山口明夫経済同友会代表幹事の記者会見発言要旨
代表幹事 山口 明夫
冒頭、7 月17 日・18 日に軽井沢で開催する当会夏季セミナーについて言及した後、記者の質問に答えるかたちで、リニア中央新幹線、社会保障国民会議、経済団体の訪中ミッション、成長戦略・官民370 兆円投資等について発言があった。
Q:リニア中央新幹線を巡る動きについて伺いたい。本日、静岡県の鈴木康友知事が、自然環境保全協定をJR 東海と締結する方針を表明し、着工を容認する考えを示した。静岡県内での着工が始まることになり、計画が大きく前進することになるが、所感を伺いたい。
山 口:前向きに、非常に歓迎すべき状況だ。もちろん、静岡県住民の方々と議論を重ねてこられた結果であると思うし、おそらく今後も密に連絡・連携されていくことだろう。リニア中央新幹線が開通することは、経済にもプラスの影響をもたらすものであり、非常によい話である。
Q:一方で、水質への影響など地元住民の懸念もある。今後も丁寧な説明がJR 東海には求められると思うが、事業者の課題はどのようなものがあるか。
山 口:やはり可視化、説明責任だと思う。この後、様々な作業を進める中で、もし何か新たな事象が発生した場合には、迅速に情報を共有し、議論を行っていく対応が最も重要である。それが誠実な対応につながると考える。
Q:社会保障国民会議について伺いたい。当初は6 月中の取りまとめを目指していたが、国会の混乱も相まって現在は議論が遅れている印象がある。議論の推移をどのように見ているか。
山 口:現在の経済状況や生活者の状況を鑑みると、一刻も早い判断が必要である。以前から申し上げているとおり、食料品の消費税を0%にするケース、1%にするケース、あるいは実施しないケースのいずれにおいても、必ずプロ・コンが存在する。その内容をすべて議論の結果としてオープンにし、国民に共有していただきたい。なぜその対応が最もよいのか(という結論)について、リスクも含めて共有し、その実行を皆で推進していくという取り組みが重要である。もちろん、財政への影響やマーケットの反応も一つのリスクとして示されることになると思う。一方で、消費税率0%を実現しなかった場合には、選挙での(公約という)民主主義のプロセスを経て決まったことが実行されないというデメリットも生じる。そのような点も含め、すべてをオープンにした上で前に進んでいくべきである。
Q:代表幹事は、現在の議論の方向性について概ね支持する立場か。
山 口:もう少し議論の内容を詳細まで理解したい。ただし、消費税率を引き下げることと、それを前提として財政規律をしっかり担保しながら前に進めていくことについては、特段異論はない。
Q:今年5 月末に経済同友会で中国ミッションが派遣されたと聞いている。事実関係を含め、その内容や成果について伺いたい。また、日中関係が冷え込む中で、今後どのように中国と向き合うべきか。
山 口:経済同友会では中国だけでなく、米国や欧州などへのミッションも実施している。中国ミッションについても当初は経済同友会として計画していたが、実現が叶わなかった。その結果として、今回、(本会中国委員会の)会員有志による訪問という形になったというのが実情である。したがって、この件についてコメントは差し控えたい。中国に限った話ではないが、世界各国との対話を通じた健全な取引は極めて重要であり、その努力は今後も継続していくべきである。
Q: 経済同友会の(正式な)ミッションではないとのことだが、参加人数などについてもコメントは控えるのか。
山 口:規模や参加者の詳細については非公表としている。実施時期は5 月である。
Q:国民会議の議論について、(経済状況や生活者を鑑み)一刻も早い判断が必要であると述べられたが、先ほど挙げられた指摘は既出で、それでも6 月末をめどに結論を出すという予定で始まったはずだ。いまだに結論が出ていないが、これは政府の指導力が欠けていると言えるのか。
山 口:様々な事情があるのだと思うが、具体的にどういった理由で会議(開催)が延長されているのか把握していないため、何とも言えない。
Q:中国との交流について、民間としてやるべきことはやっていくという姿勢だと理解した。両国の緊張関係がいつ頃までに緩和してほしいなど、目処はあるのか。
山 口:年内、来年といったような時期を明確にしているわけではない。
Q:成長戦略について伺いたい。2040 年度(までに)官民で370 兆円(の投資)ということだが、政府が計画を示すことに対してどのように受け止めているか。投資しやすくなる、研究開発がやりやすくなるといったことがあれば伺いたい。
山 口:官民で370 兆円の投資、そしてロードマップが示されたことは歓迎すべきだ。それぞれについて、どれだけの効果があるのか、どのように実施していくのかは、これからさらに詳細を詰めていく状況だと思う。政府がこの領域で投資をしていくのだと明確に示されたことは、各社の投資判断の後押しになり、前向きな話である。投資といっても研究開発に対する投資なのか、人材か、国内工場かなどいろいろ考えられると思うため、しっかりと中身を詰めてこれから動いていくことになるだろう。
Q:中身についてはどのような印象を持たれたか。的外れなのか、(それとも)ある程度、的を射ているのか。
山 口:的外れだとは思わない。代表幹事に就任以降、(最近になって)様々な方から状況を説明いただく時間が取れるようになり、データ(など)もかなり見えてきたなかで考えていることがある。失われた30 年とよく言われるが、結果的にはその30 年間においても、各企業は相当利益を上げてきた。その利益がどこに行っているかというと、海外に投資され、そこからのリターンを得て企業経営がプラスになっている。金融資産も国内に貯まっている。失われたというよりも、海外に投資して、国内に貯まった30 年(である)。これらをもう一度国内(投資)に向け、貯まったものをさらに躍動させることが、今後の成長に極めて重要だと思う。そのきっかけは、企業がテクノロジーを活用してビジネスモデルを変えたり(することだ)。さらに言えば、今まで企業はコストの積み上げで価格設定してきた。そうではなく、作ったもの(商品)がどれだけ価値があるのかというベースで価格設定すべき時が来ている。市場が価値を認めるものであれば、もっと高い価格をセットすればよい。もし価値が無ければ、いくらコストをかけてもその値段では売れない。この点は企業戦略として、明確に方針を変えていくところだと思う。価値があれば、海外でも購入してもらえる可能性が高くなり、海外マーケットを開拓できる。ここのところ交易条件が非常に悪くなっており、エネルギーも含め海外から輸入するものがどんどん高くなっている。一方、(海外に)販売しているものは安くなっているため、マイナスとなっている。この交易条件の悪化を早くプラスに変えていかなければいけない。そのために、今まで絞ってきた研究開発と人材への投資をもう少し加速させて実施すべきだ。その結果として、高付加価値のものを作り、国内および海外に売り、海外市場も獲得していく。世界の輸出貿易における日本の割合は、40 年前は10%を超えていたが、今は3%程度しかなく、どんどん低下してきている。高付加価値のものを作り上げるために、17 の戦略分野の中で(国内)投資をしていく。今まで、安くて良いものを苦労して作り、何とか持ちこたえよう(としてきた)。加えて、日本は近年、失業率が2.5%程度で推移してきたが、これも変革が無い中での結果だと思う。(今、)環境も含めて大きく変える時である。繰り返しになるが、17 の戦略分野への(国内)投資は、変革への一つのきっかけになると前向きに考えている。ただ、成長をしなければ(変えることは)本当に厳しい。マーケットから厳しい判断をされる可能性もある。経営者はそのリスクをしっかり踏まえた上で、取り組んでいかなければならないと思う。
Q:成長戦略の17 分野は、幅広すぎるため絞った方がよいという声もある。今後どのように絞っていけばよいのか、そのレビューの方法について考えを伺いたい。
山 口:17 の分野に大枠で括られているが、中身を見ていくとさらにスペシフィックな領域が定義されているものが多くみられる。各領域において、それが一番の成長ドライバーだと議論された結果だと思う。成功させるためにどのような活動をするか、前向きにとらえて動いていくべきだ。17 分野では多い・少ない、これらがどうなるかわからない、などと言っていると何も先に進まないと思う。
Q:リニア中央新幹線については、経済効果として(品川・名古屋間の開業後50 年間で)10 兆円程度が見込まれ、新駅ができることにより地域の活性化にも繋がる。東京と関西の行き来(の利便性向上)にも寄与すると思うが、具体的な経済効果やメリットをどのように考えているか。
山 口:リニア中央新幹線が走ることによって、建築(面で)のメリットはもちろんある。観光も含めて移動のメリットも得られる。経済人の観点としては、やはり時間(の節約というメリット)が本当に重要である。移動中もインターネットを繋いで仕事はするが、体に負担がかかる。私たちが一番重要にしたい時間の制約(の減少)、節約という点は、大きな効果に繋がると思う。
Q:夏季セミナーにAI をテーマとした特別講演が追加されているが、どのような狙いで議論するのか。(プログラムにAI は)共助を担う手段だと記載されているが、共助を軸にAI を捉えていくのか、どのようなアプローチで議論を深めたいと考えているのか伺いたい。
山 口:AI は、共助の様々な仕組みをサポートする基本インフラとして利用できるものだと考えている。夏季セミナー全体のストーリーとして(説明すると)、まず、私が考えている共助成長社会とはどのような社会かをより具体的に共有したい。なぜ共助成長社会という言葉を定義したのか、また、その社会が具体的にどういうものなのかをお話ししたいと考えている。共助成長社会は、大きく2 つ(の要素)から構成される。1 つは経済成長である。経済成長には、一人ひとりが居場所を感じ、活躍できる舞台があると実感できる社会が必要である。その実現のために、共助成長社会がベースになる。すなわち、経済成長は、人々が幸せを感じるための必要条件にはなるが、十分条件ではない。困っている人もそうでない人も、互いに助け合う精神がベースにあって初めて、共助成長社会が成り立つ。冒頭(セッション1)では、そうした考え方を共有したい。その上で、どの程度の経済成長を目指すのか、例えば1 人当たりの所得が倍になればよいのかといったことなどを具体的に共有したい。その実現のための1 つの手段として、テクノロジーやAI が鍵になるため、次の特別講演としてAI を位置付けている。(ここで)AI の進化や価値を改めて理解した上で、(企業が)最初に取り組むべき企業変革のテーマにつなげる。(具体的には)事業ポートフォリオの見直しや仕事の進め方の変革、さらに国内の研究開発や人材への投資など、成長戦略と重なる部分はリンクさせながら、企業経営者として何をするかを考える場にしたい。それを受けて、外部の方々にもお越しいただき、経済成長についてさらに深く議論する。そして、経済成長を実現した先に、社会保障制度や財政も含め社会インフラはどうあるべきかを考える。最後に、お互いがお互いを思いやる共助の気持ちとそれを具現化した活動がなければ、目指す社会の実現は難しい(ため、共助をテーマに議論をしたい)。そのような流れで各セッションを構成したいと考えているので、ぜひご参加いただきたい。どのセッションにおいても、正解があるわけではない。様々な不都合な真実も含まれており、一方を立てれば他方が立たないというような、相対する様々な議論が必要になる。軽井沢の地で、約50 名強の経済界のリーダーたちと踏み込んだ形で議論したい。
Q:AI に関するプログラムが特別講演とされており、セッションではないことに何か理由があるのか。山口代表幹事自身はファシリテーター役などで登壇しないのか。
山 口:現時点ではまだドラフト段階であり、特別講演やセッションという表現に特別な意図があるわけではない。私自身が入ることもあり得るが、これから検討する。現在も様々な方々に参加を申し込んでいただいているため、参加者のリストを見た上で、最も適したメンバーで議論できる形にしたい。また、メディアの方々にも登壇いただき、それぞれの考えをお話しいただくことも歓迎したい。ぜひ手を挙げていただきたい。
Q:AI の活用については、経営者の間では省力化や効率化に関する議論が多く、付加価値をどのように高めるかという議論はまだ十分ではない印象がある。この点への課題認識を伺いたい。また、生成AI、フィジカルAI など様々あるが、それらが成長に与える期待について伺いたい。
山 口:付加価値を生み出すためにAI を使うのか、効率化のためにAI を使うのかという議論は、以前から繰り返されてきたものである。これはAI に限らず、IT やインターネットでも同様であった。インターネットが登場した際にも、紙でやり取りしていたものをメールで送れるようになり効率化が進んだ。一方で、インターネットを活用し、例えばe コマースのような新たな付加価値を生むビジネスも生まれた。生成AI についても、同じことが言える。効率化については非常に説明しやすく、分かりやすい。一方で、高付加価値化については、例えばこれまで発見できなかった創薬につながるなど、様々な活用可能性があり、今後さらに多くの事例が出てくると考えている。したがって、私自身も含め経営者は、(効率化と付加価値創出の)両方の観点から(AI 活用を)考えていく必要があり、どちらか一方だけ(を考えるの)ではもったいない。私自身もお客様とはその両方の観点からお話ししている。また、生成AI とフィジカルAI は別のものではなく、AI という点では同様である。機械やアームに小型の生成AI が組み込まれているもの(がフィジカルAI である)。それがさらに大規模なAI と連携して、(AI 同士が)やり取りしながら作業を進めるといったことも起きている。フィジカルAI を全く異なるAI として捉える必要はない。AI には大小様々な形があり、データセンターの中にある場合もあれば、車の中や工場の機械の中にある場合もある。それらが繋がり、何らかのビジネスモデルや社会インフラを成り立たせていくということである。最近、フィジカルAI やフロンティアAI など(の言葉が登場し、それぞれ)別のAI が出てきたように誤解することもあるが、そうではない。つまり、(AIの)用途や規模が異なるということである。
以 上
(文責: 経済同友会 事務局)