ページの先頭です

ページ内を移動するためのリンク
本文(c)へ
グローバルナビゲーション(g)へ
ローカルナビ(l)へ
サイトのご利用案内(i)へ

ここからグローバルナビです。

グローバルメニューここまでです。

ここから本文です。

つながる・開く・動く
「共助資本主義」で、豊かでしなやかな経済社会へ
<新浪剛史代表幹事就任挨拶>

動画を拡大する

公益社団法人 経済同友会
代表幹事 新浪 剛史

PDFはこちら

 重責に推挙いただき、前任の櫻田代表幹事が築かれた素晴らしいレガシーを引き継ぐ大役を担うことになりました。大変身の引き締まる思いです。

 この経済同友会は、敗戦まもない1946年に、志を同じくする経済人たちによって産声を上げました。その設立趣意書にはこうあります。「今こそ同志相引いて互に鞭うち脳漿をしぼって我が国経済の再建に総力を傾注すべき秋ではあるまいか」

 地政学的な地殻変動が「平和でない時代」をもたらし、世界に急激なインフレーションの波が押し寄せる今、私たちはまさに岐路に立っています。企業経営者は、誰かに任せるのではなく、この危機感を自分ごととして捉え、世界と繋がって、もっと学び、もっと考え、自ら動いて、結果として社会を変えていかなければなりません。この激動の今こそ、変化するためにまたとない好機です。民間主導で経済を活性化させていき、社会課題の解決のためにも民間のダイナミズムを取り戻していきたい。私は、そのために、多士済々の仲間たちとともに、まさに脳漿をしぼるようにこの大役にチャレンジしていきたいと思います。皆さん、何卒ご支援のほど宜しくお願い申し上げます。

成長と共助が両立する社会を作る

 今日は、経済同友会の目指すべき経済社会の未来像について、お話をさせていただきたいと思います。

 まず大前提として、我が国経済は何と言っても成長がなければなりません。日本経済はその世界的な位置づけが減退していると言われます。しかし、この国は決して「持たざる国」ではありません。むしろ企業にも家計にも資金が潤沢に積み上がっています。企業が旺盛な投資によって新たな価値を生み出す一方で、働く人たちの賃金を継続的に上げていく。人的資本にも投資していく。その活力をもとに企業は再投資をしていく――。この成長のエンジンを動かすための資金は十分に蓄えられています。ただ、現状維持をよしとする風潮を払拭し、今日よりも良い明日を切り拓く強い意志――ケインズのいうアニマル・スピリッツさえ取り戻せば、私たちはエンジンを再起動させ、継続的に成長していくことができます。私たち同友会は強い改革の意思を持っています。

 目下、世界は激変しています。冷戦後のデタントにまどろむグローバリズムの夢は、ウクライナに響いた砲声に覚醒を余儀なくされました。人類が克服したかのように思っていた感染症が世界を一変させました。世界的なインフレは、デフレ経済に慣れ切った私たちにとっての突然の価格上昇の波を及ぼしています。Chat GPTやメタバースなど、新たなテクノロジーが非連続的な変化を社会にもたらしています。私たちは変わらざるをえなくなってしまいました。――つまり、日本を覆う「現状維持病」とも呼ぶべき宿痾を吹き飛ばし、アニマル・スピリッツを取り戻す、千載一遇のチャンスです。

 一方で、ただ「経済的に豊かになろう」というだけでは、もはや私たちを突き動かすことはできません。求める豊かさの尺度や価値観は多様化し、成長のひずみも拡大しています。利益の向こうで誰かが泣いているような「Win-Lose」のアニマル・スピリッツは持続可能ではありません。私達はすでにそのことに気づいています。

 私は、誰もが自らの信じるところに立って、等しく人生を切り拓く機会を与えられ、しかし、挑んだ結果、たとえ失敗しても、再び立ち上がることができるような社会にしていかなくてはならないと思います。しかし、その助けは、政府が国民を守るといった一方的なものだけでなく、人々がそれぞれを思い、補い合うようなものでもなければなりません。私たち企業もその輪に加わる必要があります。結果として、人々が、豊かな文化的土壌のもと、誰一人取り残されることなく、それぞれの生き方が尊重され、互いに思い合い、喜びを分かち合える社会――私はこれを「共助資本主義」と呼んでいます――この共助資本主義が、人々の営みの根底を支える経済社会を作り上げたい。目指すのは決して80年代のeconomic animalのような経済社会ではありません。成長と共助がともに両立したwell beingをもたらす、そんな経済社会をイメージしています。豊かな精神土壌を育んできた私たち日本には、そのモデルを世界に先駆けて作り上げる力があると私は信じています。

 助け合う社会を作るということは、我々の企業に甘えを許すことではありません。この「共助資本主義」の前提には、前にお話ししたように成長がなければなりません。そのために企業には、人的資本に投資しつつ絶えずイノベーションを起こすことに挑み、自らの事業構造を組み替え、企業価値を向上させ続けることが求められます。その活力を生み出せず、変化に対応できなかった企業は退場を余儀なくされることもあるでしょう。企業経営がその厳しさと向き合うことを前提にしながら、しかし、働く人たちには等しくチャンスが与えられ、失敗しても、助け合いながら何度でも立ち上がれるような仕組みが必要です。私は、そんな社会を生み出すために心血を注ぎます。

取り組むべき8つの重点課題

 今日は、私が特に注力しなければならないと思っている分野8つについて、簡潔にお話したいと思います。

 まず、1番目の「全世代における人財の活性化」です。経営層だけでなく、中堅、若手にいたるまで、働く人たちが、企業や組織の論理に必要以上に縛られることなく、いきいきと働き、新たなことに挑み、人生を切り拓いていけるような経済社会を目指すべきだと考えています。私自身、海外に飛び出して学び、そして、経験のない異業種の企業経営に挑んで、苦しみも失敗もありましたが、かけがえのない人たちと出会い、仕事の達成を喜び合うことができました。働き手として、自らのキャリアをデザインして、新たな、高い目標に挑むことが自分自身の成長につながることを実感しています。

 企業が、よい人財を逃がさないために継続的な賃上げなどにより人的資本に投資し、キャリアデザインとリスキリングの仕組みなどを整えて学びと挑戦の機会を与えていく。そうした企業にはまた、社外から意欲ある様々な才能が集まるようになるでしょう。優れた内外の人たちに選ばれる組織になり、彼ら彼女らが新たな価値創造に挑むことによって企業価値は高まり、結果として競争優位を形成して再投資する力を蓄えていく。こうした、新たな、闊達なる経済社会を形成していくべきと考えています。

 その根底には、2番目の「DEI」、すなわち「ダイバーシティ(多様性)」「エクイティ(公平性)」「インクルージョン(包括性)」がなければなりません。単一の価値観で固められた組織ではなく、異なる価値観を認め合う組織、もっとしなやかで、強靭で、豊かな創造性を持つ組織を創りあげなければなりません。DEIはイノベーションの原動力であり、企業の競争戦略そのものだと思います。DEIをよりひろげていくためには、少子化対策、働き方改革なども必要な課題です。

 多様な個性が、それぞれが尊重されながら混ざり合うことで経済・社会にダイナミズムをもたらしていく。その動きを、テクノロジーでさらに加速させ、飛躍させる必要があります。3番目に「イノベーション・R&D」を挙げました。科学技術は国際競争力の最も重要な基盤の1つです。国が基礎研究に投資して、民間を巻き込んでこれを実装し、長期的な視点で技術優位を形成していく必要があります。現在のように全方位で漫然と取り組むのではなく、戦略的な視点で、量子、AI、バイオ、ヘルスケアに代表される重点分野を絞り、集中的に投資していく。また、沖縄の沖縄科学技術大学院大学、いわゆるOISTのような成功事例を横展開していく――。こうした手を尽くしていかなければなりません。

 イノベーションの一部を担う「スタートアップの強化」を4番目に挙げました。停滞に苦しむ日本社会にとって極めて重要なテーマです。スタートアップを増やし、成長させていくためには何が必要なのか。規制改革についても、民主導による新たな投資分野を生むためにも強力に促進することが必要です。

 また、新たな産業を生むためには、既存事業の整理や再編を進めなければなりません。5番目に挙げた「企業変革」をいかに進めていくべきかについても議論を進めていきたいと思います。そのために欠かせないのが6番目の「企業におけるDX」です。これを進めるために、世界最先端のデジタル技術の動向に触れ、これを企業の経営戦略に積極的に取り込んでいけるような学びを提供していきたいと思います。

 とりわけ、最も多くの就業者を抱えながら、政策決定の議論に声が届きにくく、生産性の向上が遅れているサービス産業の活性化は大きな課題です。人々と触れあい、感動や喜びを与えるこの産業が、継続的に賃上げしていけるような体質に変わり、活力を培えば、日本はもっと元気になります。また、スポーツイベントやコンサートなどエンターテインメント産業が活性化していくことは、日本のソフトパワーを強化することにもつながるでしょう。これが7番目の「消費経済の活性化」です。

 最後に「サステナビリティ」を挙げました。持続可能な社会を形作っていくことは、人類普遍の願いであり、ここに社会の一員として貢献していくことは、企業にとって果たさなければならない責務です。私は今年、ダボス会議に出席して世界各国のリーダーたちと議論を重ねましたが、カーボンニュートラルに向けた取り組み、特に、ほとんどの産業が無縁ではなくなる、いわゆる「スコープ3」にどう対応していくかについて真剣な議論がなされていました。私たちも、世界の動向を分析しながら、実効性とリアリティを兼ね備えた対応を議論していく必要があります。カギを握るのはエネルギーとテクノロジーです。原子力についても議論を深めつつ、再生可能エネルギー、水素、核融合などテクノロジーの先端の動向を押さえ、企業経営の意思決定に役立てていけるような学びの場を作っていきたいと思います。

司令塔となる委員会を新設、実効的に動く組織に

 2期を全うすれば4年間。長いようで、あっという間です。1500日弱ある任期の1日たりとも無駄にできません。これらの重要な課題について、先にお話ししたような目指す社会を実現するためには、どのような優先順位でどう取り組むのがよいのか。本日から100日間、今後のロードマップ、アクションプランについて、会員のみなさんからご意見をいただきながら、副代表幹事のみなさんとともに徹底的に議論して発表します。

 そのための組織づくりにはすでに着手しています。まず、重点テーマとして挙げた「人財活性化」、「DEI」、「スタートアップ推進」、「企業変革」について、新たな委員会を設立いたします。また、各委員会による政策検討の議論を率いる司令塔として統合政策委員会を立ち上げます。統合政策委員会はまた、政府与党、野党や官公庁、学術界と密接な対話を重ね、強力な発信力を発揮していきます。この強力なイニシアチブのもと、経済同友会の提言を、それぞれの課題について本質に迫り、かつ現実に即して解決していく実効性のあるものにしていきます。

 何より必要なのは、私たち自身が変わることなのです。経済同友会には会員が約1500人います。各地経済同友会には約1万6000人の仲間がいます。いずれも、企業を預かる経営者です。ともに闊達に議論し、学び合い、まず会員が率先して行動を起こす。そして自らの企業を変えていく。その結果として、日本経済が大きく変わっていく――。経済同友会という組織に本来備わっているその力を引き出し、設立趣意の思いに立ち返って、自分たちこそが日本を変えていくという強い気概を持った集団に変えていきたいと思っています。これらの経済同友会自体の改革の司令塔としては、構造改革委員会を新たに設置します。

 この構造改革委員会が、先にお話しした統合政策委員会とこれからの経済同友会を牽引する両輪となっていきます。

経済同友会の3つの行動指針

 さて、聖域を設けることなく果敢な議論を進め、また行動していきたいと思っていますが、その際に私たちが寄って立つ行動指針を定めました。「つながるConnect」、「開くOpen」、「動くAct」の3つです。

 まずは「つながるConnect」です。経済同友会には、素晴らしい経営者がたくさんおられます。しかしまた、外の世界にも素晴らしい叡智があります。経営者だけでなく、市民セクターの方、社会起業に取り組む方や、新たな事業を立ち上げようとしているスタートアップのリーダーたちと、あるいは国内だけでなく海外と、政府や諸団体と、学術界と、労働界と、どんどん外とつながって、自分たちの価値観からは生まれないような多様な発想や知恵を取り込むと同時に、組織の外にも志を同じくして共に行動を起こせる輪を広げていきたいと思います。

 さらに、経済社会の改革に先立ち、政治・行政改革委員会では、令和臨調とコラボレーションしながら、国会改革など政治改革にしっかりと取り組んで進めていきます。また、共助資本主義への取り組みを新公益連盟やインパクトスタートアップ協会とともに、各地経済同友会の英知とも合わせて、相補い、学び合い、切磋琢磨しながら議論と実行をともに加速させていきます。また、世界からももっと学ぶべきです。私自身がこれまで深くかかわってきた海外のいくつかの団体、例えばアジア・米・欧で地政学を議論する三極委員会、外交問題評議会、ダボス会議を主催する世界経済フォーラムなどと、私自身が橋渡し役となって大いに連携し、経済同友会がグローバル化していくことへの一助としていきたいと思います。

 次いで「開くOpen」。外とつながるだけでなく、私たちの中にも多様な価値観を取り入れていく必要があります。これまで会員の属する企業は特定の業界に偏っていましたが、これからはサービス産業やスポーツ・エンターテインメント産業など幅広い産業からの参加を促していきます。併せて、スタートアップやNPOからの参加も歓迎します。私たちが生きているこの社会をよりよくしていきたいという強い思いを持った経営者に広く門戸を開き、会員基盤をもっと拡大していく。その中で、多様な価値観を持った会員たちが混然となって議論を進め、私たち自身、経済同友会自体にもイノベーションを起こしていきたいと思います。

 最後に「動くAct」。評論家のように提言だけして、政府に注文を付けていればいいというような姿勢ではいけません。
 「まず隗より始めよ」の精神で、自分たちが動く。お互いに切磋琢磨して大いに学ぶことで、自分と、自分が預かる会社を変えていく。拙速でもいいから動いてみる。そんな体質を作り上げていきたいと思います。

 テクノロジーの進展が、世界に非連続な変化をもたらしています。自由競争の原理を捻じ伏せるような、地政学、地経学的な力学が蠢いています。もちろん先のことを見通すことは難しいのですが、知ろうとすることを諦めてはいけません。「VUCA」や「不確実性」といった言葉に逃げて思考停止するのではなく、世界で何が起きているのか、もっともっと勉強し、もっと議論し、世界に手を伸ばしたい。そこで、経済同友会の設立の思いに立ち返って、同友会の持てる力を十分引き出すために、「経済同友会アカデミー」を創設し、会員同士が深く学びあう仕組みを創っていきます。知ることで、学ぶことで、自分は何度だって変えられます。その意思さえあれば、企業もまた変われます。この経済同友会は、そうやって諦めず、動き、挑み続ける人たちの集まる場でなければならないと思っています。

すぐに着手する3つのテーマ

 拙速でもいいから恐れずに動いてみる。その表れとして、就任当日早速ですが、今日ここで、一刻も早く着手したい3つのテーマについて行動を起こすことを発表したいと思います。

 1つは、先に挙げたDEIです。一人ひとりが持つ多様な価値観や個性が、多数や平均から外れるという理由で排除されるようなことは決してあってはなりません。例えばLGBTQ+という人間の尊厳にかかわるテーマについて、企業自体がやれることはもっとあるのではないか。私自身、痛切に感じています。今週の日曜日にLGBTQ+のパレード「東京レインボープライド」に参加し、若い人たちの「社会を変えたい」という大きな熱量に触れて感動しました。まずは自分が経営を預かる会社でこのテーマについて率先して取り組みつつ、経済同友会の中でも賛同者の輪を広げ、具体的なアクションにつなげていきたいと思います。

 2つ目は人財活性化です。これも先に申し上げたように、経済のダイナミズムを生み出すために最も重要なカギの1つとなります。慣れ親しんだ組織文化にしがみつくのではなく、外部環境の変化を受け、自分自身を変えていきたい、新たなことに挑みたいと考える人をこの国にもっと増やしていかなければなりません。企業、政府、NPOなどセクターの垣根を越えて、働く人たちが新たな人生のドアを開いていくことを支え、いかに交流を促していくか。キャリアデザインとリスキリングを支援するための官民での連携によるプラットフォームづくりに積極的に関わっていきたいと思います。

 最後に、グローバルとの連携です。大国間・大企業間の関係だけではなく、国や地域、産業領域ともに裾野広く多様で豊かな関係を世界にはりめぐらせていくのが経済同友会の使命だと思っています。まずはスタートアップを中心に、東アジア、ASEAN、インド、アフリカなどとの交流を進めます。例えば、今、注目しているのは日韓関係です。歴史的な経緯もあり、これまで多くの関係者が両国間に横たわる問題の解決のために長きにわたって汗を流してきましたが、昨今、戦後の両国間のパラダイムを一変させようとする力強いリーダーシップ、尹錫悦政権が誕生し、日韓の対話が始まっています。米中対立が世界を揺るがす中、日韓両国がお互いを深く理解することは大きな意義があります。この機を逃すことなく強力にバックアップすべく、韓国を皮切りに、内外のスタートアップの経営者同士が交流する枠組みを早急に立ち上げたいと思います。

経済同友会の同志たちとともに

 以上、経済同友会を牽引するに当たり、代表幹事として信じるところをお話してきました。どれ一つとっても私ひとりの力でなせることではありません。この組織には、一騎当千の副代表幹事のみなさんをはじめ、問題意識を強く持つ経営者の仲間たちがいます。加えて、その活動をサポートしてくれる、優秀なシンクタンク機能を擁する事務局のメンバーもいます。今日、目の前におられるみなさんをはじめ、経済同友会の会員全員が、経済同友会の輪に参加して本当に良かった、と感じていただけるような高いエンゲージメントを目指していきます。
 そのために今、この時から、圧倒的なスピードで走り出していきたいと思います。
 ご清聴、ありがとうございました。

以上

> 英語版はこちら


ローカルナビここまでです。

ここからサイトのご利用案内です。

スマートフォン版サイトに戻る

サイトのご利用案内ここまでです。