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「決断の年」【2011年年頭見解】

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公益社団法人 経済同友会
代表幹事 桜井 正光

日本は、今、成長か衰退かの分水嶺にあります。
新しい制度を構築し活力に満ち溢れた国として再生することができるのか、もしくは、自己変革に躊躇し衰退の一途を辿るのか、今年は将に決断の年です。時間は限られています。今こそ、政治が、その役割を厳しく認識して、決断し、行動しなければ明るい未来はありません。

1.日本が直面する二つの大きな課題

(1)急速な人口減少と高齢化

既に広く指摘されていますように、日本は、世界に類を見ない急速な人口減少と高齢化という課題に直面しています。日本の人口は、1955年(昭和30年)に約9,000万人でしたが、2007年(平成19年)に約1億2,800万人となり、ピークを記しました。そして、その後減少に転じ、2055年には約9,000万人になると推計(出生・死亡中位推計)されています。すなわち、約50年をかけて、3,800万人増加した人口は、再び50年をかけて3,800万人減少するという急激な人口減少社会を迎えることになります。

加えて、高齢化も深刻です。人口統計の生産年齢人口と老年人口から見た社会の姿は劇的に変わりつつあります。1970年頃は、10人の現役世代で1人の高齢者を支えていました。それが、1990年頃に5人で1人を、現在では、ほぼ3人で1人を支える社会構造となっています。そして将来推計では、2025年頃には2人の現役世代が1人の高齢者を、そして2050年頃には1人が1人を支える社会が想定されています。

このように人口動態を概観すれば、人口増加と潤沢な就業人口を前提に築き上げられてきた制度は、既に機能不全に陥っていることは明らかです。こうした現実を認識し、現役世代だけに重い負担を課すのではなく、世代を超えて、広く多くの国民で社会を支える制度の構築は不可避です。

(2)グローバリゼーションの進展

グローバリゼーションが急速に進展しつつあります。それは、各国・各地域が、「富」の源泉である企業の活性化や、活力ある企業の誘致促進を図るための、企業にとって魅力のある環境や制度を整備する競争の激化を意味します。

その第一は、企業税制や企業制度のあり方です。象徴的には、法人課税の引下げ競争です。政府は、昨年末の11年度税制改正大綱で、法人実効税率を5%引下げました。法律が改正されれば35%程度となります。しかし、この水準は、欧州各国の30%程度の水準、東アジアの25%程度の水準から見て、決して魅力ある水準とは言えません。また、企業が活動拠点を選別する要因は、法人課税の問題だけではありません。社会保障の法人負担分、企業結合などの企業法制、そして事業展開にかかわる各種規制なども大きな課題です。企業活動を規定する様々な分野において、国際間での制度整備の競争が激化しつつあります。

第二は、経済連携協定(EPA)の締結が、企業の競争環境を左右しつつあります。自由貿易協定(FTA)は、世界に180件以上の協定が存在します。これらの半数以上は、この10年間に締結されたものです。そして、FTAをはじめとするEPAは、二国・地域間の協定から、地域横断的な広がりをもった協定に拡大しつつあります。昨年来、日本では、環太平洋戦略経済連携協定(TPP)への参加が大きな課題となっています。現在のTPPの交渉参加国は9カ国ですが、これらの国の世界経済に占める割合と貿易に占める割合はともに25%を超える規模であります。TPPへの交渉参加国は更に広がる可能性が高くなりつつあります。そして、その内容も例外なき貿易自由化という質の高い深みをもったEPAです。まさにグローバル化の拡大と深化を象徴するような取組みとなっています。日本企業の行動にとって、日本がどのようなEPAを締結するかが、国際競争上大きな課題となっています。

2.今年、決断すべき3つの重要政策

「人口減少と高齢化」、および「グローバリゼーションの進展」が、日本に決断を迫っています。
その一つは、財政再建下における抜本的税制改正です。人口構造が大きく変わる中で、所得課税を通じて、負担の多くを働き手が担う税制は限界になりつつあります。グローバリゼーションの進展で、法人課税も国際的な引下げ競争の只中にあります。幅広い世代が薄く負担をする仕組み、すなわち消費税の拡充の議論は避けて通ることはできません。新しい社会における税制の理念を明確にした上で、個人所得課税、法人課税、資産課税、消費課税といった基幹税の体系化と制度改革につき結論を得るとともに、財政再建についての道筋を明確にすることが急務です。

11年度税制改正の議論は、消費税の議論が封印され、抜本改正についての展望がないまま、法人減税と財源探しに終始したものとなりました。その結果、今後のあるべき税制を展望すると、今次大綱は歪んだ税制となってしまった危険性もあります。今後は、このような単なる年度改正作業の繰り返しであってはならないと思います。今年こそ、抜本的税制改正について結論を取りまとめ、それに基づいて12年度税制改正を実施すべきであると考えます。

第二は、人口減少と高齢化に耐えることのできる社会保障制度の構築です。年金、医療、介護の総合的制度改革が必要です。医療保険制度も、年金制度も、現役世代が中心となって高齢者を支える現行の仕組みが限界に来ていることは明らかです。持続可能性の観点から検討を重ね、新しい制度を設計し、移行を急がなければなりません。介護保険は、導入後10年が経過しました。これまでの実績をレビューするとともに、制度の持続可能性の観点から見直しをする必要がありそうです。いわゆる団塊の世代(1947~49年生)が老年人口に突入し、年金受給者となるのは2012年から、そして2024年には団塊の世代の全員が75歳に到達します。今年中に改革案を策定し、2012年の通常国会で法制化したとしても、実施は2013年となってしまいます。残された時間は限られています。今年中に、制度設計について結論を得る努力が不可欠です。

第三に、経済連携協定への積極的取組みです。日本企業は、日本に事業主体があることで、世界の中でブランド力を有しています。しかし、今後も日本企業が日本で事業展開を推進していくためには、経営基盤となる競争条件が、海外と比べて少なくとも同等か比較優位であることも重要です。その観点から、経済連携協定の締結は重要な条件整備です。特に、TPPは、その大きな試金石です。米国が本年11月の妥結を目標にしていることもあり、今年は実質的な交渉が進む可能性が高い年です。日本が早急にTPP交渉に正式に参加しなければ、日本の産業空洞化が一気に進む危険性があります。日本は、TPP交渉に参加し、ルール作りに関与し、貢献することで、日本にとって意味のある協定とするために努力すべきです。今年の前半には、TPP交渉への参加を決断しなければ、日本の産業・企業は大きなハンディキャップを背負うことになります。

TPPに参加することで、日本の農業の将来に危機感を抱く方も多く存在することも承知しています。しかし、日本の農業の問題点は、経済連携協定に由来するものではありません。低い生産性、高齢化と担い手不足、多額の補助金など、日本の農業自体が抱える本質的問題の解決を図ることが何より重要です。このままでは、国民の負担が増大することはあっても、日本の農業が再活性化するはずもありません。競争を上手く活用することで、農業の産業化と国際競争力強化を図るという視点にたって、農業改革についての議論を深めることが重要だと思います。

3.超党派による合意形成

このように、今年は、日本の将来にとって、重要な決断をしなければならない年です。これは、国会議員の方々が最終責任を担う重要な決断です。その意味で、政治は、政権交代時代における、いわゆる衆参ねじれ現象の中での超党派合意形成のあり方を確立しなければなりません。政治は、結論を導き出し、成果を上げることが何よりも重要です。国民は、日程闘争や失言・スキャンダルなどを巡るいわゆる政局に背を向けはじめています。日本の将来を見据えた国家視点からの真摯な政策論議を望んでいます。
「税制抜本改革と財政再建」、「社会保障制度改革」、そして「経済連携協定戦略」の3分野につき、それぞれ超党派議員と民間有識者による検討会を発足させ、早急に結論を得ることを強く望みます。そして、このような日本の存亡に関わる重要な政策課題については、政党の枠を超えて、一人ひとりの政治家の方が、国家視点に立ち、かつ、良心に従って、解決に向けて行動していただくことを期待します。

4.企業経営者としての決意

「豊かさ」の追求は、古今東西を問わず最も自然な人間の営みです。企業経営者としては、企業の付加価値の創造による「富」の獲得と蓄積を通じた「豊かさ」の実現が、社会に対する企業の重要な責任の一つであると考えます。企業が競争を通じて付加価値を創造し、「富」の実現につなげていくために、企業経営者は、事業の新陳代謝の促進や生産性の向上などで企業価値を高める努力をすることが必要です。
より良い競争条件の整備を政府に求める以上、企業経営者は、成長を実現し、その果実を社会に還元するという責任がより重いものとなることを自覚し、新年の決意としたいと思います。

以上


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