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成長へのコミットメント - 東日本大震災からの復興を日本改革の契機に -
<長谷川閑史代表幹事就任挨拶>

公益社団法人 経済同友会
代表幹事?長谷川?閑史

はじめに

今回の東日本大震災で犠牲になられた皆様のご冥福を衷心よりお祈りするとともに、いまだ多くの困難に直面しておられる被災者の方々に心よりお見舞い申し上げます。また、救援・復旧活動に尽力されているすべての皆様に深甚なる敬意を表し、世界の140を超える国・地域と39の国際機関から温かく力強いご支援を賜りましたことにあらためて感謝申し上げます。

現下のわが国では、大震災・大津波による甚大な被害に加え、いまだ解決の目処がつかない福島第一原子力発電所のトラブルという「今そこにある危機」に注目が集まっています。他方、長年にわたり対応を先送りにしてきた多くの複合的・多重的困難にも直面しており、まさに終戦直後以来の危機的状況にあると言っても過言ではありません。

このような時期に、伝統ある経済同友会の代表幹事を拝命することは、偶然のなせる業か、必然のなせる業かは知る由もありませんが、その責任の重さを痛感し、文字どおり身の引き締まる思いで一杯です。

この大役をお引き受けするにあたり、私は全力を尽くす覚悟ですが、一人でも多くの同志の皆様のご支援・ご協力を得て初めて職責を全うできると感じております。ここにあらためて、会員をはじめとする経済同友会のすべてのステークホルダーの皆様からのご指導・ご鞭撻をお願いしたいと存じます。

私が代表幹事としてこの経済同友会において成し遂げたいことは、第一に、わが国がこの危機を克服し、活力と希望に満ちあふれた国に再生することによって、国民生活の安全・安心が向上し、多くの国民が将来に希望を持てることであり、第二に、わが国が世界の平和と繁栄のために重要な役割と貢献を果たす国として、より多くの国から信頼されるようになることです。

1.震災を乗り越えて、希望ある未来を拓く

今回の東日本大震災は、未曾有の被害をもたらしました。被災者の皆様や被災地の苦難を日々目の当たりにして感じることは、何よりもまず政治の強いリーダーシップの下、あらゆる主体や国民一人ひとりの総力を結集して支援活動や復旧・復興に取り組むとともに、被災地の皆様の将来に希望を与えるべく、中長期の復興・再生計画をタイミングよく次々に打ち出していく必要性です。

経済同友会においても、すでに2回にわたる「緊急アピール」を発表し、「震災復興プロジェクト・チーム」を設置しました。今回の大震災からの復興に関する具体的提言のみならず、いつ発生しても不思議ではないと言われている首都圏直下型地震や東南海地震が発生した場合の備えについての検証・提言をも視野に入れた活動を開始したところです。

経済同友会は、めざす「国のかたち」の集大成として、今年初めに『2020年の日本創生』を発表しました。それからまもなくこの大震災が発生したわけですが、これによって「国のかたち」を全面的に見直す必要があるとは考えていません。もちろん、震災復興のための新たな財政負担がプライマリー・バランスの達成時期に影響を与える可能性を考えれば、多少の微調整が必要になることもあり得ると思います。しかし、復興ビジョンはこうした「国のかたち」を視野に入れて描くべきであり、むしろその実現の必要性は高まったと考えています。

一方、今回の震災が国際社会に与えた衝撃についても、決して忘れるわけにはいきません。特に、福島第一原発事故への対応の不手際と情報発信のまずさは、わが国に対する国際社会の信頼を著しく低下させる結果を招いただけでなく、放射能情報に関する不信による在留外国人の大量出国、訪日客の激減、過剰な農水産物の出荷停止や販売拒否など、直接的な経済的被害も膨大な額にのぼっています。

さらには、被災地域は先端部品の生産工場が集積し、その多くが壊滅的な打撃を受けて生産不能・出荷停止となり、日本国内のメーカーのみならず海外のメーカーにも大きな不安を抱かせることとなりました。一日も早い生産再開に向けて、当該メーカーのみならず購入先のメーカーから迅速な支援部隊を派遣するなど、過去の震災対応経験を活かした民間企業同士の連携プレーは、日本が誇っても良いものでした。

しかしながら、少しでも供給が滞ったり、出荷調整となったりした場合、海外の顧客の信頼をつなぎとめることは容易ではなく、信頼回復には長い時間がかかるとの覚悟も必要です。この間、少し落ち着いた段階で、国も自治体も企業も今回の経験をよく検証し、将来の災害対応に活かすことが何よりも大切です。

2.成長へのコミットメント ―なぜ今成長が必要なのか

(1)世界に貢献する日本

世界の総人口は本年中には70億人を超え、2050年には約90億人となってピークに達し、その後徐々に減少していくのではないかと言われています。その人口増加の多くは、アフリカ地域や中近東を含むアジア地域で起こると見られ、今後40年間、特にこれらの地域において、人口増による食料・水・エネルギーの不足、地球温暖化など世界的課題への対応が必要となってくることは明らかです。

したがって、すでにその過程を経験して豊かになった先進国が、新興国とも協力しつつ、蓄積した知識や技術や資金を途上国に提供することによって、成長していくこれらの国々の課題解決に貢献するという戦略が、最も現実的であると言えるのではないでしょうか。こうした点から判断すると、復興財源捻出のために、ODAを削減することには疑問が残ります。

特に、わが国は知識や技術や資金に加えて、長年培ってきた自然と共生するライフスタイルや、「もったいない」という日本語独特の表現に込められた倹約・節約の精神も、今日的な3R(リサイクル、リデュース、リユース)のコンセプトに十分活かされており、世界に普及していくに値する価値観であると考えます。わが国がこのような重要な役割を果たしていくためにも、イノベーションを先導し、成長を続けることが求められています。

(2)日本自身の繁栄のために持続する成長を

桜井正光前代表幹事が2期4年の任期の集大成としてまとめられた『2020年の日本創生』の実現を託された私は、「経済成長の実現」こそが、すべての課題解決に繋がる鍵であると認識しており、最優先課題として取り組んでいきたいと考えています。

私なりの言葉で、経済同友会のめざす「国のかたち」を表現すれば、それは第一に、安全・安心が担保され、国民一人ひとりが安定した生活を享受できるために、国民、企業、政府がそれぞれ質・量両面の豊かさを追求するための努力を惜しまない、活力に満ちあふれた国となることであり、第二に、持てる富、知識、技術、人材、価値観を総動員して世界の平和と繁栄に貢献する、世界にとってかけがえのない国となることです。

人口減少という制約下で成長の限界を突破するためには、一人当たりの生産性を飛躍的に向上させることが不可欠です。国家であれ企業であれ、21世紀を生き抜くためのキーワードは「グローバル化」及び「多様化」への対応と「イノベーション」の追求にあると考えます。避けることのできないグローバル化に対応するために、内向き志向から脱却して世界の活力を取り込むこと、同質性よりも多様性の中から創造性を育むこと、人材育成と研究開発に力を注ぎ、創意工夫と企業家精神を大いに支援・鼓舞し、継続的にイノベーションを起こすことこそ、生産性を高め、成長を促し、ひいては新しい国づくりにも繋がる唯一の道と信じます。

(3)企業としての成長へのコミットメント

そのためには、これまで改革が進んでこなかったことにも鋭くメスを入れていくことが必要です。かつて米国のアル・ゴア元副大統領は、地球温暖化を示す兆候に目を背け、温暖化防止に取り組まない人々を批判し、彼らにとって温暖化は「不都合な真実」であると喝破しました。これと同様に、わが国では、少子・高齢化やグローバル化などの環境変化や、国・地方の膨大な長期債務残高、持続不可能な社会保障制度、一票の格差といった厳然たる事実を「不都合な真実」として直視せず、既存の制度や仕組みの中で安住してきたのではないでしょうか。

経済成長の実現において最大の責任を担うのが、私たち経営者及び企業にほかなりません。まずは経営者自らが「不都合な真実」と真正面から向き合い、絶え間ない変革を続けることが必要です。

具体的には、第一に、世界の成長市場におけるプレゼンス強化と経営のグローバル化です。縮小する国内市場で過当競争を続けていても、それは不毛な消耗戦に過ぎないのです。企業再編・統合を進めて世界のプレーヤーと競い合い、世界の成長市場でプレゼンスを強化していくことが必要です。そのためには、グローバル化に対応した組織づくりやリスク・マネジメントの強化、人材獲得・育成に大胆に取り組まなければなりません。

第二に、多様な人材の獲得・活用です。もはや「同質性」をベースにした組織では、多様化する市場ニーズを的確にとらえ、激しいグローバル競争を生き抜くことはできません。年齢、性別、国籍を問わず、国内外から優秀な人材を獲得し、活かしていくことが必要です。特に、日本企業の最大の課題は女性の活躍を推進することです。「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%」とする政府目標は、企業が率先して達成すべきです。

第三に、イノベーションの促進と新事業・新産業の創出です。たゆまぬイノベーションが、企業の成長の源泉であることは言うまでもありません。これからも、イノベーションを起こし続け、競合相手の半歩先、一歩先を行かなければなりません。特に、少子・高齢化、地球温暖化、食糧・資源・エネルギーの制約、貧困、疾病・感染症など、各国が直面する様々な課題を解決していくニーズの中に成長のフロンティアが存在しています。企業としても積極的に課題解決型のイノベーションに取り組み、新事業、新産業の創出に挑戦することが必要です。激しく変化する環境下では、往々にして、何か新しいことに挑戦するリスクよりも、何もしないでいることのリスクの方が大きいことを、いま一度噛みしめるべきではないでしょうか。

企業自身が不屈の意志を持ち、迅速にこれらを実行してこそ、震災からの真の復興、そして活力ある国づくりが可能になるのです。

(4)政府としての成長へのコミットメント

こうした民間の活動を信じ、その活力を最大限に発揮させる環境整備を行うことこそ、経済成長に向けて政府が果たすべき役割です。したがって、政府には規制改革全般を強い政治的意思を持って進め、WTOドーハ・ラウンド締結への貢献、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を含む自由貿易協定及び経済連携協定(FTA/EPA)の推進、海外からの高度人材の受け入れ拡充、法人税減税など企業立地環境の整備による海外からの直接投資促進、地域主権型道州制の導入など、成長基盤の整備に全力を尽くし、政府としての成長へのコミットメントを強く打ち出すことを求めます。

今やこれらの問題の多くは、内政問題としてとらえていては対応を誤ることになりかねない時代になっています。すなわち、グローバル化が加速度的に進む世界で、各国が政治の強いリーダーシップの下で国家戦略としての対応策を打ち出し、実行している中で、日本だけがもたついている余裕はないとの認識が不可欠です。

そのような観点から、政治に対しては「不都合な真実」から目を背けることなく、強いリーダーシップを発揮して真正面から取り組むことを強く求めます。わが国の様々な社会システムは、人口増加と高度成長を前提につくられており、その多くは未だ是正されていません。例えば、社会保障制度の行き詰まりはその最たるものの一例ですが、年金・介護・医療のすべての制度が行き詰まる中で、抜本的な解決策が示されていないことは極めて遺憾です。また、そのベースとなる国民IDの創設さえできていないのは、政治の怠慢と言われてもやむを得ません。

その他にも、例を挙げれば枚挙に暇がないほど数多くの「不都合な真実」が山積していますが、もう一つ挙げるとすれば「一票の格差」問題です。さる3月23日に最高裁判所大法廷において、一昨年の衆議院議員選挙の区割りは違憲状態にあるという明確な判断が圧倒的多数(14対1)で下されました。このことは、選挙区割りの改定がない限り、衆議院選挙は実施できないということを意味します。憲法の下で国民一人ひとりの平等が保障されているにもかかわらず、長らくないがしろにされてきたこの問題を先送りすることは、もはや許されません。私は、この「一票の格差」問題が、他の多くの国家的課題と根本の部分で繋がっているとすら考えており、その是正は待ったなしです。

国会議員の皆様方には、国会議員及び政党のみが「この世に存在する個人や組織の中で唯一自らを律する法律を制定する権利を有している、極めて特殊な存在である」ということをあらためて認識し、行動に反映していただきたいと思います。すなわち、政治家の皆様には高い倫理観と、常に政治家個人の利益よりも国益を優先するというコミットメントが求められているのです。

3.自ら変革し、行動する経済同友会へ

経済同友会の設立趣意書には、「われわれは経済人として新生日本の構築に全力を捧げたい」と記されています。これは、まさに未曾有の大災害を経験した今日のわれわれにも共通する切実な思いであります。先輩諸氏が営々として築き上げてこられた伝統は、脈々と今日まで受け継がれており、われわれはそれをさらに発展・充実させて次世代に継承していく義務があります。したがって、志のある経営者が個人の資格で参加し、一企業や産業の利害を超えた自由闊達な論議を行う中から、国家の繁栄と国民の福祉向上のための大胆で先見的な提言を行ってきたことを誇りに思い、大切に受け継いでいきたいと考えます。

他方、各界からの提言や意見があふれる中で、経済同友会が提言する内容の先見性が薄れ、訴求力が弱まっている面も否定できません。私はこうした事実を決して「不都合な真実」として看過することなく、皆様と共に大胆に改革していきたいと考えています。

第一に、提言実現力の強化です。政策課題の多くは、すでに分析し尽くされ、具体的な解決策がいくつも示されています。なぜそれらの案の中からベストの選択肢が抽出され、実行に移されないのかということに、多くの方々が不満を感じていることと思います。いかに優れた提言であっても、実行に移されなければ「絵に描いた餅」に過ぎません。すべての提言を実行に結びつけることが理想ではありますが、現実を見つめ、同友会提言の中から優先順位の高いものを選択し、実現を図る工夫をしてみたいと思います。そのためにも、各委員会活動では、提言実現を強く意識し、明確な課題設定の下、実現を阻害する要因をどのように排除していくかにまで踏み込んだ内容にしていただきたいと考えています。

第二に、行動力の強化です。提言の実現に向けて、会員一人ひとりが責任を負うのだという高い意識を持ち、自らができることはたとえ小さなことでもおろそかにせず、行動に移していただくことをお願いしたいと思います。政治・行政をただ批判するのではなく、私たちが変革の先導者になるという自覚を持ち、個人として実践できること、企業として実行できることは着実に、率先垂範すべきです。私自身がその先頭に立つ覚悟であることは申し上げるまでもありません。

第三に、国際的な発信力・発言力の強化です。例えば、世界経済フォーラム(ダボス会議)、日米欧三極委員会、G20ビジネス・サミットなど、文字どおり様々な国際会議の場に各国のオピニオン・リーダーが集い、世界の課題設定と合意形成を行う中で、相互の関係構築(ネットワーキング)を行っています。日本全体が内向き傾向になる中で、このような国際会議の場へのわが国の経済人やオピニオン・リーダーの出席も徐々に減り、次第に影が薄くなっています。このような会議の多くでは強制力のある決議がなされるわけではありませんが、その場に出席し、意見を述べることは極めて重要であります。経済同友会として優先順位をつける中で、会員各位の協力を得て、計画的に参加を図っていきたいと考えていますので、その際にはご協力のほどよろしくお願いいたします。

おわりに

日本国憲法の前文には、「国際社会において名誉ある地位を占めたい」という決意が綴られています。それは、将来の復興を信じた終戦直後の日本国民の総意だと思います。当時に比肩し得る大きな困難に直面している今こそ、私はわが国が国民の総力と叡智を結集して苦境を乗り越え、再び活力にあふれた国となり、世界にとってかけがえのない国をめざすべきだと考えています。

わが国がかけがえのない国であると、より多くの国々から認識してもらうためには、自国がどんなに苦しいときであっても、最貧国を含む開発途上国に対しては、ODAや技術供与を拡充し続けると同時に、精神面でも支援の手を差し伸べることが必要と考えます。わが国は、「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と憲法に謳い、この平和主義を一貫して実践してきました。こうした平和主義の価値観が世界に広がることは、紛争地域の安定を通じ、貧困問題の解決にも繋がります。加えて、先にも述べましたとおり、自然との共生を尊ぶ文化や、「もったいない」という言葉に凝集されている倹約・節約を旨とするライフスタイルを世界に普及させることにより、人口増加や経済成長が資源や環境に与える影響を最小限にとどめることに貢献できると考えます。

このような提案を締めくくりとして、就任のご挨拶とさせていただきます。

以上


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