ、全体が活性化されると捉えています。

佐々木:どうもありがとうございます。1分前になりましたので、最後皆さんに今後の観光のキーワードを15秒ずつ、お話ししていただければと思います、無茶振りです。平子さんからどうでしょうか?

平子:観光は、さっきも申し上げたように、やはりこれから先、国民にとっては、あるいは世界にとって不可欠なものだと思っています。それをちゃんと訴求できるような方策を、これからしっかりやっていきたいと思います。

佐々木:ありがとうございます。山野さん、お願いします。

山野:助けてください、使ってくださいということですね。我々、今、非常に苦しんでいますから。移動はANA、宿は伊達さんのところ、遊びはうちっていうことで、ぜひお願いします。

佐々木:宣伝ありがとうございました。伊達さん、お願いします。

伊達:やっぱり観光DXを進めていくために、経済同友会、そしてベンチャー企業さんも含めて、観光を応援していただきたいなと思います。

佐々木:今日は皆さん、貴重なお話ありがとうございました。それでは、このセッションを終わらせていただきます。ご清聴いただいた皆さまもありがとうございました。

画像:分科会1-A「観光」 セッション風景

以上
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