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イノベーションによって、経済社会の再設計に踏み出す1年に(2021年年頭見解)

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公益社団法人 経済同友会
代表幹事 櫻田 謙悟

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2021年の年頭にあたって、まずは、パンデミックとの闘いの最前線で尽力されている医療従事者をはじめ、介護、交通・物流、製造、販売など、不安やリスクをおして人々の生活・経済活動を支え続けている数多くの方々に、心からの感謝と称賛の意を示したい。

1.歴史の潮流から、日本のミッションを考える

(1) 歴史的分岐点に立つ世界

 2020年は、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大により、人類社会の前提と将来展望が大きく揺らいだ年であった。また、そうした中で、グローバル資本主義と新産業革命の進展に伴う「影」、すなわち、地球環境の持続可能性の危機と、グローバルな産業構造の変化に伴う格差の拡大、社会の分断という問題の深刻さが改めて浮き彫りになった。

 危機に直面してなお、国際社会は求心力を欠いた状態にある。米中に代表される異なる政治体制間の対立は、経済・政治・安全保障などが複層的に絡み合い、改善の見通しは立っていない。

 われわれは今、経済的合理性と技術革新に主導されたグローバル資本主義の到達点に立っている。ここで各国が立ち止まっては、これまで国際社会が積み上げてきた発展と平和に向けた努力が水泡に帰しかねない。

 およそ100年前、スペイン風邪が猛威を振るった時代、世界は国際連盟の設立という理想主義から、各国の利害対立・分断を経て、全体主義や専制主義の台頭へと大きく方向を転じた。この苦い歴史を繰り返すのか、新しいパラダイムによって未来を切り拓くのか、世界は歴史的な分岐点に立っている。

 今われわれが持つべきは、過去を断ち切る覚悟と「ありたい未来」を自ら描き出す意志である。従来のグローバル資本主義のあり方を根本から見直し、幅広いステークホルダーに支えられた新しい経済社会を構築する勇気を持ち、この1年を迎えたい。

(2)持続可能性、包摂性、強靭性を包含する資本主義への転換

 経済社会の再設計に取り組む上で、絶え間ない変化・進化こそがこれからの「常態」であることを認識する必要がある。コロナ危機への対応で加速する技術革新は、次々と社会変革を引き起こす。われわれは、「普通」が常に更新されていくという認識に立ち、マインドセットを転換しなくてはならない。

 また、持続可能性、包摂性、強靭性などの価値を内包し、それと経済成長とを整合させる資本主義を目指す必要がある。従来の資本主義の下では、この命題に有効な解を見出すことができなかった。これに答えることが、新しい経済社会の実現には欠かせない。

 新しい経済社会を具現化する駆動力はイノベーションであり、それを担う企業である。企業が存続する唯一無二の基盤は、人類社会そのものであり、その持続可能性を脅かす課題を解決することは企業の本懐に他ならない。ビジネスという持続的な価値創造の器とテクノロジーの力を、イノベーションによる社会変革に活かしていくべきである。

(3)日本の強みを活かし、経済社会の再設計に取り組む

 経済社会の再設計に取り組む上で、日本は絶好のポジションにある。日本には、経済と市場の規模、ものづくり分野で磨き抜かれた技術力、質の高いリアルデータなど、今後の成長の源泉となるリソースがある。また、社会の調和と安定、文化的な影響力、全体最適や他者の利益を尊重する精神性などの特質を備えている。さらに、保護主義の流れに与することなく、公正なルールに基づく自由で開かれた経済秩序の構築に一貫して取り組んできた。

 これらの強みを発揮していくためにも、日本に長期的な停滞と国際社会における存在感の低下をもたらした原因を克服しなければならない。そして、先進国中、最低水準にとどまる生産性とイノベーションの停滞、少子・高齢化の下での社会システムの持続可能性、米国と中国、経済と安全保障という二つの軸の間での立ち位置など、国の根幹に関わる問題に答えを出していく必要がある。

 日本はこれらの課題を乗り越え、独自の実践的な知恵を絞り、新しい経済社会の姿を見出すことを自らのミッションとすべきである。そして、課題先進国としてロールモデルを示すことで、世界のパラダイム転換にリーダーシップを発揮していく。それこそが、「いて欲しい国、いなくては困る国・日本」の実現に向けた一歩である。

2.パラダイム転換に向けた日本の挑戦

(1)イノベーションによる社会変革を推進する

 新しい経済社会を実現するには、日本の強みを生かしたイノベーションによる社会変革が必要である。当面、デジタルとグリーンという二つの領域が社会変革の牽引役となる。ここでイノベーションを加速し、日本の競争力と国民生活の豊かさ、Well-beingの向上、社会システムの持続可能性を追求することが、新しい経済社会をつくる第一歩となる。

 デジタルについては、個人・企業・行政など社会のあらゆる主体がデータを活かし、各分野で価値創造できる基盤を整えることが喫緊の課題である。さらに、それに立脚して、日本の強みが生きる分野、例えば、リアルデータやノウハウの蓄積が豊富なヘルスケア・介護、製造業等の領域で、世界最先端の事業モデルを確立することを目指す。また、あらゆる仕事のプロセスを刷新し、より高い付加価値につながる仕事や将来の成長分野に、人材・資金・知などの資源を投入し、社会全体の生産性を高める。

 グリーンについては、社会生活やビジネスの持続可能な基盤として、再生可能エネルギーの主力電源化を推進する必要がある。また、「2050年カーボン・ニュートラル」という目標に向け、建築、交通、ものづくりや企業のバリューチェーンなど、ゼロエミッション化のあらゆる可能性を追求し、その成果を競争力に繋げていくことを目指す。

 これらのデジタルおよびグリーン政策を、イノベーション・成長戦略の核として官民が共有し、オールジャパンで推進していくべきである。

(2)イノベーションの創出に向けた企業・政府の責務

 歴史を振り返れば、数多くの企業が革新的な製品、サービスを創造することで、国民生活を豊かにし、社会を変革してきた。例えば、自動車産業は、国内外に幅広い関連産業と雇用を生み、精緻なバリューチェーンを築くとともに、人々のライフスタイルと都市構造を変えてきた。家庭用ゲーム機の開発は、コンテンツという新たな市場を生み、文化、教育、健康、コミュニケーションなど、さまざまな形で人々の生活の質を高めている。AI等の活用による先端技術やサービスが医療の高度化を実現し、健康長寿社会に寄与している。また、国民の6割強が保有するスマートフォンは、コミュニケーションの枠を超えて新しいビジネスを生み出し、社会インフラのプラットフォームとして進化を重ねている。

 このダイナミズムを取り戻すための企業変革は、経営者の自己革新から始めるべきである。経営者は、社会を変革するという気概、成長を妨げる要素を根こそぎ取り払う覚悟を持つ必要がある。そして、未来の成長・競争力につながる分野を見定め、そこにあらゆるリソースを集中的に投資していく。

 高度成長を支えてきた組織運営や雇用慣行、働き方などが、速やかな戦略実行の足枷となるならば、それを自らの責任で徹底して変革する。同時に、企業の成長や個人の自己実現といった観点から、政府に労働法制の見直しを働きかけていくことも必須である。

 一方、政府の最大の役割は、ビジネスの進化を妨げないことである。デジタル化、グリーン化の変革力があらゆる業種・業界に及べば、従来の産業構造の枠には収まらないビジネスやサービスが生み出される。これを前提に、従来の規制体系を抜本的に見直さなければならない。企業経営者としても、具体的なビジネスプランやその社会変革へのインパクトを示し、障壁となる規制の刷新・破壊を迫っていく。

(3)持続可能性、包摂性、強靭性をもたらす社会システムの構築

 イノベーションの推進・加速と並行して、日本の社会システム全体の根本的な見直しも不可欠である。特に、日本の財政構造、受益と負担のあるべき姿について、本格的な議論を早急に開始する必要がある。少子・高齢化が進む中、国民生活の支えと未来を切り拓く投資とを両立しうる持続可能な財政の姿や、その実現に向けた道筋が問われている。将来の不確実性に備えるためにも、また国として将来への投資を進めるためにも、財政という制度的な裏付けを固めなくてはならない。

 また、セーフティネットを始めとする社会システム全般も、民間のダイナミズムこそが機会を生み、社会の包摂性を高めることを前提に転換していく必要がある。例えば、社会全体で一気にデジタル化、グリーン化が進めば、通信インフラや新たな発送電設備・システムの構築・運用など、雇用の拡大が見込まれる。さまざまな再生可能エネルギー技術に適した条件を持つ土地には、新しい産業が生まれる。CO2の吸収・固定を追求する中で、森林・農地に新しい価値が付加され、採算性ある産業が地域で発展する可能性がある。このような機会の連鎖を生み出していくためにも、イノベーションと新陳代謝を止めてはならない。

3.イノベーションの源泉、「多様な個」への投資

 イノベーションの源泉は多様性である。性別・年齢・国籍や文化的背景といった属性が個人の意欲と活躍を妨げず、多様な個性のぶつかり合いが活力を生み出す社会に向けて、多様な人材への投資に集中的に取り組む必要がある。

 イノベーションを牽引するような、標準の枠に収まらない才能や個性を育てるため、学校教育の枠外に新しい人材育成のトラックを設けるべきである。年齢・学年にとらわれず、個人の意欲と主体性に応じて、国内外の最先端の知にアクセスできるようなチャネルを、リモートアクセスも活かして構築することを提案する。

 また、経済社会活動の運営を支えるエッセンシャル・ワーカーの仕事を、より持続可能なものにしていく必要がある。医療、介護、治安・安全、運輸・交通などの現場にこそ、デジタル、データ、AIなどイノベーションの成果を取り入れ、生産性を高めていく。同時に、処遇の見直しなどによって、構造的な問題を解決していくことも重要だ。

 また、知やテクノロジーの最先端にある海外人材を、より多く日本に呼び込まなければならない。その障害となるような制度、生活上の課題、組織文化、マネジメントの問題などについては、官民が問題意識を共有し、それぞれが解決に取り組む。

 世界的な人材獲得競争への遅れを取り戻すため、今年夏のオリンピック・パラリンピック東京大会をショーケースとして活用することも検討すべきではないか。現存するソリューション、テクノロジーを大会運営や期間中の社会生活に投入し、社会変革に対する日本の意欲とコミットメントを世界に示すこともできる。

4.経済同友会のコミットメント

 コロナ禍を経て、世界は破壊的変化の時代を迎えている。この時代に生きるわれわれ経済人は、自らの事業、企業、産業の形を破壊的に革新する覚悟を持たなければならない。それなくして、新たな経済社会モデルの創出はなしえず、日本は停滞から脱する機を失うだろう。まさに戦後、経済同友会を設立した先達が、新生日本の創造に向けて示したような覚悟を持てるかどうかが問われている。この自覚を持ち、「言行一致」の姿勢で具体的な成果と社会的なインパクトにつながる活動を展開していく。

 具体的には、昨年発足した「未来選択会議」において、社会変革の鍵となる課題について、ステークホルダーとの対話を加速する。例えば、財政健全化の道筋について、信頼に足る理論に基づき、国民的な合意を作り出すにはどうすればよいか。米中対立の影響が産業バリューチェーンの分断を引き起こしつつある現実に、経営者はどう対応すべきか。若者が社会変革の推進役として活躍できる環境をどう作り出していくか。これらに最適解を見出すため、幅広いステークホルダーとの議論を踏まえて、明確な論点と選択肢を提示していく。

 さらに、それぞれの企業経営者による経営革新を後押ししていく。中でも、従来の働き方、雇用慣行からの脱却、ダイバーシティ推進は、日本企業の競争力強化に向けた最重要課題である。危機感を共有する企業経営者同士の対話、切磋琢磨の場として、本会の活動をより一層活性化していく。

以上


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