ページの先頭です

ページ内を移動するためのリンク
本文(c)へ
グローバルナビゲーション(g)へ
ローカルナビ(l)へ
サイトのご利用案内(i)へ

ここからグローバルナビです。

グローバルメニューここまでです。

ここから本文です。

令和・共助資本主義モデル~新しい経済社会の構築~
(2024年 年頭見解)

動画を拡大する

公益社団法人 経済同友会
代表幹事 新浪 剛史


本文 Executive Summary 資料

 世界では、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化や中東におけるイスラエルと武装組織ハマスの対立により地政学的緊張が続き、今や平和であることが人々の暮らしや経済活動の当然の前提ではなくなっている。また、民主主義が後退し、権威主義が広まる中で、2024年は各国・地域の重要選挙が続く。まさに、民主主義に対する諦念や挫折感を払拭できるかが問われる一年になる。
 一方、国内では、地政学的リスクの影響によりコストプッシュ型インフレが発生し、実質賃金が19か月連続で前年同月比マイナスとなり、国民生活は節約が強いられている。しかし、2023年は、民間主要企業では30年ぶりの高水準の賃金引上げというポジティブな変化も見られた。また、人材不足を要因とする供給制約が起こり、需給ギャップはほぼ解消したと言えよう。
 こうした状況で迎えた2024年は、まさしく時代の転換点である。日本にとって、目指すべきヴィジョンを掲げ、昭和・平成と続いてきた経済社会モデルから決別し、政府支出に過度に頼らない、民主導の新たな経済社会を構築する元年としたい。

日本が目指すべき方向
 私たちが目指すべき新たな経済社会のヴィジョンは、本会が掲げる「共助資本主義」、具体的には、民主導による成長と共助が両立したwell beingの実現である。
「共助資本主義」実現の大前提として成長は必要であるが、目指すのは、単に経済的成長のみを追求することではない。企業がソーシャルセクターと協働して社会課題に取組み、それを通じて新たな事業やイノベーションの創出を目指す。これにより、企業はレジリエンスの強化と企業価値向上を図る。企業とソーシャルセクターは連携して、誰もが失敗しても再び立ち上がることができる「Win-Win」の社会を創るために、それぞれがアニマル・スピリッツ を発揮していかなければならない。
 人口減少が進むわが国でのwell beingの実現には、現役世代はもちろん、シニア世代も生涯現役で活力と安心感をもって働ける社会にすることが必要である。生産年齢人口の定義(15歳~64歳)に捉われず、人生100年時代における生涯現役人口を増やしていくためには、健康長寿と全世代でのキャリアデザイン、リスキリングの機会提供が不可欠である。また、キャリアの選択肢を広げるために、若年世代が国内外で活躍することを促進していく。
 構造的賃上げに向けては、消費者物価指数の推移に応じて賃上げの水準を調整する仕組みを検討する。また、国際比較で未だ低水準の最低賃金を全国平均2,000円に早期に引き上げていくロードマップをつくる年としたい。

1.昭和・平成モデルから決別し、令和・共助資本主義モデルを創造する

 昭和・平成モデルとは、昭和の人口増加や高成長のもとで設けられた制度や、平成における「失った30年」の間の政策、それらによって構築された経済社会の姿である。
 昭和モデルを象徴する社会保障制度は、少子高齢化や多様な働き方などの変化に対しパッチワークのように弥縫策を講じてきた。しかし、国民は今の制度が時代とミスマッチしていることを肌感覚で捉えている。
 また、大胆な金融緩和や大規模予算は、デフレ下で民間がリスクを取らない状況で経済を活性化させようした平成モデルの経済政策であるが、成長戦略は十分に実行されず、時代にそぐわない規制が既得権益の岩盤を打破できないまま温存された。こうして定着したデフレにより、企業のアニマル・スピリッツは減退し、その結果、日本はIMD「世界競争力年鑑」2023年版で過去最低の35位となった。
 さらに、企業などのガバナンスやビジネスと人権の問題も明らかになっている。これらは、社会的に新たな規範や倫理が求められているにもかかわらず、その変化に追いつけない経営者や現場が昭和・平成モデルを引き摺ろうとする力学の中で発生していると言える。しかし、昭和・平成モデルからの決別なくして、日本の衰退を止めることはできない。

 時代の潮流が大きく変化する中で、2024年は明るく前向きに成長へのエンジンをかける年である。昭和・平成モデルから決別し、民主導の大胆な構造改革による令和・共助資本主義モデルの創造に踏み出さなければならない。
 令和・共助資本主義モデルとは、地政学的リスクの高まりや、少子高齢化がさらに進行する中にあっても、成長と共助が両立したwell beingの実現に向けて経済社会を大転換する制度や政策である。日本の競争力を復活させ、成長を実現するには、経済のダイナミズムを取り戻さなくてはならない。そのためには、労働移動を活発にし、失業への不安感を払拭することと金利のある経済を実現し、産業・企業の新陳代謝を図っていく必要がある。
 経済のダイナミズム回復に必要な改革の痛みを先送りせず、これを乗り越える方策を備えるモデルこそが、新たな日本を切り拓く。以下に、その例を示す。

昭和/平成モデル 令和・共助資本主義モデル

社会保障

・現役世代が高齢世代を支える賦課方式
・金融所得・資産を含む負担能力に応じた、全ての世代で支えるしくみ

雇用・労働

・生産年齢人口(15~64歳)
・新卒一括採用、
 年功序列賃金・終身雇用
・春闘における賃金交渉

・生産年齢人口と生涯現役(75歳までの勤労)を希望する65歳以上人口による労働力の確保
・キャリア採用の拡大、職務給導入、雇用の流動化
・キャリアデザイン、リスキリングによる支援
・構造的賃上げ:消費者物価指数に応じた賃上げ水準の調整、最低賃金の引き上げ

マクロ経済政策

・平成におけるデフレとの闘い(大規模金融緩和、需給ギャップを埋める大規模予算、成長戦略)を通じた官製経済 ・民主導経済
・人手不足を乗り越える生産性向上
・実質賃金の向上、可処分所得の増加
・金利のある経済
・ワイズスペンディング

企業経営

・昭和・高度経済成長期の「日本的経営」、平成・デフレ下のリスクをとらない経営
・社会の信認による企業のレジリエンス向上
・イノベーションの促進に向けたDEIの推進

比較表の詳細はこちら

 経済同友会は、昭和・平成モデルからの決別と、民主導による令和・共助資本主義モデルの創造に向けて先進的な改革を提言し、その実現・実践に取組んでいく。

2.令和・共助資本主義モデルの創造のために企業が取組むこと

 第一に、人的資本投資と働き方改革である。スタグフレーションを防ぐために、大企業から中小企業にいたるまで構造的な賃上げを行い、実質賃金の増加を実現しなければならない。特に、全産業における就業人口の割合が高く、中堅・中小企業が多いサービス産業での賃上げは、経済の好循環をつくる上で不可欠である。
 人手不足、人材の流動化が進む中で、優れた人材を獲得し、そのエンゲージメントを向上するために、リスキリング、職務給導入、多様な人材の活躍を促進する働き方改革に取組む。働き方改革は、企業の少子化対策としても不可欠である。共働き・共育て世帯の子育てを支援するために、時短勤務や男性の育児休暇などの制度が利用しやすい環境整備を進める。企業がこうした取組みを通じて、社会に根強く残る男女の役割分担に対する固定観念の払拭を率先していく。

 第二に、国内外の投資拡大とイノベーション創出である。デフレマインドから完全に脱却するために、全世代での生成AI活用などのDXや、エネルギー、ヘルスケアなどのニューフロンティアへの国内投資拡大を推進する。また、グローバル経営をさらに強化し、対外直接投資のリターン向上や成長市場の活力を取り込んでいく。
 イノベーション創出に向けては、大企業、スタートアップ、大学間のオープンイノベーションの促進、上場後も成長し続けるスタートアップの増加に向けたエコシステム構築に取組む。また、企業間のM&A、事業ポートフォリオの見直し・再編を加速する。さらに、性自認・性的指向(LGBTQ+)、民族、年齢、障がいなどにかかわらず多様な人材が活躍できる組織文化を醸成する。

 第三に、ソーシャルセクターと連携した「共助」への参画である。社会課題解決のために、企業が持つ様々なリソースをソーシャルセクターへの支援に提供していく。また、そうした共助の活動を通じてビジネスシーズや潜在ニーズを発掘し、社会からの評価や信認を得ることが長期的な企業価値向上に繋がると考えられる。

3. 令和・共助資本主義モデルの創造に向けた優先政策課題

 政府には、新たな経済社会の機軸となる政策に最優先で取組むことを求める。
 第一に、社会保障における給付と負担のあり方を、人口減少、少子高齢化と健康長寿の同時進行、働き手と働き方の多様化に対応したものにしなければならない。持続可能な社会保障制度とするには、現役世代が高齢世代を支える昭和モデルから、金融所得・金融資産を含む負担能力に応じた、全ての世代で公平に支え合う新たなモデルに早期に転換する必要がある。
 一方、少子化対策では、財源確保のために、まずは医療・介護分野の歳出改革を徹底し、子育て世代の可処分所得の減少に繋がる社会保険料負担は決して増やしてはならない。また、こども関連政策の効果検証を行い、真に効果の高い施策に重点的に予算を投じるべきである。
 2024年はデータ活用を起爆剤とすべき年でもある。社会保障分野等におけるEBPMや、認知症発症率の低下などwell beingに寄与する研究・活動を、データを駆使して進めていくべきである。
 財政健全化に向けて社会保障改革は不可欠であるが、より根幹にある課題は、統治機構改革である。国家のガバナンスを司る機能強化についても本格的な議論の開始を求めたい。

 第二に、エネルギーや規制改革など、持続的成長の実現に不可欠な政策のスピードとスケーラビリティを強化すべきである。
 エネルギー政策では、デジタル経済に伴う需要増に応じた供給とカーボンニュートラル達成が必要である。その現実解として、一次エネルギーを極力非化石エネルギーにシフトすることを基本に、次の有力な選択肢を得るまでの間、安全性の認められた原子力を活用すべきである。早期の再稼働に向けて、国には原子力規制委員会による審査合格後、再稼働の重要性や立地地域の貢献について、国民へファクトベースで説明・発信することを求める。一方、脱炭素と豊かな社会の両立には、原子力と再生可能エネルギーを組み合わせることが重要であり、再生可能エネルギー導入をさらに拡大すべきである。
 また、経済成長の制約となる規制改革を迅速かつ大きく進める年とする。特にインバウンド観光の復活による消費活性化を促進するために、早期に道路運送法78条の改正、ならびにライドシェア新法の導入を行うべきである。

第三に、金利のある経済に向けて金融政策をモデレートに転換すべきである。円安の進行による国民経済への影響を踏まえると、為替を日本経済の実態に見合う水準にしていくことが求められる。物価及び春闘における賃金の上昇率も踏まえ、金融正常化へのメッセージや道筋を示していくことが重要である。また、実体経済への影響を抑えるべく、政府には首相のリーダーシップによる成長戦略の強力な推進を求める。

4.経済同友会による令和・共助資本主義モデルの創造と実践

 昭和・平成モデルからの決別と令和・共助資本主義モデルの創造では、トレードオフの関係にある選択もあるが、これに対し、まずは本会の揺るぎない意思を明確に主張していかなければならない。社会のあらゆるステークホルダーと政策課題について議論、対話を行うことは重要である。しかし、摩擦を恐れて自らの主張を示さずに百家争鳴の議論を行っても、日本の取るべき針路を定めることはできない。本会の役割は、本質的課題に対し事実に基づく議論を深め、現実的で効果の高い解決策を提言し、それに対する社会の賛同を得るべく、繰り返し説いていくことである。
 また、国際社会における日本のプレゼンスを高めるために、気候変動などの地球規模の課題や、グローバルサウスとの関係強化、ウクライナ復興支援などの新たな世界秩序構築に向けた課題に対し、経営者・企業として何ができるかを発信していくことも重要である。

 より本質的な政策議論を活発に行うには、多様な経営者が集まり、政策や経営はもちろん、リベラルアーツに基づく幅広い知見を有することが必要である。また、AI等の技術が飛躍的に進展する中で、リーダーが歴史や哲学を踏まえた倫理的軸を持ってこれを活用すべく、深い議論や対話が重要になっている。2024年は、こうした学びを強化するために、経営人材育成アカデミー事業を本格展開していく。

 本会は、2023年に共助資本主義の実現に向けて、新公益連盟、インパクトスタートアップ協会とのパートナーシップを締結した。2024年は、これをさらに進化させる。企業とソーシャルセクターの連携による社会課題解決の個別のイニシアティブを組成し、三者の連携の実効性を高める。
 また、企業の地方創生や社会課題解決への参画を促進するために、企業版ふるさと納税を恒久的な制度にし、より活用しやすい制度にする改革を提言するとともに、実現を働きかけていく。

以上


ローカルナビここまでです。

ここからサイトのご利用案内です。

スマートフォン版サイトに戻る

サイトのご利用案内ここまでです。