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ラウンドテーブル2020 分科会「グレートリセット後の未来 2-C:AI・データ」記事掲載

2021年4月 1日

2021年2月18日に開催いたしました「ラウンドテーブル2020 ~未来を探る円卓会議~」分科会の様子をご紹介します。

グレートリセット後の未来 分科会2-C「AI・データ」

※所属・役職は開催当時

《パネリスト》 ※写真は左から
上野山 勝也(PKSHA Technology 代表取締役)
小柴 満信(JSR 取締役会長)
平野 未来(シナモン 代表取締役社長CEO)

《モデレーター》
鉢嶺 登(デジタルホールディングス 代表取締役会長)

画像:分科会2-C「AI・データ」 パネリストとモデレーター

鉢嶺:この時間はグレートリセット後の未来について、特にAIとデータというテーマで皆さんと議論を進めて参りたいと思います。よろしくお願いたします。冒頭に私から問題意識を述べまして、お三方からそれに対し、自己紹介を含めてお話しいただこうと思っています。
いわゆる高度経済成長時代、日本が製造業で躍進して経済大国にのし上がったのが1960年から1990年という30年間でした。しかし残念ながら、その後1990年から2020年までの30年間はインターネットの時代で、日本は競争力を発揮することができずにいます。アメリカ中心にはじまり、米中が一気に対等化する中、日本では「失われた30年」と言われる時代が続いてしまいました。
しかしこの先、2020年から2050年をこれからの30年と考えますと、今がスタート期にあたるわけです。いわゆるデジタル産業革命と言われている時代に突入し、IoTですね。あらゆるものがインターネットに接続され、大量の膨大なデータが取得できる。それをAIによって分析する時代に突入すると言われている中で、日本は再び世界に冠たる国になるのか。どうすれば競争力を発揮できるのか。オンラインでは圧倒的にGAFAが強いのではないのかという状況下で、これからの日本がどう勝っていくのか。経済同友会としては皆様のようなリーダーが世の中に発信していくことが非常に重要だと思いますので、まずはお三方からそれぞれ5分ほど、自己紹介を含めてお話しいただければと思います。まず小柴さん、お願いいたします。

画像:小柴 満信氏

小柴:今、ご紹介にあずかりました小柴でございます。我々は製造業の会社です。合成ゴムや半導体の材料とかをいろいろとつくっている立場から行くと、GAFAというのはプラットフォーマーであって、日本の企業としてはいかに勝つかというより、どう利用することかと思っています。しかしやはりGAFAの動きは非常におもしろくて、特に私は個人的にAmazonのモデルを結構研究したのですが、その中で2つ印象的なことがあると思っています。
まずやはり、あれだけの巨大企業でもすごい成長力を持っているということですね。この間の決算でも、2020年は2019年に対して約38%売り上げが伸びています。アメリカを代表するグロース株と言われるゆえんだと思います。もう1つは、ジェフ・ベゾスの2013年頃の講演を聞いたのですが、まさに彼らがOODAを実践しているというところなんですね。これがAWSやKindleといった企業文化をつくったのかなと思います。
前者の「成長力」という点をもう少し考えてみます。生産性については、確かにWebの進化とコンピューティングコストの低下が生んだものですが、一方で労働生産性と資本生産性という面でも注目しています。資本生産性は大体年間6-8%なんですが、これを超えていくポイントは、やはりビットの生産性にある。デジタル生産性ですね。ムーアの法則というのがありますが、18か月から24か月でトランジスタの精度が倍になると。これを上手に経営に使っているのが、大きなポイントだと思います。
そしていろいろ見ていますと、2012年と2015年は非常に象徴的な2つの年のように思います。ビットの生産性が使い物になってきた、すなわち半導体が20ナノをきってきたのが、大体2010年代の半ばだと思っています。これを上手に経営に取り込んでいるんですね。経済同友会でシリコンバレーに行ってAppleを訪問したときにも、スティーブ・ジョブズを知る方が同じようなことを言っていました。やはり彼はコンピューテーショナルデザインと言って、ムーアの法則を事業戦略に反映させていたそうなんです。これが日本企業にはできていないかもしれない。ですからこのビットの生産性をどう生かしていくか。実用化されてきたのが2010年代からなので、まだ今からでも、がんばれば何とかなる分野だと思っています。
それからもう1つ、量子力学にも注目しています。東大、慶應、ならびに、IBMなど7、8つの企業が参画している量子イノベーションイニシアティブ協議会というオープンフォーラムを、昨年立ち上げました。量子ビットというのは毎年倍になるんですね。すると生産性の向上も、10年で1000倍くらい伸びることになります。これが使い物になってくるのが、2023年から2024年になるでしょう。そこで日本企業としては、OODAのような「やってみよう」「スモールスタート」「フェイルファスト」をやっていく。それで新しいものにどんどん挑戦していく。この量子ビットに関しては今から先回りすればできるだろうと思いますからね。解けない複雑なものが解けるようになるし、機械学習も重ねていけると思いますね。その先に、ものすごく複雑な問題も解けるようになると。私はよく言っているんですけど、もうPDCAはやめようと。「Plan、Delay、Cancel、Apologize」なんていつも言っているんですけれどね。やっぱりこのOODAのような企業文化も、もう1つつくっていかないといけないのかなと思います。

鉢嶺:ありがとうございます。まさしく中国、アメリカはOODAを国としても実践されていますよね。後ほどいろいろと伺いたいと思いますが、次に上野山様、お願いします。

画像:上野山 勝也氏

上野山:PKSHA Technologyいう会社をやっております、上野山です。日本企業の競争力という大きな話題について、自己紹介とあわせて2点ほどお話しします。
私の会社は、8、9年くらいのベンチャー企業です。「未来のソフトウエアを形に」しようと、インターネットや機械学習、デジタル技術等を扱っています。学生時代にシリコンバレーには結構行っていたのですが、今の会社では言語処理や画像認識、機械学習などのアルゴリズムを開発し、顧客企業に展開する事業をしています。ひと昔前だと「ソフトウエアや人工知能は、人の仕事を奪うのではないか」みたいな言説があったと思いますが、実際はもっとリアルな形で活用がどんどん進んでいます。
具体事例をいくつかご紹介しますと、まず我々が扱っている中で多いのは、人と人が遠隔で協業して働くときに使っていただくようなソフトウエアの強化です。今、コロナ禍で、いろいろな会社が遠隔で業務をやらないといけなくなっています。社内のコミュニケーションをどうするのかという話も出てきますよね。また管理部門に問い合わせが集中したり、誰がどれくらいコミュニケーションに参加できているのかわからなくなったりというのが起こっている。この問い合わせ応答に我々のソフトウエアを使っていただきますと、質問に自動で回答し、また対話を記録してバックオフイスに繋げることで、業務生産性を上げることができます。このプロセスを観察することで面白いこともわかってきました。1つは、人間の単純作業をソフトウエアに代替しているわけではないということ。たとえば社外向けの利用例として、コールセンターの一次受付があります。今までだと、いきなり電話がかかってきて受けるのですが、実は入電の20%程度はクレームの用件です。オペレーターは悪くないのに、仕事として電話をとったら、大変に怒られるということが起こっていた。この一次受付をソフトウエアで自動にすると、自動応答時点で解決できてしまうこともありますし、オペレーターの二次対応に回すにしてもお客様の状況が事前に把握できる。すると、次に電話を受けるオペレーターは、回答方針や心の準備をした上で、創意工夫しておもてなしができることになります。ですので、単純に人の作業を代替しているのではなく、人の創意工夫の能力をソフトウエアが拡張するとも捉えられる。そういう方面へと広がっていくのだと思っています。
もう1つは、もう少し人工知能の技術っぽい使われ方です。実は人は認知制約を持っているとでも言いますか、たとえば人の顔をすぐ見つけ出すことはできますが、特殊なパターンの検出は苦手だったりします。事例で言うと、不正にクレジットカードを使われる犯罪防止の場面ですね。今までは、コンピュータしか認識できないような決済データを裏側で人が見て、「これは不正利用なんじゃないか」と色々調べて、でも犯罪は増えていく......という結構つらい仕事がありました。ここにソフトウエア、まさにマシンラーニングのアルゴリズムを入れていくと、「このパターンは怪しい」という型をコンピュータが学習します。アルゴリズムが動的にルールを変更しながら不正利用の犯罪をどんどん減らしていくことが、今、現実世界で起きています。つまり、人の認知ができないような領域、ソフトウエアが得意な業務についてはソフトウエアにゆだねるということが起きている。こういうソフトウエアを使っていろいろな業務を高度化すること、かつ人がやっている業務がエンパワーされていくような実装は、非常におもしろいなと思います。
いただいたお題の「日本企業の競争力」に戻ると、大きなお題目ではありますが、やはり情報技術を活用するのは当然の方向でしょう。ただ、DX、AIといろいろありますけれど、表面的な模倣では結局競争力を削ぐだけであると考えます。各企業様には、何十年もの歴史の間に社内で磨き上げてこられた「はずみ車」と言いますか、好循環構造があって、それが組織の細部に宿っていると思います。本質的には「その"弾み車"の回転を加速していく形でのデジタル活用とは」といった問いかけが、非常に重要なんじゃないかと思っています。
我々の会社の例ですが、実はセンサーデバイスの製造企業が2019年にグループ入りしています。駐車場機器のセンサーを開発している会社で、車両ナンバーをカメラでセンシングし、駐車場の入出庫を管理する技術です。この企業のものづくりの技術に、我々はソフトウエア技術を足し合わせています。更にクラウドサービスと接続することで、どの車室にどういう車で、車両ナンバーが何か、全部データで見られるようにする。そうすると、ただの機器販売の事業からサービス売りに変わり、かつそれがSaaSという形で、ソフトウエアにいろいろなデバイスが張り巡らされる方向に変わっていきます。これがまさに先程言われていた、ビットとアトムのパラダイムの違う2つのエンジニアです。この会社では、我々の若いソフトウエアのエンジニアと、組み込み系の熟練したシニアのエンジニアがワンチームになって動いています。技術者とは根底で通じるものがありますので、世代の違いはあれども、一緒になってものづくりを進められています。一例ではありますが、やはりこういうローカルの奥行きがある領域にデジタルを掛け合わせていくことが、GAFAのようなグローバルプラットフォームとは違う棲み分けの形として、今後増えていくのではないかなと思います。そういう意味でも世代をまたいだ技術連携はおもしろいと思いますね。

鉢嶺:ビジネスモデルもそうなると変わって来ますね。

上野山:はい。そういう形でも進化できると思っています。

鉢嶺:ありがとうございます。シナモンの平野さんからも、お願いします。

画像:平野 未来氏

平野:皆さん、はじめまして。シナモンAIの代表をしております平野と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。簡単に自己紹介をしますと、私自身は元々人工知能の研究をしておりまして、大学生のときから起業の経験がございますので、「AI」と「起業家」というところが私の大きな柱になっているのかなと思います。
最初に立ち上げた会社も、実は人工知能を事業にしていました。ただ当時は15年くらい前になるので、誰も興味を持ってくれず。うまくいかずに他の事業に転換し、その企業自体はmixiさんに売却いたしました。現在はこのシナモンAIを2012年に創業しているという経緯です。最近は、政府のIT戦略本部に委員として参画し日本のDX推進に関する委員などもやらせていただいております。今回のテーマは「どうすれば日本企業が再び世界で競争力を発揮できるか」といった課題だと思いますが、それとあわせて会社全体で取り組んでいることもお話しできればと思います。
シナモンAIは、AI企業ではあるのですが、成長戦略としてAIを活用し、企業のDXを推進していくことを行っています。AIというと、単なるコスト削減と思われる方もまだまだ非常に多いと思っています。でも同じAIを開発しても、成長戦略として使うかどうかで、まったく変わってくるんですね。
たとえば私たちの事例で言うと、アニメ業界に向けた取り組みがあります。日本のアニメは、クールジャパンを代表するような素晴らしい産業だと思うのですが、一方ではものすごくタフな業界なんです。30分のアニメをつくろうとすると、約5000枚のセル画を書かなければいけないんです。1枚1枚キャラクターを書いて、色を塗って。そういった作業を、ひたすらやらないといけない。すごく大変な業界なんですが、その色を塗る部分にAIを活用できないかということで一緒に開発させていただきました。ここをもし、単なるコスト削減と考えると、その企業に50人アニメーターの方がいらっしゃったとして、半分に削減できたというくらいのインパクトしかないと思います。でも一方で、成長戦略として考えると、まったく変わってきます。着色という業界で見ると、複雑な彩色が施されているような難易度の高い作品はまだ日本で行っていますが、単色で描かれたキャラクターが出てくるような難易度が高くない作品はすべて、中国をはじめとする海外で着色をされいるんですね。それが、AIを活用することで、すべて日本で着色ができるようになります。そもそも海外にこういった着色業務が流れている理由の一つは、人件費が安いからなのですが、AIを活用することで、よりコストダウンを図ることができるわけです。さらにAIは非常に早いので、画像をアップロードすると、1秒足らずで色がばっと流れます。そんなことは人間には不可能なわけです。人間であれば、コストとスピードは相反する考え方ですけれども、AIを活用すると両立することができる。そうすると圧倒的ナンバーワンのサービス、クオリティを実現することができますし、コストが下げられる分、コストリーダーシップ戦略をとることで業界を駆逐するという戦略も可能になっていきます。すると私の試算では、およそ100億円くらいの事業創出になるんです。同じようなものをつくっているにも関わらず、コスト削減だとせいぜい25人の削減、で、成長戦略だと100億円のインパクトと。これだけ違うところがおわかりいただけると思います。
つまり我々は、コスト削減というよりも成長戦略として活用することを打ち出しております。事例でご紹介をさせていただきますと、企業内で起こったインシデントの報告書が紙で保管をされている場合、同じような課題が別のところで発生していても、過去に報告書があった場合でも部署の外では全然共有されず、二度と見られないということも起きています。同様の課題が出たときには過去の報告書をサジェストできれば、企業内の開発サイクルをもっと短縮化することもできます。それ自体が戦略に結びつくというような考え方で、こういったプロジェクトを普段取り組ませていただいております。
戦略のつくり方はいろいろとありますが、私はGAFAについては、AIの文脈ではそこまで恐れてはいないんです。AIよりバーティカルなんですよね。一方で、たとえば保険会社で見ると、中国の平安保険は世界最大の保険会社であり、ものすごくAI、DX化が進んでいます。彼らのデータの取り方とか、新しいモデルの使い方は目を見張るものがありまして、そういう企業が日本にやってくると、ひとたまりもないと感じています。なので、GAFAというよりは、同じ業界でものすごく進んでいる海外企業の方が、恐るべき存在かなと感じています。とはいえ、どうやったら日本企業が世界で競争力を発揮できるかについては、UXが非常にキーになると思っています。日本はやはりおもてなしの文化なんですよね。これまでは人ががんばっておもてなしをしましたが、AIを活用することで、むしろ人間ではできないレベルのことが可能になる。たとえばサービスレビューをパーソナライズ化するのがものすごく早くできるとか、そういうことを通じてナンバーワンのサービスをつくるのが可能になるのではないかと考えています。

画像:鉢嶺 登氏

鉢嶺:なるほど。おもしろいですね。ありがとうございます。平安保険はオンライン診療なんかもかなり進んでいますよね。

平野:そうですね。お医者さんもユーザーも、ものすごいデータを蓄積しているので、すごいなと感じています。

鉢嶺:小柴さん、AIに関わる若いお二方からの提言でしたが、いかがでしょうか?

小柴:やはりAIは、今おっしゃったような画像処理などではすごく優れているなと思いますね。また、上野山さんが言われたような人間の認知が非常に弱い部分とか。こういうのを交換的に使っていくというのも非常に重要だと思います。ただ一方で、我々のようなBtoBの製造業、特にハイテク系になりますと、「じゃあどうやって研究開発の中で使っていけばよいのだろうか」となりますね。やはりAIというのはデータを集めるのに時間がかかり、コストもかかると思いますので。そう思うと、もう一方で重要なのは、やはり高度のシミュレーションをつくっていくことかなと思っています。今本当にコンピュテーションパワーが上がってきていますので、高度なシミュレーションがかなりできるようになってきている。これらと上手に合わせていくんだろうという気がします。他に使えるものとしては3Dプリンティングとか、ロボティックを使った実験の自動化とか。それから、AIは当然重要なのですが、我々はそれだけではなく、全方位的にプロセスのデジタル化、デジタライゼーションも、まずやらなきゃいけないことかなと思っています。

鉢嶺:AI企業のお二方にお伺いしたいのは、AIが重要だというのは恐らく産業界の誰もが認識されていると思います。しかしやはりAIの3要素とも言われる「実際のデータの量」「それを処理するコンピュータやクラウド」「それを処理する人つまりデータサイエンティスト」。それぞれ圧倒的に、GAFA筆頭としたアメリカが強いように思います。それでも日本は勝てるという面がもしあれば、少し楽観的かもしれませんが教えていただけないでしょうか。

上野山:どこまで前向きに、というのはありますが、俯瞰して見たときの事実としては、やはり技術も時代によって変遷しているというのがポイントになります。エンジニアを目指す人は各世代に一定層生じていて、その結果各世代に様々な技術者が分布しています。そう捉えて人口構造を見ると、やはりインドネシアなどは若い人が多くデバイスのエンジニアリングの比率も低いので、必然的にソフトウエアのエンジニアが多く、その一部がAIエンジニアになるなど、人口動態の数字の多寡で決まってしまう側面もあるとは思います。ただ、日本はエンジニアが少ないから終わりだということではありません。どういう形でデジタル化が社会実装されるべきなのかというデザインから逆算して、手段としてAIを使うべきであると考えます。多くのソフトウエアの中でアルゴリズムが動いているという世界は当然に到来しますが、ソフトウエアがさらに巨大になり現実世界と共存し、いろいろなデバイスがソフトウエアに接続してくるようになっていく。するとデバイスもソフトウエアの一部になっていくので、そこでデバイスや電子部品の技術も活きると思いますし、いろいろなものとソフトウエアの総合格闘技のような状況になってくるでしょう。そこで世代を超えたチームをつくってものづくりができれば、他の国よりも強みに転換できる部分はあるのかなと思います。

鉢嶺:なるほど。平野さんはどうですか?

平野:AIというと、どうしても中国とアメリカが非常に進んでいる事実はあると思いますが、1つ日本が得意としているところで言うと、ビジネスAIの活用だと思っています。ビジネスAIというのはホワイトカラーの生産性を向上させる分野ですが、ご存知の通り「生産性」という観点でいうと、日本は低いと言われ続けています。マッキンゼーが出したレポートでも、AIやオートメーションを活用したときのポテンシャルランキングが堂々の1位でした。逆にこれは、AIを導入するという観点ではものすごくアドバンテージだと思います。他の国だとある程度進んでいるために、改善幅が小さくて導入インセンティブが働かないところが、日本の企業は幸か不幸かそうではないと。寂しいところでもあるのですが、1つ優位なポイントなのかなと思っています。

鉢嶺:なるほど。そこで冒頭の小柴さんのおっしゃったOODA的な、「まずやってみる」というところが重要になってくるんですかね。小柴さん、製造業を含めて大企業は、AIを活用してみようというモードにはなっていらっしゃいますか?

小柴:なっていると思いますよ。ただやはり、デジタライゼーションとDXの見分けがなかなかついていないのもありますね。僕は商売柄、欧米のいろいろな企業とお会いしますが、日本のソフトウエアエンジニアというのは、おおよそ8割がベンダーで2割が実業側にいる状態で、アメリカだとそれが反転します。だからアメリカの企業を見ていて、やはりデジタライゼーションまでは早いですね。ITエンジニアやソフトウエアエンジニアがそれを推進していきますから。プロセスのデジタル化、そして、いろいろなものをデジタライズするところは早い。ただ、自分たちがすでにやっている気になっている分、DXの「X」ですね。企業の大きな変革のところは意外と遅れている感じもしますし、半導体の最先端企業における感じだと、そこまでまだ差はないかなという気はします。わかっている気になっている分、それが裏返しになっているような感じはします。

鉢嶺:確かに、日本の大企業ではベンダー側に8割、実業側に2割しかいないと。

小柴:そう、ソフトウエアエンジニアはね。

鉢嶺:これをある種、もっと逆転させないといけないわけですね。

小柴:いや、逆転する必要はなくて、今は兼業もいろいろできますので、融合していければいいと思うんですけどね。今日の冒頭セッションでも話されていたのですが、やはり日本はちょっと卑下するというか、AIが遅れているという問題意識を経営者は皆高く持っていると思うんです。だから何とかしないといけないという問題意識の高さは、ひょっとしたら欧米企業より僕は高いかなという気がします。

鉢嶺:悲観的になり過ぎているのもあるんですかね。ところで、日本が今まで強みとしてきた自動車や製造業自体も、これから大きく転換していきますよね。これからIoTの時代になってきたら、まったく違うデータが取れてくると思いますが、上野山さんや平野さんからすると、どんなデータが取れてくると競争力につながると思いますか?

平野:皆さん結構「今あるデータをどうやって活用するのか」とお考えの方が多いのですが、鉢嶺さんが今、おっしゃったように、「どういうデータを取っていくべきか」という方が重要なんです。実は4月に、そのソリューションを本に書いて出版するのですが、まずは企業のパーパスから考える。それを実現する最高の顧客価値というのは何なのか、というところですね。そして、エンドバリューは何なのか。それを実現するAIってどういう機能なのかを考えていく。で、本当にそれを実現するデータはどういうものなのかと、こういう順番なんですよね。それで蓄積するデータがどういうものかというと、独自なデータであればあるほどいい。自動運転を例に考えると、道路のカーブのところは雨の日にぬかるんで、すごく滑りやすいですが、そのデータが10センチ単位で集まっているとかですね。夕方のこの時間帯は日が差すので、カメラが真っ白になって白線と道路の黒色の区別がつきませんといったデータが1分単位で貯まっているとか。そんなデータは誰も持っていないですよね。ですので、AIを強化しつつ、他の人が持っていないデータは何かという両面を考えるべきだと思います。

鉢嶺:アプローチが違うんですね。なるほど。上野山さんは、どうですか?

上野山:私なりの観点ですが、データを貯めるのはとても重要な一方で、デジタル顧客接点の方がより重要だと思っています。なぜかというと、アルゴリズムやAIを使うにしても、デジタル接点がないと何もできないですよね。そのため、基本的には顧客とのデジタル接点を持って常時接続するというのが、企業体にとってはマストになってきていると思います。アメリカや中国ではすでに起こっています。そう考えると、大きな顧客基盤がある会社様も多くおられますので、そこで常時接続のデジタル接点をつくることで、たとえば顧客の声からそのまま製品開発するということも考えられます。中国の企業では、2週間で新サービスをローンチするというようなこともやっていますね。常時接続社会になってくると、自然に大事なデータも貯まってくると思っています。

鉢嶺:それは平野さんがおっしゃったUXとつながりますかね。

平野:そうですね。UXが非常に優れた企業で、アメリカのレモネードという保険会社があります。ここは上野山さんがおっしゃるデジタル接点という点で、非常に優れていますね。チャットボットと話をするだけで90秒で保険に加入できますし、何か事故があると数分でお金が返って来る。そういうエクスペリエンスを実現しています。従来のオペレーションだと、保険に加入するまでに1か月くらいかかって、保険金の振り込みまでに2、3か月かかることもありますよね。それが数分で終わってしまうのは、素晴らしいユーザーエクスペリエンスです。本来であれば、これこそ日本が得意とすることだと思うんです。これまで日本ではデジタルというところを強く考えていなかったかもしれませんが、デジタルへの転換を発想するのが当たり前となってくると、より良いサービスをつくれるのではないかと考えています。

鉢嶺:確かにそうですね。小柴さん、こういうのを聞いて、どうですか?

小柴:やはり、今のレモネードの事例のような発想はすごく役立ちますね。一方、我々も素材の企業ですが、そことのギャップをどう埋めるかの難しさも感じます。経営者の人たちから見ると、先端で起こっていることはわかるけど、自分たちの今の実業とどうやって結びつけるか、なかなか発想が難しい。ただやはり、お二人がおっしゃった常時接続という点はそうですね。本当に顧客接点、UXって重要だと思います。デジタル企業を見ていて、やはりすごいなと思うのは、本当に最初に顧客をつかんでいきますよね。PayPayのようなやり方もあったり、デジタルデバイスで接点をつかむやり方もあったり。デジタルマーケティングも1つですね。製造業では通常、自分たちのコアコンピテンスは何かと追求します。で、そのコアコンピテンスで技術を開発して、お客様を探す、市場開拓をする。こういうパターンなんですよね。それはやっぱり遅いなと思いますね。ですから今の顧客接点というのは注目する必要がある。BtoCでもBtoBでも、我々が本当にお客様をまずつかんで、その人たちが何を望んでいるのか、それに対してどう早く提供していけるかと動く。我々のようなBtoBの先端技術開発の会社であれば、R&Dのところをバーチャル化して解放することで、一緒にバーチャルでいろいろなシミュレーションを回すことも考えられます。それによって、通常3年かかる研究が3か月でできるとか。まさにUXの世界のことですが、やはり我々は、今までとは違う動きもやってみるべきでしょう。とはいえ現状では、「バーチャルでやっているんだから、もしダメでもそんなに大きな問題は出ない。直せばいい」といったメンタリティがなかなかないというのもあります。そのままだと、先端を走るDX企業とレガシーを抱えている製造業の差はなかなか埋まらない。この経済同友会の中でも、この部分をもう一段階具体的にかみ砕いて、皆さんと様々なディスカッションができればいいと思いますし、お二方のような方が他の人と話す機会も、増えていけばいいなと思いますね。

鉢嶺:そうですね。

平野:今、小柴さんがスピードとおっしゃられた点について、それと、データをどうやって収集するかという点を、一言お話してもいいですか?

鉢嶺:ぜひお願いします。

平野:まさにおっしゃったように、スピードがポイントだと思いますね。もう一度レモネードの事例でお話しさせていただきますと、レモネードはデジタルでの顧客接点を設けて、ものすごい勢いで広げました。そしてその後、いろいろなデータを収集していったんです。たとえば、保険会社には損害率という考え方がKPIとしてあります。お客様がどれくらいお金を払い、それに対して保険会社がどの程度お金を返したかという数字なんですね。これがレモネードって、2017年には170%だったんです。つまり、お客様が10万円払うとレモネードは17万円お金を返すということをしていたわけです。経営的には大赤字だったはずです。でも、ここからデータを蓄積したことで、2019年には78%くらいまで減少させているんです。ここで黒字化して上場したわけなのですが。2019までの2年間で、「どういう家だとリスクが高いのか」というデータをひたすら貯めたんですね。たとえば消防署からの距離、築年数の古さ、階段からの距離。そういうデータをひたすら貯めていって、家ごとにリスクを判断していけるようにした。そういう基盤をつくって、その後にしっかりと、リスクに応じた支払金額を設計し、パーソナライズ化をしたと。そういう事例を見ると、最初ぱっと広げて裏側でデータを蓄積していくというやり方の有効性を思いますね。

小柴:やはりコンピューテーショナルのデザイン的に、スケールがものすごく効いてくるわけですよね。そこを最初から見越して、そのスケールを支えられるように、社内のIT整備やシステムを行ったと思います。それがやっぱりアメリカのDX企業のすごいところですね。今の事例でも、2年経ったらこのくらいのシステムとこのくらいの値段になると見越しながら、システムのつくり込みをしていったでしょうし。中国企業もそういうことをやっているでしょう。やはり自分たちの事業戦略、経営戦略の中にムーアの法則を入れておくというのが大事だと改めて思います。レモネードの例は、私も最近よく耳にしますが、すごいですよね。スケールでドンと儲かるようになる。テスラも近いところがあると思うのですが、やりながらスケールメリットを出していくのもすごいと思います。

鉢嶺:最後にお二人から未来への提言や発信をいただき、小柴さんからは先輩からのエールをいただきたいと思います。まず平野さんからお願いします。

平野:私は長年、AIに携わってきましたが、最近の各企業のDXへのパッションは、ものすごいものがあると感じています。ただ、それを戦略に変換できている企業はまだまだ少ないかもしれない。今、戦略的にやっている企業は、もう5、6年前からAIの取り組みをはじめた企業だと思っています。当時はまだAIがどういうものなのか、まったくわからないままに取り組んでいた。失敗、成功含めて、いろいろな経験をした結果、成功に結びついたのが今になって表れています。一方で、今から取り組みをはじめられる企業も多々あると見ています。そのときに違いが出るのは、最適化にとらわれているかどうか。日本人はどうしても、最適化がすごく好きなんですね。情報収集をたくさんして、これが一番だというのをやっていくんですけれど。今、AIを戦略的に取り込み、ものすごい勢いでデジタル化を進めている企業は、最適化ではなくスピードを最重視して進めた結果のように思います。なので、最適化にとらわれずに取り組んでいくのがよいと感じています。

鉢嶺:なるほど、ありがとうございます。では上野山さん、お願いします。

上野山:本日はありがとうございました。今日感じたのは、少し話は飛びますが、やはり世代を超えたコミュニケーションの総量を増やしていくことが、実はすごく大事なんじゃないかということです。ソフトウエアもAIもDXも、それぞれ活用していけばいいと思います。しかしそれらはやはり手段です。さらに、今既に日本社会は大変に便利な状態ですね。そこで更に求められるのは、人と人とのつながりを増やす事なのではないでしょうか。たとえば街のにぎわいを増やすこと。自動運転が増える一方で、街のにぎわいが減ったら意味がないわけですね。また、人はコミュニケーションを楽しむようにできていると思うのですが、日本では世代を超えたコミュニケーションがあまり多くない気もしています。そこを増やす事ができるソフトウエアを僕らはつくっていきたいと思っています。経済同友会に若い人を入れていただいているというのも機会創出の1つと理解しています。また、それぞれの会社の中にも、若くて面白いスタッフがたくさんいると思うので、ぜひ、そうした世代間コミュニケーションを増やしていくためのソフトウエアをつくっていけたらと思いますし、今日のような活動も継続していきたいなと再認識した次第です。本日はありがとうございます。

鉢嶺:ありがとうございます。最後に小柴さん、お願いします。

小柴:世代間コミュニケーションのためにこういう企画をやっているし、経済同友会の皆さんは、自分の意見を自由に言えるところもありますのでね。僕もスタートアップの支援を、日本で2社、アメリカで1社、UKで1社、やっているのですが、やはり我々の一番の価値は、人と人をつなげることだと思いますね。その点から、若い人たちのスタートアップは支援していきたいですし、我々自身もデジタル面で遅れないようにしなきゃいけないでしょう。あともう1つ注目したいのは、やはり世の中が段々、量子という技術に手が届くようになってきた点ですね。量子暗号、量子機械学習、量子コンピューティングそれから量子生物とかですね。グリーンとデジタルって一体だと思いますので、今後も新しい技術を取り入れながらぜひ検討して、日本にいい会社をつくっていただきたいと思います。ありがとうございました。

鉢嶺:ありがとうございます。今回はオンラインでの開催でしたが、直接お会いできる時期が来たらぜひ皆さんで集えたらと思っています。今日はいろいろなキーワードを多岐にわたり、ありがとうございました。これが皆さんの参考にもなれば幸いです。ありがとうございました。

画像:分科会2-C「AI・データ」 セッション風景

以上
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