ページの先頭です

ページ内を移動するためのリンク
本文(c)へ
グローバルナビゲーション(g)へ
ローカルナビ(l)へ
サイトのご利用案内(i)へ

ここからグローバルナビです。

グローバルメニューここまでです。

ここから本文です。

持続可能な社会に向けて — Japan Version 2.0 —
<小林喜光代表幹事就任挨拶>

動画を拡大する

公益社団法人 経済同友会
代表幹事 小林 喜光

はじめに

ただいま代表幹事にご推挙をいただき、その責任の重さに身の引き締まる思いであります。経済同友会は、来年70周年を迎えます。自由社会における経済の牽引役という自覚と連帯の下、社会の変革をリードしてきた伝統ある経済同友会を引き継ぐことは、誠に光栄であります。

東日本大震災の復興と新たな成長の実現という課題に取り組み、大いなる実績を残された長谷川代表幹事から、今、バトンを引き継いだところであり、全身全霊で職務に取り組む覚悟であります。多くの会員の皆様のご支援とご協力を頂戴して、重責を全うしたいと考えております。

代表幹事という大役をお受けするにあたり、私の問題意識とそれを持つに至る時代背景、日本の大きな変革に向かって皆様と共に何に挑戦していこうと考えているのか、をご紹介することでご挨拶とさせていただきます。

1.これまでの延長線上に未来は無い

(1)事実や問題を直視する

まず初めに、「これまでの延長線上に未来は無い」という危機感を、皆様と共有したいと思います。われわれが様々な問題を抱えていることは言を俟ちませんが、不都合な事実や問題から目を逸らすことはできません。特に、以下の三つの点を再確認したいと思います。

第一に、日本は、1000兆円を超えるまで公的債務を積み上げてしまったことによる財政破綻の危機に直面していることです。国際公約である2020年の基礎的財政収支黒字化は財政健全化の一里塚であり、債務残高の縮小に向けて道筋をつけていかなければなりません。

第二に、成熟国家に共通する少子化と高齢化の問題です。多くの先進国では出生率が2を大きく下回り、社会保障が財政や経済成長の重石になっています。国力の衰退につながる少子化、人口減少という根本問題を放置することはできません。

第三に、格差や貧困の拡大、民族や宗教間の対立、水や食料の不足、資源・エネルギーの枯渇、地球規模での気候変動などは、まさに、グローバル・アジェンダであり、人類共通の深刻な問題として対応を急がねばなりません。

(2)グローバル化・IT化・ソーシャル化のうねりを捉える

このような諸問題に対し、世界には、先進的な動きや指摘が幾つもあります。例えば、人工知能やインターネット・オブ・シングス、ビックデータなどITの発達は著しく、ドイツにおける第四の産業革命といわれるインダストリー4.0などの動きも出てきています。3Dプリンターの進化も含めた今後の経済社会のゲーム・チェンジャーとしての技術進歩は、目を見張るものがあります。同時に、マサチューセッツ工科大学の二人の教授による著書『ザ・セカンド・マシン・エイジ』のように、単純な反復作業のみならず、記憶に依存した知的労働もコンピュータやロボットに代替されるといった論調も目につくこの頃です。

米国では、理数系教育に熱心なオバマ大統領が科学、技術、工学、そして数学(Science、Technology、Engineering、Mathematics)の頭文字をとった『STEM教育』を進めています。また、バルト三国の一つである人口130万人の国、エストニアでは、2012年に7歳の初等教育段階からのプログラミング教育を導入しています。

こうした中で、未来社会を考える上で、三つの世界的な変革のうねりを捉えることが重要になると思っています。それは、「グローバル化」「IT化」「ソーシャル化」です。グローバル化という不可逆的な流れは一層加速し、ダイバーシティはあらゆる場面で常識化するでしょう。IT化は、時差や国境は言うに及ばず、言語の壁すら超越しようとしています。さらに、ソーシャル化です。多様な主体が常につながる時代では、企業と個人、都市と地方など様々な垣根を越えて共に社会を創り上げることが容易になります。同時に、社会起業家やNPO等が様々な問題解決に大きく貢献することになるでしょう。

このように、全てがボーダレス化していきますが、ここで日本が発想を転換することができれば、未来の市場経済の主導権を握るチャンスは十分あるはずです。

2.持続可能な社会を構築する

(1)2020年までに「Japan Version 2.0」への日本の大変革に目処をつける

このような最先端の動きや世界的なうねりに遅れることなく、持続可能な社会、すなわち企業・経済・国家を構築する取り組みを急がねばなりません。特に、日本は財政悪化や人口減少などを考えると、分岐点ではなく崖に立っていると認識すべきです。

日本は、持続可能な社会を構築するために、2020年までに社会の大変革に目処をつけなければなりません。

また、2020年は、特に日本にとって極めて重要な転換点となる年になります。東京で開催予定のオリンピック・パラリンピック大会を成功に導かなければなりません。さらに、国際公約である基礎的財政収支黒字化の達成目標年でもあります。また、人口減少、社会保障、地方創生、エネルギー問題など解決に超長期を要する諸問題に明確な道筋をつけるばかりでなく、その第一歩として目に見える着実な成果を挙げなければならない時期が2020年でもあります。

1945年から2015年までの70年間を「Japan Version 1.0」と呼ぶことにすれば、2020年からの「Japan Version 2.0」に向けて、今から日本の大変革に目処をつける必要があります。経済同友会として皆様と共に、「Japan Version 2.0」に向けた活動を展開していこうではありませんか。

(2)22世紀に向けて人々がより良く暮らせるように社会をかえる

別の側面から、持続可能性の重要性を見てみましょう。21世紀も既に14年が過ぎました。持続可能性の崖に立っている日本、そして環境破壊の危機に晒されている地球は、無事に22世紀を迎えられるのでしょうか。

世界一の長寿国である日本では、男性の平均寿命が80歳、女性は86歳に達しています。皆様の中には、最近、子供さんやお孫さんを授かった方もいらっしゃると思います。単純な計算ですが、今年生まれた女の子のうち半分くらいは86年後の22世紀を迎えることになります。そう考えると、持続可能な社会の構築は、他人事ではなく、自分たちの問題として、真剣に考えざるを得ないとご理解いただけると思います。

私は一企業の社長として、持続可能な経営を実現するために思い切った改革を断行し、エコノミクス、テクノロジー、サステナビリティの三つの軸からなる三次元経営、KAITEKIを主導してきました。経済同友会の代表幹事としては、持続可能な社会の構築が最重要コンセプトであり、その核は「イノベーション」と「日本人の心」であると考えています。

「日本人の心」について、一つのエピソードをご紹介します。先月、亡くなられたシンガポールのリー・クアンユー元首相から、『より良い世界と人々の豊かな暮らしのためには、革新的かつ持続する精神で取り組むことが必要だ(“Great ideas for a better world & a good life for peoples will need many innovative and persistent minds.”)』 という言葉をいただきました。この中で、特に「持続する(persistent)」という一語が最も印象に残っています。過去の実績が示す通り、革新的かつ持続する精神こそが、他国との最大の差異化要因であり、日本が比較優位を有しているものだと思います。さらに、世界からも高く評価されている武士道の精神や日本人としてのアイデンティティー、倫理観、道徳観などは、しっかりと継承していかなければなりません。

3.共に考え解決していくべき問題を提起する

(1)経済成長と財政健全化は同時に達成する

では、政策などについて、より踏み込んでお話したいと思います。まず、喫緊の課題は、経済成長と財政健全化を同時に達成することです。

失われた20年ともいわれる混迷の時を経て、2012年末に安倍政権が発足しました。アベノミクスによる積極的な政策パッケージによって、特に東日本大震災後に六重苦、七重苦と言われた状態が大きく改善されたことに敬意を表したいと思います。今後、第三の矢である成長戦略が大きな成果を挙げるには、民間経済の主役である経営者の責任は重大です。

特に、足下での円安、金利安、原油安というトリプル安は、日本経済の再興にとって近年まれにみる絶好のチャンスです。先に述べたグローバル化、IT化、ソーシャル化という世界的な大変革のうねりを捉え、企業競争力の源泉を革命的に変革していく責務が、われわれ経営者にあると感じます。

こうした企業努力によって経済の量的成長を実現することは、税収の自然増というかたちで財政健全化にも貢献します。しかし、2020年に基礎的財政収支の黒字化を達成することは、そう簡単なことではありません。フロー面では、歳出削減として社会保障費の抑制・削減、行政の効率化など、そして、歳入拡大として租税特別措置のゼロベースでの見直しや消費税率の更なる引き上げなどが必須です。加えて、ストック面でも、公的部門の民営化や政府保有株式の売却など、聖域なき改革の断行が不可欠です。

(2)成熟社会で顕著になる経済活動の本質を考える

さて、経済同友会の活動を通して、皆様と共に考え、解決していきたいと思っている問題をお話いたします。その1つ目は「成熟社会で顕著になる経済活動の本質」を考えることです。

過去、日本経済は右肩上がりの成長を続け、量的には世界第2位の規模にまで発展を遂げました。しかし、日本や欧州の先進国では社会の成熟に伴ってGDP成長率が鈍化するとともに、新興国の成長によって世界のGDPに占める割合は低下する傾向にあります。

貨幣価値で測定可能な要素で算出されるGDPは、物質的に充足することで人々が幸福と感じる状態では適切な尺度です。しかし、物質的に満たされた状態、さらにはインターネットに象徴されるように、イノベーションの加速でより良い商品・サービスがより安価で、次々に供給される状況においては、GDPという尺度には限界があると思います。GDPで捕捉できない効用があるのではないか、その効用とは何なのかという本質的な議論をしてみたいと思っております。

ジョン・メイナード・ケインズは1930年に発表した小論文『孫の世代の経済的可能性』の中で、「100年後の2030年には、先進国の生活水準は現在の4~8倍の間になっている」と予想しています。また、「周囲の人たちとの相対的関係とは係わり無く、本人が必要だと感じる絶対的ニーズは早い時期に満たされる。一方で、それによって生まれる余暇を使って、いかに賢明に、快適に、裕福に暮らしていくのかという問題に直面する」と述べています。85年後の今、生活水準は概ね実現しましたが、仕事に追い捲られることは変わっていません。

また、世界的に著名なケインズ研究家のロバート・スキデルスキーらは、人間の飽くなき金銭的貪欲を批判し、「現代社会ではお金には換えられない健康、安定、尊敬、人格、自然との調和、友情、余暇という7つの基本価値がある」と述べています。これは示唆に富む指摘であり、共感を覚えます。私はこれに、破壊、挑戦、夢を加えて、私の“十戒”としたいと思っているところであります。

一方、企業経営についても、本質的な検討をしていきたいと思っております。

経済同友会では、世界と日本で稼ぐ企業をめざした革新的経営の実践として、ROEの2桁達成に努めることを提案しています。確かにROEは企業経営として超えていくべき重要なハードルの1つですが、同時に業種特性や経営方針、ステークホルダーとの対話力なども考慮する必要があります。例えば、Amazonは赤字経営であり、ROEはマイナスですが、株式市場で高く評価されています。これまでに書店等で働く多くの人の雇用が失われたと思いますが、より多くの消費者ニーズに応え、社会に不可欠な物流インフラを提供する企業になっています。また、AppleはiPhone、iPadというイノベーションで、10年前には全く予想できない程の社会変革をもたらしたと言ってもいいでしょう。

こうした中で企業が持続するためには、いかにして社会の発展に貢献し、ステークホルダーの支持を得るかが重要になります。これは「三方よし」に象徴される日本ならではの経営観に通じるものであり、企業経営に関しても、本質的な議論をする必要性を感じます。

(3)経営者自身の心の中の岩盤を打破していく

もう1つの問題提起は、経営者自身の心の中の岩盤を打破していくことです。

安倍総理は「自らがドリルとなって規制という岩盤を打ち破る」と発言されています。民間部門は、いわゆる政・官・財の既得権のトライアングルの一角を占めています。一企業や特定業種の利害を超えた幅広い先見的な視野から、考え、議論していくところが経済同友会の最大の特色です。さらに「改革を先導し行動する政策集団」を標榜する経済同友会としては、今、その真価が問われていると言っても過言ではありません。

岩盤規制の改革、イノベーションの加速などによっては、自社の事業が不利になったり、消滅したりすることすら起こり得ます。こうした場合に経営者自身が抵抗勢力になってしまう可能性も排除できません。また、最先端の動きや世界的な変革のうねりに対して、経営トップには勇気ある速い決断と実行が求められます。不確実な未来に挑む経営者は、葛藤、せめぎ合いに思い悩むことも多いわけですが、心の中の岩盤に囚われることなく、難局を正面から突破する気概を持って進もうではありませんか。

おわりに

経済同友会の代表幹事就任にあたり、2020年までに「Japan Version 2.0」へ向けた大変革に目処をつけることを目標に掲げました。また、皆様と共に考える問題として「成熟社会で顕著になる経済活動の本質」と「経営者自身の心の中の岩盤の打破」の二つを提起いたしました。

経済同友会活動の真骨頂は、事実や実態を正確に掴み、問題の本質を深く考え、解決のための仮説を立て、思い切った策を講じることで難局を切り拓いていくことだと思います。

経済同友会の代表幹事として、このような発想と行動力をもって皆様と共に歴史をつくっていきたいと思っています。国民経済の発展という志を同じくする人達と、脳漿を絞り、議論を戦わせ、解決策を導き、持続可能な社会の構築のために、そして、また経済同友会の一層の発展のために、皆様のご支援とご協力をお願いいたしまして、私のご挨拶とさせていただきます。

以上


ローカルナビここまでです。

ここからサイトのご利用案内です。

スマートフォン版サイトに戻る

サイトのご利用案内ここまでです。