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民の力を発揮して持続可能で活力ある経済社会を築く
【2010年年頭見解】

社団法人 経済同友会
代表幹事 桜井 正光

【要旨】
新年を迎えるにあたり、我々は2010年を「企業や個人が自主・自立・自己責任の精神の下、持続可能で活力ある経済社会の実現に向けて、改めてその行動を強化する元年」としていくことを決意する。金融危機後の不況から脱却し、自律的かつ持続可能な経済成長を遂げるために、企業は自ら成長分野を開拓し、新たな需要創造に挑む。また、国民一人ひとりが自立し、より良い社会づくりに向けて主体的に責任と負担を引き受ける。こうした民の力を信頼し、最大限発揮させる環境づくりを行っていくことこそが、政府に期待される大きな役割である。

1.時代認識と我が国の課題

戦後日本の「国のかたち」の基盤となった政治・経済・社会の諸制度が構築されてから、既に半世紀余りが過ぎた。この間、我が国は急速な少子・高齢化やグローバル化の進展など「国のかたち」を揺るがす環境変化に直面し、抜本的な制度改革の必要性に迫られてきたが、その歩みは遅々として進んでいない。こうした構造的問題を抱えたまま、昨年の日本経済は金融危機の直撃を受け、GDPや企業収益の急激な落ち込みや、雇用情勢の急速な悪化に直面した。その結果、税収減や歳出拡大を招き、既に危機的レベルにあった財政状況は更なる悪化へと向かいつつある。したがって、日本経済を一刻も早く自律的な回復・成長軌道に乗せるとともに、諸制度の改革を進め、持続可能で活力ある経済社会を築くことが喫緊の課題となっている。

また、冷戦終焉から約20年が経過し、我が国を取り巻く国際環境も大きく変化した。グローバル化が加速し、中国やインドなど新興諸国が台頭する中で、世界の活力、特にアジア諸国との共存・共栄を実現し、その活力を取り込んでいくことが求められている。さらに、地球温暖化や資源・エネルギーの制約、そして貧困といった地球規模の課題が顕在化し、テロなど安全保障上の新たな脅威が出現する中で、世界の平和と自由な市場経済を基盤とする我が国にとって、国際社会における役割と責任が改めて問われている。

こうした諸課題の解決に向けて、我々は、今こそ「民」、すなわち企業や個人が当事者意識を持ち、自らの持てる力を最大限に活かし、主体的に行動すべき時であると考える。新年を迎えるにあたり、2010年を「企業や個人が自主・自立・自己責任の精神の下、持続可能で活力ある経済社会の実現に向けて、改めてその行動を強化する元年」としていくことを決意する。

2.企業は自律的かつ持続可能な経済成長の主役になる

我が国が金融危機後の不況から脱却し、自律的かつ持続可能な経済成長を遂げるために、企業自身が成長戦略を描き、需要創造と経営革新に挑戦し、健全な市場競争を通して新しい成長分野を開拓し、経済成長の牽引役とならねばならない。そのために、我々企業経営者は、以下の課題に挑戦する。

第一の課題は、民の活動に対する信頼の構築である。市場機能の活用や、企業による健全な市場競争こそ、経済成長の原動力である。しかし、市場の乱用や一部企業の倫理にもとる行為から、企業活動に対する不信感が広がりつつある。こうした不信感を拭うために、行動規範や倫理教育の徹底、内部監査やガバナンスの強化など、企業は自ら信頼回復に向けた責任ある行動、すなわち企業の社会的責任経営の強化に全力を挙げて取り組まねばならない。

第二の課題は、新たな社会ニーズを捉えた需要創造である。今日、我々が直面しているグローバル化、少子・高齢化、地球温暖化防止、資源・エネルギーの制約などの諸課題の解決は、我が国のみならず国際社会の明確なニーズともなりつつあり、また確かな新成長分野でもある。企業は、社会のこれらの潜在的なニーズをいち早く発掘し、新たな商品・サービスの開発・提供や新事業の立ち上げにより、需要創造を実現していくべきである。

我が国の経済活性化を図るためにも、企業が単に政府の経済成長戦略に基づいて活動するのではなく、自ら成長分野を開拓し、政府の戦略を誘導していくことが重要である。企業の成長戦略は個々の事業領域、コアコンピタンス、企業文化などの違いによって当然それぞれに違いはあるが、企業こそが市場のニーズを一番熟知しているからである。

例えば、地球温暖化防止は、国際社会で大きな課題となっており、そこに明確な中長期的ニーズがある。この分野では、次期枠組みや国家の成長戦略がどうあろうとも、既に国際市場において激烈な新エネ、省エネ、資源循環型商品・サービス・システムを巡る大競争が始まっている。これこそ、まず企業自らの成長戦略によるイノベーションへの挑戦が必要な好例である。

第三の課題は、イノベーションによる高付加価値化の追求と新陳代謝の促進である。物価の下落傾向が続いているが、その要因の一つは企業間の過度の値下げ競争である。生産性の向上を伴わない値下げ競争は企業の体力を消耗させ、賃金低下などマクロ経済にも悪影響を及ぼす。企業は自らの強みを活かして技術革新やプロセス革新を起こし、付加価値の高い製品・サービスを開発・提供することにより、単なる低価格競争から脱し、適正利潤を確保し、従業員への還元や雇用の確保・拡大につなげるという好循環をめざすべきである。

さらに、衰退分野や過当競争分野から勇気を持って撤退し、資本・資産運用効率の高い既存事業へのシフトや新たな成長分野への参入をめざすなど、新陳代謝を加速していかなければならない。これは、人口減少や資源制約等の課題を抱える我が国の経済活性化に向けて、企業として特に取り組むべき経営革新課題である。

第四の課題は、企業による新興国を中心とした世界の活力の取り込みである。各企業は、海外の人材・資金・ノウハウの積極的な活用により、更なる競争力強化を図り、グローバル競争の激化に対応すべきである。特に、成長著しいアジアを中心とした新興国市場において、日本企業の有する優れた技術力を活かし、低価格帯のみならず高付加価値商品・サービスへの潜在需要を喚起し、日本企業にしか出来ない市場創造を図るべきである。その際、政府によるEPA/FTA、WTO交渉の推進によって、各国・地域の市場が相互に開放されることが不可欠である。

第五の課題は、雇用問題への配慮である。雇用情勢が厳しさを増し、望まざる働き方や格差の固定化が社会問題化している。政府による雇用創出やセーフティネットの強化に加え、企業としても新卒採用や通年採用のあり方の見直し、非正規雇用の処遇改善など、中長期的観点から雇用問題を真摯に検討していく必要がある。

3.国民は自立し、より良い社会づくりの責任を担う

戦後の官主導・中央集権的な諸制度や利益誘導型の政治の下で、国民の間に政府への依存心や既得権意識という甘えの構造が定着した。しかし、我々は国民の一人として、自分たちの子供や孫の世代のために、より良い社会を残す責任があり、その重さを考えると、たとえ不況下で厳しい状況にあっても、国民一人ひとりが自立し、主体的に責任と負担を引き受ける覚悟が必要である。

具体的には、第一に、持続可能な社会保障制度確立への責任である。財政や社会保障を将来に向けて持続可能なものにするため、個人の自助努力を基本にした社会保障制度の構築を考えるべきである。受益と負担の見直しに関し、マクロ経済指標に応じた給付水準の引き下げや消費税増税の議論と必要な負担の引き受けを避けるべきではない。

第二に、国民の納めた税金の使い方を厳しくチェックする責任である。有権者や納税者としての意識を高め、政策や予算について厳しい評価の目を向けるべきである。昨年の衆議院議員総選挙において、国民は有権者として、政策本位で政権を選択できることを実感した。また、「事業仕分け」では、納税者として、大切な自分のお金の使われ方を知り、考える機会を得た。民主主義を成熟させるために、今後とも国民は責任をもって、一人ひとりが有権者や納税者の立場から、政府の政策や予算に対し、厳しい目を向けることが必要である。

第三に、地域主権型社会における政策参加と結果に対する責任である。新政権の主要政策である地域主権型の社会の構築においては、住民はサービスの受益者であると同時に地域政策立案の主体者でもある。したがって、政策の優先順位の選択は住民に委ねられ、その選択に伴う負担と結果責任も住民が負うことを自覚しなければならない。

4.政府は企業や個人の活力を発揮させるための環境構築に責任をもつ

昨年の政権交代は「変化」を求めた国民の強い意思の表われであった。しかし、政権発足から100日が経過した今、未だに政権がめざすビジョンや方向性は不明確である。

政府は、持続可能で活力ある経済社会を築くために、企業や個人の活力を引き出すことに注力すべきである。自立した民の力を信頼し、その活力を最大限に発揮させるため、政府としての成長戦略を策定し、促進させる環境や制度づくりに責任をもつことこそが、政府に期待される役割である。「民の力を発揮して持続可能で活力ある経済社会を築く」という観点から、最後に政府に対して以下の点を望みたい。

第一は、規制改革の推進である。医療、介護、保育、教育、農業など新たな社会ニーズの発掘が期待できる分野は、これまで規制による公的関与が強い分野であった。これらの分野では、規制改革によって企業の創意工夫を引き出し、潜在需要の掘り起こしにつなげることができる。こうした規制改革は、財政出動を伴わない政策手段としても有効である。

第二は、租税特別措置の抜本的見直しと法人実効税率の引き下げである。政府は「租特透明化法」の制定による租税特別措置の見直しを検討しているが、企業に対する租税特別措置は、既得権益の排除、政策の目的と効果の観点から精査し、早急に整理・廃止を中心に抜本的に見直すべきである。それを財源に、法人実効税率を国際水準並みに引き下げ、雇用条件の改善や外資の呼び込みの促進を図ることが必要である。

第三は、自由市場経済を守るためのEPA/FTAやWTO交渉の推進である。アジアを中心とした新興諸国の活力を取り込むためには、国内市場を開放することによって産業構造改革を推進するとともに、外への戦略的国際化に向けた環境整備が必要である。

第四は、労働法制の見直しとセーフティネットの強化である。企業や産業の新陳代謝を円滑に進め、個人の再挑戦の機会を増やすためには、過度な労働規制を見直す一方で、雇用保険制度の見直しなどこれまでの施策に加え、時代のニーズに合った職業訓練の提供や再就職支援の強化など、セーフティネットの更なる強化を図るべきである。

第五は、財政健全化に向けた具体的道筋の明確化である。そのためには、歳入の効率的かつ効果的な再配分のみならず、歳入増加につながる成長戦略の策定が強く望まれる。具体的には、政府が編成した2010年度予算に基づき、経済成長戦略を組み込んだ経済財政運営にかかわる中長期目標と工程表を策定すべきである。

第六は、我が国を含めた世界の平和と自由市場経済の確保である。我が国は、その成果を享受するのみならず、その維持コストを積極的に負担すべき時代に入った。こうした考え方に基づき、外交・安全保障戦略を明確化する必要がある。日米同盟については、我が国のみならず、アジア地域における平和と安定の維持に貢献しているとの認識に立ち、普天間基地移転問題などの諸問題について、両国間の信頼を維持・強化するための対応が望まれる。また、本年は我が国がAPEC議長国を務める年でもあり、アジア・太平洋地域における政治的安定と経済的繁栄に向けて、リーダーシップを発揮することも期待したい。

5.経済同友会は「持続可能で活力ある経済社会」の構築を主導する

経済同友会に参加する我々企業経営者は、本見解で掲げた「自律的かつ持続可能な経済成長」の主役の役割を自ら率先して実践していく。また、本会活動を通じて、「持続可能で活力ある経済社会」の構築をめざし、提言や意見を積極的に発信していく。具体的には、本見解に基づいて本会の次年度事業計画を策定し、既存委員会の見直しや新委員会の設立、提言・意見書の発信手段やフォローアップ体制の強化などを検討していく。また、本会活動のPDCAサイクルの実践などを通じて、活動の骨太化に取り組む。我々は、今一度、本会の設立趣旨に思いを馳せ、「新しい国づくり」に貢献していきたい。

以上


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