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「この国のかたち」を描く【2010年度通常総会・代表幹事所見】

公益社団法人 経済同友会
代表幹事 桜井 正光

はじめに

 私が経済同友会の代表幹事に就任してから、3年が経過しました。この間を振り返ると、「ねじれ国会」の下での内閣総理大臣の相次ぐ交代、金融危機を契機にした世界同時不況、そして、政権交代およびその後の鳩山政権の迷走など、わが国の政治や経済が混迷を深めてきた3年でありました。残念ながら、当会にとっても、その活動は足下の状況への対応に追われた感があります。

 もちろん、我々は中長期的視点に立ち、政治に対して、環境変化に対応した新しい国づくりの必要性を訴え続けるとともに、経済成長の牽引役である我々自身への課題として、企業経営のあり方について議論を深めてきました。しかし、政治や国民の関心はどうしても足下の政局や景気の動向に向きがちで、我々の主張は社会を動かすまでには至りませんでした。ここに来て、国民の間には消費税引き上げへの肯定的意見が増えるなど、国の将来に対する危機感が醸成されつつありますが、国民の良識ある声に政治が十分に対応できず、中長期視点に立った新しい国づくりに向けた国民的議論は一向に始まりません。

 かつての小泉政権時代には、活力ある国を築くために、「官から民へ」「国から地方へ」を新しい国家ビジョンとして掲げ、各分野の構造改革が始動しました。しかし、その後の政権下では、改革の負の部分が必要以上に強調され、世界同時不況に伴う雇用情勢の悪化も重なり、明確な説明がないまま政策転換が図られ、国家運営に足るビジョンと施策の不透明感が増すばかりか、改革の歩みは途半ばにして後退してしまいました。

 こうした状況が続く中で、私はこの国の変革を単に政治や行政に任せるのではなく、あらゆる主体が各々の立場から責任をもって変革に取り組むべきだとの考えのもとに、2010年の年頭見解において、「企業や個人も自主・自立・自己責任の精神の下、持続可能で活力ある経済社会の実現に向けて、改めてその行動を強化する元年」とする決意表明をいたしました。

 したがって、2010年度事業計画では、経済同友会として、企業経営者の立場から、新しい国づくりに向けて、意欲的な課題への挑戦を掲げました。本日は、その挑戦について私が思うところを述べさせていただきます。

1.「10年後のこの国のかたち」とは

 まず、2010年度事業計画において最大の柱としたのが、「同友会版『10年後のこの国のかたち』」を描き、国民的議論を喚起することです。

 我々は、昨年の衆議院議員総選挙に際し、各政党が「この国のかたち」とその実現に向けた具体的政策を「政権公約(マニフェスト)」に掲げ、骨太の政策論争が行われ、「この国のかたち」を賭けた真の「政権選択選挙」が展開されることを期待しました。しかし、中長期を見据えた政策論争が欠けたままに「政権交代」の是非のみが問われるに至ったことは、非常に残念なことでありました。

 政権発足後半年余りが経過しましたが、鳩山政権のめざす「この国のかたち」は未だにその姿を現していません。今、鳩山政権に求められることは、この国の抱える真の問題と真正面に向き合い、「この国のかたち」を描くこと、そして、財政健全化や成長戦略など中長期的な国家運営にかかわる基本方針や基本戦略を早急に提示すること、それをもとに国民的な議論を喚起することではないでしょうか。

 そこで、私はこうした現状に一石を投じるため、本会に参加する企業経営者の叡智を結集し、あるべき「この国のかたち」を描き、示すことにしました。具体的検討はこれからの作業となりますが、現時点で私の考えている基本的方向性を若干述べさせていただきます。

(1)「この国のかたち」の基本理念

 まず、「この国のかたち」の基本理念として、第一に「若者がやる気と希望を持てる国」を、第二に「国際社会から信頼される国」を挙げたいと思います。

 前者の「若者がやる気と希望を持てる国」とは、次世代を担う若者たちが国の内外を問わず存分に活躍できる国です。その実現に際し、我々には、若者に負担を先送りせず、我々自身の手で諸問題の解決にあたり、同時に若者を育成する責任があることを忘れてはなりません。

 また、後者の「国際社会から信頼される国」とは、世界の平和と繁栄の恩恵を単に享受する国から、積極的に負担を引き受け、世界の平和と繁栄に貢献する国への転換であります。具体的には、核なき社会の実現や地球環境保全など地球規模的課題の解決への積極的な取り組みや、世界に開かれた健全な市場の構築により、国内外でヒト・モノ・カネ・情報が自由に行き来し、国際社会から期待される魅力度の高い国であります。

(2)「この国のかたち」の主要な柱と横串となる共通目標

 次に、「この国のかたち」を構成する主要な柱ですが、日本再生の重要課題である財政健全化と経済成長戦略を両輪として、主要政策を掲げ、その明確化と体系化を図っていきたいと考えています。

 まずは、「財政健全化」への具体的道筋を明確にしつつ、政府の規模(国民負担率の上限)の目標を定め、社会保障改革、税制改革、地方行財政改革など歳出・歳入一体改革にかかわる課題を総合的に検討することが必要です。その中で、社会保障制度や地方財政の安定財源となる消費税の見直しは不可欠であり、また、これまで国民への説明・開示がないがしろにされてきた「受益と負担のあり方」についても、望ましい水準を提示していきたいと考えています。

 また、歳入増加につなげる「経済成長戦略」も、企業が牽引役となり、民間活力を最大限に発揮し、質・量の両面で国民生活の豊かさを増大させる観点から、骨太な戦略を打ち出す必要があります。具体的には、国際競争力強化に向けた法人税の見直しや、規制改革の推進が欠かせない要素となります。また、環境、農業、医療・介護・保育、金融、観光など今後の成長が期待される各個別分野において、イノベーションを軸とした事業や産業の新陳代謝を促す成長戦略を示し、産業構造の変革を検討するとともに、雇用・労働政策、教育・人材育成、経済外交などのインフラ課題も併せて検討し、持続可能で自律的な成長の姿を描き出したいと思います。

 もちろん、この他にも、政治改革、行政改革、地域主権型道州制・地方分権改革といった「国家運営体制の再構築」や、世界の平和と自由経済体制の維持・強化のために「外交・安全保障のあり方」も検討し、新しい「この国のかたち」の柱としていかねばなりません。特に、真に「国際社会から信頼される国」をめざすためには、日米同盟の維持・強化、アジアにおける安全保障対話への貢献、日本型国際協力モデルの確立、市場の提供、経済連携・統合の推進など、世界や地域の利益と国益を共に実現するような総合的な外交・安全保障戦略の構築が不可欠です。

 なお、こうした「この国のかたち」の主要な柱の内容は、往々にして短期的な国民視点や国益視点に重きが置かれた聞こえの良い政策の羅列となりかねません。我々の描く「この国のかたち」は、わが国の厳しい状況に立脚し、中長期視点で、かつ受益のみならず負担をも覚悟したものでなければなりません。そのためには、最終的には「グローバル化への対応」「少子・高齢化への対応」「市場機能の活用」「持続可能な財政」「納得できる受益と負担」等の横串となる共通目標によって整合性をとり、束ねられた政策体系となることが求められます。それによって初めて、限られた資源の中で真に実現可能な「この国のかたち」が描けると考えます。

2.経済成長の牽引役である企業の変革

 次に、こうした新しい国づくりを進める上で、経済成長の牽引役となるのが我々企業であり、我々自身も大きな環境変化の中で、自らの成長戦略をさらに強化し、変革を起こしていく必要があることを指摘したいと思います。

 昨年、当会は第16回企業白書において「新・日本流経営の創造」を提起し、グローバル化や現実化する地球規模的課題、少子・高齢化や人口減少など、多くの課題に直面する日本企業の今後のあり方を共有しました。特に、企業経営のグローバル化推進における日本企業の課題を挙げ、対応強化の必要性を訴えました。

 それは、第一に、企業理念や中長期的視点に基づいた経営、高い目標への挑戦、現場力の発揮、中長期視点の人づくり、さらには「三方よし」にも遡る日本流「社会的責任経営」など、日本企業の持つ強さと優しさの最大化とその活用です。第二に、イノベーションによる、より付加価値の高い、新しい商品・サービスや事業の創造と新陳代謝の促進です。第三に、グローバル人材の育成とダイバーシティの促進、第四に、国際社会から信頼されるコーポレートガバナンスの強化と、グローバルな企業市民としての社会的責任経営の強化などでありました。

 これらの中でも、特に「イノベーションによる商品・サービス・事業の創造」と「新陳代謝の促進」は、企業が牽引役となって「若者がやる気と希望を持てる国」を創っていくには、欠くことのできない重要な取り組み課題ではないでしょうか。

 なぜならば、中国やインドなどの新興諸国が台頭し、グローバル競争が激しさを増す中では、もはやコスト競争だけで国際競争力を維持・向上させることは不可能だからです。しかし、わが国ではなかなか新陳代謝が進まず、過当競争の中で生産性の伴わない値下げ競争が続き、企業の体力を消耗するという負のスパイラルが随所に見られます。

 新陳代謝を進めるためには、第一に、「B/S経営」の取り込みが必要です。すなわち、利益の増減を指標とする経営に対して、資本・資産の運用効率やキャッシュフローの増減変化をも重視する経営への転換を図っていかねばなりません。

 第二に、「What型経営」の取り込みが必要です。日本企業は、キャッチアップ型経営における成功体験から脱することができていません。生産性の向上を武器とする「How to型経営」は、日本の強みとして強化を怠ってはなりませんが、過度に依存し過ぎていては、今日のようなグローバル大競争を制することは困難です。中長期的な社会の潜在的ニーズをいち早く掘り起こした者が、新しい市場を獲得する時代となった今、我々は新しい価値を掘り起こし創造する「What型経営」をも重視する経営への転換を図っていかねばなりません。

 地球環境問題など今後の成長分野では、既に世界の企業間で革新的なサービスや事業の開発大競争が始まっています。日本企業は、「B/S経営」「What型経営」を推進していくことで、世界をリードする存在にならねばなりません。

3.新しい国づくりに挑む経済同友会の変革

 さて、ここで経済同友会の変革についても考えたいと思います。鳩山政権が足下の課題で迷走を続け、国民からの信任を失いつつある今日、一企業や業界の利害を超え、国のあり方に対して発言や提言を繰り返してきた経済同友会への期待は日増しに高まっていることを感じています。

 私はこうした社会の期待を謙虚に受けとめ、前述したように、今こそ、自ら「この国のかたち」を描き、国民的議論を喚起し、あるべき国をめざして先導役を果たすべき時だと考えます。

 具体的には、先ず、我々は今一度、経済同友会設立の精神に立ち返り、その精神を今日の混迷の時代の中で活かしていくことが必要です。厳しい経済情勢にひるむことなく、設立趣意書にあるとおり、「互に鞭ち脳漿をしぼって我が国経済の再建に総力を傾注」する覚悟と行動が求められるのです。

 次に、政策提言活動の骨太化を図る必要があります。我々は、これまでに数多くの提言を世に送り出してきました。そのなかのいくつかは、国民の共感を呼び、国の政策そのものを変える力ともなりました。例えば、「市場主義宣言」や「市場の進化」、「財政・税制の抜本改革」や「社会保障制度の抜本改革」、「政策本位の政治」、「郵政民営化」などの提言は、まさに問題の本質を捉え、根底から起こすべき改革への道を示したものでありました。すなわち本質に手を打つことが重要です。また、グローバル化が進展していく中で、国際的な視点からの議論に耐えられるものにしていかねばなりません。

 さらには、提言のフォローアップ活動を強化し、より実効性のあるものにしていく必要があります。具体的には、シンポジウム、フォーラムなどの更なる充実化や書籍の刊行によって、提言内容を広く国民にわかりやすく提示していきたいと考えています。特に、今年度事業計画の主要テーマである「この国のかたち」策定後は、国民的議論の喚起に向けて、政策の立案・決定・展開に大きな影響力を有する政治家、政策担当者、オピニオンリーダーとのタイムリーな意見交換や議論の場を作っていきたいと考えています。こうした、「この国のかたち」の策定と国民的議論の喚起のためには、経済同友会に参加する会員の皆様一人ひとりの積極的な活動がより一層重要となることは言うまでもありません。

おわりに

 最後となりましたが、2010年4月1日をもって、経済同友会は「公益社団法人」という法人格に移行し、新たな出発点に立ちました。「公益」の名が冠(かん)せられたとおり、我々の活動はこれまで以上に社会全体に向けられたものとしなければなりません。我々は、「若者がやる気と希望を持てる国」「国際社会から信頼される国」づくりに向けた自らの使命を再確認し、その使命を果たしていかねばなりません。各委員会が一つの方向にベクトルを合わせ、活発な議論が展開されることを期待しております。会員の皆様には、従来以上に積極的なご参加をいただき、ご指導ご鞭撻をいただきますようよろしくお願い申し上げます。

以上


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