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変化を選択し、挑戦できるレジリエントな社会へ
(2023年 年頭見解)

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公益社団法人 経済同友会
代表幹事 櫻田 謙悟

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Ⅰ.再び経営者の時代という自覚と矜持で、「生活者共創社会」の実現に踏み出す1年に

経済同友会は昨年、生活者(SEIKATSUSHA)の選択と行動により形づくられる「生活者共創社会」を提唱した。これは多様な個人を核に、個人の志と組織の力を活かして生活者一人ひとりが価値を生み、成長の果実が包摂的に社会の隅々まで行きわたる、持続的かつ循環的な新しい資本主義を目指すものである。

私たち経営者は、日本が「失った30年」を一日も早く脱するために、2023年を、再び経営者の時代が始まるという自覚と矜持を持ち、イノベーションに果敢に挑戦する。そして、経済同友会が掲げた「生活者共創社会」の実現に踏み出す1年としたい。

Ⅱ.選択と挑戦を支えるレジリエントな経済・社会基盤づくり

新型コロナウイルス感染症の拡大は、日本の経済・社会の脆弱性を明らかにし、経済・社会のデジタル化を促す契機となった。ウクライナ戦争をはじめとする地政学リスクの顕在化や経済安全保障上のリスクは、グローバルなサプライチェーンの安定性・持続性を脅かし、私たちは高まる緊張感と覇権の空白への備えを求められている。また、歯止めのかからない少子化も、社会のレジリエンスに対する大きなリスクである。

グローバルな不確実性と緊張感が格段に高まった時代に、生活者一人ひとりが安心して変化を選択し、価値創造に挑戦していくためには、選択と挑戦を支えるレジリエントな経済・社会基盤を確立する必要がある。特に重要なのが、民間主導で社会課題を解決する破壊的イノベーションを創出する基盤となる、①産業・企業の新陳代謝と円滑な労働移動、②働き方に中立な社会保障と財政の持続性、③世界と伍するイノベーションを創出するレベル・プレイング・フィールド(公平な競争条件)の実現――の3つである。

1.産業・企業の新陳代謝と円滑な労働移動

諸外国では賃金上昇に伴う物価の高騰が進むなか、日本では、コストプッシュ型のインフレが課題になっている。日本の経済・社会システムは内部労働市場に依存してきたため、外部労働市場が未成熟である。産業・企業を越えた労働移動が阻害され、生産性の停滞と賃金の停滞の悪循環が続いてきた。マイルドな賃金上昇が続く社会を創るには、産業・企業の新陳代謝と外部労働市場を通じた円滑な労働移動による賃金上昇とそれを支えるリスキリングの好循環が不可欠である。

(1)産業・企業の新陳代謝による資源配分の効率化

大企業は、その資本力や技術力、人材等を活かし、スタートアップや大学・研究機関等とのオープンイノベーションやM&Aを進め、事業の新陳代謝を図るとともに稼ぐ力を強化し、イノベーション投資を充実させる。また、ダイバーシティ&インクルージョンの推進や意思決定の迅速化等により組織力を強化していく。

限られた資源を効率的に配分し、日本経済の生産性を向上するには、雇用の7割を占める中小企業の活性化も重要である。そのため、中小企業=弱者であるという認識を改め、経営者のアニマルスピリッツと投資意欲を引き出す政策へと抜本的に転換すべきである。また、長期にわたる金融緩和の結果、金利機能が十分働かないことも、産業・企業の新陳代謝を阻害してきた要因の一つであり、金融仲介機能という観点では、遠くない将来、金融政策の転換が必要になる。

(2)円滑な労働移動を支える外部労働市場の活性化

コロナ禍からの経済活動の回復に伴い、産業・企業によっては以前にも増して人手不足が深刻化している。今こそ、外部労働市場機能を強化して人材の流動化を促す、抜本的な労働市場改革を進めるチャンスである。政府は、一つの組織に所属し給与所得を得る働き方を前提とした年末調整制度や 20 年超の長期雇用を優遇する退職金税制の廃止など、円滑な労働移動を妨げている要因を除去し、所得が持続的に増加する社会の実現を急ぐべきである。

なお、産業・企業を越えた人材の流動化を促すうえで、個人に対する直接支援、セーフティネットの充実が重要である。例えば、在職者の支援にかかる予算の75%が企業経由で執行されているが、マイナンバーの活用や公金受取口座の登録等を通じ、給付の個人化を進めるべきである。

外部労働市場の活性化は、有意な人材に対する企業のリテンションの取り組みを促すうえでも重要である。経済・社会構造の変革が加速するなか、一人ひとりのリスキリングを定着させるため、企業もキャリア採用(経験者採用)の拡充を急ぐとともに、育成・登用・評価システムの見直しを加速させていく。

(3)世界をリードする人材の育成と外国人政策の見直し

昨年、ついに出生数が80万人を割り込んだ。東アジアを筆頭に進む少子・高齢化は世界共通の課題であり、世界をリードする「生活者共創社会」を実現するには、日本が社会課題を解決するイノベーションを創出し続ける必要がある。課題を発見し、自ら解決する価値創造人材を輩出し続けることもレジリエンスの柱の一つであり、キャッチアップ型経済にフィットした教育制度からの抜本改革を急ぐべきである。

また、足元の円安でグローバル経済における日本の存在感がますます低下するなか、DXやGX、社会課題の解決をリードする有為な人材を国内外から採用・登用するためには、外国人材にとっての日本の魅力を維持・向上する取り組みも欠かせない。在留資格取得の円滑化・簡素化や子女の教育環境、英語インフラなど、高度外国人材の生活インフラの充実を急ぐとともに、特定技能・技能実習制度の見直しにかかる議論も加速すべきである。

2.働き方に中立な社会保障と財政の持続性

一人ひとりが安心して変化を選択できるようにするためには、社会保障のレジリエンスと包摂性が重要である。また、社会保障制度を支えるために多くの公費が投入されていることを踏まえれば、レジリエントなセーフティネットを維持するには、持続可能な財政構造の実現も欠かせない。

(1)働き方に中立な雇用のセーフティネット構築

少子・高齢化が加速し、人口構造の歪みが拡大するなか、医療・介護保険制度を含む受益と負担の抜本改革が必要だが、まずはフルタイムで雇用される労働者を前提に設計された雇用保険制度の見直しを進め、働き方に中立な雇用セーフティネットや能力開発支援への転換を急ぐべきである。これは、コロナ下で出生数の減少が前倒しで進むなか、育児休業給付金の対象者を拡大し、少子化対策の実効性を高めるうえでも有効である。

(2)補正予算の規律強化と実効性ある予算編成

将来世代への負担の先送りは、将来不安を増幅させ、出生数の減少を促す。コロナ対応、物価高対策という危機対応財政から一日も早く脱却するとともに、財政法第29条の規定に立ち返り、巨額化した補正予算の規律を強化すべきである。

また、毎年策定される成長戦略等では、これまでに約800の政策メニューが閣議決定されたが、結果として日本経済は30年を失った。政府が注力しているDX、GXを今度こそ確実に進めるため、コロナ対策費で膨大な不用額や繰越額が発生した反省を踏まえ、今後は「執行」「アウトカム」を重視したKPIの設定や予算編成を行い、透明性の高いかたちでPDCAを回すべきである。

3.世界と伍するイノベーション創出に向けたレベル・プレイング・フィールドの実現

世界と伍するイノベーションを創出するため、レベル・プレイング・フィールドの実現が必要である。それは、少子・高齢化の進展に伴い、国内の資本蓄積や生産年齢人口の減少が進むなか、持続的な経済成長の鍵となる、対日FDIやグローバルに競争力を有する人材の流入を増加させるためにも不可欠である。

(1)スタートアップ・エコシステムのグローバル化と挑戦を尊ぶ文化の定着

政府は昨年、スタートアップ5か年計画を策定した。起業の裾野を拡げるだけでなく、世界中から支持されるイノベーションを持続的に創出するためには、スタートアップを取りまくエコシステムのグローバル化を実現するとともに、生活者一人ひとりが挑戦と失敗から学ぶ姿勢を尊ぶ文化を定着させなければならない。

(2)デジタルインフラの強化と規制・制度改革手法の刷新

コロナ禍や東日本大震災が明らかにした課題の一つが、日本社会のデジタル化の遅れである。政策的な手当の一つがデジタル庁の創設だが、国民の中で危機感が薄れつつあり、地方公共団体を含む行政サービスや健康・医療情報のデジタル化・プラットフォーム化は停滞している。次なる危機時に同じ轍を踏まないよう、マイナンバーという生活インフラの活用促進をはじめ、危機への備えとしての経済・社会インフラのデジタル化を改めて加速すべきである。

また、産業のプラットフォーム化が進展するなか、従来型の産業分類に基づく業法規制の所管府省ごとに進めてきた規制・制度改革の方法も刷新する必要がある。

(3)クリーンで経済的な電力の安定供給

経済・社会のデジタル化が不可逆的に進むなか、経済安全保障の観点からも、対日FDIを増やすためにも、クリーンで経済的な電力供給の重要性は高まる一方である。需給見通しにおける予備率が5%を割り込み節電要請がなされるような事態を打開するため、短期的には東日本を含む17基の原発の再稼働やデータセンター等の省エネ化を進めなければならない。中長期的にはカーボンニュートラル目標を確実に達成するためのロードマップを明確化し、企業の予見可能性を高めることで積極的な投資を引き出すとともに、GX投資の効果にかかるKPIをアウトカムベースで策定し、着実に成果を創出すべきである。

(4)グローバル・サプライチェーンの強靭化

ウクライナ戦争の長期化は、エネルギーや食料安全保障の重要性を国民に再認識させた。自由、民主主義、人権、法の支配といった価値観を共有する国々と連携して地政学リスクや経済安全保障に対応し、グローバルなサプライチェーンの強靭化を図るには、官民の技術協力を促進するとともに、公的セクターの人材不足等に起因するイノベーション関連予算の執行の遅れを是正しなければならない。

同時に、関東大震災から100年を迎えるにあたり、老朽化した道路・橋梁等の公共インフラの更新・除却のあり方について、財政余力と人口分布を踏まえた決断が必要である。

また、消費者に安定的に財・サービスを提供することは、企業の重要な責務の一つである。私たち経営者は、輸送・配送網を含むサプライチェーンの強靭化や大規模自然災害や感染症の拡大等にかかるBCPの再検証、公的研究機関との人材交流などに取り組む。

以 上

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