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新たな経済社会の共創に向けて、生活者による選択を促す
<2022年度 通常総会 代表幹事所見>

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公益社団法人 経済同友会
代表幹事 櫻田 謙悟

代表幹事所見

1.分断の時代が日本に問いかけるもの

あいつぐ危機によって、国際社会のパラダイムが揺らいでいます。

グローバル資本主義の展開とデジタル・テクノロジーの拡散は、逆転困難な格差と社会の分断を生み出してきました。新型コロナウイルス感染症による経済社会の変化は、痛みに苦しむ層と新しい機会を見出す層との断層を顕在化し、拡大しつつあります。さらに、ロシアによるウクライナ侵攻は、国家体制の違いによる国際社会の分断に加えて、資源・エネルギー制約という現実問題を前に、価値観を共有する国同士であっても連帯が困難であることを鮮明に示しています。

一連の危機によって、世界はさまざまな利害の衝突と分断の時代への転換点に差しかかっているように感じられます。こうした中、地球環境の持続可能性、資本主義の再検討など、グローバルな問題解決はなお一層困難になるでしょう。

国際的にも国内においても、多様な「自利」が衝突する分断の時代に、未来に向けた選択をし、社会的合意を作りだすことは極めて難しいことです。どの国のどのようなリーダーであっても、絶対的な正解や誰もが賛同するモデルを示すことはできません。こうした中、社会のさまざまなステークホルダーが、お互いの立場や利害の違いを乗り越えて合意を作り出す道を探ることが、分断を乗り越える唯一の道だと思います。

ステークホルダー主義を実践するうえで、日本には本来、他国に対する優位性があると信じています。それは、「武士道」や「論語と算盤」に象徴される価値観であり、「世のため人のため」が自らの利益につながるという「利他」の精神です。

また、中庸や社会の調和を重んじる精神性と豊かな文化的伝統は、規模の拡大や自利の追求を目的化することなく、質的な豊かさを重んじる心性を人々に根付かせていると思います。分断の時代において、このような日本の特性や実践的な知恵を強みとしてとらえ直し、活かしていくことこそ日本がとるべき道だと思います。

その一方で、30年に及ぶ長い停滞を経て、日本がより貧しく、弱い国に転落しつつあることから目を背けてはなりません。世界的なパンデミックからの回復の遅れや、ウクライナ危機を契機とする経済の混乱は、財政の持続可能性、資源・エネルギー戦略、データ・デジタル技術の活用など、日本の将来を決定づける重要な課題について選択を迫られていることを明らかに示しています。

日本の問題と処方箋は既に出尽くしています。最大の問題点は、日本が自らの強みを活かしてどのような経済社会を目指すのか、そのビジョンが示されていないことではないでしょうか。政府の成長戦略を見ても、AI、量子といった先端テクノロジーやスタートアップ振興などのメニューが盛り込まれていますが、それは成長の手段であり、部品に過ぎません。それらをどう活かし、成長を成し遂げ、どのような社会を作り出すのかという、完成予想図が必要なのだと思います。

2.「生活者共創社会」の追求

世界にはさまざまな強みを持つ国があります。そうした中で、私は、経済の規模ではなく、社会のあらゆるステークホルダーの最大幸福という価値、質的な成長を追求するクオリティ国家、「生活者共創社会」こそが、日本の強みを引き出し、活かす最も有効な姿ではないかと考えています。

私が考える「生活者」とは、社会を構成するステークホルダーすべてを包含する非常に広範な概念です。消費者、働き手、家庭やコミュニティの担い手として、多面的な役割を持つすべての個人がそこに含まれます。さらには、個人が集まって構成される企業や学校、団体、地方自治体や府省庁など、あらゆる組織も「生活者」の一つの形ととらえられるでしょう。

絶対・確実な正解がない中、多種多様な利益・立場を持つ生活者が、自らの選択と参画によって共に創り上げる経済社会を「生活者共創社会」と称し、それを社会共通の目標に据えることが必要です。

この1年程、将来世代や若手経営者、メディア・学識経験者、仲間である本会の皆さんと議論を重ねる中で、少しずつ「生活者共創社会」の方向性が見えてきたように思います。例えば、それは、未来を選択する権利を持つ若者・次世代にバトンを渡していくことの重要性です。経済同友会は、2020年9月に「未来選択会議」を立ち上げ、若者を含むマルチステークホルダーによる議論を開始しました。そこで痛感したことは、日本の将来を決定づける重要課題について、人々が選択をするための材料があまりにも足りていないことです。例えば環境・エネルギーのような重要課題について、カーボンニュートラルという大目標を達成するためにどのような手段が考えられるのか、現実的な選択肢とそれらを選んだ際の生活への影響はどのようなものか、わかりやすい情報が行き渡っているとは言えません。また、意思決定の場に圧倒的に多様性が足りないことや、挑戦や試行錯誤、失敗した後の再挑戦のハードルの高さが、若者の意欲を削ぐ実態も明らかになりました。

副代表幹事・委員会等委員長の皆さんとは、人々の幸福や豊かさの増大など、成長の先にある目標を再定義することや、成長を追求するアニマル・スピリッツの重要性、企業内に潜むイノベーションの阻害要因について、反省を織り交ぜながら意見交換をしています。さらに、「成長を生まない成長戦略」の背景に、ビジョンなきKPI、検証なき戦略実行、不明確な責任の所在など、政策決定プロセスという真因があると考えて検討を進めています。

私たち企業経営者も生活者の一員です。幅広い生活者に未来に向けた選択を呼び掛けるため、このような積み重ねによって、私たちなりの選択肢を描こうとしているのです。

3.新しい成長、新しい分配、新しい価値評価の仕組み

「生活者共創社会」は、岸田文雄内閣総理大臣が掲げる「新しい資本主義実現」に呼応した一つの選択肢です。その姿を従来の日本社会と分けるのは、新しい成長、新しい分配、新しい価値評価のメカニズムではないかと考えています。

(新しい成長のメカニズム)

「新しい成長」は、経済成長それ自体を目的とするものであってはならないと思います。持続可能性、社会課題解決と成長を両立し、多様なステークホルダーの幸福と豊かさを増大する手段と位置付ける必要があります。

また、その手段も従来の成功体験の延長線上ではなく、イノベーションを中心に据えるべきだと考えます。過去30年間、日本が経済成長において他の先進国に劣後した原因が、イノベーションの不足によることは明らかだからです。

そのため、スタートアップ・エコシステムを育てる戦略が重要になりますが、それだけでは十分とは言えません。国民の共感と参画なくして、イノベーションによる新しい成長は実現できないからです。

新しい製品・サービスは、人々に選ばれ、利用され、社会実装されて初めて成長を生み出します。そのため、イノベーションとそれがもたらす変化を人々が歓迎する社会への転換を図るため、国民的な運動を起こす必要があります。

また、生活者の誰もがイノベーションの担い手になり得ること、それが豊かさを生み出す鍵であることを、強く訴えたいと思います。イノベーションには、製品、ビジネスプロセス、マーケット、組織などさまざまな形態があり、日本でも、宅急便やeコマースのような新しいサービスが、人々の生活に変化をもたらし、新しい市場と雇用を生み出してきました。同様に、日本のGDPの7割を占め、多くのエッセンシャル・ワーカーが従事するサービス産業の生産性向上、少子化・人口減少が急速に進む地域経済の再生、データ活用・デジタル化による行政・公的サービスの効率化など、日本の構造的な課題の中に、多くのイノベーションの芽があると思います。

企業、政府、行政、地方自治体、大学など、あらゆる生活者がそれぞれの課題解決に取り組む中から裾野の広いイノベーションが生まれ、生活者の挑戦の総和が社会の成長につながる循環を持った日本を目指したいと思います。

(新しい分配のメカニズム)

分配については、イノベーションによる新しい成長を前提に、役割と担い手を見直していく必要があります。

特に、企業は、株主・投資家のみならず、社員や地域社会、地球環境や将来世代など、すべてのステークホルダーへの分配に責任を負う立場です。中でも、価値創造の源泉となる人材への投資を最重要課題と位置づけ、社員が生み出す価値に見合った報酬と、継続的に能力・スキル向上を図る機会をそれぞれの企業において提供すると同時に、他企業、他のセクターとも連携し、人材投資につながる社会インフラ整備に取り組むことが重要です。

企業による分配を機能させるには、市場機能を働かせ、企業の新陳代謝と人材の流動性を高めることが不可欠です。分配を担う力が弱い企業、産業構造の変化に対応できず生産性の低い企業には、思い切って市場からの早期退出と再生を促し、その一方で、そこで働く人たちを、より適正な処遇を受けられる環境や、新たな雇用機会に向かわせることによって守るのが、これから目指すべき姿だと思います。

それと同時に政府に求めたいことは、経済社会の前提の変化に応じて分配の目的を見直し、税・社会保障の仕組みを刷新・再設計することです。

新しい成長を促すうえで重要なことは、挑戦や努力の結果、成功者が生まれることを社会全体の利益と見なし、歓迎し、適正に報いることです。同時に、失敗やリスクテイクに伴う痛みの緩和、再挑戦を後押しする仕組みも必要です。そして、社会的弱者の生活や機会を保障するセイフティネットを行き渡らせ、格差の固定化や貧困の連鎖を防ぎ、社会に安心を根付かせることが分配の重要な役割です。

また、生活者共創社会における「新しい分配」も、多様な生活者によって支えられたものであるべきだと思います。政府による分配とは別に、公共の利益や社会課題解決のため、企業や個人が寄付などを通じて直接分配を担えるよう、インセンティブを含む仕組みを整備する必要があります。現在の民主主義システムの下では十全に反映されない生活者の意思や共感を、社会的支援や挑戦者の応援に結びつけることが、社会の担い手として生活者を活性化することにつながります。

(新しい価値のメカニズム)

成長と分配の双方において、企業が十分にその役割を果たしていくためには、企業の価値に対する評価についても新しいメカニズムが必要となります。

例えば、企業が10年先、20年先に大きな果実を生むため、社員や地域コミュニティ、地球環境、研究開発への投資や分配を行ったり、新規事業の開拓に向けた組織改革に踏み切ったりすることが、一時的な収益・配当の抑制につながる場合があります。市場がそこだけに着目し、短期的評価を行えば、株価の下落、経営に対する逆風がもたらされることは想像に難くありません。

企業は短期・長期という複数の時間軸を持って、持続的に社会に価値を生み出していく存在です。企業が持つ顕在的・潜在的価値のすべてを、株価・時価総額という一つの物差しだけで表現することは不可能だと思います。特に、イノベーションという非連続的な試みによって、将来的に生みだされる収益や社会的インパクトなど、未実現の価値をどう測り、現在の評価に反映するかは、企業の決定やアクションに大きな影響を及ぼします。企業・経営者としてステークホルダーとの対話・説明により積極的に取り組むとともに、経営者ならではの視点から、新しい企業価値の体系についても発信をしていきたいと思います。

4.企業・経営者の力で生活者の選択と共創を促す

日本の将来には、高齢化と人口減少の加速、予見される自然災害、国家財政や通貨に対する国際社会の信認など、いずれは確実に向き合わざるを得ない多くの問題やリスクが待ち受けています。また、近年の国際情勢の下では、そうした問題に伴う弛みを突いて、地政学的な緊張が一気に高まる可能性にも、これまで以上の切実さを持って備えなくてはなりません。

ただし、世界はこのような日本の事情を勘案し、待ってはくれません。潜在的な危機に備え、それをかいくぐりつつ、世界各国と時に競い合い、時に協調しながら、2030年の持続可能な開発目標(SDGs)達成、2050年のカーボンニュートラル実現など、野心的な目標に取り組まなくてはならないのです。

こうした展望の下、現在の快適さと緩やかな転落に甘んじるのか、または、さまざまな課題を乗り越えて、世界をリードする国を目指すのか。これこそが、今を生きる生活者が向き合うべき根本的な問いであり、下すべき選択なのだと思います。

経済同友会は、政府による議論や結論、改革の実行を待つことなく、自分たちの手で新しい成長と分配の循環を具現化するため、行動します。

「生活者共創社会」というビジョンを掲げ、その実現に向けた課題を示すことで、さまざまな生活者に選択を促し、新しい経済社会の共創をリードする役割を担いたいと思います。また、そのために、企業という多様でパワフルな生活者の力を存分に発揮し、発信・行動を進めていきます。

第一に、利害関係者や当事者などによる調整型の政策決定プロセスを補完するために、次世代を含む多様なステークホルダーとの議論を通じて、斬新で人々の意欲を掻き立てるような政策を提言していきます。第二に、その提言を企業という場でも実践に移し、社員や顧客、自社のバリューチェーンに関わるステークホルダーの行動変容を促していきます。第三に、「生活者共創」という旗の下に、志を共有する企業経営者を集結させ、忌憚のない議論を通じて互いに切磋琢磨をし、また、次代を担うリーダーを育成していきます。

代表幹事としての最後の1年間、会員の皆様とこのミッションを共有し、生活者共創のモメンタムを生み出すことに全力を尽くして参ります。会員の皆様のご参画とご支援を心からお願い申し上げます。

以上


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