未来選択会議 第2回オープン・フォーラム開催
「未来選択につながる民主主義」
テーマ「未来選択につながる民主主義」~若者の政治参画の向上に向けた社会の役割、メディアとデジタルの可能性~
第2回オープン・フォーラムのテーマは、「未来選択につながる民主主義~若者の政治参画の向上に向けた社会の役割、メディアとデジタルの可能性~」。
若者の政治参画を広げるため、社会全体でどのように向き合っていくか、デジタル/メディアに期待される役割は何かについて、企業経営者、学識者、マスコミ関係者、学生など、20人余りの多彩な顔触れが会議に参加し、本会会員など180人が視聴しました。 (所属・役職は開催時)
開催日 | 2021年3月23日(オンライン) |
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参加者 | 約20人 |
視聴者 | 180人 |
プログラム |
開会挨拶 導入説明 第1部 第2部 閉会挨拶 |
導入説明
■ 玉塚 元一 経済同友会 政治改革委員会 委員長
- 未来選択会議では、これまで、未来選択につながる民主主義、若者の政治参画をテーマに、二度にわたって議論の場を設けてきた。
- ここまでの議論で、学校教育で「政治的中立性」を扱うことの難しさ、民主主義を「実践」する経験や知識の不足、政治が示す論点・対立軸と若者の関心のズレ、政治について語りづらい風潮、メディアと若者の関係、政治にかかわる機会、接点の少なさなどの課題が洗い出された。
- 今回は、このような問題をどう克服していくか、若者の政治参画の「裾野」を広げるため、社会全体で何に取り組んでいくのか、デジタル/メディアという新しい観点を織り込みながら探っていく。
第1部 デジタルの可能性とメディアの役割
問題提起①
■ PoliPoli 代表取締役 伊藤 和真氏
- 政治家に直接意見を伝えるためのプラットフォームとしてPoliPoliを作った。議員の政策を分かりやすく伝えること、政策について政治家に直接意見を伝えられること、新しい政策を政治家にリクエストできることが特徴。
- 若者の政治参画について3点指摘したい。1点目は、政治に関する成功体験がないと諦めてしまうこと。2点目は、若い世代は社会課題への関心は高いものの、それが政治には結び付いていないこと。3点目は、若い世代の知識が、自分の関心時に偏りがちで、いわゆるフィルターバブルが生じやすいこと。
問題提起②
■ つくば市 政策イノベーション部長 森 祐介氏
- 筑波大学学生80人へのアンケートでは9割が「インターネット投票を利用したい」と回答。昨年の市長選で投票しなかった方の半分が「インターネットであれば投票した」と回答。
- これまでに3回、ネット投票の実証実験を実施。市域は広大で、投票所までの移動も容易ではない。時間的・距離的負担を軽減、感染リスクも抑えられる。
- 今後、県内のスーパーサイエンススクール認定校で、生徒会役員選挙のタブレット投票を行う予定。投票に先立って、主権者教育やシステムワークショップも開催予定。
問題提起③
■ 東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院 准教授 西田 亮介氏
- 若者の政治参画というと、デジタルやツール活用に関する話が先行しがちだが、そもそも、なぜ若者が政治に関心を持たないのかを考える必要がある。
- 日本では、よく「政治・宗教・金の話をしない」と言われる。このことから、安心して、安全に政治の話ができる空間、コミュニティをどうやって作るかが重要。
- 経済団体は経済中心、若者は若者中心、研究者は研究環境改善に熱心。皆が偏りを持っていることを肯定した上で、議論できる場をネット上にどう作っていくかが大事。
問題提起④
■ 山猫総合研究所 代表 三浦 瑠麗氏
- 「選挙では何も変わらない」という回答は、年長者より若者の間で圧倒的に多い。ただ、若者の無力感は強いが、それは絶望感ではない。若者は環境問題などへの関心は高い。政治がここにアプローチし、きちんと関心をくみ取れば、若者がついてくるのではないか。
- 主権者教育の今後の課題は、政治そのものを語ることより、社会課題ドリブン、社会課題に関心を持つことではないか。上の世代が社会課題に対して十分な発信をしてこなかったツケが、今の問題として現れている。
第1部 意見交換
―政治への関心を高めるには~課題解決の手段としての政治という見方
■ 衆議院議員 自由民主党 第51代青年局長 牧島 かれん氏
エビデンスやデータ分析、科学的根拠に基づく議論が有効。過去の経験ではなく、データで政策を語ることで、若い世代の関心やアイデアを引き出したい。
■ テレビ朝日 報道局経済部 部長 藤川 みな代氏
政治が動けば生活が変わる、政治はこうすれば動くということを教えることが重要。いきなり個々の政策への賛成・反対を聞くという方法は違う。
―デジタルツールの活用~政治参加を高める効果、役割
■ 日本若者協議会 代表理事 室橋 祐貴氏
インターネット投票を実現すれば投票率が上がるという考えは安易。反対するわけではないが、投票率を向上するためには他にもすべきことがある。
■ 東京大学 大学院法学政治学研究科 教授/NIRA総研 理事長 谷口 将紀氏
デジタル・デモクラシーは、二つの山を越える必要がある。一つは技術的な山でいずれクリアできるはず。もう一つは思想的な山で人々が感情やイメージに流されて投票しないようにすること。そのためには、禁止事項ばかりの公職選挙法を改正し、選挙に際してのコミュニケーションを深めることが必要。
■ PoliPoli 代表取締役 伊藤 和真氏
私たちの世代にとって、インターネットは水道のようなもの。インターネットを介した政治参加は時代の必然。フィルターバブルに関連して、世の中から偶然性がなくなっていると感じる。自分の興味外のものを発見するような機会がないと、ますます偏りが大きくなる。
―メディアを巡る論点~既存メディアの危機、政治参加にかかわる役割
■ 朝日新聞社 経済部長代理 林 尚行氏
メディアは、行き過ぎたバランス感覚とは決別すべき。紙、地上波、デジタルで一律の報道をする必要はない。
■ 東京大学 大学院法学政治学研究科 教授/NIRA総研 理事長 谷口 将紀氏
メディアについては、中身以前にどうアクセスしてもらうかが問題で、状況は危機的。ニュースを毎日見る人の割合は若者の親世代でも減少。子どもがいる家庭には新聞の無料配布、スマホへのニュースアプリのプリインストールなど、アグレッシブな取り組みが必要。
第2部 若者の政治参画向上、裾野の拡大に向けた社会の役割
問題提起①
■ 日本若者協議会 代表理事 室橋 祐貴氏
若者の政治参加を高める上で重要な要素は以下の三つ。若者の政治参加が高い国ではいろいろな取り組みを行っている。
主権者教育:
学校内で実際の社会問題を基に解決策を考えること、さまざまな科目で議論をし、対話能力を身に付けること、陳情・デモなど投票以外の問題解決手法を教えることなどを実施。
政治的有効性感覚:
子どもの権利の重視こそ原点。子どもに意見を求めること、学校運営のルール作りへの参加などがその方法。学校外では、若者議会の仕組みもあるし、国政参加のプロセスが法律で担保されている国も存在。
動員:
学校での政治活動、生徒会による公開討論会、学校外では街中でのVote Match※、地域団体への参加や若い政治家の存在がある。
※ Vote Match:有権者が自身の考え方に近い政党や候補者を知ることができる投票補助サービス
問題提起②
■ 明治大学 国際日本学部 教授 鈴木 賢志氏
―自分の住む社会にかかわること=政治という意識
- 日本とスウェーデンでは、若者の政治への関心度に大きな差はないが投票率には開きあり。日本は若者の3人に1人しか投票に行かない。スウェーデンは8割ほどが投票している。
- 日本では政治は小難しいもの、選挙に行くのは真面目で頭の良い子というイメージ。スウェーデンでは、自分の権利だし自分が住む社会のことなので、言いたいことを伝えよう、という発想。
- スウェーデンの教科書では、自分の生活を変える手段として、デモのやり方も紹介。こうしたさまざまな取り組みが高い投票率に結び付いているのではないか。学校こそ、「安心して政治について語れる場」であるべき。
問題提起③
■ 岐阜市教育委員会 教育長 早川 三根夫氏
- 若者の多くは現状への違和感を持っている。この違和感にこそ、次の時代をつくる可能性が秘められている。校長が集まると、皆、「今の子どもは素直だが主体性がない」と嘆くが、主体性を重視すれば子どもは素直ではなくなる。「団結力ある良い学級」を目指す教師の下で、生徒たちは同調圧力にさらされている。その意味で、教師や学校にとっての不都合にこそ、これからの解がある。
- 優し過ぎる世の中が、子どもの選択の自由や機会を妨げている。自分で選択させ、その選択に責任を持たせ、失敗にも寛容な社会にならなくてはいけない。
第2部 意見交換
―政治的中立性という壁をどう乗り越えるか
■ 岐阜市教育委員会 教育長 早川 三根夫氏
ある小学校でプールを新設するか民間プールを活用するかを決める際、児童に意見を聞いて政策決定の参考にした。話し合いの仕方次第で学校でも政治的中立性は担保可能。
■ 東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院 准教授 西田 亮介氏
政治的中立性について、ネガティブリストを守れば大丈夫というルールを導入し、現実の政治的問題に触れられる環境をつくることが大事。
■ 立教女学院高等学校2年 上西 知奈氏
学校で原発に関する署名活動があったが、参加者は少なかった。政治的中立性の問題もあって、先生に相談ができなかった。まずは議論をしやすい風潮を。
■ 東京大学 大学院法学政治学研究科 教授/NIRA総研 理事長 谷口将紀氏
政治に限らず、とにかく議論をする文化を創ること。学習指導要領でも言語活動の充実が打ち出されているが岐阜市のような先進的な取り組みができているところは多くない。
■ 山猫総合研究所 代表 三浦 瑠麗氏
議論をする風土を育てることは本当に大事。日本人は、対立軸があるもの=けんか、批判的意見=攻撃と見なしがちだ。これは多様性の乏しさが原因。賢さや知識量を競うような文化があるが、知識の披露は議論にあらず。それが問題解決型にいかないことが、日本の一番の問題。
―根本的な改革課題と大人の責任
■ テレビ朝日 報道局経済部 部長 藤川 みな代氏
組織改革に成功した企業経営者から、「若手社員が心理的安全性を持って話せる環境が大事」と聞いた。まず若手から意見を言ってもらう、若い人の意見を遮ったり、先に答えを言ったりしない、という対応が求められる。
■ 間下 直晃 経済同友会 副代表幹事
行き着くところは初等教育改革。これは20年越しの問題なので、即効性ある対策を考えることも必要。その一つとして投票を義務化し、意識変革を図ることもあり得る。
閉会挨拶
■ 櫻田 謙悟 経済同友会 代表幹事
- 未来を考えるとは、ゆっくり時間をかけて考えることではない。未来を変えるため、今すぐ考え、実行しなければという危機感を持つことが大事である。
- 民主主義には、物理学や数学のような唯一の解はないが、物事を決めていく必要があるということははっきりしている。その際に、将来世代にもっと投票してほしい、政策決定に影響を与えてほしいと、大人が責任を持って言い、取り組んでいかなくてはならない。インターネット投票、投票義務化といった選択肢も排除せず、若者に選挙に行ってもらえるようにすべきと思う。
- 日本には、社会保障、技術力、原発、防衛・安全保障など心配なことはいろいろあるが、正面から議論ができずにいる。今の若者は、いずれこれらの問題を自分事として抱え込まざるを得ない。このことを大人が若者と同じ目線に立って話すことが重要だ。
(所属・役職は開催時)