代表幹事の発言

山口明夫経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨

公益社団法人 経済同友会
代表幹事 山口 明夫

冒頭、7月28日に発生した令和8年熊本地震、7月17日・18日に軽井沢で開催した当会夏季セミナーについて言及した後、記者の質問に答えるかたちで、消費税減税、最低賃金、日本アイ・ビー・エム役員人事等について発言があった。

山 口:この度、熊本県を中心に発生した地震により、お亡くなりになった方々に謹んで哀悼の意を表するとともに、ご家族の皆様に心よりお悔やみ申し上げる。また、被災された全ての皆様に心よりお見舞い申し上げる。現状、我々も報道や現地社員からの情報しか入手できていないが、被害がこれ以上拡大しないこと、また、(再度)大きな地震が発生しないことを祈るばかりである。現地に入って対応している企業が数多くあるため、経済同友会としても、状況をしっかり見極めながら、必要な支援を行っていきたいと考えている。
(また、7月17日・18日に行われた)軽井沢夏季セミナーにご参加いただいた(メディアの)皆様に御礼申し上げる。私にとって(代表幹事としては)初めての夏季セミナーであり、どのような形になるのか自分なりに考えていたが、共助成長社会がどのようなものであるのかを事前に参加者に文書で共有し、その実現に向けて何に取り組まなければならないのかについてかなり整理することができた。取り組むべき項目は大きく四つである。一つめは、企業自身の力強い成長である。AIやテクノロジーを活用して生産性を高め、付加価値の高い製品・サービスを創出し、提供していく。二つめは、国内市場に加え海外市場をしっかり開拓していくことである。そのための規制緩和など、必要な施策について整理を進めている。三つめは、それらを実行するための人材育成、人材の流動化、そして研究開発力の強化である。(四つめは、)資金である。経済成長のドライバーとなるリスクマネーをどのように供給・活用していくかという点であり、具体的な検討を進めている。今回の夏季セミナーを踏まえ、これら(四項目)を経済同友会の成長戦略として具体的な活動に落とし込み、政策提言すべきものは提言し、企業経営者として自ら取り組むべきことは取り組むなど、より明確に具現化していきたい。

Q:(昨日発生した)熊本地震について伺いたい。経済活動の側面から危惧される点は何か。

山 口:経済活動への影響としては、サプライチェーンの寸断や、労働に従事できなくなること、消費(の落ち込み)など、多方面で(影響が)出てくる。ただ、今は一刻も早い人命救助と、(被災された方々が)安定した生活を送れるよう取り組んでいくことが重要である。

Q:中央最低賃金審議会は昨日、2026年度の最低賃金の引上げ目安を全国加重平均で55円、4.9%増と答申した。使用者側と労働者側の認識には依然として隔たりがあるように見えるが、この結果に対する受け止めを伺いたい。

山 口:55円、4.9%増の1,176円と示された。継続的に(最低賃金が)引き上げられていることは評価できる。一方で、できるだけ早く1,500円程度の水準まで引き上げていく必要があると考えている。最低賃金に限らず、日本の賃金は海外と比べて低いのではないかという指摘もある。(賃金を持続的に引き上げていくためには、)企業がより一層トランスフォーメーションを進める必要がある。AIなどの技術を積極的に活用し、より付加価値の高いもの(製品やサービス)を生み出さなければならない。これによって利益率を高め、賃金へ還元し、それがサプライチェーン全体へ広がっていく。この好循環をより速いスピードで実現していく。そのためには、人材の流動化やリスキリングも(欠かせない)。生成AIの進化・浸透によって人手が余るのではないかという質問を受けることが多いが、日本全体をマクロで見れば、新たな産業が生まれることで(人材)不足になる可能性もある。一方でミクロでは、これまであった仕事が全く不要になるケースも出てくる。人材の流動化やスキルの再構築を迅速に進め、結果として賃金を引き上げられる環境を整備していくことが最も重要である。

Q:最低賃金は企業に義務付けられている最低水準である一方、付加価値の向上に伴って自然に賃金が上昇していく流れとの整合性をどう考えるか。また、最低賃金の水準はさらに引き上げるべきと考えるか。

山 口:(付加価値の向上と)最低賃金が連動して上がっていくのか、それとも、現在は(常勤労働者の総賃金の中央値に対する割合で)40%台である最低賃金を一定割合まで引き上げていくのかについては、議論の余地がある。私自身は、もう少しその水準を引き上げてもよいのではないかと考えている。

Q:熊本地震について、半導体や自動車など特定産業への影響も報じられているが、どの点を懸念しているのか。また、東京の経済界としてどのような支援ができると考えているか。

山 口:サプライチェーンの問題は、地震に限らず、何らかの要因によって途切れることで経済活動が一時停止したり、必要な製品・サービスが提供できなくなったりすることは大きな課題である。(現時点では)どの業界というよりも、必要な部品や商品が届かない、人が現地へ行くことができないといったことにより、アウトプットが停滞することを懸念している。経済界としてというよりは、各企業がオルタナティブなサプライチェーンを検討するとともに、有事に企業同士がどのような支援を行えるかを検討していくことが有効であろう。現時点では、どの業界の何に影響が出ているのかという情報は持ち合わせておらず、一般論として申し上げている。

Q: 週内にも高市首相が消費税の減税を表明すると言われている。財源の議論がまだ煮詰まっていないことについて見解を伺いたい。

山 口:財源については、明確かつ早急に煮詰める必要があることは、誰しも思っているところである。報道の範囲でしか存じ上げないが、1%(の減税)などどのような結論になろうとも、なぜそれが現時点におけるベストなのかという説明をしっかりしていただきたい。実施した際のプラス面だけでなくリスクについても明確に共有いただき、それをどのように最小化していくのかを皆で検討していくことが重要だ。もう一つは、二年後に(減税した消費税率を)戻すと明言されている(ようだ)が、その方法や影響までしっかりと共有いただくことが肝要である。

Q:例えば法案から景気条項を外すといったことか。

山 口:そのとおりである。

Q:消費税については、プロ・コンを示してほしいと再三指摘されてきたが、現時点で経済同友会が考えるメリット、デメリットとは何か。

山 口:財源を明確にしないまま消費税を減税してしまうと、円安に振れるといったマーケットの反応(も考えられる)。結果的に、消費税を下げた分以上のデメリットが国民一人ひとりに影響するという最悪のケースもある。一方、消費税を下げなかったケースにおいては、民主主義によって進めてきた(これまでの)プロセスに鑑み「いかがなものか」といった別の議論が出てくる。それぞれ考えうる前提条件とパラメータが異なる中で議論をしている。これらを全て一つのテーブルに載せ、しっかりと共有することが一番重要だと思うが、ここ数か月の動きを踏まえるとそれはかなり厳しい要求であるとも感じている。よって、本会としてはマーケットの動向をしっかり見極め、財政も確保するシナリオで前に進んでいく(べきだ)と考えている。(消費税の減税が)1%なのか、0%なのか、全く行わないのか、いずれのケースにおいても、前へ進んでいく方法を本会は考えていく所存である。

Q:今回、おそらく最終的には首相判断となる方向性である。この決定手法についてはどう考えるか。

山 口:社会保障国民会議でしっかりと議論された(上でのこと)と理解したいし、それに基づきどのような要素で「これが良い」と判断をされたのかについて、(高市首相には)お示しいただければと思う。

Q:熊本地震に関し、熊本経済同友会とどのようなコミュニケーションを取っているか。

山 口:熊本経済同友会の事務局とすぐにコミュニケーションを取り、状況を伺っている。また、本会の会員(所属企業)には日本全国で活動している企業も多く存在する。例えば日本アイ・ビー・エムでは、地震の報を受けた直後に、私をトップとした緊急対策会議を立ち上げた。まずは、熊本のお客様および当社従業員の安全確認を行っているところである。また、現地の病院関連(施設などに導入いただいている)システムが問題なく稼働しているか、加えて他に対応できることがないかを確認している。また、有事であることから、自社だけではなく様々な企業と連携しながら対応している。同様に、経済同友会としても、熊本経済同友会の方々と連絡を取って状況確認を行い、支援できることがないかを確認しているところだ。

Q:熊本経済同友会からは、どのような声が上がっているか。

山 口:熊本経済同友会の事務局には問題はないと伺った。(現地に対し)どのような支援や対応を一緒にできるかについては現在確認中である。

Q:7月27日に発表された日本アイ・ビー・エムの人事について伺いたい。山口代表幹事は8月1日付で(日本アイ・ビー・エムの)代表取締役会長に就任されるが、経済同友会の(代表幹事としての)活動にどのような変化があるか。また、IBMコーポレーションの事業開発担当エグゼクティブに就任し、量子コンピュータや半導体などで国境を越えた案件に関わるとのことだが、(それにより)AI戦略委員会や政策提言に活かせる部分はあるか。

山 口:日本アイ・ビー・エムでは引き続き代表権を持ち、代表取締役として経営全体については引き続き関与する。業績をいかに伸ばしていくかといった日々の(事業の)執行については、新社長が担う体制に移行していく。一方で、私は日本のお客様にシステムの安定化や次世代に向けた取り組みなどの多くのコミットメントをしているため、今後もコミュニケーションを取りながら実施していく。(会長職となることで)日本アイ・ビー・エムにおける日々のビジネスマネジメント業務が減ることから、少し余裕ができるのではないかと考えている。一方で、IBMコーポレーションの事業開発担当エグゼクティブとしての業務を担うことになる。(具体的には)量子コンピュータや半導体(に関する事業)に加え、AIの大規模プラットフォーム、IBM全体のグローバル事業、そこと日本企業のグローバル包括契約など、様々な案件がある。大きな環境の変化を踏まえ、(事業開発を)検討していく業務が加わることになる。ただ、全体(の業務量)としては、これまでよりも経済同友会に少し時間を割くことができるのではないかと考えている。

Q:今回の人事は、社長業と代表幹事の両立が時間的に難しくなったことが理由ではないという理解でよいか。

山 口:当社からは(社長業と経済同友会の活動の)両方をしっかりと務めるよう求められている。私が社長に就任してから7年が経過していることもあり、サクセッションプランに基づき、複数の後任候補を育成してきた。その中で、後任候補の一人が次の社長を担える段階を迎えた(ことが理由の一つである)。加えて、当社では8月1日付でビジネスを推進するために組織を大きく変更する予定である。こうしたタイミングも踏まえて総合的に検討した結果、今、(社長交代を)実施することが適切であると判断し、決定した。

Q:熊本地震でイオンモール熊本が被災したが、東日本大震災以降、イオンは(地域の防災拠点として)自治体との協定を結んでおり、個別企業においてもBCPを策定してきた。今回の地震を契機に、企業で何らかの対応の見直しや新しい動きが出てくるとお考えか。

山 口:(今回の地震を受けた)新しい動きが出てくるわけではないと思う。地震や集中豪雨、石油の入手困難、サイバーセキュリティ等の様々な問題がある。こうした事象に対し、各企業は絶えず危機管理対策をとってきた。来年見直す予定であったものを今のタイミングで見直すといったケースはあると思うが、今回(の地震)を発端に(新たな動きが)出てくることはないと思う。(私自身は)先週、(2024年1月に発生した能登半島地震の被災地である)輪島市や珠洲市等を視察した。まだまだ仮設住宅にお住まいの方もたくさんいらっしゃる。震災が起きた後、住民の約3割が一気に減った(地域もある)と伺った。日本全国で人口減少が進む中で、(災害により)そのスピードが増した事象を目の当たりにした。小学生や中学生の数も非常に少ない。能登は、地方における課題が災害によって一気に顕在化した状況なのだろう。本会で今年4月に発足した地域基盤デザイン委員会で(こうした課題を)しっかりと検討していきたい。

Q:消費税減税について、当初、高市首相は社会保障国民会議で議論するとのプロセスを語っていたが、結局結論を出せなかった。消費税減税を公約に掲げて(2月の衆院選に)勝ったが、選挙期間中に消費税については一切語っておらず、また、選挙結果はあれど国民は(減税を)白紙委任したわけではない。仮に首相が単独で判断することになった場合、果たして正当性がある手続きと言えるのか。

山 口:例えば、企業内で事業部間を横断する案件があった際に、社長が判断するか、もしくはチームを組成し議論・検討するケースがある。そこで合意し、それに沿って社長が判断するケースもある。いつまでたっても決まらなかったり、時限的な問題がある場合は結果的にトップが判断せざるを得ないケースもある。その際、トップが判断したとしても、なぜそれをよしとしたのかという説明責任は極めて重要である。したがって、(本件についても判断理由を)しっかりとご説明いただきたいと申し上げてきた。(まさに)透明性(の問題)である。これ以上引き延ばすことによるマイナスと、リスクを取ってでも前に進むケースのどちらがよいのか、その判断になると思う。

Q:消費税減税が行われた場合には、財源問題が不確かであれば市場のしっぺ返しがあるであろうということか。

山 口:(市場が)どのように反応するか(は注視しなければならない)。(消費税減税が決まった場合)安定的な財源の確保と繋ぎの出口戦略をやっていき、その間に経済をしっかりと成長させる。さらには並行して歳出改革(を進める)。当たり前の話だが、みんなで理由とゴールを共有し、進んでいくことが一番重要ではないか。延々と議論を継続して、混乱が続くよりはよいだろう。

以 上
(文責: 経済同友会 事務局)

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