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成長への決断と実行 <2012年度通常総会・代表幹事所見>

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公益社団法人 経済同友会
代表幹事 長谷川 閑史<

はじめに:復旧・復興から日本再生(新たな成長)へ

日本は今まさに正念場を迎えています。昨年は、東日本大震災やタイの大洪水によるサプライチェーンの破断、欧州債務危機の拡大、さらには急激な円高や資源価格の高騰などにより、日本経済は危機的状況に直面しました。また、長年にわたり対応を先送りしてきた少子・高齢化や増え続ける膨大な累積債務等の複合的・重層的な課題はより深刻さを増し、まさに多難の一年であったといえます。一方、大震災がもたらした未曾有の危機を乗り越えようとする日本人の団結力や一体感の強さは世界の賞賛の対象となりました。さらに、世界中の友好国や国際機関からの力強い支援を目の当たりにし、世界との連帯を実感した一年でした。しかし、政府における復旧・復興への対応もさることながら、わが国が直面する重要課題を解決するための決断や実行の遅れは一向に改善されず、国民が等しくもどかしさを感じた一年でもありました。

昨年の就任挨拶『成長へのコミットメント』では、日本がこの危機を克服し、活力と希望に満ちた国へと再生するために、私の二期四年間の任期中に、経済を緩やかなインフレと成長軌道に乗せることを最重要政策で掲げましたが、未だにその兆しは見えていません。震災から一年を経た今、被災地における一日も早い復旧・復興を実現するとともに、それを日本全体の安定的な経済成長へとつなげることにより、日本再生への道筋を確かなものにしなければなりません。

また、日本再生に向けて、経済成長の確実な実現とともに、歳出削減のための行政改革、政治改革、社会保障制度改革などを実行することが必要です。一方、歳入面における改革の柱としての消費税率引上げ関連法案を今国会で成立させることにより、歳出・歳入一体改革実現に向けて、着実に歩を進めるべきです。中でも、社会保障制度改革については、世代間・世代内の格差是正の視点に立った「受益と負担のあり方」についての合意形成は、特に不公平感を感じている若年層の将来に安心感を与え、活力ある日本社会を実現するためには不可欠です。

日本再生のためには必須の課題である、安定的な経済成長実現に向けて主導的役割を期待されている経済界の一翼を担う経済同友会の代表幹事就任2年目を迎えるにあたって、私の考えるところを述べさせていただきます。

1.経済成長につながる復興を

目下の最優先課題である震災復興については、被災地に希望ある未来を築くために、先ずは被災者の生活再建を最優先としつつも、復興需要を一過性のものとすることなく、将来にわたって事業と雇用を創出する経済活性化へとつなげる必要があります。

今年2月の復興庁設置により、本格的な政府としての復興支援体制がようやく整備されました。復興庁が、地域経済の担い手である民間企業や産業政策を主導する自治体と大学・研究機関などの連携・創意工夫が十分に発揮される環境を整え、地域主導の復興となるようしっかりと舵取りを行わなければ、真の復興と持続的な経済の活力は生まれません。

したがって、被災地主導の復興が行えるよう、復興特区や復興交付金などの諸制度を柔軟に運用し、より使い勝手のよいものにするための不断の努力が不可欠です。また、復興庁には、被災地域の各主体の目線に立ち、省庁縦割りや既存の規制・制度の壁を取り払い、自主的・意欲的な取り組みを支援する姿勢こそが求められています。同時に、こうした取り組みの成果を日本全体の規制・制度改革へとつなげていくことが重要です。

経済同友会としても、被災地域の産業を担う人材育成や起業をサポートしていくために、2012年度もIPPO IPPO NIPPONプロジェクト等の支援活動を引き続き行います。

2.日本再生(新たな成長)に向けた本格始動を:構造改革を再び

グローバル化の拡大・進展や、少子化による人口減少と高齢化の同時進行などの国内外の環境変化に対応するために、90年代以降、多くの分野において規制・構造改革が進められてきました。しかし、リーマン・ショック後の経済危機によりその流れは大きく停滞し、さらに昨年の大震災の発生により、規制・構造改革は今やまったく忘れ去られてしまった感さえあります。

日本再生のためには、「経済成長」「歳出の削減」「歳入の増加」の三位一体の改革による財政再建が不可欠です。経済成長においては、政府が6月に策定予定の『日本再生戦略』でマスタープランと具体的戦略・工程表を示し、規制改革をはじめとする構造改革を着実に実行し、成果に結び付けることが重要です。同時に、政府には実質的に棚上げされている財政健全化への具体的道筋を再構築するとともに、持続可能な社会保障を実現するための制度設計に早急に着手することを強く望みます。

(1)民間主導型経済による新たな成長

日本再生のためには、安定的な経済成長が不可欠です。かつて日本は世界第二位の「経済大国」として、国民福祉の向上と世界経済の発展および安定に寄与してきました。これらを支えてきたのは、“ものづくり日本”の基盤である高度な技術と質の高い人材であり、今後もそれは変わることはないと考えます。環境が変わろうとも、国の政策として引き続き「技術立国」「人材立国」のために政策を実行していくことが求められており、これらが製造業のみならずサービス業、さらには今後新たに創造される産業やビジネスを支える礎となるものと確信しています。

『日本再生戦略』に向けて

さて、政府が6月に『日本再生戦略』を策定しますが、経済成長の新たなプランの実行加速を多いに期待したいと思います。

経済成長戦略・政策は短期・中長期で捉える必要があります。短期的には、震災復興に向けた地方への財源・権限移譲や特区制度活用などによるコンパクトシティやエコシティといった新たなモデル都市づくり、および政官民が一体となったインフラ輸出、経済連携協定(TPP/FTA・EPA)への早期交渉参加の推進、標準化・規格化での国際的リーダーシップ発揮のための官民連携など、国家戦略としての取り組みが必要です。中でも、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)への交渉参加表明はタイミングを逸せず行わなければなりません。

また、中長期的には、(1)労働力の増強(質的・量的)、(2)市場としての魅力の増加、(3)イノベーションを通じた生産性向上、が重要なファクターとなります。(1)労働力の増強に向けては、本格的な少子化対策の実施や女性・高齢者活躍促進のための労働市場改革に加えて、海外高度人材の戦略的受け入れのための施策促進も必要です。(2)市場としての魅力の増加としては、各種経済連携協定の同時並行的推進とともに、法人実効税率引下げなどの税制措置や規制改革をはじめとするビジネス・インフラの整備など、よりオープンで自由な競争が促進される市場環境整備が不可欠です。(3)イノベーションを通じた生産性向上では、特に、日本の技術が優位性を有し、これからの成長を牽引する可能性のある産業として、医療・介護、農業、環境・エネルギー、水資源分野における規制・制度改革の早期実行を求めます。

このように、経済成長を実現し日本を再生することが、国際社会から信頼される国になるために不可欠であると考えます。日本が行うべきは、世界の繁栄と安定への平和的貢献であり、環境・エネルギーや食糧問題などの地球規模的課題解決への積極的取り組みです。また、日本の高い技術と高度人材を活用した社会資本整備や新興国への市場開拓、および世界に開かれた健全な国内市場の構築により、人・モノ・金・情報などが自由に流通する開かれた魅力ある国とすることが、国際社会からも期待されています。

また、これらの経済成長を可能とする基盤として、当面はエネルギー需給の情勢とコストを十分に勘案し、安全性が確認され地元自治体の理解が得られた原発の再稼働に踏み切るとともに、省エネルギーや蓄エネルギー施策を着実に進めなければなりません。加えて中長期的な課題として、段階的に原子力発電を一定規模まで縮小し、安全性の極めて高い原発技術の実用化とともに、火力の高効率化や再生可能エネルギーへの拡大を推進することも重要です。

(2)財政健全化に向けた歳出・歳入一体改革の断行

将来世代と国際社会に対する責任として、政府には経済危機や震災復興の影響により、実質的に棚上げされた財政健全化の具体的道筋を示すことを求めます。平成24年度予算の実質歳出総額は約96兆円と過去最大となり、歳出肥大化の懸念が高まっています。政府は政策の優先順位を定め、徹底的な情報公開と説明責任の下で、今こそ「賢明な支出(Wise spending)」を徹底すべきです。そして、税収を上回る国債発行によって予算編成を行わざるを得ない異常事態から一早く脱却し、基礎的財政収支黒字化の実現目標を明確にした上で、財政再建を着実に実行していくべきです。

政府は『財政運営戦略』において、歳出・歳入一体改革の数値目標も含めた具体策および工程表の明確化と、『財政健全化責任法』の早期制定により財政規律遵守の姿勢を示すべきです。第一に、歳出改革では、議員定数や議員歳費削減などの政治改革や行政改革・公務員制度改革の断行、および成長に向けた大胆な予算の組み替えも辞さない覚悟が必要です。また、「官から民へ」「中央から地方へ」の考え方を軸とする徹底した歳出削減の実行を求めます。第二に、歳入改革では、直間比率や基幹三税のバランスの見直しなどを含めた税制抜本改革が必要です。歳出改革を行っても歳入増加策は不可避です。社会保障や地方の財源には消費税を充てることが妥当であり、そのため今国会にて審議されている消費増税法案は早急に成立させるべきです。また、税制改革においては、社会保障制度改革と併せて、これに伴う国民の受益と負担の課題として国民負担率を明示することが大切です。

また、昨年来議論されている社会保障・税の一体改革においては、中長期の観点からの社会保障制度の全体像や具体的政策が示されず、極めて遺憾です。持続可能な社会保障制度の構築は、将来にわたって活力があり安心できる国民生活を実現するために不可欠であり、財政健全化のみならず、成長戦略とも相関する重要政策であることは言うまでもありません。社会保障制度改革においては既に議論は尽くされており、党派を超えて責任を共有して、社会保障国民会議や安心社会実現会議などの過去の検討成果を生かしつつ、国民の合意形成に向けた道筋を示し、その実現に向けた具体的取り組みに早急に着手していただきたいと考えています。

3.決断し実行する政治へ

日本を覆う経済・社会の閉塞感や各分野における構造改革の後退・停滞の主たる要因は、政治(国政)の停滞に他なりません。いわゆる衆参のねじれによる国会運営の停滞のみならず、政府与党における政策合意形成の混乱などが、社会保障・税一体改革や震災復興、および成長戦略や経済連携協定交渉といった国家の重要政策に対する意思決定を遅らせ、将来世代にわたる国民経済・国民生活に大きな影響を与えていることを自覚し、「決断し実行する政治」への転換を図らねばなりません。さらに、今後も政権交代が起こり得る状況の中で、常態化するねじれ国会が意思決定の遅れや理念なき妥協を生み、結果として国益を損なうような事態を招くようなことにならないよう、与党と野党第一党は知恵を絞っていただきたいと思います。

また、総理大臣が強いリーダーシップを発揮できる体制の構築も不可欠です。そのためには、政府・与党の一元化や法的根拠をもった司令塔たる組織の設置、さらには官僚の経験や能力を活かしきる政官関係の再構築などを実現する必要があります。なお、当面は国家戦略会議で決定した内容を閣議決定するなど権能強化を図ることや、既に法的根拠のある経済財政諮問会議を活用することも考慮すべきと考えます。

世界情勢が激変する中で、「何もしないことのリスク」が拡大しています。グローバル経済社会では不確実性、不透明性、不安定性が増しており、環境変化の激しい時代においては、変化に対し敏速かつ的確、柔軟に対応するために、リーダー自らが迅速果断な意思決定を行い、リスクに果敢に挑戦することが求められているのです。

4.経営者の決断による企業革新・成長への挑戦

成長を牽引する企業こそが挑戦者でなければなりません。グローバル化や少子・高齢化は急速に進展し、市場のボラティリティもより一層高まり、六重苦ともいわれる経営環境のなかでは、企業はこれまで以上にリスクをとって経営革新、新事業やイノベーションの創造、新興市場への浸透などに果敢に臨み、新たな成長の源泉を追求することが必要です。すなわち、自律的な革新、創造、挑戦が今ほど企業に求められている時代はありません。

新しい技術、製品、サービス、ビジネスモデルや新市場開拓などのイノベーションが企業経営の持続的発展を支える重要な要素であることは言うまでもありません。そして、それを支える、人材マネジメントやコーポレート・ガバナンスにおいてもグローバル競争に晒されていることを強く認識することが必要です。特に人材マネジメントにおいては、政府も巻き込んだ国家間による人材獲得競争が激化しており、それに勝ち抜くためには各企業による魅力的な条件整備のみならず、安心・安全な社会インフラ整備も重要な要素となっています。また、コーポレート・ガバナンスにおいては、グローバル化による多様なステークホルダーに対する情報開示・説明責任が不可欠であり、国際社会から信頼されるコーポレート・ガバナンスの強化とグローバルな企業市民としての責任ある行動が求められます。そして何よりも、経営者自身が市場から厳しく評価される時代になっていることを強く自覚する必要があります。

企業のイノベーションから生まれる新たな価値こそが、日本経済全体の新たな成長の原動力となります。今後の日本の厳しい環境や条件を視野に入れると、イノベーションによって持続的に新たな価値を創出する力を高めるしかありません。これが日本再生の鍵を握るといっても過言ではありません。

5.今年度の経済同友会

経済同友会の今年度の活動は、提言実現に向けた具体的な行動の年にしたいと思います。第一に、前年度各委員会の提言作成においては、提言実現の具体的方策まで掘り下げて提案をするようお願いをしてきました。その結果、今年は提言実現に向けて具体的な行動をするために、幾つかの委員会は提言実行のためのプロジェクト・チームとして活動していただくことになりました。このように前年度委員会を改組して提言実現に向けて行動することは初めての取り組みですが、これが実効性のあるものとなるよう見守っていただきたいと思います。第二に、私自身も『国家戦略会議』の民間議員を拝命しておりますが、副代表幹事や委員長をはじめ多くの会員の方が審議会委員などとして政府における政策の企画・立案の議論の場に参画していますので、これらを通じて提言を説明し、実現に向けて積極的な働きかけをしていくつもりです。

また、今年度は提言実現に向けて真摯に取り組む一方で、『30年後の日本を考えるプロジェクト・チーム』を発足し、『2020年の日本創生』をマイルストーンとした30年後の国家・社会ビジョンを描きます。今後の日本社会の中核として活躍する次世代を巻き込み、また多様な属性の個人の多くの参加を促し、共に新たな日本経済社会の姿をダイナミックに描いてみたいと考えています。

おわりに:会員の「志」の結集と「実行」

経済危機や震災復興および過去から先送りされた諸課題に直面しているわが国の経済社会は、日本再生(新たな成長)に向けた改革の正念場ともいえる、極めて重要な時期にあります。

経済同友会の活動は、設立当初の「志」を大切にしつつ、現会員の「志」に基づき将来を見つめ、時代性を踏まえた政策提案と実現に向けた行動を活動の基本としています。

諸先輩がつくられた設立趣意書には、新たな国づくりにかけた当時の溢れるばかりの意気込みが今なお息づいています。われわれは、今年を震災復興から日本再生に向けたスタートの年と認識しています。まさに、経済成長を牽引すべき企業、経済人が志と叡智を結集して、日本再生のために、成長へと決断と実行をすべき年として不断の努力を約束します。

以上


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