代表幹事の発言

「共助成長社会」の実現に向けて
―最先端テクノロジーを、生きる力に変えていく―
<2026年度4月通常総会 代表幹事所見>

公益社団法人 経済同友会
代表幹事 山口 明夫

1.どのような社会を目指すか

 本年1月に代表幹事に就任し、その重責を痛感しながら走り続けて、早くも4か月が経ちました。本日の通常総会にあたり、私が目指す方向性をあらためてお伝えしたいと思います。

 まず、率直に問いかけます。日本は、このままでいいのか。私たちは、どのような社会を目指すのか。

 1946年4月30日、終戦間もない時に、経済同友会は産声を上げました。設立趣意書にはこうあります。「われわれは経済人として新生日本の構築に全力を捧げたい。而して、日本再建に経済の占める役割は極めて重要である。蓋し経済は日本再建の礎石であるからである」。
80年の時を経たいま、経済人として日本社会に貢献するという使命は何ら変わっておりません。歴代の代表幹事が築いてこられたレガシーを受け継ぎながら、私自身の言葉で、この問いに答えたいと思います。

 私は長年、テクノロジーの現場に身を置いてまいりました。AIを提供する企業の経営者として、そして自らもAIを活用しながら事業を変えてきた当事者として、この技術が社会に何をもたらすかを間近で見てまいりました。その経験から確信していることがあります。テクノロジーは、使い方次第で、人を豊かにも、不幸にもします。問われているのは技術そのものではなく、それをどう社会に根付かせるか、誰のために使うかという、私たちの意志そのものです。

 世界を見渡せば、AIをはじめとするテクノロジーの急速な進化が、産業構造や働き方を根底から変えています。同時に、米中対立の継続、ウクライナとロシアの戦闘の長期化、そして米国・イスラエルによるイランへの軍事作戦とホルムズ海峡の封鎖等に見られるように、国際秩序は大きく揺らいでいます。中東情勢の緊迫化による原油価格の上昇は、世界、そして日本経済に影響をもたらし、経済安全保障の重要性はかつてなく高まっています。
 しかし、それぞれの国の国民が平和と繁栄を望んでいるという前提を私たちは見失ってはなりません。利害や価値観の違いにより分断が生まれる時代だからこそ、対話と協調に基づく秩序の再構築に貢献する意志が重要です。国内に目を向ければ、人口減少、労働力不足、物価高への対応、実質賃金の引上げ、地方創生など課題は山積しています。しかし同時に、変化の兆しも確かにあります。企業では事業再編の動きが生まれています。また、全国各地でスタートアップやNPOが立ち上がり、新たな事業や課題解決を担っています。ものづくりの伝統に裏打ちされた日本の製品や技術、勤勉さ、誠実さ、チームワーク、そして社会の安定性と信頼性は、テクノロジーの時代においてもなお日本の大きな強みです。

2.共助と成長で、日本を動かす

 どのような社会を目指すか。私の答えは明確です。
 それは「共助成長社会」――最先端テクノロジーを、生きる力に変えていく社会です。
 なぜ今、我々は「共助」と「成⾧」を共に掲げるのか。
 私たちが目指す日本の姿は、国際情勢の変化が激しい中でも自律性を高く保ち、国民同士が互いに助け合う思いやりを持ち、一人ひとりに居場所と舞台が存在し、その結果として幸せを感じる、そして世界の人材や資本を惹きつける力のある経済社会です。
 この実現において、経済成⾧は不可欠な「必要条件」です。しかし、それだけでは「十分条件」とは言えません。互いに手を取り合い、一人ひとりが幸福を享受できる世界を築くためには、誰かの困難を自らの課題として捉え、共に解決へと歩む「共助」の精神こそが鍵となります。
 経済社会の課題が複雑化し、公助のみによる解決が限界を迎える中、NPO、インパクトスタートアップ、そして企業が垣根を越えて連携し、それぞれの知見やリソースを結集させる活動には大きな意義があります。力強い経済成⾧の継続と、他者を思いやる共助の精神。この両輪が未来に向かって進化し続ける姿こそ、私たちが追求する「共助成⾧社会」の完成形です。

3.2040年、一人当たり名目GDP倍増へ

 「共助成長社会」の実現には、具体的な目標が必要です。スローガンだけでは社会は動きません。
 私たちは、2040年代初頭を目途に、一人当たり名目GDPを現在の倍に引き上げることを目指します。名目GDP成長率で年3%、実質成長率で年1%以上の成長を長期的に継続すること。これは決して夢物語ではありません。あるべきゴールを共有し、その進捗をしっかりと管理しながら愚直に取り組む。やるべきことをやり切る意志があれば、必ず届く目標です。
 そしてそれは、「企業の変革」が起点となることで、「投資の拡大」「市場の創出」「社会の前進」に広がり、再び次の変革を呼び起こす好循環の中で実現するものと確信しております。

4. 共助成長社会の実現にむけた「七本の懸け橋」

 2040年の姿と今の日本のあいだには、言うまでもなく大きなギャップが存在します。このギャップを埋めるために、私たちは本質的課題に取組み、現状を変えていかなければなりません。これが2035年度までの「七本の懸け橋」の活動です。
 まず、2027年度までに成果を出す短期施策として、「生活防衛とセーフティネット構築」と「企業の代謝・活性化」の2つの懸け橋の活動に直ちに取り組み、経済の熱量を取り戻します。経営者として、賃上げのモメンタムの継続に加え、不採算事業の整理や再編を含む構造転換を果断に進めていきます。一方、政府に対しては、給付付き税額控除を含むセーフティネットの再構築や、円滑な労働移動を支える労働法制改革を強く求めていきます。
 次に、2030年度までの目標である、供給力の抜本的強化に向けて、「安心・安全の基盤確立」と「産業構造の進化と産業創出」の懸け橋の活動を進めます。医療・介護の産業化、フィジカルAI・ロボット投資の拡大、量子・宇宙などの先端技術の社会実装を加速し、高効率な産業構造への転換や新市場創出に取組みます。政府には、イノベーションを阻む医療・農業などの岩盤規制の撤廃、エネルギー・防衛産業の基盤強化に向けた戦略的投資を提言していきます。
 そして、2035年度の「高付加価値国家」完成に向けた長期施策として、「豊かさと幸福の実感」と「世界市場での事業拡大」の懸け橋の活動に取組みます。多様な個が輝く社会包摂(DEI)を実現するとともに、サプライチェーン・輸出市場の戦略的な多角化、世界で稼ぐ力の強化を推進します。政府には、次世代の人材を育てる教育の革新や、世界から投資を呼び込むための環境整備を求めます。
 これらの活動を支える基盤となるのが「経済同友会の更なる発展」の懸け橋です。私が目指すのは、会員全員が日常生活および経営において、AIを実用的なツールとして駆使できる「次世代型経済団体」への進化です。総合企画委員会が最優先課題と委員会横断的テーマをリードしながら、各委員会の活動を即時に立ち上げます。同時に、AIを活用して本会のスタンスや提言の実現状況を可視化・共有する仕組みを整え、事務局機能もあわせてバージョンアップすることで、提言力と実行力を同時に高めてまいります。加えて、次世代経営者の育成や会員相互の研鑽・交流の場を充実させ、会員エンゲージメントを一層高めていきます。

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5. Execution, Open, Growth――三つのコミットメント

 最後に、私自身のコミットメントを申し上げます。

Execution――実行し、成果にこだわる。
 経済同友会の提言は、社会を動かしてこそ意味があります。提言を出して終わりにはしません。政府・与党・関係機関への働きかけを粘り強く続け、進捗を管理し、成果が出るまで活動していきます。あるべきゴールに向けて愚直にやり切る。それが私の最も大切にしたいことです。
 実現にむけて、今日から取組むことが二つあります。
 一つは、「経済同友会インスティチュート」の始動です。経営者の一次情報に基づく独自のコンテンツや提言を基盤に、政府・政党、メディア、アカデミア、NPO等との対話を展開し、政策・世論形成に確かな影響を及ぼしてまいります。そこで得られた反応や知見を委員会活動や会員にフィードバックし、コンテンツを不断に高度化していく。全国の経済同友会の経営者、アカデミア、シンクタンク等との連携・協働もあわせて強化していきます。
 もう一つは、基金の創設です。本会はこれまで、新公益連盟、インパクトスタートアップ協会と連携し、企業とソーシャルセクター間の円滑な資金供与の仕組みづくりを検討してまいりましたが、本日、その提言を公表いたします。その仕組みの一つである、大規模災害や子ども・若者への支援に取組むNPOへの資金供与を想定した基金の創設に、さっそく着手してまいります。

Open――開き、つなげる。
 経済同友会は「異彩を放つ個の結合体」です。その価値は、対外的にも対内的にも開かれた対話の中でこそ発揮されます。会員同士はもちろん、政府・アカデミア・NPO・メディアなど多様なステークホルダーとのオープンなコミュニケ―ションや知見共有を一層促進します。また、全国44の経済同友会との関係をさらに強化し、地域が直面する重要政策課題についての相互理解を深め、地域間連携を推進します。
 組織運営では、会員と事務局がチームとして動き、委員会等の枠を超えた横断的な連携を進めます。会員一人ひとりの「異彩」が化学反応を起こす場を作ること。それが本会の力を最大化する道です。

Growth――個人も、組織も、社会も成長する。
 「共助成長社会」が目指すのは、経済の成長だけではありません。会員が経営者として成長し、自身が経営する組織を変える。その結果として社会全体が成長する。この三層の成長を促進することが経済同友会の役割です。
 今年、経済同友会は創立80周年を迎えます。11月27日に記念式典を開催し、80年の歴史を支えてくださったすべてのステークホルダーへの感謝をお伝えするとともに、本会が目指す経済社会の姿と、社会に不可欠な経済団体としての役割をあらためて発信いたします。この節目を、会員の皆さまとともに、経済同友会の新たな歴史をつくる、次の成長(Growth)への起点にしたいと思います。
 皆さまにお願いがあります。どうか、一人ひとりが変革の当事者であり続けてください。本日お話しした課題は、誰かが解決してくれるのを待つものではありません。私たち自身が動くことで、社会を変えていくのです。
 いま日本は、大きな転換期にあります。守りではなく積極投資でイノベーションを起こし、次の成長を切り拓く。経済同友会をその先頭に立つ経営者の集まりにしていきたいと思います。
 Execution、Open、Growth。この三つにコミットし、「共助成長社会」の実現に向けて、皆さんと一緒に、チームとして、全力で駆けて行きたいと思います。
 ご清聴、ありがとうございました。

以上

 代表幹事所見 資料

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