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新たな経済社会創造に向けて
―令和モデル「共助資本主義」の実現―
<2024年度通常総会 代表幹事所見>

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公益社団法人 経済同友会
代表幹事 新浪 剛史

資料

はじめに―地政学の時代の再来と転換点にある日本

 20年余りに及ぶデフレ・スパイラルのトンネルの先に、今、出口の光が見え始めています。世界を見渡せば「地政学の時代」、レアル・ポリティークの再来が色濃く予見され、わが国もその激動と無縁ではいられません。日本の経済・社会が数十年に一度の大きな転機を迎えている今、ここに経済同友会のなすべきことについて所見を述べさせていただきます。

1.資本主義のダイナミズムを取り戻す

 本年は、まさに賃上げの春となりました。満額回答がずらりと並ぶ様を、数年前まで誰が想像できたでしょうか。企業は賃上げによって優れた人財を獲得・育成する。その人財がイノベーションを創出して新たな商品やサービスを生み出し、企業は付加価値を価格に乗せる。賃上げによって所得を増やした消費者もこれに応えていく――。長らく止まっていた経済成長のエンジンが、ようやく、再び動き出そうとしています。

 現状維持に留まり、なるべく動かず耐え続けることが最適解だったデフレの時代が終わりを告げ、動かずにいれば自ずと負けていくインフレの時代を迎えつつあるのです。

しかも、地政学的な地殻変動が自由貿易を後退させ、サプライチェーンの人為的な組み換えは経済活動に新たなコストを強いています。世界的なインフレ圧力は、しばらく弱まることはないでしょう。

 この新たな時代に、これまで以上に求められるのは、前例にとらわれることなく、しがらみを絶ち、未来を切り拓くべくリスクテイクしていく野心と意欲――アニマル・スピリッツです。この30年ほどの間にすっかり私たちに根付いてしまったデフレ・マインドをかなぐり捨てて、野性とともにイノベーションを喚起し、資本主義のダイナミズムを取り戻さなければなりません。

 Japan is back、日本の復活とも言われます。ただ、私たちは誤解すべきではありません。確かに長い低迷の出口が見えてきましたが、その先の再び成長を掴み取るための道は、楽に進めるような平坦なものではありません。人財に投資し、イノベーションを創出して付加価値を上げられる会社にはさらに有為な人が集まりますが、一方で、そうでない会社からは人財が去って退出を余儀なくされることもあるでしょう。経済成長をもたらす資本主義のダイナミズムは、その厳しい競争と新陳代謝を前提にしています。

 経済全体が成長しても、社会の豊かさや人々のwell-beingにつながらなければ意味がありません。現に、世界を見渡せば、行き過ぎた貪欲な資本主義が深刻な分断を招き、社会を危機に陥らせています。私たちは成長を取り戻さなければなりませんが、同時に、私たちが停滞している30年ほどの間に成長を謳歌した国々が陥った過ちを繰り返すべきではありません。

2.成長を前提とした共助資本主義の循環を生み出す

 そこで、私が代表幹事に就任してから提唱しているのが「共助資本主義」という考え方です。残念ながら、まだ十分にそのコンセプトが伝わっていません。理解いただけていないだけでなく、単なる社会貢献や脱成長論と誤解されている節もあります。

ここで強調したいのは、共助資本主義の根底にあるものは、あくまでも成長を前提とした資本主義だということです。

 共助資本主義が企業社会に求めるのは、成長の結果生じる利益を社会に還元するという一面的な社会貢献ではありません。社会課題の解決に取り組むNPOなどのソーシャル・セクターとの連携を進めることで、企業は、社会から必要とされる、社会に欠かせない一員になります。社会から見放された企業は存続できません。逆に言えば、社会と強く結ばれることにより企業のレジリエンスは向上し、ハードルレートが下がり、将来的なリスク・プレミアムを縮小することができます。つまり、企業価値を引き上げることができるのです。また、社会と共にあろうとする企業の姿勢やパーパスは有為な人財を引き寄せ、新たなイノベーションを創出する原動力となるでしょう。

 ソーシャル・セクターに対して企業社会から資金や技術が供給されることにより、少子高齢化社会を迎える中、「自助」「公助」だけでは不十分なセーフティ・ネットが「共助」の力で強化されます。結果として社会に包摂性としなやかなレジリエンスが生まれ、誰もが等しく、失敗を恐れずに、未来を切り拓くアニマル・スピリッツを燃やすことができるようになる。そのエネルギーがまた、企業に活力を、競争力をもたらしていくのです。

 ソーシャル・セクターからは社会課題の解決に挑むアニマル・スピリッツを、企業からは成長への飽くなきアニマル・スピリッツを。両者の掛け算によって社会課題を解決していく。それぞれが不足するところも、互いに吸収し合うことによって、ますます強くなれるはずです。

 この共助資本主義の循環を世界に先駆けてわが国で生み出すことこそが、私たちのフロンティアなのです。

3.令和モデル「共助資本主義」の実現に向けた取り組み

 地政学の時代を生きる経営者として、私たちはもっと学ばなければなりません。AIや量子などの新たなテクノロジーとそれを支える半導体やエネルギーをめぐる競争、サステナビリティやデジタルデータについてのルールメイキング、そして各国の思惑が相克する地政学――。世界の秩序はひとときも定まることなく、新たな挑戦を受け続け、ヘゲモニーをめぐって動的にせめぎ合っています。デフレ・マインドによる内向き志向が数十年続く中で、日本の企業社会は世界に対する感度を落としてしまいました。これを取り戻すべく、ダイナミックに蠢く世界の動向について学び合える場を作ります。世界の動向を踏まえた洞察のもと、闊達な議論を交わしながら共助資本主義のコンセプトを磨いていきます。

 人口増加と高度成長を前提とした仕組み、あるいは「失った30年」のデフレ社会に最適化した政策。こうした「昭和・平成モデル」と一刻も早く決別し、民主導で大胆に経済・社会構造を作り替えていかなければなりません。内にあっては人口減・高齢化という避けがたい現実と共にあり、外にあっては地政学の時代を生き抜くための、いわば令和モデルとして「共助資本主義」を形作る。そのために早急に取り組むテーマを5つ挙げます。

 1つ目は、雇用・労働政策です。

 あらゆるところで人手不足が起きています。労働力の供給不足は、せっかく再稼働し始めた日本経済の急所となりかねません。

 これを解消するためには、まず、働く人たちが、年齢を理由に働く場を去らなければならなくなることも、望まない職場に縛られることも、性別で門戸を閉ざされることもなく、望むままに、いつでも、いつまでも、ジョブに見合った正当な報酬を得ながら社会と繋がって健康的に働いていける。思い立てばリスキリングなどの機会を得て新たなことにチャレンジしていける。そういう環境を作っていく必要があります。

 前段にお話ししたように、成長のためにシビアな競争と新陳代謝は必要です。しかし、働く人は、望めばチャンスを得られるようにしなくてはいけません。ただし、変化に対応できない会社を生存させることによって働く人を守るという従来の発想は捨てなければなりません。企業が淘汰されても、働く人が次なる新しい活躍の場を求めることができる――つまり、人材流動性の豊かな社会を作る。これが、働く人たちを守ることになります。

 ほかにも、行き過ぎた「働き方改革」や「年収の壁」のように、制度設計によって意欲と能力がある人の労働参加を妨げているケースがあれば是正していく必要があります。外国人労働者の受け入れも積極的に進めていく必要があるでしょう。労働法制を見直すという真の労働改革も見据えて、根本的な議論を進めていきたいと思います。

 2つ目は、財政・社会保障政策です。

 人生を拓く果敢なチャレンジは、持続可能なセーフティ・ネットに支えられている必要があります。前提としてEBPMによってワイズスペンディングを徹底しつつ、財政規律の強化に向けて、歳出歳入の一体改革を進めていかなければなりません。少子高齢化の現実のもとでサステナブルな社会保障を実現すべく、令和の時代に合った年金制度改革、医療・介護一体改革を進めていかなければなりません。

 3つ目は「DEI」、すなわち「ダイバーシティ(多様性)」「エクイティ(公平性)」「インクルージョン(包括性)」です。

ひとときよく聞いていた「DEIは重要だ」という声が経済界からあまり聞こえてこなくなりました。ここで、その重要性をもう一度確認しておきたいと思います。現状維持が合理的だったデフレの時代が終焉しつつあり、これから求められるのは、果敢な挑戦による新たな価値の創造です。DEIはそのイノベーションの源泉であり、原動力です。つまり、企業の競争戦略そのものです。これが日本社会に根付くまで、しつこく取り組み続ける必要があります。

 4つ目は、政治・行政改革です。

 政治資金規正法を、より透明化・厳格化する方向で改正し、政党法を制定することを強く求めていきます。併せて、国会と政府がともに実効性のある政策を豊かで迅速に議論・実行できるように、国会改革による公務員の働き方改革、国会審議の充実化・可視化を図る必要もあります。二院制を構成する一翼である参議院のあるべき姿についても提言していきたいと思っています。

 5つ目は、エネルギー政策です。

 現在も、日本がエネルギーの供給を大きく依存している中東をめぐる地政学的なリスクが高まっています。日本が輸入する原油の80%が通過するホルムズ海峡はまさに日本経済の命運を握るチョークポイントです。自由で安全な航行が継続できるという前提が続くことを祈るような思いで見守っているというのが実情です。オイル・ショックの時代から、日本のエネルギーが抱える根本的な脆弱性は変わっていません。

 加えて、コンピューティング・パワーこそが国力を大きく左右する時代を迎えています。そして、その基盤となるAIやデータセンターを動かすにも、それらを構成する半導体を製造するにも膨大な電力が必要となります。今ある産業を動かすエネルギーを安定的に入手するだけでなく、次世代の競争力を生み出すためのエネルギーを新たに手に入れることも考えていかなければなりません。

 2050年時点で、日本のエネルギー・ミックスはどのような姿となっているべきか。国民的なコンセンサスを形成していくよう働きかけていきたいと思います。

 これ以上、わが国のエネルギー政策が原子力とどう向き合うのかという問題から目を背け続けることはできません。安全性について最大限配慮することを前提として、さまざまなステークホルダーとタブーなき科学的な議論を交わしていく必要があります。規制委員会の承認を得た、既存原発の早期の再稼働、そして、既存原発のリプレースや新増設など、「一歩先」のテーマについても、ただちに熟議を始めなければなりません。テクノロジーの進展によって、かつて難しいと言われていた試みが実現性を増しています。高速増殖炉や核融合、水素など、ブレークスルーになる可能性のある先端分野の研究開発にも目配りしていく必要があります。

 以上、5つの重点課題を挙げました。

 これらを含め様々なテーマについて、熟議と、事実に基づいた検証を重ねたうえで、経済同友会としての提言をまとめ、明確なメッセージとして発信して建設的な世論を形成する一助としていきたいと考えています。

4.経済同友会自身の成長に向けた取り組み

最後に、令和モデル「共助資本主義」の実現を加速するために、経済同友会自体の運営についての方針をお話します。

会員エンゲージメント向上 

 私たちは経営者です。「提言」をまとめ、しつこく実現に向けてアクションをとっていきます。また、学び、つながることで、会員の一人ひとりが自ら預かる企業の変革を「実行」していくことができる。これが私たちの強みです。そのためには、すべての会員に、真摯に議論に参加し、異見をぶつけ合い、そこから生まれていく結論に自分事として腹落ちてもらわなければなりません。ただ会員になってもらうだけでなく、共に現実を変えていく同志となってもらいたい。このために、「会員エンゲージメント委員会」を新設し、相互研鑽やネットワーキングの機会を充実させるなどの取り組みを通じて、会員の活動定着とさらなる一体化を図ります。

◇経営者としての研鑽を強化

 特に学びの場を作っていくことに注力します。従来の次世代経営者育成プログラムに加えて、問題解決能力や倫理的な判断能力の向上、視野の拡大を図る「リベラルアーツ・プログラム」を新設します。また、政策委員会などで招いた有識者へのヒアリングなどを会員、各地経済同友会会員向けにアーカイブ配信していきます。これらも含めて様々なプログラムを用意し、非連続に変化していく時代を切り拓く次世代のリーダーを育成する「アカデミー」を作り上げていきます。

◇プロジェクト2000

 また、新たな仲間を増やす取り組みも加速させます。会員の皆さんのご尽力により、2023年度には会員数1600名を達成しました。これをさらに伸ばし、私の24年間の任期の間に会員数を2000名以上とします。「プロジェクト2000」と題して、サービス業を中心に、IT・デジタル、外食、小売、流通、ヘルスケアなど、幅広い業種からの入会を促進する様々な取り組みを始めていきます。

おわりに

 私個人としても、これまでの経営者としての経験の中で、最も大きな時代の変化に直面していると感じています。これまでの経験や常識が通用しなくなることは、誰にとっても、日本の企業社会全体にとっても痛みを伴うものです。しかし一方で、古いものを脱ぎ捨てられるチャンスであり、その先のまっさらな地平に新しい理念やモデルを描くことができる千載一遇の機会でもあります。経済同友会に集う多士済々の同志たちと未来を拓けることが楽しみです。

代表幹事就任時に活動方針を3つの言葉でお伝えしました。優れた世界の英知と「つながるConnect」、私たち自身にも多様性を取り入れるために「開くOpen」、そして議論するだけでなく、私たち自身と社会とを変えるために「動くAct」。ともに脳漿を絞り、ともに汗をかいていきましょう。

 ありがとうございました。

以上


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